黄緑色のスイッチ
外階段にカマキリがいた。細くて小さい、たぶん子どもの。
クイックイッと鎌を振り上げている彼(か彼女)の前に、手を差し出す。
大きなカマキリは触れないけれど、小さければ平気だ。何度か手から飛び降りるカマキリの子を、植え込みの草地に下ろした。
頭がぼんやりとしていた。活字の上を目が滑るばかりで、内容が頭に入らない。文章も、どこかしっくりこない。眠気がある気もするけれど、寝不足なわけでもない。
気を抜いたらネガティブに引き寄せられそうな予感だけはあって、だからあえて思考をぼやかしたまま、やることをこなしていた。(幸い、書きまくる必要は今日に限りなかった)
味気ない薄グレーのコンクリートの上で、カマキリの黄緑は唯一鮮やかだった。焦点がどこにあるのかよくわからなかったわたしの視界のスイッチが、カチッと入れられたような気がする。
スイッチが入ったのは一瞬のことで、またぼんやりとした世界に舞い戻る。クリアさはわたしを蝕むから、自衛のためにも今はぼやけたままでいい。
カマキリの黄緑色が、いつまでもまぶたの裏に残っている。
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