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それでええんや。

空海の「漢頂記」を稽古している。

空海の書は、力強くスケールが大きい。

稽古場では。
「あかん、全然書かれへん!」
「わからへん!難しい!」
溜息がこだましている。

自分なりに書けたかも‼︎っていうものが仕上がったので並べて置いておくと大先生がやってきた。

「これはあんた、誤字や。」

えーっ!誤字⁈

観世寺と書いたものが、観世音の間違いだという。

走り書きのメモのような「漢頂記」は、寺の名前を書いたものが多く、私が選んだ臨書部分も「音」が「寺」に見えてしまった。

誤字には厳しい目を光らせる大先生。

作品の出来不出来より正しい字を書くことに大先生の譲れない美学がある。

その注意を受けた際、筆の持ち方にも指導が入った。

「あんたの筆は立ちすぎる。空海の字は側筆で書くんや。筆をちょっと横に寝かせて持つ。手本どおりに書く必要はない。特徴が出ればいいんや。」

側筆でと言われたが、私は筆を寝かせて持つ習慣がない。

筆を寝かせて持つと、亡くなった元師匠からは厳しい声が飛んできたのだった。

「筆が寝てもとる!筆は必ず立てろ!もっと筆を起こして書け!」

8歳から身につけた習慣はなかなか変えられない。

大先生の仰る側筆を試みるが、どんどん書けなくなっていく。

その様子を黙って見ていた師匠が、大先生が先に帰られるのを待って、私のもとにやって来た。

「どないしたんや。」

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