見出し画像

【感想】読書感想文「方舟」_非実在女子大生、空清水紗織の感想Vol.0022

9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か?
大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。
そんな矢先に殺人が起こった。
だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーー犯人以外の全員が、そう思った。
タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。

講談社BOOK倶楽部
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000369228

週刊文春ミステリーベスト10、MRC大賞2022で1位を獲得した本作。
クローズド・サークルものとしても面白く、また、「ホワイ・ダニット」を解き明かす過程も面白かった。
最後の衝撃はお見事。
以下、ネタバレありで感想を書いていく。


この本の最大の魅力は何と言っても、最後の種明かしにある。
主人公たちにとって「誰か一人を犠牲にしなければ助からない」という状況が、実は犯人にとっては「犠牲者に選ばれなければ助からない」という状況だったことが明かされる。
認識が180度ひっくり返される感覚が堪らない。
これぞミステリー。

終盤までは淡々と進んでいくのがまた良い。
クローズド・サークルなので必ず犯人は身近にいるが、主人公はそこまで恐怖を覚えていないような描写がされている。
だからこそ、最後認識がひっくり返った時の衝撃が大きくなる。

探偵役、翔太郎の推理も理路整然としており、安心して見ていられた。
犯人の行動原理も、きっと彼が語った通りなのだろうと思っていた。
だが違った。
犯人はそれを上回る狡猾さで、主人公たちをだまし続けていた。
しかも冒頭から。

2つの出口のモニターの配線を入れ替えておく。
たったそれだけのシンプルな方法で、最後まで主人公たちと読者を騙しきってしまった。
本書の帯で法月倫太郎先生が「本格ミステリが生き残るための《たったひとつの冴えたやりかた》がここにある」と寄せていたが、まさにその通りで、そこから騙されていたのかと感嘆してしまった。

最後の一文は、暫く寝付けないほどの衝撃があった。
「一番嫌な死に方」についての話が、ここで効いてくる。
あのあと主人公たちを待ち受ける絶望を想像すると、まるで自分が「方舟」の中に取り残されてしまったかのような気分になる。

まだ読んでない方は、是非この衝撃を味わってみてほしい。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?