【怪談手帖】桂男【禍話】
Bさんから聞いた、鳶職をされていたというお祖父さんの体験。
ある時お祖父さんは家の縁側に座り、近所の大きな屋敷の庭にある見事な一本松と、そこにぽつりとかかった月とを眺めながら酒を呑んでいた。
するとだんだん月の海の模様 —お祖父さんは痘痕と言っていたそうだ— それが人間の顔に見えてきたのだという。
とはいえ、月の海に顔や特定の図形を見出す習慣は世界共通のものである。
それに彼は、意味のない模様に顔や図形を見出してしまう『シミュラクラ現象』という用語は知らなかったが、頭ではち