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はねなしガチョウのぼうけん 『ボルカ』ジョン・バーニンガム

オリンピック、パラリンピックが終了しましたね。
彼らの活躍は驚異的で、ひさしぶりに応援に熱が入りました。
メダルをたくさんとれたのも、日本国民としてはうれしいことでした。

もちろんオリンピックは素晴らしかったのですが、特筆すべきはパラリンピックです。


感動的でした。


なぜかというと、この競技大会が単なる技術体力の競技大会ではなかったことです。


アスリートの「自分」に挑戦する姿勢。
競争を超えたアスリート同士の心の交流。
数々の困難を克服してきた者だけがもつ輝きを、垣間見せてくれたと思いました。


皆さんはどうでしたか?


他の人とちょっと違うために悲しい思いをしている人が、その困難を乗り越えて自分の居場所を見つける物語に、ジョン・バーニンガムの『ボルカ』があります。


ジョン・バーニンガムは、特に弱いもの、小さいものに対するまなざしがやさしくて、私は大好きなのですが、この『ボルカ』もそんなやさしさにあふれた作品です。
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ボルカは、ポッテリピョンという名前の夫婦のガチョウの子どもです。
女の子で、きょうだいが5人います。


ポッテリピョン夫婦は、子どもが生まれる前、それはそれは子どもたちが生まれるのを楽しみにし、お父さんは巣が荒らされないように、寝る間も惜しんで警戒しました。
子どもたちが生まれたとき、とても喜んで友だちを呼んで子どもたちを自慢しました。
子どもたち一人ひとりに愛情をこめて名前を付けました。
その中に、ボルカもいたのです。


ただ、ボルカには他のガチョウと違う点がありました。
ガチョウなのに、羽が生えていないのです。
羽がないから飛ぶことはできません。
夜になったり水の中に入ったりすると体温を奪われて、寒くてたまりません。


ポッテリピョン夫婦はボルカを大変心配して、お医者さんに相談し、ボルカに羽を編んでやることにしました。
本物の羽は編めないから、お母さんは灰色の毛で編んでやりました。
夜の寒さは、しのげるようになりました。


でも、飛ぶことはできません。


水に入れば、あがったときに乾かすのが大変です。
友だちと遊ぼうと思っても、友だちは笑ってばかりで相手にしてくれません。
お父さんとお母さんは、忙しすぎて、彼女のことは気づきません。
誰もボルカのことは気にしていないのでした。


泳ぐことも、飛ぶこともできないボルカは、冬が来て仲間が飛び去っても、ただ見送るだけでした。
あれほど愛情深かったお父さん、お母さんも、旅行のことを考えるだけで精いっぱいで、ボルカのことなど、気づきもしなかったのです。


「ガチョウたちが、うすぐらい空へときえていってしまうと、ボルカのくちばしに、涙がたれてきました」


ひとりぼっち。
だけど、生きていかなければなりません。
ボルカはひとりで冒険の旅に出かけていきます。


そして、ファウラー(野鳥の殺しや)という名前のやさしい犬や、愛情深い船長さんに出会います。
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『ボルカ』はジョン・バーニンガムのデビュー作です。
処女作でありながら、その後発表されるバーニンガムの作品のすべてが込められているように思いました。
小さいもの、弱いものに対するやさしいまなざし。
彼を取り巻く世界の残酷さ。
そして、弱き者が残酷な世界へ立ち向かう姿。
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私は、いわゆる「身体障がい者」と呼ばれる人たちが思っていることや立場を、本当には知りません。
LGBTの人たちの悲しみを知りません。
自分の経験に照らし合わせて、このように思うのだろうか、と想像することしかできません。


「同情はやめてくれ」と彼らはいいます。
足がないのは、障がいではなくひとつの個性なのだと。
頭ではわかっているのですが、彼らが望むようには感情が伴っていかない自分がいます。


でも今回のパラリンピックで、素晴らしい例を見ることができました。
陸上競技における伴走者です。
走者にひっぱられるでもなく、走者をひっぱるでもなく、足の運びと呼吸を走者に合わせ、適切に声をかけていく伴走者。
難しいけれど、私たちができるもっとも大切なことだと思いました。


『ボルカ』はバーニンガムのデビュー作ながら、1964年にケイト・グリーナウェイ賞を受賞しています。


『ボルカ はねなしガチョウのぼうけん』
ジョン・バーニンガム・作
きじまはじめ・訳
ほるぷ出版

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