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夏空への第一歩

 活発な梅雨前線に覆われた、ここ数日の沖縄。気象庁から沖縄の梅雨入りが発表されたのは先月4日。同月11日には奄美地方の梅雨入りが発表されるなど、梅雨に関するニュースを耳にする度に、あの“じめじめの季節”がゆっくりと私たちの元へ近寄って来ているように感じてならない。

1. じめじめを乗り越えて

 梅雨の時期によく目にするのが、カタツムリだ。その小さな〝梅雨の使者〟をじっくりと観察してみてほしい。
 雨上がりの道端や塀にくっつき、ゆっくりと進むカタツムリ。そんなカタツムリの速度は時速0.048㌔とも言われてい る。その姿は、日々時間に追われ、何かと焦りがちな私たちにとって、どこか心の余裕のようなものを感じさせてくれる。
 梅雨の雨に濡れて元気に顔を出すカタツムリのように、梅雨の気怠さに負けず、じめじめの季節を乗り越えたいものだ。

 そして梅雨は何も、我々を憂鬱にさせるだけでは無い。日本には古来から、「青梅雨」という大和言葉がある。青梅雨とは、梅雨時期に降る「木々の葉をいっそう青々と濃くさせる雨」のことを言う。じめじめと降り続く雨も、植物にとっては恵みの雨。命のシャワーを浴びた木々が、葉の色をより鮮やかに見せ、雨粒が真珠のようにキラキラしている風景が思い浮ぷ。うっとうしく思われがちな梅雨の雨を美しく表現した、素敵な言葉だ。そうした梅雨の側面に想いを馳せることも、じめじめを乗り越える手段の一つだと思う。

2.なぜ「梅の雨」で「つゆ」?

 ここまで「梅雨」を連呼してきたが、とある疑問が頭に浮かぶ。なぜ「梅の雨」と書いて「つゆ」なのか。そう書く訳について、以下のような説がある。

 「梅雨」に「梅」の漢字が使われた由来は、中国にあると言われている。
 もともとその時期は雨が多く、黴(かび)が生えやすいことから、黴雨(ばいう)と呼ばれていた。しかし、文字の見た目からしてじめじめしている。
 そこで黴に代わって登場したのが梅である。中国の揚子江周辺では梅の実が熟す頃が雨期にあたり、そのことから黴と同音である「梅」の字を使うようになった。

 ただ、中国から伝わったときは「梅雨(つゆ)」ではなく、「梅雨(ばいう)」として伝わったそう。ではなぜ、日本では“つゆ”と読むようになったのか。

 雨が多い時期であることから「露にぬれて湿っぽい」という意味を持つ“露けし”からだとする説と、梅が熟して潰れる時期であることや、長雨により食べ物や衣服が傷んでしまう時期であることから「潰ゆ(ついゆ)」とする説がある。
 どちらにせよ、この季節の特徴を上手く表した、示唆に富む話である。

3. 夏空への第一歩

 じめじめと気怠さの梅雨シーズンの先には、娯楽と爽快の夏が待っている。梅雨は多くの雨をもたらす一方で、春と夏の架け橋として大切な役割を果たしている。そう考えると、梅雨入りとは夏への第一歩であるのではないか。

▲昨年、自身のスマホで撮影した夏空。
 この雲の層は、僕らを夏へと導いた。

 雲が風に遊び、萍(浮き草)が寄っては離れるように。そんな四字熟語「雲遊萍寄」を元に、ありのままで自然にまかせて行動する生き方を綴る。それが、我が千文字コラム『雲遊萍記 〜うんゆうひょうき〜』だ。文藝の端くれとして、ここに梅雨の始まりを記す。

                   1,273字
                2022年6月5日

〈出典〉
▽沖縄の気象状況(ウェザーニュース)
https://weathernews.jp/s/topics/202206/030145/
▽令和4年の梅雨入り(気象庁ホームページ)
https://www.data.jma.go.jp/cpd/baiu/sokuhou_baiu.html
▽カタツムリの移動スピード(ふしぎしんぶん)
http://www.science-with-mama.com/prev/fshinbun/2000_06/parents.html
▽青梅雨について(日刊☆こよみのページ)
http://koyomi.vis.ne.jp/doc/mlko/200906120.htm
▽梅雨はなぜ「つゆ」と読む?(oggi.jp)
https://oggi.jp/6220709
▽ なぜ「梅雨」には「梅」の漢字を?(「くらしと」)
https://shop.hikaritv.net/kurashito/article/amp/tsuyuume.html
▽雲遊萍寄について(四字熟語辞典オンライン)
https://yoji.jitenon.jp/yojig/3014.html

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