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夢を追えなくなっても、夢を創ることならできる

プロフィール
持田温紀
もちだ・はるき。中央大学法学部。中央大学学友会サッカー部、営業部に所属。地域・社会貢献活動のプロデュースやパートナー活動(スポンサー営業)を行なっている。

これまでの人生


 「自慢だった脚が言うことを聞かなくなって、無力な気持ちになりました。」と話す持田さんは、高校の時に事故に遭い、脊髄を損傷して車椅子生活になった。4歳の頃から11年間続けた大好きだったサッカーも、ある日突然できなくなってしまった。
それから、なかなか前を向くことができず、ひどく落ち込む日々も続いた。そんな時、沈んだ気持ちを救ってくれたのは、一緒にサッカーをしてきた仲間と、病室のテレビで流れていたサッカー中継だった。仲間のお見舞いと、テレビでのサッカー観戦が前を向くきっかけとなり、Jリーグのスタジアムや練習場を見に行くために、病院の外に出る決心もついた。サッカーの魅力が背中を押し、勇気づけたのだ。車椅子生活の負担や嫌な思いも全て、サッカーを観ている時は忘れさせてくれていたと語る。
 
そして今では、「自分はサッカー選手を夢見ていた小学生の頃の様に、サッカーで夢を追うことは難しいかもしれませんが、サッカーを通して夢を創ることならできます。」と、意気揚々と話している。自分自身を救ったサッカーの感動や魅力を通して、今度は誰かに夢を与えようと中大サッカー部で模索している。


スポンサー営業への想い


中大サッカー部は技術力の向上やプロを目指すだけでなく、大学サッカーの枠を超えて、サッカーを通して人々に影響を与え、世界を代表するクラブになることを目指している。持田さんはその理念に深く共感し、サッカーの魅力を広げるために入部することを決めた。
 
しかし、1年半前の入部した当時、中大サッカー部はまだ大学サッカー界に遅れをとっていた。関東大学サッカーリーグ1部において、中大だけスポンサーがついていない状況だった。スポンサーがついていないこと、そしてその分野をコーディネートする実働部隊がいないことは明らかなチームの課題だった。
 
ところで、スポンサーをついてもらうのは二つ理由がある。一つ目は金銭面の支援。スポンサーがついてくれることで、環境が整い、選手のパフォーマンス向上のために、質の高いプロモーションが可能になる。二つ目は中大サッカー部を支援、応援してくれる人を増やすことだ。
 
持田さんはサッカーに勇気づけられた経験がり、多くの人にサッカーを通して感動を与えたいという想いがあるため、特に二つ目の目的を重視している。「中大サッカー部を地域、子供、大学生から愛されるチームを目指し、コロナが落ち着いた頃には、スタジアムに中大を応援して下さる方でいっぱいにしたい。」という目標のもとスポンサー営業の活動に励んでいる。
 
持田さんを含む、営業部の日々の地道な活動の結果、約一年で中大サッカー部のスポンサーの数は10を越えるまで増えた。
 
そして今シーズンより、創部以来95年間で初めて、伝統と誇りある「金茶」のユニフォームにスポンサーロゴ「リツアンSTC」を掲示することになった。持田さん主導で行ったこの契約によって、中大サッカー部は新たな歴史を作り、古豪復活に向けて大きな一歩を踏み出したのである。

 持田さんの悲願であった、スポンサーロゴが入ったユニフォームを着て、今年から選手は闘っている。持田さんは「ロゴの入ったユニホームで闘っている姿を観て、大きな嬉しさやこれまでの出会いへの感謝、そしてようやく自分がチームの力になれた気がした、などの様々な気持ちで胸が一杯になった。」と嬉しそうに話した。しかし、続けて「スポンサーロゴが付くことがゴールとは思っていません。」とも話す。広告として、ただ名前を貸す・借りるだけの関係で終わりにしないために、大学生だからこそできることを多領域において生み出そうと試みている。それが、持田さんが目指す中大サッカー部のブランド価値を高め、魅力を広く伝えることに繋がるからだ。そして、今年テクニカルアドバイザーとしてチームにやってきた中村憲剛さんが、川崎フロンターレで築いたような「街から愛されて、街を愛するチーム」を目標としている。


チームへの感謝


一般的にスポーツ推薦やセレクションで入部が決まる大学サッカー部に、車椅子の学生が入ることは奇跡的なことだと話す。
「日本一を目指す強豪、中大サッカー部で、サッカーができなくなった自分が、サッカーにもう一度関われる機会を得られたことに大きな喜びを感じています。迎え入れてくださった監督、スタッフ、選手には感謝の思いで一杯です。全員が挑戦することに貪欲である環境に、身を置けることはとても刺激的で、中大に入って良かったと心から思っています。」と話す持田さんは、インタビュー中も何度も繰り返し感謝の言葉を口にしていた。サッカーそしてチームへの感謝の気持ちが、持田さんを突き動かす大きな原動力になっているのだろう。
そして、インタビューの最後には「いつかまたボールを蹴りたい。」と話した。日本一、そして、世界を目指す中大サッカー部に身を置くことで、サッカーの魅力や可能性を改めて認識し直し、今はその可能性を信じてリハビリに励んでいる。

最後に


昨年、一部昇格がかかった学芸大学戦で、最後に追いつかれた試合は非常に悔しかったと話す。「本当にわずかな差で、自分があと少し何かしていれば変わったかもしれない。だから、今年は絶対に目標の二部優勝を達成するため、自分の出来ることを最大限にやりたい。」
 
中大サッカー部は今年、熱いスタッフの想いがのった新しい金茶のユニホームで二部優勝を目指す。そして今後も、サッカーを通してたくさんの人に夢を与えるため、中大サッカー部は挑戦をし続ける。

(取材 文=橋本泰知)



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