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「トイレの詩」というアプローチ

だれもが安心して外出できるようにするためには、どんなトイレ環境が必要なのかを日々考えているNPO法人日本トイレ研究所の加藤と申します。

今回は、「トイレでエコアクションってできるの?」について書きます。

国際的な視点で言えば、SDGsというのがあります。SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。
外務省のサイトには、以下のように説明されています。

持続可能な開発目標(SDGs)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。
17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。 SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいます。

乱暴に言えば、自分勝手な行動をしていると社会も地球も壊れてしまうから、未来も安心して生活できる社会となるようにしようね、ということだと思います。しかも、誰一人取り残さないぞ!という強い意志をもって取り組む目標です。

ということで、1日何度も行くトイレで何かできないの?という疑問が湧いてきますよね。(そんなことを考えるのは、私だけかもしれませんが…)

トイレと言えば、生きていくうえで欠かせない場ではありますが、水は使うし、電気も必要だし、ペーパーも使います
私たちはトイレに行くたびに、かなりの資源を消費しちゃうのです

日本で言えば1億人(計算しやすいように1億人にしました)いますから、1人が1日7回トイレに行ったとしたら、1日に7億回分の資源が使われます。さらには、7億回分の排泄物が生じます。衛生的な社会を維持するためには、排泄物を適切に処理しなきゃなりません。日々発生する排泄物を休むことなく処理してくれる下水道や浄化槽には、本当に感謝ですね。

話をもどして、トイレで何ができるのかを考えます。
資源の観点から考えると、水、電気、ペーパーです。
水を無駄に流さない、使わないときは電気を消すなど、やれることはいろいろありますが、やるからには効果を把握したいですよね。でも、公共の場において効果を測定しようとすると、水量や電力量を把握することは意外と難しかったりします。トイレ単独のデータの把握が難しいという意味です。

そこで、目を付けたのがペーパー使用量です。
ペーパーであれば、ある一定期間におけるトイレの利用者数と消費したトイレットロール数を把握することができるので、利用者に何らかの呼びかけをしたことによる効果がわかります。

では、どうやって呼び掛けるかです。

トイレ内放送で呼びかける、ポスターにメッセージを掲げる、チラシを配布するなどを考えたのですが、どれもイマイチです。
しかも、商業施設の協力を得て実施することを想定していたので、トイレ内限定でアナウンスするのは困難ですし、いきなり全館でトイレのアナウンスなんてできるわけありません。
だからといって、いままでどおりのマナーポスターでは響きません。

この企画に一緒に取り組んでくれたのは、並河進さん(コピーライター)と田中偉一郎さん(アートディレクター)です。
このお二人のクリエイティブ能力は計り知れないものがあるのですが、それ以上にトイレ愛もすごいです。ミーティングを進める中で、並河さんがこんなことを言い出しました。
トイレでもっともネガティブなメッセージって、何だろうね。それって、落書きじゃない? でも、つい読んじゃうよね。だとすれば、落書きの真逆にあるものって何だろう…

しばらく考えて、並河さんは言いました。
詩(ポエム)っていうのは、どう? 落書きも詩も同じ文字なんだけど、詩には品があるように思う。そうであれば、トイレの個室の中にペーパーを大切に使ってほしいという思いを込めた『トイレの詩』を掲げるのはどうだろう?

(以上の並河さんのセリフは、私の記憶なので、実際にそのとおりじゃなかったかもしれません。並河さん、間違っていたらごめんなさい...)

こんなやりとりを経て、トイレの個室に詩を掲げるキャンペーンに取り組むことになりました。名付けて「トイレに、愛を。キャンペーン」です。
並河さんに詩を書いてもらい、田中さんにデザインをしてもらうことで、すてきなトイレの詩がたくさんできあがりました。

トイレの詩_統合

これを実施したのは2008年なのですが、当時、新宿高島屋とLUSCA平塚がこの取り組みに賛同いただき、キャンペーンの舞台となりました。

約2週間にわたって、新宿高島屋の6個室、LUSCA平塚の5個室に「トイレの詩」を掲げて、トイレ利用者人数とトイレットペーパーの使用量調査を実施しました。

その結果、トイレットペーパーの使用量が、新宿高島屋で20.8%、LUSCA平塚で13.0%も削減できたのです!!!

「トイレの詩」による効果が確認できたので、これを全国の商業施設・公共施設に参加を呼びかけ、2009年には164施設・約1700個室に「トイレの詩」を掲げました。

日本トイレ研究所が掲げる「トイレに、愛を。」とは、トイレを利用するすべての人へのメッセージです。トイレに愛を持ち、紙や水を大切にし、綺麗に使うことは、私たちひとりひとりが、ずっと続けることができるアクションですし、いま私にできること、だと思います!
今は、新型コロナウイルス感染症という新たな課題もありますし、冒頭で述べたSDGsには「誰一人取り残さない」という大切なメッセージもあります。

すべての人が安心してトイレを使えるようにするには、一人ひとりの協力が欠かせません。
SDGsに向けて、トイレから新たな取り組みを考える必要がありますね。


#SDGs #トイレの落書き

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