小説「落花生」06
【本作を読む前に】
「落花生」はダークファンタジーの小説です。
作中に残酷な表現、グロテスクな表現が一部あるため、苦手な方は読まないようお気を付けください。
また、こちらは月に一回投稿予定の連載原稿になります。
挿絵や文庫本風にデザインした「完全版」を後に作る予定であることを、予めご了承ください。
また、上述した完全版では画像で読める作品にする予定です。
そのため、本記事ではルビを振っていません。
造語などは、前書きにルビを置いておこうと思います。
〈ルビ〉
「花織」かおり 「只」ただ
「康人」やすひと
「迷い人」まよいびと
「巣喰」すぐい 「琥珀流」こはくりゅう
「落涙峰」らくるいほう
「紲海岸」せつかいがん
「終砂漠」ついさばく
「雷没岩盤」らいぼつがんばん
「鰐熊」わにぐま
06
麓森の木の根を跳び越えて只の方向へ走るまほろをニコラオスが止めた。
二人の後を追う花織もそれを見て足を止め、ニコラオスの視線を追う。
木々の隙間、まだ十メートルも遠い先で巨大な巣喰に宙吊りにされた只が、猿の巣喰に太い枝で顔面を殴られていた。
ひゅっと吸い込んだ息は声にならず、花織の足が竦む。
飛び散った赤は只の鼻から吹き出し、口からも垂れた血液が顔を赤く染めている。震える足を踏み出しかけた花織を、ニコラオスが右手で制した。
「まほろさん、お願いします。巣喰が眠り次第、ワタクシが只さんを引っ張りますが、保険で花織さんも来てください。ダメなら逃げて」
ニコラオスが話す間に、まほろはその場に膝を突いて顔を俯けた。彼女の体には関節と関節の間に幾つも穴が空いている。白い体を貫通する穴は内側こそ黒くなっていて見えないものの、痛々しい。
その穴から、黄色っぽい煙が滲み出した。
ゆっくり、ゆっくりと漂い出す煙はそよ風の吹く先、只の方向へ進んで広がっていくが、遅い。
猿巣喰がまた只の顔を打った。糸を引く血液。花織は焦りに駆け出したかったが、先んじてニコラオスに肩を掴まれた為に進めない。
「まほろさんのガス、今のは催眠効果の物です。吸い込めば我々も危ない。堪えて」
ニコラオスが早口に言う後ろで、また只が殴られている。今度は左肩。
早く、早く。希う事しか出来ない自分に唇を噛み、花織の視線は泳ぐ。
その最中、只を掴み上げる巨大な巣喰が動いた。
人間の口だけの顔が哄笑するように開かれ、そのまま握り締めた只の右足へ。
「いや、嫌!!」
ニコラオスの左腕はまだ生えていない。彼の細い金属の右腕を振り払って駆け出し、花織は麓森の木の根に足を取られて転んだ。そうする間にも只の膝が咥え込まれ ―― 直後、目の前が真っ青な閃光に塗り潰された。光だけではない、熱、炎だと気が付いた時には膝を突いていた花織は後ろへ引き倒された。
影の中、寄せ集められたガラクタを見てニコラオスの体だと気が付く。
まほろの高い悲鳴、ぱちぱちと焼けた木が爆ぜる音、巣喰だろうか、低い管楽器に似た獣の悲鳴が幾つも重なっている。その中にカランという、涼やかな金属の音がした。
音だけの世界で、花織は慄いた。
これは爆発だ。只の居た方で爆発が起きた。では、彼は。
「ニコラ、ニコラ、今しかない」
花織に覆い被さるニコラオスを押し退けるように起こそうとして、金属の身体がだらりと横に倒れた。
無表情な双眼鏡頭は腐葉土に倒れたまま云とも寸とも言わない。
「ニコラ……?」
問いに答える者は無く、花織は体を起こしてまほろの居た方を見る。麓森の不気味な木の根に囲まれて、奇妙に歪んだ白い塊だけがあった。その起伏は人が横になったようで、肩や脚、頭の形を想起させる。
「まほろ」
掠れた声、それ以上の言葉も思考も無く、花織の目は只と巣喰の居た方へ。
手前に転がっている青く燻った黒い物は猿巣喰だろう。きっとそうだ、大きさは人より小さく、あちこちに焦げて縮れた毛がある。祈るようにそう考えて、その先へ視線を送る。
焼け焦げた木々の中、巨大な巣喰は上体を仰け反らせながら膝を突いていた。その顔は白い塊に覆われていて、ぴくりとも動かない。
そしてその足元に、人間大の白い塊。
花織の脚は立ち上がるのに足る力を出せず、這ってその塊に向かった。地面が熱い。木の根に手を突きかけ、あまりの熱さに悲鳴を上げて転げた。
「貴女、無事?」
巡った視界の先に、大きな南瓜頭。笑顔の形にくり抜かれたその奥で青く燃える双眸が花織と目を合わせていた。
「意識があるなら痛みは耐えて。そこの子を起こしてあげて」
綺麗な女声は南瓜頭の奥から響く。
分厚い外套を羽織った南瓜頭は、外套の隙間から真っ白な ―― まほろの白い肌とは異なる無機質に白い手で、ニコラオスを指差す。
「早く」
そう言って南瓜頭がまほろの方へ踏み出すと、カランという金属の音がした。彼女は右手にカンテラを持っている、それが歩く度に青い炎を揺らめかせて、冷涼な音を響かせていた。
困惑する中、花織がニコラオスを振り向く内に「早くして」と冷ややかな声で南瓜頭に急かされる。
漸く震えの治まりかけた脚でニコラオスに近付き、双眼鏡頭を軽く叩く。
「ニコラ、起きて。起きて!」
いざ意識を失った迷い人を前にすると、花織は何をすれば良いのか分からなかった。知識としてある応急処置や蘇生方法は、人を象っていながら常識から逸脱したニコラオスの身体に当て嵌められそうにない。
だから、花織はニコラオスに呼びかけ、顔や肩を叩き、空いた手で彼の右手を握ることしか出来なかった。
助けを求めて南瓜頭、まほろらしき塊に近付く彼女を見ても、彼女は花織に背を向けている。
「迷い人には私達の持つ常識なんて通用しないの。声を掛け続けて」
花織をちらとも見ずに、しかし声が途切れたのに気が付いてか南瓜頭はそう言って白い塊の傍に立つ。膝より長い外套から見える、真っ白なブーツの靴先が塊に触れていた。
「ニコラ、ニコラ……たすけて……」
気絶した人に向かって、何と情けないのだろう。
惨めさに涙を浮かべても、花織にはニコラオスを呼ぶことしか出来なかった。
かちゃり。
金属の音がして、花織は南瓜頭を振り向いた。外套から覗くブーツが波打っているが、金属の音はそこではない。
かちかち、音と共に花織の右手が握り込まれる。
「ニコラ!?」
ニコラオスは重たそうに双眼鏡頭を動かし、やがて花織の目を覗き込む。
「花織さん……只さんは」
溢れ出す涙を堪えて、花織は只らしき塊を見遣る。動きがない。
それから南瓜頭の方を見ると、白い塊の中から血の通いを感じるまほろの白い手が現れる所だった。
「わかんない、けど、まほろは……あの、まほろは?」
言いかけて南瓜頭に問えば、彼女はくくっと不気味な角度で頭を擡げて花織に青く燃える目を向けた。
「生きていて欲しいわね。あちらの、只さんも」
話しながら南瓜頭は足を踏み出し、白い塊から完全に姿を現したまほろを後にして只の方へ向かって行く。
突然、花織の手が離された。
がしゃんと音を立てて飛び起きたニコラオスが、眼鏡を直すような仕草で双眼鏡頭の縁に手を添えている。
「もしかして、灯籠のジャック……?」
呟き、ニコラオスの体は戦慄くようにかたかたと音を立てている。
取り敢えずは意識を取り戻したニコラオスから離れ、花織は倒れたままのまほろに駆け寄った。
ニコラオスと異なりまほろは身体のあちこちが焼け爛れ、長い黒髪は無惨にも燃え千切れている。ぼろぼろになった服の隙間からまほろの胸元が見えて、そこにも幾つも穴が空いている。花織はニコラオスが目を覚ます前に南瓜頭に言われた事を思い出した。
花織はまほろに呼び掛ける。無駄だと思いながらも、人工呼吸を試し、穴が空いているために脈を取れないことに焦れて声を掛け続ける事にした。
「ジェイコブ、お久しぶりです。ワタクシ、ニコラオスです。ニコラオス・アンリ。ほら、貴方の山小屋でお世話になりました」
花織の声に重なって、ニコラオスの声が響く。
「……ごめんなさい、私は」
南瓜頭、ジャックなのかジェイコブなのか、彼女の声は半ばで途切れた。べちっという肉とも革ともつかない衝撃音を最後に。
花織はまほろから目を外して只が居た方、ジャックが向かった方を振り返る。
そこにジャックの姿は無かった。すぐ手前にニコラオスの姿はある。立ち尽くしている。その先、僅かに塊から姿を見せ始めた只の奥に居る、巨大な巣喰を見つめて。
顔を白い塊で覆われて沈黙していた筈の巣喰が動き出していた。
顔中を掻きむしるように、白い塊を剥がそうと優に三メートルはあろうかという熊に似た巨体が暴れている。その最中に鰐のような尻尾が暴れ狂い、辺りの木々を薙ぎ倒す。
鰐熊は滅茶苦茶に動く。只から離れたと思えば凶暴な尻尾がその傍に打ち下ろされ、また只の方を向いて暴れる。
地鳴りする程の地団駄が、振り下ろされる鰐の尾が湿った土を跳ね上げて、ぱらぱらと音を立てて辺りに降り注いだ。
近付けば周囲の木々や根のように叩き切られるだろう。だから花織は動けなかったし、ニコラオスもきっと。では、ジャックは。
腐葉土に着けている膝どころか全身が笑い出して、花織の奥歯がかちかちと嫌な音を立て続けた。何とかまほろを掻き抱いても、逃げることさえ出来ない。
そうこうしている内に、鰐熊の口が破れた白い塊の奥に見えた。
笑っている。
南瓜頭が固定された笑顔のまま、その目の奥から青い炎を漲らせて鰐熊の頭上から降って来た。鰐熊に肩車をするような形で取り付き、驚く様に開かれた鰐熊の口へ白い左手を突っ込んで、青白い爆炎が迸った。
突風めいた叫び声を上げる鰐熊から降り立ち、ジャックは只に駆け寄って白い塊に両手を突く。みるみるうちに塊は彼女の手を伝って引いていき、只の全身が現れた。ジャックはすぐさま只の腋に腕を突っ込んで、ニコラオスにぶん投げる。
「市街へ!」
何とか只を受け止めるも体勢を崩したニコラオスは、倒けつ転びつも花織の方へ戻って来る。
花織はまほろを見たが、目を覚ます気配は無い。
仕方無く肩を貸す形でまほろを抱え上げ、驚く程軽い体を引き摺って歩き出す。
炎が走る音。青い光を背中に受けて、花織とニコラオスはその場を離れたかったが、振り向いた先の右手から真っ黒な鹿の巣喰が四頭、こちらに駆けて来ていた。
「息を止めて」
耳元の声、まほろの。
慌てて口を閉じると、先程よりも速く鋭い黄緑の煙が鹿巣喰の方へ延びる。
鹿巣喰は止まる間も無く顔面から黄緑のガスを被り、がくんと前肢を折って突っ伏した。
「花織、ありがとう。もう少し肩を貸してね」
火傷でぼろぼろになった顔で弱々しく笑うまほろは、黒い髪をまた少し短くしていた。
花織はまほろに頷き返し、市街の方向へ踏み出す。
背後から白い塊が飛散して、鹿巣喰の顔や脚に纒わり付く。
歩きながらも振り向くと、のたうち回る鰐熊を背景にジャックが左手を伸ばして走って来ていた。白い塊はジャックが投げ飛ばしていたのだ。思考に傾く頭を振って花織は先程よりも速く足を動かし、ニコラオスを追うように麓森を出る事に終始した。
森の奥からは巣喰が何度も迫り、その度にジャックが炎や白い塊で、それでも間に合わない分をまほろがガスで迎え撃ち、まほろの髪が耳に掛かるほどの長さまで減った時、木陰が絶えた。
遠く見える市街、そこへ続く平原を武装した迷い人やゾンビ達が駆けて土煙を上げている。
ニコラオスは一足早く平原に出て、只を抱えながら逃げる脚を止めずにこちらを気にしてくれていた。
「気を抜かないで、まだ来てる。市街に逃げ込むの」
足を止めかけた花織の背を細い指で押して、ジャックが言った。
背後の森からは肢体ヶ原を思い出すような怨嗟の鳴き声を上げて、巣喰達が何頭も迫ってきている。麓森の陰の中、人間の歯だけが白く浮かび上がる光景は正に地獄の様だった。
「ありがとう、花織。歩けそう」
再び歩き出す前にまほろに言われ、花織は彼女の腕をそっと離した。ふと微笑んだまほろは森を向いて膝を突く。只を救うべく動いた時のように俯いて「南瓜さん、ガスに火を着けて」と口にした。
ジャックはちらりとまほろに目を遣り、静かにカンテラを掲げる。
まほろの身体から、そこに空いた穴から濛々と緑色の煙が立ち上り、森の方へ拡散していく。煙に比例して、まほろの髪は見る間に縮んでいった。
祈る様な姿勢を取っていたまほろが矢庭に顔を上げ、大きく息を吸う。
「限界です」
言うが早いか、ジャックのカンテラから炎が走り、花織は慌てて力無いまほろをその場から引き離そうとした。
閃光。
まほろを引くために踏ん張った足が浮き上がり、後方へ吹き飛ばされる。
視界の効かない中、花織は必死でまほろの体を抱き締めた。そのまま平原の上で揉みくちゃに転がされる。痛みよりも回転と轟音で目眩が酷かった。
「花織!」
聞き覚えのある声。白く飛んだ視界、まほろを抱えたまま体を起こした先に、ゆらゆらと、いや、真っ直ぐに猛進してくる黒い影。まだ青い火の残る森から、無数の巣喰を、その焼け焦げた残骸を纏った鰐熊が跳び出てくる。
「花織さん!まほろさん!」
続く別の声とほぼ同時に、鰐熊へ向けて空中を青い炎が駆け抜ける。炎は巣喰の残骸を散らすだけで終わり、鰐熊の猛追は止まらない。
かぁっと開かれた口で張り付いていた白い塊が弾けて砕け、鰐熊が迫る。
花織の脚が言う事を聞かない。凍える程に寒い。
震える手で気絶したままのまほろを背後に押しやる。ほんの数十センチ動かすのが精一杯で、背後から地鳴りがして振り返った。
赤黒い口腔、煤けた奥歯。そこに割って入る、紺地の布。
がちん。歯を噛み合せる音で鰐熊が夜空を仰ぎ、その口から幾筋もの血液を垂らす。
割って入った紺地の服、見慣れた後ろ頭は只だ。倒れ様に開かれた四肢に右の手が見当たらない。
鰐熊は閉じた口で咀嚼して、ばきばきと耳障りな音を、その口端から溢れる血を見せ付けるようにそれを飲み下した。
再び飛来した青い炎は鰐熊の左腕で防がれ、体毛の焼ける臭い以外に効果は無い。炎など意に介さない様に、ゆっくりと真上から迫る、開かれた口腔。零れ落ちる血や唾液が、悪臭のする吐息が、花織の顔にかかる。
迫る鰐熊の顔が、しかし目の前で止まった。
「逃げろ」
残る左腕の肘を鰐熊の喉元に立てて、肘から先のない右腕を鰐熊の下顎に当て、只は呻く。
言われたからという訳では無い。与えられた猶予に花織は後ろ向きに這って距離を取った。立ち上がれない、だから芝を掴み、土を掴み、震える足で体を後ろへ押し出す。
すぐにまほろの体に当たり、花織は縋り付くように彼女を抱えて這い続ける。
下を向こうとする鰐熊の頭を必死で押し上げる只は、鰐熊が突然力を抜いた為に体勢を崩した。
只の胴体程に太い鰐熊の右腕が振り上げられている。忌々しげに歪めた巣喰の口。只は体勢を崩したきり、跪座して動かない。
ジャックが白い塊を鰐熊へ投げるも、首や肩に掛かるだけで虚しかった。
悲鳴を上げたいのに、花織の口からは早すぎる呼吸しか出ない。
鰐熊が腰を捻り、剛腕が振り下ろされ、そこに同時に白い塊が只へ向けて投げ飛ばされた。
どぱっと頭を覆うようにぶつけられ、只の体が前に倒れる。鰐熊の腕は只の居た虚空を殴りつけた。それに気付いた鰐熊は瞬時に左腕を上げ、しかしそれ以上は叶わなかった。
駆け付けた丸っこい金属鎧の迷い人が鰐熊に体当たりをしてその体勢を崩させる。
エンジン音にも似た怒声を上げる鰐熊は忽ち市街から駆け付けた増援に取り囲まれ、立ち上がる間も無く数に押されて殺された。
その騒ぎが収まるのを待って、ジャックが倒れ伏す只の元へ。その背を花織が見つめていると、不意に肩に手を置かれた。
「花織さん、怪我は?」
ニコラオスに問われるも、花織は自分の状態に意識を向けられない。白い塊を吸い取り、只の右腕の断面をそれで塞いだジャックが彼を担ぎ上げている。
只は左腕をジャックの肩に回すようにして、しかし残る体は力無く垂れ下がり、両足とも草原に引き摺られていた。直線状の琥珀流は輝きを失ってただの血管のよう。
「ニコラ……只さんは」
返答は無い。衣の擦れる音がしてニコラオスを見たが、彼は只を見つめて動いていなかった。
「花織、何が ―― 」
動き出したのはまほろだった。まほろは言いかけた言葉を呑み込み、真っ白な目を見開いて只を見る。
「何があったの」
言葉に迷う間にもジャックの足音が聞こえる程に近付く。彼女の足音よりも、土を削り草の根を上げて引き摺られる只の音の方が大きかった。
「ここは増援に任せる。皆、歩ける?」
ジャックが南瓜頭を巡らせ、ニコラオスが、次いでまほろがゆっくりと立ち上がる。花織は二人の間を縫って只に近付いた。
「この子はわからない。森の中でも襲われてたから……」
ジャックは何処か申し訳なさそうな声だった。
只の頬に触れると乾いた血がざらりとして剥がれ落ち、指先に伝わる体温は酷く冷たい。終砂漠で服を巻いてくれた時、麓森で奇襲を受けた時、只の手はもっと、熱い程にしっかりと体温を宿していた筈だ。
「ジャック……私が只さんを運びます」
口をついて出た言葉。少しの沈黙を置いてから南瓜頭が頷き、花織の肩に只の左腕を回させる。
只を預けたジャックはニコラオスに向き直った。
「君、一緒に街に戻るけれど、戦況は確認しておいて。見えるよね?」
はい。短い返答の後に、ジャックがカンテラを鳴らして先頭を歩き出した。
市街の灯りは遠い。
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