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小説書いてもらってみる004:生徒Bさんお題+見本作品

突発的に始まった小説を書いてもらう企画。
生徒さんが増えました! 生徒Bさんです!!!!!

前回までの記事はこちらを読んでね。


参加の経緯

ある時、お知り合いの方と話していたわけです。

B:素敵ですね「小説書いてもらってみた」企画。

qbc:おお。どのへんが?

B:小説を書いてみたい気持ちはあるけど、人からフィードバックもらうことってないじゃないですか。感想はもらうけど。添削みたいなことは、もっとないですよね。

qbc:はーなるほど。じゃあBさんもやりますか?

生徒B:やりたいです!

ということで始まりました「小説書いてもらってみた」2人目!!!

お題決め

qbc:じゃあ、今やってるのと同じで、ワンアクションだけ決めましょうか。
「手紙を書く」みたいな、名詞+動詞をください。
そのあと、私がそれを歪めるので。

生徒B:歪める?

qbc:こういうことです。
「手紙を書きだした」 は生徒さん発案。
「でも書けない。」 は私が後から付け足したんです。
小説的いびつさというか。冒頭文の後に、なんか始まりそうな歪みを入れて、仕掛けを作ります。

生徒B:なるほど。

qbc:思い付きでいいですよ、「名詞+動詞」ね

生徒B:「タバコに火をつける」どうですか?
自分はタバコ吸わないけど、吸わないからこそ自分の気持ちじゃなくて主人公の気持ちを書けるのではないかと思った。あと、タバコを吸う姿が好き。

qbc:いいじゃないですか!! じゃあこうしましょう。
「タバコに火をつける。窓の外で雪が降ってる。」

じゃあこれでいきましょう。

小説のお題決定

・テーマは行動「タバコに火をつける。窓の外で雪が降ってる。」※生徒Bが出しました。
・文体は私小説、「私は」で書く。注意点は、自分から突き放すこと。自分の感情を書かずに登場人物の気持ちを書く。
・文字数は2-3000字。
・事件は起きてもおきなくてもいい。感情だけ書き連ねてもいい。
・最初の書き出しは、「手紙を書きだした。でも書けない。」にしましょうか。

と、いうことで、早速私qbcの作品公開です!

短編「何かとコーヒー」

タバコに火をつける。窓の外で雪が降ってる。
負けず嫌いだった弟は企業に失敗し自暴自棄になって大学を辞めて海外、ジョージアに逃亡。姉はずっと思春期のままでインスタグラマーになるセミナーにもうずっとずっとずっと通い続けてる。
私は二五歳にもなって初めての彼女ができて、彼女にどうメッセージを送ればいいのか、深夜に頭を抱えている。冷凍庫に脳みそを入れて冷やしてやりたい。良い言葉が1ミリグラムも思いうかばない。人生から逃亡したくなる。死にたい。いっそ終わりにしたい。
見栄っ張りに血と肉を与えてできた弟、自己顕示欲に目と鼻と口をつけて生まれた姉。二人と同様、私も他人の目がすごく気になるよ。人から馬鹿にされるの大嫌い。
タバコの肺がテーブルの上に落ちた。吸うのを忘れていたし、灰皿を使うのも忘れていた。

らちがあかない。私は立ちあがり、キッチンに置きっぱなしにしてあった、サーバーの中の冷えたコーヒーをマグカップに注いだ。飲んだ。まずい。狭い板橋区のワンルームマンション。壁紙がやたらと白い。家具と言えば量販店で買ったベッドとテーブルくらい。
私はテーブルに戻り、昔、遊んだことのある女に相談した。彼女は今までできたことがない。でも。過去に、セックスしたりデートする相手はいた。
SNSからメッセージする。彼女じゃない女ならすぐに連絡できた。
「彼女ができた。なんてメッセージ送ればいいのかわからない」
返事は、すぐにきた。
「彼女?」
「そう。真剣に相手を大事にしたいと思っている」
「無理でしょう」
「どうして?」
「あなたはどうしたって自分を優先するから」
「そんなことないでしょ」
「うーん。無理だと思うけど。どうして好きになったの?」
「遊ぼうと思って口説いたら、セックスはスポーツじゃないからねって言われたから」
「それで好きになっちゃうのピュアすぎない?」
「じゃあピュアなんだと思う」
「そうなんだ」
「それよりも、どういうメッセージを送ればいいのか教えてほしい」

昔遊んだ年上の女は、元々は姉の友達だった。そして弟の恋人だったこともある。私が奪った。私の悪い癖だ。姉弟を、迂遠にいじめる。すこしだけ、女の乳房の感触を思いだす。
この年上の女は、つまり私の姉と弟にウソをついている引け目があった。強く言えば裏切りだ。私も、自分が望んで挑んだセックスとは言え、姉弟に隠しておくべき肉体関係だった。(血縁に開示していい交接の快楽などないのかもしれないが)。
とどのつまり私と秘密を共有していて、だから信用できる。
そして年上の女は、倫理的背離のある姉弟のその後の生活、様子、行動、思想を追いかけてヒューマンウォッチングの対象にしたいという特大の趣味の悪さも、私に似ていて、一緒にいて落ち着く。でもこういう人間を彼女にはしたくはないよね。
それで、昔遊んだ年上の女は、私に、恋人に送るべきメッセージを思いつく方法を教えてくれた。
まず。
あなたは見栄っ張りでかっこつけだから、メッセージが送れないのはつまり、自分でかっこいい言葉を作れてないからだ、と。かっこ悪い言葉を送ってしまう自分に耐えられなくなって。ひねくれた自我が尚一層ひしゃげてしまうのだ、と。
私は納得した。確かにね。正しいよ。まるで世界の悪をさばく正義の女神のように正しく私は評価されたよ。間違いない。合ってる。当然。
昔遊んだ年上の女は、雑誌の編集者で、言葉の扱いに慣れていた。
教えてくれた。
「まずは言葉を並べてみたらいいよ。自分の固定観念に縛られずに。今、何が見える?見えるというか、何が気になる?」
「コーヒー。さっき飲んだ。冷めていた。まずいんだ」
「冷めたコーヒーはまずい」
「うん」
「まるまるとコーヒーで言葉をたくさん作ってみたらいいよ。100個ね。100個作って。それを並べて、その中で、一番かっこいい組み合わせを私に教えてほしい」

わかった。ひとまず私は昔の遊び相手。そしてかつての姉の友人であり、弟の恋人であった人との連絡を終えた。
考える。
雪とコーヒー。昔遊んだ女とコーヒー。弟の懺悔とコーヒー。弟の金策のまずさとコーヒー。弟の悪口を言う女の唇とそこに吸いこまれていくコーヒー。七日七晩放置された金属のように冷たいコーヒー。「〇〇とコーヒー」というルールをすぐに崩壊させてしまう系男子の私とコーヒー。弟は私が昔遊んだ女との失恋に逆上して起業したけれどもいまだに君のことを忘れられないみたいだコーヒー。情けない男だよコーヒー。一週間くらい前から海外に行っていて、それから連絡がないので、たぶんまあうまく行っているのかもしれないと思っているその兄とコーヒー。
姉のことも書いて報告しなくちゃいけないと思っている、深夜の雪は美しいなと思っている私と漆黒のコーヒー。姉はいよいよ自己顕示欲が高じてしまってSNSにしか興味がなくなり会社を辞めて恋人も捨ててあろうことか両親の金に手を付け始めているよ、ということを傍目から見て楽しんでいる私と琥珀色のコーヒー。
物憂げな私とコーヒー。茶色いコーヒー。詩とコーヒー。市場とコーヒー。なんでもない夜とコーヒー。毎日とコーヒー。未来計画とコーヒー。コーヒーとコーヒーとコーヒー。
みだらな格好とコーヒー。コーヒーバリエーションがかなりなくなってきたと思われるので、彼女とのなれそめをもっと書こうと思うけど、それはどうなんだろうかと書き留まる男とコーヒー。板橋区に住む男の深夜とコーヒー。プラスチックでできた安物のスマホスタンドの上に乗ったスマホとコーヒー。遊びとコーヒー。彼女は女子大生で、なんだか世間知らずそうだったのでついからかってしまいたくなって声をかけたのが始まりだった男と冷たいコーヒー。話しているうちに世間知らずというよりもまったく私のからかいにも動じなかったので逆にこっちが興味を持ってしまったのが敗因だった男とコーヒー。
「どうしても一緒に行ってほしいレストランがあるから一緒に行ってほしい」とねだる男とコーヒー。
「遊んでる暇はないから、遊びじゃないなら行ってもいい」ときっぱり答える女とコーヒー。
すこし考える男とコーヒー。
珍しいものでも見るかのような目の女とコーヒー。
これくらい書いておけばまあいいかと思う深夜の男とコーヒー。
思ったよりも100のアイデアを出すのは難しいなと思う男とコーヒー。
もはや意味のあることを書こうとすると逆に難しいのだと思う男とコーヒー。
新規開拓とコーヒー。冷たい男とコーヒー。裏切りとコーヒー。夜とコーヒー。夜と霧とコーヒー。さまにならない男とコーヒー。かんたんになびかない女とコーヒー。独裁者とコーヒー。朝とコーヒー。昼とコーヒー。深夜とコーヒー。簡単には解けない人生とコーヒー。親の遺産とコーヒー。お金持ちだった両親とコーヒー。たくさんの失敗とコーヒー。見栄っ張り人生とコーヒー。でもあんがい見栄っ張りでもなかったかもしれないなと思う男とコーヒー。最初に私を見栄っ張りだと言ったのは母親だった自分とコーヒー。次に言ったのは昔遊んだ年上の女だった自分とコーヒー。温泉旅行とコーヒー。ある意味家族ぐるみの付き合いとコーヒー。
無人駅とコーヒー。産前産後とコーヒー。過去の後悔とコーヒー。日めくりカレンダーとコーヒー。なまずとコーヒー。行き場のない母子とコーヒー。さんざんな目にあう子犬とコーヒー。泥雪とコーヒー。泥水とコーヒー。存在のふたしかな存在とコーヒー。見ず知らずの他人とコーヒー。朝もやとコーヒー。未開の土地とコーヒー。結局私はあの女の挑戦にひっかかっただけではないのかと思い始める男とコーヒー。あの女というのは、彼女のことで、と思い違いのないように言いあらためる男とコーヒー。これで71とコーヒー。
つまり医者の不養生と同じことで、人をからかってばかりの男が、急にからかわれる側に回ると不慣れで、すぐに罠にひっかかってしまったということではないかと思う男とコーヒー。
遊びじゃなければ行ってあげると言われて汗ってじゃあ彼氏にしてよと行って彼氏にしてもらったが、これが人生初彼女と言ったとき、なんだか気恥ずかしかった気がするのを思いだす私とコーヒー。そもそもすぐ彼氏にしてしまう女とはなんだろうと思う男とコーヒー。これまでろくな人間関係をしてこなかった私が良くなかったのかと思う男とコーヒー。
いずれにしろ、相手の真意を知りたくなってしまった時点で相手に興味を持っているのは確かなんだから、これは恋だよね、と思う男とコーヒー。さっき言われたピュアって合ってると思う男とコーヒー。100じゃなくって50だったらどんなに良かったかと30くらいの時点で思い始めていた男とコーヒー。ハンムラビとコーヒー。法律とコーヒー。まぬがれえぬ宇宙とコーヒー。深淵なる過去とコーヒー。ドミトリーとコーヒー。甘酒とコーヒー。今晩とコーヒー。ぬくもりとコーヒー。したたかさとコーヒー。盗みとコーヒー。家屋とコーヒー。受験とコーヒー。ガーリックとコーヒー。ペペロンチーノとコーヒー。多分とコーヒー。最愛とコーヒー。溺愛とコーヒー。どぎつさとコーヒー。ぬるま湯ガエルとコーヒー。真実とコーヒー。めぐりあわせとコーヒー。曲解とコーヒー。

メモに書いたコーヒーの鈴なりパレードを、昔遊んだ女に送る。きつかった。
すぐに返事がきた。
「いいじゃん」
「どこが?」
「特に、ドミトリーとコーヒー、したたかさとコーヒー、曲解とコーヒーかな」
「最後のほうしか読んでなくない?」
「このワークはね、自分の肩の力を抜くためなの。自分が他人から良く思われようとする見栄っ張りの毒を燃やして焼き尽くすための時間ね。わかりましたか?」
「わかった」
さっと手を動かした。ペンとノートもテーブルに広げていたんだった。スマホをフリックで操るよりも、手書きにしたかった。

あなたのことが本当に好きになってしまった気がします。こういう気持ちにさせてくれてありがとうございます。

その文字を写真で年上の女にすぐ送った。
「これでどうかな?」
「きもちわるい」
「やっぱり良くないよな」
「いやでも、こういうことを言っても、どきどきしちゃうのが本当の人間関係ってやつだから。きっと」
そうかもしれないね。そうだと思う。
私は彼女にメッセージを送った。ようやく。
不安だ。私は年上の女に送った。怖い。
「不安で死にそう」
「それが生きる人間の苦しみだからね」
生きる苦しみか。ならば仕方ない。それよりも眠い。私は眠ることにする。喉が乾いたが、キッチンのまずいコーヒーはもうなくなってる。それにコーヒー飲んだら眠れなくなるでしょう。というかもう、しばらくコーヒーは見たくないな。
私は豊かな眠気に襲われる。いつか私は眠った。

あとがき

小説は楽しいね!!!!!

こちら、過去に私の書いたものなのでできたら読んでくださいませねー!!!!!!!!!!

制作:qbc(無名人インタビュー主催・作家)

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