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【短編】出産後五十倍に伸びる


 うつ病のやつら非生産的だから死ね。
 老いぼれども地獄へ落ちろ。
 女なんだから子供を産むのが当然だろう。
 女は出産後五十倍に伸びる。
 事あるごとに言う父親の口癖が、それで、嫌で、私は父を殺したくなって、それは思春期に顕著で、たまらなく、嫌で、苦痛で、父の言葉を聞くと頭がしびれそうになって、苦しみたえがたくて、嫌で、嫌でたまらなくて、私は、成人すこし前に家出をした。

「男か女か分からない顔の男だから、いいね」
 と言われた。そう出会い系サイトで言ってくれていた十歳年上の人の家に転がりこんだ。世に異性愛者をノーマルと呼ばう文化にて私、変とちょっと思ったが彼は私をあやしてくれた。同性同士のセックス流儀をその時に覚えた。
 ある夜、私がヘッドフォンをしてインターネットをしていると、後ろの頭を彼に思い切り殴られてその衝撃の勢いで壁にもまたぶつかった。掛けていたメガネが壊れて目尻が赤くなった。
 彼が言った。
「振り向け」
 私はヘッドフォンをしていたから気づけなかったが、彼は私の名前を呼んでいたらしい。それに反応しなかったから私は彼の怒りを買って殴られた。私は暴力を受けた恐怖もあって、彼を突きとばした。すぐに反撃された。今度は左耳をぶたれた。血が出た。血を見て彼も怖くなって警察を呼んだ。警察が来たから事情を話した。私が希望すれば警察は彼を連れて行くことができるという。私は彼に恩義を感じていたから希望しなかった。ゆきすぎた痴情のもつれということになった。彼と別れた。

 インターネットで子供が二人いるおばさんと知りあいになって、子供も含めて同居することになった。
「あなたが今しているのは、育ち直し」
 私の心は、父親と彼から傷をつけられたのだらしい。おばさんは私を、同性愛者でマイノリティだから、支援するつもりで付きあってくれたのだそうだ。おばさんが言うには、男はご飯を持ってきて、その報酬として女からセックスを得るのだ。おばさんは私にオナニーをさせてそれを見物した。こっそり私がおばさんの乳首を覗きみたことには、女の乳首は出産後に五十倍には伸びない。あれは父親の嘘だった。そんなに伸びない。
 おばさんの娘の十四歳の誕生日の夜に、私はその女の子をおばさんの車に乗せ、無免許で運転して適当なところで車を停めて女の子とセックスした。それから女の子を家に帰して、私は自殺した。その後で今これを書いている。死ねない。

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