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誰かから、誰かへ
そのノートは、交換しない交換日記だった。
取材帰りに、かねてより行きたかったカフェに立ち寄った。各テーブルにメニューと一緒に置かれていたのが、その交換日記だった。
片面1ページ、多いときは両面1ページ。びっしりと誰かが書いた文字が並んでいる。「交換日記」とされてはいたけれど、特定の誰かと誰かが交換するためのものではない。ときには同じ人の文章もあったのかもしれないけれど、基本は行って帰ってくるために書く文章ではなく、繋げていくための文章だ。
リレーのように、脈々と綴られていく文章。わたしが見たノートでは、「昔なりたかったもの」というお題がどこからか生まれていた。
名も知らぬ人たちが書いた、昔見た夢。形を変えて叶ったものもあれば、淡い夢に終わったものもある。時を経てそれぞれの今を送る人たちが、過去のエピソードとともに語っていた。
手書きの文字から「どれくらいの年齢の人なんだろう」と想像を働かせながら、ぱらぱらとページをめくる。筆跡から、体温を感じた。
店を出る前に、わたしも書き綴ってきた。見ず知らずの誰かに語る、「昔なりたかったもの」を。
次にまたこの店に来るまでに、どれくらいの人が書き綴っているだろう。
誰かの熱を少しずつもらいながら、ノートは彩られていく。
お読みいただきありがとうございます。サポートいただけました暁には、金銭に直結しない創作・書きたいことを書き続ける励みにさせていただきます。