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短編小説「役者」

俺の名前は沼田太郎、売れない29歳の無名役者だ。
舞台での芸名は”ヤラセカカシ”だが、皆からはいかにも売れない役者って感じの名前とイジられる。

俺は元々大学生の頃から劇団サークルに入ってはいたが、絶望的な演技力からエキストラでの出演しかなかった。
4年間エキストラでしか出番のなかった俺は悔しい思いが一杯だったのか、卒業後普通に就職せずに俳優養成所に通ってしまう。

思えば自分の才能に早く見切りをつけて俳優養成所へ通わず普通に就職していれば、稼ぎや女に困っていなかったんだろうなと時々虚しくなる。

稽古とバイトに明け暮れる毎日でいつになったら、下積み時代を終えてBIGな俳優になれるのか心配になる。

舞台監督『なんやその棒読みは‼️てめえ役者何年やってきてるんや。』
俺『す、すみません、、、』

舞台監督『悪いけどさ、演技力に改善の見込みがなかったらさ、退団してくんね?』
俺『は?俺の演技力が向上しないのは監督の指導が悪いからじゃないんですか?』

舞台監督『てめえ誰に向かって口きいてんだ?嫌なら出てけボケが!』
俺『出て行きますとも。誰がこんなボロ劇場で俳優やるんだ。』

俺は積もりに積もった怒りが急に爆発してしまった。
大学を卒業してから5年、俺は有名俳優になるために日々鍛錬していたのに、何も実ることなく劇団を退団したのである。

引き返そうにも後戻りできなくなった俺はとんでもないことを思いついた。そう、それは裏世界のビデオに出演して荒稼ぎすれば良いと。
いわゆる汁男優は演技力は求められない。いかに勃起して女優に精子を撒き散らせばいいかが勝負と言える。
早速俺は汁男優の広告に応募してオーディションに参加した。

面接官『簡単に自己紹介してください。』
俺『沼田太郎と申します。大学を卒業してからずっと俳優を目指して劇団に入っておりましたが、一身上の都合により退団しました。』

面接官『わかりました。沼田さんはどんな状況でもビンビンに勃たせることはできますか?』
俺『もちろん勃たせられます。』
面接官『そうですか。それではいまから脱いでもらって私たちの前でオナニーしてくれませんか?』
俺『ぬ、脱ぐ、、?こ、ここで?』
面接『何か問題でも?』
俺『いえ、突然だったのでつい驚いてしまいました。脱ぐので少しお待ちください。』 

俺は脱いだは良いもののあまりの緊張感に襲われて全然勃たない。万事休すだ。

面接官『どうしたんですか。早く勃たせないと。勃たせて出してもらわないと商品としての価値がないですよ。』
俺『ま、待ってください、、今すぐ勃たせます、、』

30分ずっと己のイチモツを触り続けるもののイマイチ勃ちが良くならない。このままだと出せるかも危うい。かれこれ1時間が経ち、ようやく射精できた。

面接官『言ってることと違うことない?言われたタイミングで射精できなきゃ使い物にならないんだよね。』
俺『す、すいません、、』
面接官『結果は不合格。顔は悪くないんだからちょっとは期待したけど、残念だったね。』

あっさり不合格になった俺は精子のかかった手を見つめながら人生をやり直したいと切に願った。

ー完ー

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