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イラクでチャリ爆走してたらシーア派の高位ウラマーに謁見したりテレビ出演する事になった話⑤(最終話)

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本をいただいた後「この後時間あるかい?」と聞かれたので今日はこの聖廟を見てその後同伴者の彼の実家にあるクーサという古代都市に行くつもりですと答えたら「ん〜どうしようかな、この後この聖廟で1番の偉い人に会ってもらおうかと考えてたんだけど....」


いやまじか、それってウラマーと謁見できるってことかよ。いつの間にか凄い話になってるぞ。今日1日予想外の事が起こりすぎて頭がついていってない。隣の彼のこの後の予定が気になっていたが彼は「ぜひそうしなさい」と言う。それならばこんなチャンス逃すわけがない。有り難くお話を承った。

広報責任者の彼は「では時間も時間だしお腹空いてるだろう。ご飯を食べに行こうか」と言って聖廟内を歩き出した。彼について行くと地下の大きな食堂に着いた。

「ここは世界各地から来た巡礼者達がここでご飯を食べていくんだよ。ここで提供されるご飯は無料なんだ。」どうやらこのカルバラ内では色んな場所で食事が無料で提供されるらしい。イスラム教で巡礼者には無料で食べ物が配られるのは本当らしい。話を聞いているうちに目の前に料理が出てきた。



食べ終わるとちょっと今から礼拝の時間があるから少し待っていて欲しいとのこと。同伴者の彼も5分ほど待っていてねといってどこかへ消えた。聖廟内にウラマーの声が響き渡る。

集団礼拝の瞬間はとても神秘的で宗教的一体感とはこういうものかといたく感動した。僕も靖国神社を参拝している時や一般参賀で見知らぬ人たちと天皇陛下万歳を唱えている時のような高揚感を感じた。

キリスト教教会で聖職者や祭壇が礼拝時に絶妙に光が差し神々しさを醸し出すように、仏教寺院でお坊さんが経典を唱和するように、宗教は違えどここ聖地でモスク内に響き渡る各国から訪れた様々な民族からなるシーア派信徒達の礼拝の渾然一体とした様子には亢奮を憶えずにはいられなかった。

しばし茫然自失として観入ってるといつの間にか礼拝は終わっていた。広報責任者やスタッフが来てこれからこの聖廟内で1番偉い人、大ウラマーと会うので今から言うことを守って欲しいと。事前に貴方のことは伝えてあるので緊張はしなくていいとも。

そう言われても緊張せざるを得ない。今日は色々幸運が重なりすぎていた。だがこのチャンスは無駄にはできないぞと武者振るいした。
彼ら曰く礼儀正しく振る舞うこと。挨拶と自己紹介をして握手を求めないこと。後ここからは写真撮影はNGであること。その旨を承知した上で彼らに着いて行く。

大アヤトゥラがいると思しき場所には礼拝後に彼を一眼見ようと長い長い行列ができていた。大雑把に見積もって300人はいる。この日は平日だったし特に巡礼月でも無い。あゝこんな感じで多くの人にウラマーは尊敬の念を集めているのだなぁ。

その行列を華麗にすっ飛ばしていよいよご対面である。挨拶と日本から来たことをアラビア語で話すと握手はするなと言われていたがウラマー自ら手を差し出してきた。握手に応じながらフスハーでしゃべった方が良かったかなと一瞬考えたが後悔先に立たず。包み込むような優しい眼差しで日本からはるばるようこそと労ってくれた。




後ろに大勢の人が控えているので一瞬の出来事であったが生涯忘れられない経験となった。スタッフや広報責任者、同伴者の彼も「今日はとてもいい日でしたね。わざわざここカルバラに来てくれてありがとう」とお礼を述べた。お礼を言いたいのはこちらの方である。一観光客の僕にここまで厚いもてなしをして頂きありがとう。


興奮冷めやらぬ中「ちょっと、こっち来てくれる?」と手招きされた。言われるままについて行くと今度は国会で党首会談でもしてそうな部屋に通された。喉がカラカラであったので水を所望して飲んでいると別のお偉いさんと思われる人たちが来た。聞くところによると全員イスラーム法学者らしい。
「今日は日本から遠路はるばるイラクまでお越し頂きありがとう。今日は色々あったと思うけど最後にインタビューするからテレビ出てくれないかな?」


ええ〜〜〜〜???????テレビ出演ですか。俺日本でもテレビ出たことないのに。もう訳がわからない。ぶっちゃけ言うとブルガリアに旅行した時ちょうど総選挙やっていて国会前歩いていたら中継に映ったことはある。ただそれはあくまでカメラに映り込んだだけであって出演では無い。
いやまじか、どうしようかな、俺イラクに黙って入国してるからテレビ出演しちゃったら外務省に捕捉されちゃうな。
と言うわけで二つ返事で了承した。


テレビ出演へ


ジャーナリストを名乗るインタビュワーが来てこれから事前に質問する内容を今から聞くからねと事前に指導が入った。いやはや有り難い。全校集会で1000人ぐらいの前で喋ったり特技披露はしたことはあるが何せテレビ出演は初めてである。勝手が分からずアドリブで突っ込むのは正直厳しい。やらせというか仕込みでもなんでもいいから有り難い。

質問とは以下のようであった。
・今までの渡航カ国数・・・最初は約50カ国と答えていたがいつの間にか約の部分が消えていた。ツイッタラーあるある話少々盛がち
・イラクに来た理由・・・シーア派の聖地ナジャフやカルバラがあったり古代メソポタミア文明や古代バビロニアの遺跡、アッシリア帝国やアッバース朝等のイスラーム王朝の都市など見所が多くて気になっていた。

・イラクに来る前と来た後のイメージの変遷・・・来る前はやはり数年前まで内戦していたのもあったり情勢は改善はしているものの気を引き締めなければならない少し危険な国と考えていた。しかしイラクの人々はカルバラでの至れり尽くせりもそうだが非常に優しく友好的な人ばかりで印象が大きく変わった。

・昨日今日とカルバラのイマーム・アッバース及びイマームフセイン聖廟の中を見て何を感じたか・・・私は非ムスリムだが聖廟内の荘厳さやシーア派信徒の礼拝の様子はとても神秘的であった。宗教的一体感とは斯くの様なのかと驚きがあった。

・お答えありがとうございました。今日は遠路はるばるイラクカルバラまでようこそお出でなさりました。・・・いえいえ、お礼を言いたいのはこちらの方です。お持てなしをして頂いた全ての方に感謝申し上げます。ありがとうございました。

こんな感じの事前のやり取りがあった。いざテレビカメラに向かって話す時はわかる範囲でアラビア語で話した方がいいのかと聞いた所無理はせず英語で構わないとのことであった。


間髪入れずにテレビクルーが来て本番準備問題ないかと聞かれる。下手に待っても喉が渇いたら困るしこう言うことはスパッと突っ込んだ方が余計なミスはしない。

カメラの前に立つと僕だけにレンズが向けられる。思ったよりかなりカメラ近いな。めっちゃ寄せるやん。
結論から言うとインタビューは滞りなくいった。さすがやらせである。事前に答える内容考えた上で話すだけなのでそこまで難しくなかった。Youtubeと違って1人でカメラに向かって喋り続ける必要がないのですごいやりやすかった。


一通り喋ると喉がカラカラだった。知り合いがだれ1人見る可能性のないテレビ出演なので緊張する要素など皆無であったがやはり初めてのことであったので上手くいっていたかは分からない。


長い1日が終わった。色々ことが上手くいきすぎてテレビ出演した後に「ドッキリ大成功〜〜」のフリップ持った人たちが現れるかのような展開だった。
今日1日いろいろ歓待してくださった全ての人に感謝の念を伝えながら聖廟を後にした。ここまで交渉してくれた彼にはご飯奢るだけじゃすまないレベルであったが寧ろ奢られた。もう意味がわからない。ありがとう、ありがとう。

結局、同伴者の彼が自分の家へ招待して家族を紹介してくれると言うのでありがたく申し出を頂戴した。そしてカルバラに別れを告げた。
外務省に潜在的不良ジャーナリスト扱いされたのを丸々取り返せる分の素晴らしい経験ができたイラク渡航であった。

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