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それはまるで、片想いの恋

心の琴線に触れるものに出会うと、わたしは呼吸が浅くなる。心は目に見えないけれど、まるでこれ以上震えが大きくならないように息を止めているのではないかという気持ちになる。

ひとことで言えば、それは「好き」なわけだけれど、さらっと好きだと言葉にできない。「好き」のひとことでは到底足りないのに、どこが、どういうところが、どんな風に好きなのか、言葉に表せる気もしなくて。言葉にすればするほど、感じたときの「本当」から遠ざかっていってしまう気がして。


鼓動が大きくなり、目蓋の裏に熱が集まる。わたしは泣くのが下手だけれど、うっかりすれば泣いてしまいそうだ。

心が乱されるから遠ざけておきたいのに、触れたくなる。深みにはまりたくなる。引きずり込まれたいのに、引きずり込まれたら戻ってこられなくなりそうで怖い。まるで、恋のようだ。


移りゆくもの、変わっていってしまうもの、もう二度と戻れないもの。「今ここ」に留めておけないことを知っていながら、平気を装っているもの。苦悩を受け取りやすい美しいものに色形を変えて、差し出されたもの。

表面だけをなぞれば、どれもただ美しくて、楽しい。しかし、その裏には儚さやどうしようもなさが見え隠れしていて、わたしはそうしたものがひどく好きだ。


思い詰めた片想いのように、心の震えを感じている。ひとりで過ごす部屋で大切に大切に震えを抱えていられる時間は、苦しい幸いだ。

急いで言葉にしてしまうと勿体ないから、ひざを抱えて感じるままに。目蓋の裏に集まった熱は、そのまま内側に滴る。滴り溜まった水は、種を芽吹かせるきっかけになるのだろうか。

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