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ビギナーズラックという沼 最終回

コロナ禍の中、ふとしたきっかけから初めてのネット投票をして万馬券を的中させた宝塚記念2020。

そこから始まった馬券生活。

そんな時、珍しい皮膚疾患であるケラトアカントーマという病気が発覚。
病気と闘うべく、通院することになったがんセンター。

苦しくて辛い現実に目を背けるように、どんどんハマっていった一発逆転を狙う地方競馬。

健康を損ない、お金を浪費し、どこまでも抜け出せそうにない深くて暗い底なし沼にズブズブと沈んでいくようだった。

こうなってくると、競馬が楽しいというわけでもなんでもなく、ただ1日が過ぎるのを埋めるために何となく競馬をするという習慣になっていった。

そんな無気力で捨て鉢な日々の中でも、やるべきことだけは最低限こなし、家族への義務は果たしていたが、家族とて不満はたくさんあったかと思う。

がんセンターへの通院は1人で行くことがほとんどだったけど、病院まで行く途中、動悸や息切れ、このまま気を失ってしまうのではないかという恐怖でパニック状態を起こし、駐車できるファミレスになんとか入り、予約時間に間に合いそうもないことを病院に伝えながら号泣してしまったこともあった。

その時から何度かは夫スナフキンに運転してもらったり、スナフキンがどうしても仕事を休めない時は、長女ドカ弁が助手席に乗って一緒に病院に付き添ってくれたりした。

スナフキンが付いてくれている時はただ助手席で横になりながら頼っていれば気楽だったが、運転免許は持っているもののペーパードライバーのドカ弁がお供してくれる時は、助手席にドスンと座っているだけである。

しかし、1人きりで運転している時とは違い、大切な存在である我が子が隣に乗車しているというだけで気が確かになるというのか、シャンとするのだから心って本当に不思議である。

そんな病との闘いも終わりを迎え、平和な日常が戻ったかに思われたが、どこか虚ろな精神状態だった私に天罰が下ったのか、はたまたご先祖さまが間違った人生に進んでいるのを見かねたのか。

ヒヤリハットを飛び越え、あってはならない人身事故をおこしてしまったのだった。

人生で初めての人身事故。
頭は真っ白になりながらも、被害者救助、警察への通報、保険会社への連絡とまるで別人格が宿ったように迅速に行動できたことが、今振り返っても奇跡としか思えない。

被害者の方の症状が気になり、胸が張り裂けそうになりながら病院の待合室で祈った。

診察室から出て来られた被害者の方にお怪我の具合を訊ねると。

骨折はなく、打撲との診断だったというお返事がかえってきた。

本当に不幸中の幸いであった。

この時、心の底から湧き上がってきた自分への感情は。

人生が今下り坂やからって何や!
下り坂やからこそ、ちょっと足元に気をつけて慎重に進まなあかん時に、何を血迷って全速力で駆け下りてるんや!

しかもや、下り坂の横に見えてきた一見綺麗に見えた川に見惚れてしまってさ、浅そうやから大丈夫やろってはしゃいで足を踏み入れたりして。
それは川じゃなくて沼やったんやんか!

このまま、こんなわけのわからん勘違いを繰り返していけば、間違いなくあんた死ぬで!

2020年から約2年半続いた競馬と病と私。

心の底から反省し、ダメな自分に対して湧き上がったこの感情が、アンバランスな共存生活からの決別へとなるきっかけになってくれたように思う。

そうそう。
競馬といえばかつてギャンブラーだった今は亡き父を近くに感じていたことも忘れずにいたいと思う。
彼は私が幼い頃は競馬で母に苦労をかけていた人だったが、心臓を悪くし、仕事を引退してからはカラオケ命、孫命の真人間に生まれ変わり、人生を楽しみ尽くして天に召されていった。

そんな大好きだった父に、長いトンネルを抜け出した報告がしたくなり、母を連れてお墓参りに行こうと決めた。

お花やお線香にマッチに数珠。
準備は万端!で出発したのであるが、肝心なものを一つ忘れていた。

父が大好きだったBOSSの缶コーヒーブラック。

「ちょっと待ってて!すぐ買ってくるから!」

助手席に母を残し、慌てて駆け込んだセブンイレブンで無事に缶コーヒーを購入。

お墓参りの時、いつもは母がお線香に火をつける係で私が缶コーヒーを1番先に墓前に置く係なのであるが、この日はどうしたことかお線香になかなか火がつかないと母が困っていた。

「それじゃ私がお線香をするからお母さんは缶コーヒーをお供えしてあげてよ!」

役割を交代した所、スムーズにお線香に火がつき、煙が上がっていく。

そのお線香を線香立てに入れようと墓前に目をやると、母が供えたBOSSの缶コーヒーが置かれていたのであるが、思わず目が点になってしまった。

さっきコンビニで買った時、それはいつも見慣れたはずの黒い缶のBOSSだったはず。

しかし今目に入ってくるのは緑色で描かれた馬のイラストなのだ。

「サトノダイヤモンド」
名馬の名前入りである。
BOSSとウマ娘とのコラボ缶だったのだ。

表から見るといつものBOSS。
裏を返せばサトノダイヤモンド。

私ならよく確認などせず表側のBOSSのマークを前にして墓前にお供えしているはずで、裏側に描かれたサトノダイヤモンドには気がつかなかったかもしれない。

「可愛い絵が描いてある方を前にしてみたの。」

そういう母に笑いが込み上げてきた私。

「お母さん、これさ、サトノダイヤモンドっていう名馬のイラストなんよ!競馬から足を洗った私が競馬好きやったお父さんに買った缶コーヒーがまさかの馬入りとは!」

アハハと手を叩いて笑う私に母が真顔でこう言った。

「uniちゃん、お父さんがuniちゃんから競馬を取ってくれたんやで。ここに置いたらあっちに持ち帰ってやるって、、、。」

ちょっとゾーッとしたのはここだけの話。

墓前に置いたものを、あちらの人が「あちら側」に持ち帰っていったとしたら。

再び手を伸ばせばまさか自分もあちらに、、、。

上手いこと恐怖を演出する両親だと思ったが、親から贈られる無償の愛だと有り難く受け止め、日の差す「こちら側」で生きていこう。

長い人生、道はまだ続いていくのだから。

⭐︎長い振り返り作業。
魔坂や下り坂での全力疾走やら、沼を川と勘違いしていた発見やら。人生の間違い探しをしていく感覚でした。

そんな特に面白い話でもない、やらかし話にお付き合いくださった方、ありがとうございました。
2023年残り約7ヶ月、前向いて歩いていきたいと思います。

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