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錦秋文楽公演あれやこれや

錦秋文楽公演、初日おめでとうございます!!
国立文楽劇場で、10ヶ月ぶりに文楽公演の幕が開きました。
無事に幕が開いて、良かった。本当に良かった……!

アフターコロナの錦秋文楽公演は3部制で、4演目が上演されます。
一部、二部、三部の演目を見てみると、文楽作品のジャンルをあますことなく楽しめるラインナップになっていることに気づきます。

ですので、錦秋文楽をより楽しむために、文楽作品のジャンルとどこを楽しむかについて、作品の内容にも触れつつ、書いていきたいと思います。

文楽作品のジャンルとは

文楽作品には、大きく分けて「時代物」「世話物」、「景事」という、3つのジャンルがあります。
文楽を観る時は、上演演目がどれなのを知っておくと良いと思います。

では、それぞれについてもう少し詳しく観ていきましょう。

時代物
 時代物は、江戸時代の人々にとっての時代劇です。
 今の大河ドラマと同様に、日本史の授業で習う様な歴史的事件や伝説、たとえば大化の改新(乙巳の変)や天神伝説。源平合戦などが題材となりました。
 木版による商業出版技術の発達によって、江戸時代には、(創作を多分に含む)歴史書、およびそれに基づいた「物語」が、庶民にも多く親しまれる様になっていたので、
私たちが『麒麟がくる』の主人公が明智光秀と聞くと「じゃあ、戦国時代の話で、本能寺の変が題材に描かれるんだな」って無意識に想像する様に、
江戸庶民の人々も、この人が出ればこの事件を扱ったもの、と想像がついていました。
 基本的には五段構成で、メインの登場人物は、歴史上の貴族や武士ですが、それぞれの段の主人公は、それに巻き込まれる家臣や庶民、すなわち歴史書に名を残さなかった人々である場合も多いです。
 大河ドラマと同じく新解釈が踏まえられていることに加え、近世以前は先行作を利用して作られているので、
「あの作品のここをこう利用して、こんな話しにしているのか……!」という気付きが観る度ごとに得られる、噛めば噛むほど美味しいスルメ的な存在です。

世話物
 貴族や武家の間で起こった過去の事件を扱う時代物に対して、江戸時代から見た現代に市井で起こった事件を描く現代劇が世話物です。
 心中や公金横領などの実際に起きた事件を脚色しており、たとえるならWOWOWのドラマWですかね。
 主人公は、市井に生きる人々ですが、時代物に登場する庶民がどちらかというと農村に暮らす人々であるのに対して、世話物の登場人物は都市部に暮らす人々であることが多いです。
 大体、惚れた・腫れた・死んだみたいな話で、男主人はたいていクズかメンヘラ製造器、女主人公はたいていダメンズウォーカーでクズ製造器なので、
江戸時代も今も、人々の心の根底は変わらないのかもしれない、と思わせてくれます。まあ、治兵衛や忠兵衛が周りの注意を聞き入れて、真人間になってたら、なんのドラマも生まれないですよね。

景事
 「けいごと」とも「けいじ」とも読みます。
 舞踊劇的な作品群で、物語はないに等しいです。ただただ、舞台面と太夫・三味線の華やかさを楽しむのがメイン。能・狂言、およびそれを取り入れた歌舞伎舞踊が義太夫になったものと、道行などの時代物の華やかで短い箇所が独立した、2パターンあります。

 詳しくみると、時代物と世話物、両方を兼ね備えた「時代世話」もあるのですが、長くなるしややこしくなるので、今は割愛します。

 実際に舞台を見に行く時は、時代物はどの歴史的事件を描いているのか、世話物は主要人物とその関係性を押さえておけば、まず話に入っていけるかなと。
 景事は、特に予習しなくて大丈夫です。


錦秋文楽公演の構成

 上記の3ジャンルを錦秋文楽公演の構成に当てはめると、第一部の『源平布引滝』と第三部『本朝廿四孝』が時代物、第二部は世話物の『新版歌祭文』と景事『釣女』の2演目立て、となります。

 第一部の『源平布引滝』は、「平家物語」を題材とした作品で、今回上演されるのは、旭将軍・木曽義仲の誕生を主軸に、「平家物語」に描かれる斎藤実盛と手塚光盛の因縁を描いたお話です。五段構成の内、三段目にあたります。
 どうでも良いですが、私は義仲と聞くと、2005年に放送された大河ドラマ『義経』の小澤征悦さんが思い浮かびます。(神木君の牛若丸がめちゃくちゃ可愛かった)

 第二部の『新版歌祭文』は、江戸時代初頭に起こった商家の娘と丁稚の心中事件を扱った作品です。大坂の商家の娘と、農村からその商家に奉公に出た丁稚と、その丁稚と兄弟同然に育った幼なじみの許婚の田舎娘が繰り広げる恋のバトルと、その親が絡む、ラブストーリーかつ家族の物語です。
 続く『釣女』は、独身の大名が結婚したいと、太郎冠者を連れて西宮恵比寿神社に願掛けに詣でたところ、恵比寿さんの釣り竿を得て、それで女を釣るという、この令和の時代に大丈夫か!? というお話です。大本のネタが狂言なので、能舞台を模して、松を描いた背景で上演されます。滑稽さや人形の動き、太夫と三味線の掛け合いを楽しむもので、決して内容については気にしてはいけません。

 第三部の『本朝廿四孝』は、川中島合戦を踏まえた作品で、今回上演されるのは、長尾(上杉)謙信の娘である八重垣姫とその許婚である武田家嫡男の勝頼のお話です。八重垣姫の勝頼への一途な恋が描かれる、白狐が可愛い一段。五段構成の中で、四段目にあたります。

 第一部と第三部は、共に時代物ですが、三段目と四段目では描かれる物語の雰囲気が異なり、かつ、江戸時代、すでに物語として享受されまくっていた「平家物語」の世界と、なんとなくまだ近い戦国時代の世界とで、様子が全く異なる二演目となっています。

 文楽のジャンルをあますことなく体感できる、錦秋文楽公演。
 11月23日まで、チケット公表販売中です♪
 チケット買いすぎて、早くも貧乏です……。


面白動画

 コロナ対策の動画が公開されています。
 動画としても面白いので、公演に行かれる方も行かれない方も、ぜひ一度御覧ください。


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