チームのために選手を辞める
コンダクターとは?
関西学院サッカー部には「コンダクター制度」がある。コンダクター制度とは、2年から3年に上がるタイミングで数人の選手が学生スタッフに転向する制度である。
仕事の内容は主に、練習のサポートや試合前アップ、主務などである。池谷さんは今年、4軍チームの監督を務め、上記の仕事に加え、チームの戦術や練習メニュー、試合のメンバーを考えることや、選手のマネジメントも行う。
コンダクターの他の学生スタッフとは異なる点は、2年間選手としてチームに所属していることである。その2年の経験から、選手とより近い距離感で接することができると話す。よって意見が言い合える関係性を築き、練習や試合の時にチームを盛り上る役を担っている。さらにスタッフと選手の気持ちを理解し双方の橋渡し役としての役割も果たしている。
なぜコンダクター制度があるのか?
2年の夏頃から半年間かけて、毎週のように学年ミーティングを行い、コンダクターになる選手を決める。毎年、数人の選手がサッカーを辞める決断を下さなければならないこの制度はシビアなものである。池谷さん自身も2年の頃コンダクター制度には不満があったと言う。「選手をやりながらでもコンダクターの仕事をこなせるのでは?」と思うこともあった。しかし実際に仕事を始めてみると、その大変さや重要さを感じ、コンダクターという役割の不可欠さに気づいたと話す。部員が200人弱いる組織で、全員をマネジメントできるほど、大人スタッフの数は足りていない。だからこの環境の中でチームの目標である「日本一」を取るためには、コンダクターが不可欠なのだ。
コンダクターになる決断を下した決め手は?
池谷さんが選手を諦め、コンダクターになる決断を下した理由は単に「仲間への愛情」であった。もちろん、長年続けてきた大好きなサッカーを辞めることは、葛藤もあったと言う。しかし、何よりも「このチームに貢献したい」という気持ちが強く、現実的に選手としてそれが難しかったため、コンダクターという裏方の立場でチームに貢献する決断をした。目標達成に対する仲間の可能性を信じていたからこそ、コンダクターに転身するという勇気ある決断を下すことができたのだろう。
実際にやってみて気づいたこと、感じたこと
3年生の4月からコンダクターの仕事を実際に始めたが、仕事の量は想像以上に多く、就活など自分のやることとの両立が難しいと語る。
また、コンダクターの重要な役割である「声かけ」について、はじめの頃は、特に先輩選手たちに向けて言うことに気後れを感じていた。しかし、声かけはチームのために不可欠なことであるため、ピッチ外で信頼関係を作り、相互理解し、リスペクトし合える関係性を作ることで声かけしやすい環境を作ったと話す。
それら多くの苦労を抱えながらも、昨年度末にはIリーグで日本一という結果を残した。たしかに、コンダクターは実際に試合に出てプレーするわけではなく、日の目を浴びないポジションである。しかし、確かに勝利のためにはコンダクターの存在が大きく、選手たちはそれを理解していたため、池谷さんに優勝メダルをかけに行った。選手にメダルをかけてもらったその時の喜びは、今でも忘れられないと語る。
今後の目標
そして今年、最終学年を迎えた池谷さんの目標は「関学ファンと自分のファンを増やすこと」である。池谷さんにとってチームに所属している最大の目的はチームを強くすることである。そのために選手、スタッフがチームを愛し、自然と主体性や当事者意識が生まれる環境を作っていきたいと話す。
「自分のファンを増やす」という目標については、池谷さんの目指すコンダクター像に繋がる。池谷さんの憧れの人物である叔父は、12年前に亡くなり、1000人近くが葬式に参列し叔父の死を悼んだ。池谷さんは、叔父の生前の人望の厚さを目の当たりにし「自分もこんな人になりたい」と感じ、人生において目指すべき人物像が決まった。そして今、叔父のように皆から愛され信頼されるコンダクターを目指している。
最後に、選手に向けてメッセージ
コンダクターを決めるミーティングで、皆が自分の将来に対する覚悟を伝えあったが、現在、選手の中にはミーティングで話したことがブレている人もいると話す。選手を辞める決断を下した池谷さんにとってそれはとても悔しく、「舐めるな」と強い感情を持つこともある。よって「選手の皆には自分の言葉に対して責任を持ち、頑張ってほしい」とメッセージを残した。
関学サッカー部には「日本一」の目標のため、強い覚悟を持って選手を辞め、チームを陰ながら支えるコンダクターがいる。選手たちはその想いに応えるため、並ならぬ想いで日本一を目指している。
私たち中大サッカー部とは日本一を目指す上でライバル関係である。しかしそれと同時に、大学サッカーを共に盛り上げるための仲間でもある。この取材を通してお互いに多くのことを吸収する機会となった。これからもさらに競い合い、高め合える関係性を作っていきたい。
(取材 文=橋本泰知)
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