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短編小説「結婚」

 西暦20XX。日本は既に人口減少を食い止めることができず、国力が衰退していた。このような状況を打破する為に、政府は全ての国民に30歳までに結婚して、子作りすることを義務付ける法律を制定した。結婚しない、または結婚しても子どもが産めない夫婦は逮捕され、強制収容所へと送り込まれる。

 そんな理不尽な世の中でも結婚に興味がなく、少しでも抗おうとする女がいた。そう、私だ。申し遅れたが、私の名前は林喪女子だ。29歳、介護施設の清掃員で恋愛経験が一切ない処女だ。周囲からはサバサバしていると言われ、女性というより男性として扱われることの方が多い。

 そんな中、今年も残りわずかとなり、来年の4月には30歳になる。30歳までに結婚しない者は国賊とみなされ豚箱へぶち込まれる。確かに自由でなくなるのは嫌だが、どの道この法律がある限り、私は自由でないも同然だ。

 今日は仕事納めであるが、このあと実家に帰って両親や親戚に私の恋愛事情についてあれやこれやと尋問されるのが苦痛だ。結婚する気がないと言うと父は決まって、私に”お前はワシの娘じゃない”と罵詈雑言を浴びせて、 ちゃぶ台をひっくり返すのである。見ていて滑稽ではあるが、十分にハラスメントと言える。

 仕事が終わった私はそのまま新幹線に乗り、実家へ向かった。ボロくさい一軒家に足を踏み入れると両親と親戚一同が集まっていた。

母「あらまぁ、お帰り!喪女子が帰ってくるのをずっと待っていたのよ。さあ早く上がって。食事の準備はできてるよ。」

私「そんなに急かないでよ。別にそこまでお腹減ってるわけでもないし。」 

母「あんたが腹減ってなくても皆腹ぺこぺこに空かして待ってるのよ。荷物はその辺に置いてちょうだい。」

いつもの流れだった。親戚一同が集まっている狭いリビングの食卓に座って、私の近況について聞かれるのであった。

親戚A「遠い所わざわざ来てくれて、ありがとうね。そんでどうよ?もう結婚する相手はできたかい??」

父「こら、A。それはワシの聞くことじゃろ。んでどうなんだ、彼氏というか結婚相手はできたんかい?え?」

やはりこの質問が来た。私は当然いつものようにいないと答える。

私「いや、お相手はいないよ。」

父「やはりか…お前、分かってるだろうね?来年で喪女子は30歳だ。それがどう言うことを意味するか分かるだろ?」

私「ええ。30になっても結婚してなくて子どももいなければ、私は逮捕され、一生強制収容所で奴隷のようにこき使われる。」

父「そうじゃ。それが分かっていて何故、結婚しない?」

私「別に。特に理由なんてないの。ただ結婚に興味がないのさ。好きでもない相手と一緒に生活を共にするなんて死んだも同然よ。」

父「口を慎め。お前は一家の恥晒しだ。お前だけ連行されて終わりじゃないんだぞ。結婚しない娘を育ててしまった我々の社会的地位はなくなるんだぞ。これでワシら一家はおしまいじゃ。」

私「それならこんな汚れた一家の歴史をここで終わりにしましょう。」

私は脇腹に隠していたプラスチック爆弾を出して、くだらない価値観に染まった世界から別れを告げ、起爆した。

The end

とろろ魔人

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