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選手を辞めた選択に後悔をしない生き方をする

プロフィール
大塚洋平
おおつかようへい。6歳からサッカーを始め、中高6年間、國學院久我山サッカー部に所属する。1年間の浪人生活を経て、関西学院大学に入学。同大学サッカー部で2年間選手を続け、今年からコンダクターを務める。

コンダクターが決まるまでの流れ

関西学院サッカー部には「コンダクター制度」がある。コンダクター制度とは、2年から3年に上がるタイミングで数人の選手が学生スタッフに転向する制度である。ピッチ内では練習のサポートや試合前アップ、ピッチ外では事務作業をこなす。
 
コンダクターを決めるにあたり3~4人が選手を辞める決断を下さなければならないが、皆サッカーを続けたいという想いを持っている。したがって、コンダクターを決める学年ミーティングは皆が腹を割って話す必要がある。しかし、今年の3年生の代はコロナ禍の影響もあり例年以上に関係構築ができてなかったため、3ヶ月ほどかけてアイスブレイクを行い仲を深めた。
そして9月から本格的に話し合いを始め、そこから半年間、毎週のようにミーティングを行った。ミーティングでは、4年間の目標やサッカー選手として成し遂げたいこと、将来どうなりたいか、チームにどう貢献したいか、など様々な議題について語り合う。それらの議題のもとでお互いの想いを伝え合い、誰がコンダクターにふさわしいかを決める。
ミーティングは毎回非常に緊張感があり、時に不満が出たり言い合いになったりすることもある。今年は特に話し合いが難航し、シーズンが始まる一月までに決めなければならないところ三月末まで伸びてしまった。このエピソードからもいかにコンダクターに転向する決断が困難であるかが伺える。
 

なぜ、コンダクターになったのか

大塚さんもコンダクターになる決断を下すにあたり多くの葛藤があったと話す。「今まで15年間積み重ねてきたものを手放し、0からになる怖さはありました。また、自分がコンダクターになる将来を想像することができず、不安もありました。しかし、最終的には将来どうありたいかを考えたときに、このまま選手を続けるのか、それともコンダクターに転身するのか、どちらがより自己実現できるかを天秤にかけて、コンダクターになる決断を下しました。」
さらに選手を辞める決断は大塚さんだけでなく、応援してくれていた家族にとっても大変な決断であった。15年間一番近くで応援し続けていた父親は、大塚さんに対して「最後までやりきって欲しかった、もっと見たかった…」という思いを持っていた。しかし、自分で決めた決断に対する覚悟や熱い想いを伝えることで最後には背中を押してくれたと話す。
 
この勇気ある決断を下すことができた背景には高校時代の恩師の言葉があると話す。トップチームで活躍することができずチーム内での自分の存在意義を見失っていた時、久我山高校の恩師はトップチームではない選手に対して「自己犠牲をしろ」と話した。この言葉が組織の中で生活する大塚さんの進むべき道を示した。トップチームで活躍できていなくても、チームに貢献できる方法はたくさんある。むしろピッチで表現できていない自分にしかできないチームのためにできるアプローチの方法があると考えるようになった。
その価値観が「自己犠牲」の精神で誰かのために行動する道徳を形成しコンダクターになる決断を後押しした。
 


実際やってみて感じていること、今後の目標

いざコンダクターの仕事を始めると想像以上にできないことや分からないことが多く、二ヶ月が経った今も苦労している。特に今苦労している課題はコミュニケーションである。大人のスタッフや先輩とのコミュニケーションが頻繁に必要になり、選手であれば必要としなかったスキルがスタッフとしては求められるようになった。このように選手の時に必要なかったがスタッフとしては重要であることが多くあるため「今はまだ楽しさややりがいを見つけられる程余裕もない」と話す。
しかし「彼のために頑張りたい」と思ってもらえるようなコンダクターになるという確固たる目標を持ち、選手の最後の一歩の原動力となるような存在を目指している。
だからこそ今やるべきことがはっきりしている。まずは皆からの信頼を得る必要があり、そのためには課題から逃げることなく向き合い続けできることを着実にやっていくことがやるべきだと考えている。今はまだうまくいかないことも多いが「選手を辞めた選択に後悔をしない生き方をする」ために日々全力で努力している。
 
 

コンダクター制度は非常にシビアなものである。しかし2年間選手として一緒に練習したからこそ、コンダクターの存在は選手の大きな原動力になっているように思える。またコンダクターを決めるミーティングは本気で仲間たちと意見をぶつけ合うことができ、この機会が個々の人間性を高めチームとしての完成度を高めているに違いない。
 
この取材を通して関西学院大学サッカー部の強さの源が垣間見ることができ、中大サッカー部がさらに成長するために必要なことを発見できた。今後もさまざまな部活と関係性を構築することで大学スポーツ全体を盛り上げていきたい。
 
(取材 文=橋本泰知)

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