“裏切る流通量”の真相を探る
22年前の7月12日。それは、二千円札の発行が始まった日だ。今ではすっかりその姿を見かけなくなったが、それには複雑かつ面白いわけがある。
1.そもそもなぜ?
20年以上前の二千円札が作られた当時、世界で紙幣を発行していた国や地域のうち7割以上で「2」の単位の紙幣が発行されていた。アメリカの20米ドル紙幣などは、中額紙幣として市中での流通量が特に多いことから、日本でも二千円紙幣が同様の役割を果たすことが期待された。
その流通枚数は、米紙幣全体の25%を占めていた。その他にもイギリスでは20ポンド紙幣が34%、フランスでは200フラン紙幣が32%と、いずれも最多の流通枚数を占めていた。
一方で日本では紙幣の流通枚数のほとんどを一万円紙幣と千円紙幣が占めており、当時は中額面の五千円紙幣の流通は非常に少ない状態であるため、市中に流通する紙幣の偏った券種構成を改善できる可能性があると見られていたのだ。
2.流通量低下の原因は
しかしながら、日本では二千円札の流通量は極めて少ない。上記の通り外国では2の単位の中額紙幣が多く出回っている。治安の悪いところでは、防犯や偽札の観点から、高額紙幣は持ち歩くことが少ない。そのため、中額紙幣がよく出回っているというのだ。その点、日本と海外とでは紙幣流通量に大きな違いが生まれるのも当然の結果だろう。
3.文化から見る紙幣流通量
さらに数学者の西山豊氏は「東西における奇数と偶数の文化の違いがあるのではないか」と考察している。日本では結婚式の祝儀において、2や4などの偶数は「2」で割り切れる、つまり「割れる」「別れる=分かれる(分裂)」という意味に通じるため、縁起の悪い数として避けられる。2万円にするなら1万円札1枚と5千円札2枚の合計3枚にする。
このような文化は欧米にない。欧米では20ドル紙幣(米)・20ポンド紙幣(英)・20ユーロ紙幣などが普及している一方で、50ドル紙幣・50ポンド紙幣・50ユーロ紙幣などは普及していない。奇数(odd number)は、odd socks(左右ちぐはぐの靴下)・odd hand(臨時雇い)として嫌われる。
4.増加傾向の県も
実は、例外的に二千円紙幣が広く使用されている県がある。沖縄県だ。2020年(令和2年)7月時点で、二千円紙幣の流通量は全国で約9,700万枚だが、沖縄県では約700万枚出回っており、増加傾向にある。
理由として、沖縄県長と経済界が一丸となって二千円紙幣の流通促進を行った他、アメリカによる沖縄統治時代にアメリカ合衆国の20米ドル紙幣を使い慣れていた歴史があるとの仮説もある。
紙幣流通は一概に決まるものでも、予測の通りに流通するものでもない。文化や人々の生活、歴史的背景にまで深く関わっているのだ。
未来はどうなる?
日本では、2024年度の上半期に紙幣が刷新される予定だ。新紙幣のそれぞれの顔は、1万円札が渋沢栄一、5千円札が津田梅子、千円札が北里柴三郎だ。新たな顔ぶれだけでなく、最新の3Dホログラム技術やユニバーサルデザインが盛り込まれたお札に、早くも期待が高まっている。
特需への期待があるものの、22年前の二千円札導入時とは異なる様子だ。技術の普及や感染症対策における非接触も相まって、ここ数年で現金を使わないキャッシュレス化が進んでいる。そんな日本社会に、新たな紙幣はどのように流通するのだろう。2年後が楽しみだ。
1,368字
2022年7月10日
〈出典〉
▽2024年の新紙幣について(dアプリ&レビュー)
https://apprev.smt.docomo.ne.jp/news/news-212239/
▽二千円札の流通について(webR25)
https://web.archive.org/web/20150601093422/http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/rxr_detail/?id=20130404-00029048-r25
▽全国と沖縄県県内の二千円札発行高推移
https://www3.boj.or.jp/naha/2000/pdf/2sen.pdf
▽ 二千円札と2のつくお札について(国立印刷局)
https://sp.npb.go.jp/ja/museum/tenji/kako/pdf/tenji_h12_01.pdf
〈参考文献〉
・植村峻 『紙幣肖像の近現代史』吉川弘文館、2015年6月。(ISBN 978-4-64-203845-4)
・利光三津夫、 植村峻、田宮健三 『カラー版 日本通貨図鑑』日本専門図書出版、2004年6月。(ISBN 978-4-93-150707-4)
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