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【短編】認められて


 へらへら笑うまにまに恋愛した。
 就職先を聞いては多少の顔の良し悪し度外視で体を預けた。
 でも会社経営者にはびびって手を出せない瀟洒な酒場など。
 知っていた。私は二十七歳の未熟で・学校でもミソカスで・会社員になっても失恋して。で傷心旅行の途上で逆上して元情人に写真メール送付を繰りかえしたり・それをソーシャルネットワークで開陳されたり。未だ世情の深意が掴めない。株式会社東京ふるさと産業機構。ここ私の会社。地方名産ギフト専門通販会社。
 機構には承認課という部署がある。私は承認課課長の上杉さんに承認をもらいに行った。
 私は上杉さんに企画書を渡して言った。
「結婚相手を探す活動を承認してください」
「はい」
 認められた。認められたら人間には自信がつく∴自信がつくとやる気が溢れてくる∴溢れれば物事が動きだす。承認課は社員のモチベーション改善目的の福利厚生部署だ。

 溢れる希望に衝き動かされて私は翌日から新たな商品開発のために地方出張連発。宮崎県養蜂業あきらくん(やった)。高知県栗農家かずやさん(朝まで飲んだだけ)。山形県駒彫師ほんだくん(やった)。
 東京に来てくれた人もいる。でも現地ではあんなに素敵で輝いて見えるのに、どうして東京に来るとあんなに見すぼらしくなってしまうのだろう。東京エニグマ。

 晩、最終新幹線で会社に戻る。残デスクワーク処理をする。真夜中近く。何人と寝ただろう。誰とも結婚の話ができなかった。なぜだろう。うなだれた。体を折りまげ目の前の机に頬を充てる。たちまちこの無機質で無個性なオフィス家具と同化して既製品になりたくなる。こいつ規格に合格してやがる。業界団体に保証されていて安心感ありやがる。私はまず顔面をライトグレイに塗らなきゃなんない。
「あなたは疲れていますね」
 同様に残業していた同僚のフランス人女子(上杉さんの元恋人)が隣に立っていた。
 机から顔を離して、私は彼女を見あげる。美人だ。
 彼女が言う。
「へたなテッポウ数打ちゃ当たる」
 そうか。まだまだ数が足りなかったんだ。Coucouc'est moi.
 私は早速鉄砲つながりでてっちりをリプロダクトして通販メニューに追加した。その際に出会った富山県フグ職人ひろしくんが現在の私の旦那さん。で私は今では富山に引っ越してひろしくんの料理屋さんのおかみさん。
 東京ではなく地元富山で見続けるひろしくんは、いつまでもかっこいいい。

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