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【ゲーム攻略&創作日記】ゴールデンアワーSS創作_非実在女子大生、空清水紗織の美少女ゲーム攻略&創作日記Vol.0006

美少女ゲーム「ゴールデンアワー」、夏希ルートのその後を妄想しました。
夏希視点で進みます。
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「ただいま」
「おう、おかえり。今日も遅かったな」
「声楽のレッスンが長引いちゃって」
「毎日頑張ってて凄いよ、お疲れさん。今、晩御飯あっためるから待っててな」
「ありがとう」
テキパキとご飯の準備をしてくれる雄也。
もう彼是1ヶ月は見ているが、まだこそばゆい。
そして……。
「安心する……」
「ん? なんか言ったか?」
「ううん、なんでもない」
「そうか。もうそろそろできるぜ」
「はーい、飲み物くらい入れるわ。麦茶でいい?」
「おう」
こうやって会話できていることが、今でも信じられない。
でも、現実なんだ。

あの夏の終わり、深谷の交差点で届いたメール。
スマホを確認して視線を上げると、少し照れたような、それでいて達成感に溢れた顔で、雄也が立っていた。
「ただいま」
「……写真撮りに行こうじゃないわよ、ばか」
「へへっ、夏希にばかって言われるのも懐かしいな」
「もう、ほんとばか。……おかえり、雄也」
「うん、ただいま、夏希」
あの悪魔とどんな契約をしたのかは知らない。
何度か聞いてはみたが、その度にはぐらかされるので、きっと何か言えない事情があるのだろう。
でも、それで構わない。
唯一確かなのは、もう私たち二人と悪魔の間には何の契約の縛りもなく、そして雄也は普通の人間として、この世界に生きているということだ。

「お味噌汁、美味しい」
「だろう? 教えてもらったとおり、ちゃんと出汁から取ったからな」
「ありがとう。でも、料理に時間かけてていいの? 勉強は進んでる?」
「そっちも抜かりなく。鍋に火かけてる間は、英単語とかの暗記物やってるよ」
「そう、なら良かった。雄也も頑張ってて偉いわ」
「はやく夏希とキャンパスライフを送りたいからな!」
「動機が不純。それに大学生になれたとしても音大生じゃないでしょ」
「姉妹校だしいいだろ? 少しでも近くのキャンパスに通えれば、お昼とかも一緒に食えるかもだし」
「はいはい。ま、楽しみにしてるわ」

雄也はあの日の転生までは、事故のリハビリで病院にいたことになっていた。
入院期間は1年。
なので、学年的には私や夏未よりも1つ下、つまり高校3年生で受験生だ。
第一志望は深谷学院大学、通称深学(ふかがく)で、私が通う深谷音楽大学の姉妹校。
姉妹校だけあって、それぞれのキャンパスは近く、歩いて10分ほどで着く。
学生間の交流も多く、サークル活動は一緒にやっているところも少なくない。
そんなわけで、雄也は深学を目指して絶賛受験勉強中だ。

「雄也は明日も、放課後は予備校?」
「だなぁ。模試ではA判定だけど、まだまだ油断できないし」
「そしたら、食材は私が買い足しておくわ。明日は2限からだし、レッスンも夕方には終わるはずだから、晩御飯も作れるかも」
「マジか! 助かる」
「居候させてもらってるんだし、料理くらい作るわ。今日だって、無理しなくて良かったのに」
「いい息抜きになるし。それに、居候のことは気にするなって。親父もこんな綺麗な子が嫁に来てくれるなら万々歳だって言ってただろ?」
「まあ、そうだけど、でもまだ結婚はしてないわけで……」
「まだ、ということは……!」
「……そりゃ、考えなくはないわよ。わざわざ生き返ってまで私のことを好きだって言ってくれる人、そういないでしょ」
「夏希……、俺頑張るからさ……」
「うん……」
「だから、明日も頑張れるよう……今日も一緒に風呂入ろう!」
「…………はぁ~」
「い、いやだって、結婚つったら、毎日そういうことできるわけで、今のうちに予行演習をだな……」
「あんた一体結婚を何だと思ってるのよ。ばかなこと言ってないで、さっさとご飯食べて勉強しなさい。明日も学校でしょ」
「夏希~」

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なんだかんだ結局一緒にお風呂に入ってしまい、いちゃついた後はお互い疲れていたからか、すっと眠りに落ちた。
翌朝、雄也をいつもどおり見送った後、少しのんびりしてから大学へ向かった。
「――ふぅ」
充実感のある深呼吸をする。
一人で生活していた頃に比べて、やはりメリハリがある。
大学、しかも音大の一年目は正直大変だ。
ご飯だって、一人の時はカップ麺で済ませてたことも少なくないぐらい忙しい。
だが、雄也と二人で食べるとなると話は別だ。
どれだけ忙しくったって、二人のときはゆっくり食べたい。
それに、受験生の雄也が作ってくれることも多いのだ。
その分の恩返しをしたいという気持ちもある。
そう思った私は3限が終わった後、普段よりも少しお高めな食材を入手するために、深谷の街に繰り出した。

深谷駅の周辺には百貨店が多い。
ブランド品なんて普段はあまり買わないが、今日のように突発的に良い食材を買おうと思ったら選択肢が多くて助かる。
いくつか見て回った結果、マルイの地下が、値段も量も二人分には丁度良さそうだった。
サラダとローストビーフを買って1階に上がると、フロアの時計が16時を告げた。
雄也はきっと放課後も勉強だから、帰りは18時を過ぎるだろう。
となると、まだ家に帰って晩御飯の準備をするには早い。
折角だから、上の階のコートやバッグも見ることにした。

ずらりと並んだ冬物のコートは、どれも暖かそうで、そして高い。
「さすが、ブランド品は違うわね……」
一着ぐらいは持っておきたいところだが、いまはまだ難しそうだ。
帰ろうとした矢先、聞き慣れた声が耳に入ってきた。

「――とかどう?」
「んー、あんまりこういうのは」
「じゃあ、あっち見てみるか」
「そうだね、石森君」

「雄也に夏未!?」
慌てて身を隠す。
この時間雄也は受験勉強中で、夏未も大学にいるはずでは?
それに、どうして二人でマルイに……?

「これなんか似合うんじゃないか?」
「確かに! 凄いなあ石森君は」
「何がだ?」
「だって、好きなモノとか、ちゃんと分かってくれてるんだもん」
「いやぁ、まあ、へへっ」

……これは、いわゆる浮気現場というやつでは?
このまま続きを見ていたいという気持ちと、見てはいけないものを見てしまったという気持ち。
二つが頭の中でごちゃ混ぜになって、足元からはすっと血が引き、頬は熱を帯びる。
その場で立ち尽くしていると、二人は別のフロアに向かった。
結局、追いかけることはせず、マルイを後にした。

晩御飯の準備をしていると、大分落ち着いてきた。
二人が仲良く歩いていたのは事実。
であれば、気になるにはその理由。
生き返った命を再度失ってまでも、私を生かそうとしてくれた雄也が、そう簡単に浮気をするとは考えづらい。
かと言って、絶対にしないとも言えない。
そもそも、雄也と夏未をくっつけようとしたのは、他でもない私だ。
自分で蒔いた種が原因だというのなら、せめて雄也から切り出される前に、自分の手で真相を明らかにしよう。
「ただいまー」
雄也が帰ってきた。
まずは晩御飯のときに探りを入れてみよう。

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「お、美味いな!」
「でしょ。ちょっと良いの買っちゃった」
「へぇ、どこで買ったんだ?」
「マルイよ」
「ぶふぅっ……!」
クリティカルヒット。
「大丈夫? 布巾使う?」
「……いや、大丈夫、ありがとう」
「そう。ところで、今日の放課後は勉強捗った?」
「べ、勉強!? いや、まあ、そこそこ」

嘘がつけない性格なのは知っていたけれど、まさかここまで分かりやすいとは。
もう直接聞いちゃおうかしら。

「そ、そういえば今週の土曜って、特に用事ないよな……?」
「土曜? そうね、家で歌の練習はしようと思ってるけど」
「午前中、ちょっと予備校に行ってくるから、帰りになんか甘いもん買ってくるよ」
「分かったわ」

直接聞くのは撤回。
この様子だと土曜にまた夏未と会うみたいだし、こっそりついていってみよう。
そう思いながら食べた晩御飯は、折角値が張ったものを買ったのに、全く味がしなかった。

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土曜の朝、宣言通りに雄也が予備校に行くと言って家を出た。
バレない程度の距離が取れるよう、1分ほど待って私も家を出る。
早足で雄也が歩いた方へ向かうと、見慣れた背中を捉えることができた。
このままあとをつけようとしていたが……。

「あれ、夏希じゃ~ん!」
「瑠璃? どうしてこんなとこに?」
「ちょっとおつかい頼まれちゃってさー。それより、夏希はどこ行くの?」
「わ、私? 私はその……」
「そうだ! 折角だしお茶しようよ! 最近夏希忙しかったみたいだし、色々話そうよ」
「いや、私は……」
「なにか用事があった?」
「そういうわけじゃ……」
「じゃあいいじゃん、決定! あっちいこ! 雰囲気いいカフェがあるんだよねー」

瑠璃の強引な勧誘を断れず、カフェに行くことになってしまった。
雄也の姿はすっかり見えなくなっていった。

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「でさ~、雅史と一緒に遊園地に行ったんだけどね」
「その話、もう3回目」
「え、そうだっけ? じゃあ3回目なんだけどさ」
「いや、続けるなよ」
「だって、夏希が全然話をしてくれないから、私が話すしかないんじゃ~ん」
「そんなこと……」
「そっちだって幸せなんでしょ? 雅史から色々聞いてるよ~」
「げっ、何を話してるんだか……」
「もう、ずっと惚気てるらしいよ~雄也。私と付き合いたての雅史が引くぐらい」
「惚気てるのはそっちもでしょ。でも、あとできつーく言い聞かせとくわ」

瑠璃に無理やり連れてこられたカフェは、確かに良い雰囲気で、お茶もお菓子も美味しかった。
雅史と付き合いたての瑠璃は、とにかく自分たちの近況を話すのが楽しいらしく、つまりはずっと惚気られていて、すっかり時間が経ってしまった。
もう雄也も家に帰っている頃だろう。
今日の尾行は失敗だ。
それにしても、雄也が惚気てるというのは本当だろうか。
もしかして、私との関係ではなく、夏未との関係について話しているのでは?
そう考えると頭がモヤモヤして、ますます無口になっていく。
……だめだ、もう帰ろう。

「ごめん瑠璃、私そろそろ家に帰らなきゃ」
「そうだね、そろそろちょうどいい時間だし、帰ろっか」
「ちょうどいい?」
「ううん、こっちの話~。家まで送ってくよ」
「え、良いわよ別に、子供じゃあるまいし」
「そう言わずにさ~、もう少しだけ惚気させてよ」
「あーはいはい、ご馳走様です。帰りに胃薬買って帰るからよろしく」

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帰り道も瑠璃が一方的に話すだけで、私はほとんど口を開かなかった。
真相を明らかにするなんて意気込んでいたけど、やっぱり落ち込んでいたらしい。
瑠璃が楽しそうに話しているのを聞いて、より実感してしまった。
正直、家に帰るのが憂鬱で、少し遠回りして帰った。

「まさか本当に薬局に寄って帰るなんて……、そんなにウザかったかな?」
「ええ、そりゃあもう」
「ひどーい、そんなはっきり言わなくったっていいじゃーん」
「じゃあ聞かなきゃいいでしょー」

瑠璃との軽口が、その憂鬱を紛らわせてくれた。
だが、もうそれもお終い。

「じゃあ、ここで。送ってくれてありがとう」
「あー、うん、ドア開けるまで見てるよ」
「……? そんなに今日の私、見てておっかない?」
「そういうわけじゃないけどさ、ま、一応ね」
「そ、いいけど。じゃ、また今度……」

パン!パン!パン!
別れを告げてドアを開けると、乾いた破裂音が響いた。

「「「誕生日おめでとう~!」」」

破裂音に驚いて閉じていた目を開くと、雄也、夏未、雅史の3人が玄関に立っていた。

「サプライズ成功だな、雄也!」
「うん、お姉ちゃんびっくりしてる」

……誕生日、そうか、誕生日か。
去年は色々ありすぎて忘れてたし、今年もまったく意識していなかった。
クラッカーに驚いたのと、昨日からの不安が解消されたのが相まって、涙が溢れてきた。

「ご、ごめん! まさか泣くほど驚かせるつもりはなかったんだが……」
「違うわよ、ばか……。もう、ほんとばか。ばか雄也」
「ありゃりゃ~、泣かせちゃったね雄也~」
「ちゃんとケアしろよ~」
「他人事だと思って、このカップルは……」
「ほら、お姉ちゃんもみんなも、いつまでも玄関に立ってないで、部屋に行こ? ケーキも用意してるし」

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部屋には夏未の言ったとおりケーキがあり、そしてプレゼントも用意されていた。
プレゼントはマルイの包装がされていた。

「まさかマルイにいたところを見られるなんて思ってなくてさ……」

雄也は苦笑いしていた。

「これ、開けていい?」
「ああ、もちろん」

中身はダッフルコートだった。
今年の冬のトレンドを押さえた、私好みの優しい色合いをしている。
試しに着てみたら、サイズも私にぴったりだ。
そして合点がいった。

「あんた、私の体格にあったコートを探すために、夏未を利用したのね」
「利用したなんて、そんな人聞きの悪いことは……」
「そうだよ、石森君はお姉ちゃんのこと、本気で喜ばせたかっただけだよ。一回見ただけじゃ分からないからって言って、この間と今日の二日間もかけて選んだ、素敵な彼氏だよ。……ちょっとデリカシーがないけど」
「え、夏未も俺を責めるのか……?」
「そりゃ、双子の夏未ちゃんも誕生日なのに、夏希ちゃんのプレゼントだけを買ったんだし?」
「うっ、それは……」
「それに、愛する彼女のために、他人の彼女を囮にした罪も忘れんなよぉ」
「そうそう、わざわざカフェに呼び出して数時間拘束してほしいなんて約束、今回きりだかんね。夏希はあんたが夏未といたとこ見たせいか、随分と悩んでて口数少なかったし。そんな夏希を食い止めた私にも、コートの一着二着ぐらいは恵んでほしいわ~」
「あのコート二着も買ったら破産しちまう……」

みんなが楽しそうに笑っている。
そして、そこに雄也がいる。
ちょっと前までは信じられなかったことが、現実になっている。
雄也が事故に遭ったり、私が消えかけたりはしたけれど、それも乗り越えて今がある。
それは多分、雄也なら、雄也とならできるって、どこかで信じてたから。

「――雄也」
「ん?」
「疑ったりしてごめん。もう少し、色んなことを信じてみようと思う」
「? お、おう。こっちこそ疑われても仕方ないことしてた、ごめん」
「ううん、そしてコートありがとう。すごく嬉しい」
「へへ、喜んでもらえて良かった。むっちゃ似合ってるよ。今度それ来た夏希とデートしたいな」
「はいはい、惚気はそこまで~。ケーキが干からびちゃうでしょー。ほら、このケーキは夏希と夏未、二人にまずは食べてもらわなきゃいけないんだから、席に着いて~」

ろうそくの灯を消して、みんなでケーキを切り分ける。
好きな人が隣で笑っている。
そして私も微笑み返す。
こんな幸せが、長く長く続くよう祈りながら。

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