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『地球外少年少女』は電脳コイルであり高次元SFだ

満を持して公開された『地球外少年少女』。NETFLIXで視聴しました。

磯光雄による2作目のオリジナルアニメ作品。監督となった前作『電脳コイル』からは約15年ぶりとなる監督作
(地球外少年少女 Wikipediaより)

このことからこの作品は、アニメ『電脳コイル』のオマージュが非常に多い作品になっています。見ていない人にも十分オススメ出来る作品でしたが、電脳コイルを知っている、という人には10倍オススメする作品です。

本記事は私が視聴した感想として執筆しましたが、他のアニメでも感じた事などを紹介する、分析的な記事となります。

以降、ネタバレがあります。

未視聴の方は今すぐAlt+左矢印キーを押してブラウザバックし、本作品視聴すること。



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視聴してきましたか?

電脳コイルネタが満載!

黒い球体のAIドローン『ダッキー』に、法務AIドローン『ブライト』
彼らは電脳コイルに登場するサーチマトン『キュウちゃん』や『2.0』にそっくりの見た目を持っています。

ダッキーがまともに言語を発したのは「うんち!」ともう一言程度なのですが、このセリフも電脳コイルの要素。小此木姉妹が幼児期に発したセリフです。この1単語は子供に安心して見せられ、引き込むアニメであることを端的に表していると思います。

そんなダッキーが電子空間に迷い込み、聞こえてくる管制室の通信音声が読み上げるエラーコードは『4423』。本作においては特に意味のある数列ではないが、電脳コイルでは非常に重要な意味を持つ数列でした。

本作の舞台となるう『あんしん』。想像を絶するセンス、ダサいというのも電脳コイル譲りだ。サーチマトンだからサッチーと名付けられたエピソードに似る。

本作の登場人物らはスマートフォンを持ちません。代わりに用いるのが『スマート』と呼ばれる次世代ウェアラブルデバイスを用いた『指電話』です。電脳コイルでもメガネ型デバイスを通して指電話が行われていました。

ここまでがNETFLIXにおける6話中1話目。視聴中、「これは進研ゼミで見た問題だ!」の気持ちをアニメで楽しめ、要素が出る度に嬉しくなって笑い泣きしていました。

ドローン同士の戦闘シーン

電脳コイルでのサーチマトンではビームを打ち合っていましたが、本来ビームやレーザー、光線というのは見えない方が自然なものです。

今作での攻撃はビームを描きません。機械への攻撃なのでハッキングあるいは短距離の電磁パルス攻撃だと思われますが、まるで”撃ち合っている”ように見えるでしょう。

ビームを描かずに射撃したことを視聴者に理解させるこの表現手法は、漫画・アニメ『映像研には手を出すな!』の第9話で同様の表現について語られています。

効果音と発射・ダメージエフェクトによって、ドローン同士の銃撃戦を見事に表現しています。

まだある!電脳コイルネタ

NETFLIXにおける2話のサブタイトルは霧と闇。霧は減圧による冷気の表現、闇は電源が落ちていることを表すものだが、こうして生まれた空間はまるで『古い空間』。通常と異なる空間に迷い込んだことを感じさせる。

主人公のハッカーである相模 登矢が、指を立てながら『整列!』と複数体の鳥ドローンに命じる姿は、『モジョに命じるイサコ』のオマージュで間違いないでしょう。それを本作のインポスターが手を振りかざすだけで撃ち落とす姿もまた、電脳コイルの投擲型暗号による攻撃を想起します。

そして、特徴的な幾何学模様のSパターン、その模様はもはや『暗号』そのものです。相変わらず内容の可読性は皆無ですが、今作では実際に人類の理解を超える現象として表現されています。

現実にAIが直面している数々の難問

この作品のテーマは宇宙とAI。前半で宇宙という真空の脅威を感じさせ、後半はAIの持つ問題が表現されています。

・ブラックボックス問題
最も賢いAIであるセブンが出した『人類の3分の1は死ぬべきだ』という結論に至った経緯を、利用者である人類が知る術はありません。最終結果である"答え"は分かるが、"なぜ"をAIは教えてくれないのです。

・教師データの偏りの問題
人間が子供の頃の環境で性格が変わるように、AIもまた教師が違えば異なる結果を出します。現実でも、人間の悪口ばかり受け取ったAIが差別的発言をしたり、黒人を認識出来なかったりする問題が有名です。
当作品でも、人類を知っていても人間を知らないという、教師データの不足にAIが苦心します。

・フレーム問題
判断するべき対象について、どこまで考慮するかという問題です。思考に費やせる時間は有限であるために、完璧な解放を導き出せるとは限りません。
考慮対象が少なすぎれば誤った解法になりますし、多すぎれば検討要素過剰でいつまでも答えが出ません。AIに限らず人間でも起きうるこの問題です。
本作では”人類"を考慮するAIのフレームに"人間"が含まれなかったことにより、不十分な結論に至っています。

11次元の感覚と高次知性体

物語の佳境、人間である主人公相模 登矢のルナティックによって獲得するのは、11次元的思考法と呼ばれる、無数にある隣接した自分自身と思考を共有する感覚。ここは人によってはよく分からない事を言っている印象があるかもしれません。
似たような感覚を獲得するエピソードがある"正解するカド"というアニメがあります。そちらでは高次元の存在から、「宇宙に存在している我々は断片、一部であり、多数次元にまたがる存在の1つに過ぎない」と説明され、1人が眠り、別の1人は起きる、という芸当をやってのけます。

ルナティックにおいては、パラレルワールドに存在する自身を認識出来るようになったとイメージすると良いでしょう。
なお、このシーンで使われている演出は、電脳コイルの思考から直接操作する機能『イマーゴ』を行使する時と同様の、目の点滅でした。

終わりに

電脳コイルの思い出補正が強いものの、これを抜きにしても傑作だと言えます!この作品を生み出してくださった磯光雄さんと制作陣は素晴らしいです。
ところで、磯光雄さんのクリエイターとして持つ人脈は凄まじく、エヴァンゲリオン新劇場版から、有名なあのシーンのオマージュが一瞬あったりします。もしかしたら攻殻機動隊やジブリ等、他作品からのオマージュも含まれているかもしれません。が、残念なことに攻殻機動隊は未履修のため、存在していたならば見落としているものと思います。それだけが心残りです。
私が見つけられなかった発見を読者のあなたがご存知でしたら、是非コメントを下さい。

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