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安価なLED紫外線ライトを用いたアトムレンズの脱色処置

みなさんごきげんよう、うにょーんです。
今回はセリアで販売されている安価(税込108円)なLED紫外線ライトを用いたアトムレンズの脱色処置の過程と結果を公開したいと思う。

アトムレンズの変色

詳しく長ったらしい説明をしても誰も読んでくれないので雑に説明する。

前提知識として、ガラスに電子線やγ線などを放射すると着色される。(e.g.放射線滅菌を行った後のガラス製医療器具、光照射による着色を行ったサングラスレンズ等)

アトムレンズと俗称される高屈折低分散特性を持つレンズは多くの場合トリウムを含有している(偶にウランが入ってることもある)。トリウムは放射性物質であり、これが放つ放射線がレンズを着色する。アトムレンズの放つ放射線は崩壊生成物を考慮すると製造当初よりも強くなっていると考えられる。この為アトムレンズを含む光学系の多くは酷く着色されている場合が殆どである。

トリウムによるガラスの着色は紫外線を用いる事で脱色する事が出来る。プロセスはガラスの構造から電子に至るまでを範囲に含む非常に複雑な物であるからここでは省略する。詳しく知りたい方はCINIIやJ-Stageで論文を当たると良いだろう。多くの先行研究がある。

事例

脱色処置前の褐色化した光学系。
黄色と褐色の中間といった色合いの当個体では脱色に150時間を要した。

褐色化したアトムレンズを含む光学系に対して紫外線(405nm)を150時間照射した結果、脱色に成功した。

脱色50時間後
脱色150時間後

要点

以下は実際に脱色処置を行う上で肝要だと思う点を述べる。

・脱色処置を行う際レンズを分解しアトムレンズのみ取り出す必要性は殆ど無い。無論、アトムレンズに直接紫外線を照射するのが1番脱色効率が良いのは確かだが、せいぜい4〜5時間脱色が早まる程度の差だと思われる。分解に伴うリスクを勘案すれば割に合わない。

・アルミホイル等を用いて紫外線をより効率良くアトムレンズに照射する事が出来る。これは安価で低リスクな方法だが、紫外線ライトの放熱を妨げる事の無いよう注意する必要がある。安価な紫外線ライトは必要最低限の放熱機構しか備えていない。

・紫外線照射によるバルサム切れやコバ落ちの報告は現状確認されていないが、レンズが過去に未熟な整備者によってUVレジンによるレンズの貼り合わせ処理やコバの厚塗り、グリスの厚塗り等が行われていた場合、熱によって溶け出したグリスによる絞り羽の固着や光学系のクモリ、強い紫外線による貼り合わせ面のUVレジンの黄変等、壊滅的な結果を及ぼす可能性は否定出来ない。

・当たり前の話ではあるが、UVカットフィルターを装着したレンズに紫外線を照射しても意味が無い。時々そういうミスをやってしまうおっちょこちょいさんが居るので注意して欲しい。因みにNDフィルターやモノクロ用のカラーフィルター等も紫外線を減衰させるからNGである。紫外線照射による脱色処置を行う際は出来るだけフィルターは外しておくべきだ。

結論

紫外線照射によるアトムレンズの脱色処置は、レンズ修理の中では比較的低難易度かつ低リスクではあるが、古い製品に手を加える以上100%の成功は保証出来ない。
誰でも紫外線を照射すれば褐色化したアトムレンズが直るという様な単純な話では無く、施工者の光学系、工学的な知識は必要不可欠である。


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