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【感想】読書感想文「青い春を数えて」_非実在女子大生、空清水紗織の感想Vol.0046

“青春”の表も裏もすべて抱えて、少女は大人になっていく。

放送部の知咲は、本番の舞台にトラウマがある。だが、エースの有紗の様子が変で――(白線と一歩)。
怒られることが怖い優等生の細谷と、滅多に学校に来ない噂の不良少女・清水。正反対の二人の逃避行の結末は(漠然と五体)。

少女と大人の狭間で揺れ動く5人の高校生。瑞々しくも切実な感情を切り取った連作短編集。

『青い春を数えて』(武田 綾乃):講談社文庫|講談社BOOK倶楽部
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000352728

昨年の11月に別の記事で「年明け頃には読み終えていたい」なんて言っていたら、もう夏になってしまっていた。
ただ、私は夏の方が何となく青春感を覚えるので、読むにはいい季節だったかもしれない。

本書は女子高生の青春を描いた5つの短編からなる作品。
どれも爽やかで、それでいてちょっとだけ心を抉ってくるような物語ばかり。
一個前のお話の登場人物が次のお話にチラッと関わってきており、お話が切り替わったとしても続き物のような感覚でスルッと頭に入ってくるので読みやすくもある。(確か武田綾乃先生ご本人が「読書感想文として読むなら」と候補に挙げていらっしゃった作品でもあるので、読みやすさはお墨付きなのかもしれない)
タイトルに漢数字が入っており、それが一ずつ増えていくのも連作感があってキレイな構成だなと感じる。

5つの短編の中で一番好きなのは「赤点と二万」。
主な登場人物は生物で赤点を取った私こと辻脇菜奈、模範的な成績優良児の長谷部くん、月二万円で菜奈の面倒を見ている個人経営塾の森崎先生。

主題は時間の使い方。
高校三年生の菜奈は私立受験で使わない科目の生物を勉強する意味が見出せず、赤点を取って補習対象になってしまった。
一方の長谷部くん、とあることをきっかけに、時間を「未来への投資」に使うのではなく「今の消費」に使ってみる実験を行うことにし、その一つが生物で赤点を取り補習を受ける事だった。

生物の補習をきっかけに菜奈と長谷部くんが話す内容や、菜奈の「ずるい」という言葉をきっかけに森崎先生が話してくれる人生観が魅力的なので是非読んでみてほしい。
「生きるのに向いてない」人にきっと刺さると思う。

※ちなみに表紙は「漠然と五体」の海のシーンなのだと思うが、作中の季節は冬である一方で、イラストとしては夏っぽく見える。いわゆるイメージシーンのようなものなのだろうか。清水さん&細谷が夏に出会って遊ぶ世界線。その可能性も素敵だなあと思った。

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