ギアナ三国密入国体験記
皆さんはギアナ三国を知っているだろうか?私の友人や読者の中の百戦錬磨の旅行オタク達からは「そんなの常識だろう」と返ってくるかも知れない。
ただ大多数の人間は多分知らないと思うので地理やらそこを踏まえた上でこの文章を認めていきたいと思う。南米一周旅行者ですら飛ばしてしまう人の方が大多数の地域だからだ。
まぁ旅行・地理オタクは落ち着いてもらいたい。今回は通常のルートを逸脱した行程を辿っているのでそのエピソード部分は楽しんで頂けるであろう。
※ 今回のルート及び、手段手法は推奨させるものではありません。個人的にも入出国スタンプ収集が出来ず面白い反面、マイナス面もあります。当記事を参考にし、いかなる事態が起きようと当方は一切の責任を負いません…..。
ではまず地理から話そう。ガイアナ、スリナム、フランス領ギアナの3つは南米の北にある3つの小さな国である。(仏領ギアナはフランスの海外県であるがいちいち2ヶ国1地域と呼ぶのはまどろっこしいので以降3つ全体を指す時は3ヶ国と表現する)
南米一周旅行者と呼ばれる人たちはいろんなパターンがいるが、この地域大部分の人がスキップしてしまう。1番多いパターンはペルー・ボリビアのインカ帝国の遺跡とウユニ塩湖を見る王道ルート。ここは大学生の卒業旅行からハネムーンカップルまで多くの旅行客が訪れる。
次に、多いのが北のコロンビアから、もしくは南のチリかアルゼンチンから入って南米一周する人たち。この人達も多くはブラジルすらイグアスの滝だけみて終わり、ベネズエラとギアナ三国は飛ばしてしまう。ちょっと危ない国や秘境が好きなタイプがベネズエラやアマゾンに行く人はいるか。
なぜ飛ばされるか。それはこの3ヶ国が行きにくい、物価が高い、その割に見るものがほぼない、の三拍子が揃ってるからである。まぁこんな感じのことは事前に分かっていたが南米行ったついでに行かないと二度とわざわざ行くことはなさそうな国々なのでブラジル一周のついでに回ってきた次第である。
ただ行くのを決めた際、外国人旅行客自体かなりここを旅行する人が少なくルート自体探してもあまり出てこなかった。なので現地人と思しき記録を参考に実際に行ってみた。
仏領ギアナへの入国
ブラジルから仏領ギアナへ行くにはかなり遠い。1番近い大都市は1000kmほど下のベレンという都市である。ここが最後の100万都市だ。ここからはフェリーでアマゾン川の河口を横断してマカパと言う街に向かう。ここの区間の要時間は30時間ほどである。最高速度が時速30kmほどでかなりチンタラしたハンモック船に乗らないと辿り着けない。
この街は赤道を通過するぐらいとアマゾン川の入り口ぐらいしか見る場所がないのでサクッと通過し更に500kmほど北上する。バスは夜18時出発の便で次の日の朝6時過ぎに仏領ギアナ国境に接するオイアポケという街のバスターミナルに到着する。
ブラジルとフランス領ギアナの国境検問所は朝8時に開門と聞いていたのでここで1時間半ほど待機だ。熱帯雨林地帯特有の蚊の猛攻を耐え凌ぐためにディートを厚塗りして昨晩買っておいたご飯を胃に放り込む。
熱帯雨林地帯の蚊はなんか強い。口器が太い気がする。食われた瞬間に刺されたな?とわかる様な日本の蚊と明らかに違う針の感触がする。ここら一帯に蔓延る黄熱病のワクチンはコロンビアで接種済みなのでそこは安心だが痒いものは痒い。
時間を潰しているとバスターミナルにいた人の大半が消えていた。国境の街だから大半が仏領ギアナへ行くものと思っていたがそんな事はないらしい。実際にタクシーで国境に着いた時には俺しか越境者はいなかった。あらら….こんなものか。やはりマイナー国境。これは予想以上だぞ。
国境までのバスの到着時間は国境検問所の開門前の朝5~6時になるようにマカパを出発するようなスケジュールだったのであのスケジュールはなんだったのだ?。これほど通過者がいなければわざわざ夜行バスにしなくても良くないか。俺としてはありがたいのだけども。不思議な感じである。
初めての密出国・密入国
フランス領ギアナに入境したはいいものの、当初予定していた見る場所が悉く閉鎖されていた。一つは世界史のドレフュス事件で有名なドレフュス大佐が島流しに遭っていた悪魔の島である。ここは本土からフェリーでのみ到達できるがコロナ以降運行停止していた。悲しいがあるあるである。
二つ目はギアナ宇宙センターである。本国フランスが中緯度地域なのに対しここは赤道に近く軌道傾斜角が小さくて済むので、フランスのアリアンを始めとして欧州宇宙機関のメインのロケット発射基地となっている。だが、これまたコロナのせいなのか名物の内部見学ツアーが停止されており、目下発射計画もなかったので外から見ても面白みに欠けており、行く意味が正直消え失せてしまった。
というわけでブラジルとの国境から県都カイエンヌに向かうも、小一時間滞在して見た後すぐに別の乗合タクシーに乗りギアナ宇宙センターがあるクールーに寄ってもらい、そこも少し眺めたら手持ち無沙汰になったのでそのまま国境へと向かった。(本当に見るものがないのでマックとかが観光地だがこのnote記事との趣旨からずれるので別記事かTwitterで別途あげるかも....…。)
国境に着くとまだ乗っている段階から客引き達が次々に車に群がってくる。いつもならここで一人で交渉するものだが、タクシーの運ちゃんが「5ユーロだ。国境から次の目的地のパラマリボまでも高くて20ユーロだ。いいな?」と言ってくれた。こう言う運賃交渉はだいたい揉めるのでこの確証を得たのは大きかった。値段も事前の下調べと大きく変わらない。スリナム側が現地通貨払いの相場より気持ち軽く上乗せされている程度である。
運ちゃんが彼についていけというので着いていくと川がある。そこには心許ない小舟が何艘も係留してあった。え?これが国境なの?事前に話は聞いていたが実際目にするのとでは大違いである。こんな小型の木造船が国を跨ぐ渡し船なの?
案内されるがまま近づくと他の人がゾロゾロとくる。客引きに集められた感じらしい。乗合タクシーならぬ乗合渡し船。こんなので国境移動するのか。他にもっとまともな交通手段がないのかと祈ったがみんな普通に乗り込むので私も流れに沿って乗った。
5~6人ほど乗り込んだところで一人の男が駆け寄ってきてパラマリボ行きかと聞いてきた。そうだと答えると100ユーロでどうだと持ちかけてくる。法外な値段ふっかけてくるな〜、もう値段交渉は終わって20ユーロで決着はついてるとあくまで主張すると去っていった。いつもこのやり取りが1番めんどくさいので早々と決着ついてありがたい。
結局それ以上はこの船には集まらずエンジンがかけられる。華麗な操舵術で反転しながら対岸へと進み始めた。YAMAHAのエンジンである。陸はTOYOTAで海川はYAMAHAを見ると誇らしくなる。それにしても国境河川となっているが泥水で国境なんて洒落たもんじゃないな。
対岸にたどり着くとワラワラ我先にとまたタクシーの客引きが群がってくる。だが最大20ユーロの通り20ユーロで決着ついているという話をし、ぼったくれないのが分かると笑いながら去っていく。仏領ギアナでのタクシーおじちゃんまじでありがたかったな。こんな話が早いの楽すぎる。次の問題は入出国スタンプである。
乗合タクシーの運ちゃんに聞くと、「え、もう入国審査ゲート閉まってるよ。」といわれた。おん???
てっきり全員普通にみんな越境しているのでこちら側にまとめてフランスとスリナムの入管が存在していると思っていた。聞くところによると両岸に両国の入管があり既にこの日は閉まっているとのこと。じゃあ、俺と一緒に国境河川を渡河してきた人はなんなんだ?なんならこの問いをしている瞬間も複数の小舟が行き来している。
あーあれは全員スタンプ押してないよ。これはどうやら全員不法越境者らしい。みんな勝手に国境を越えているだけなのだ。大丈夫さ、明日首都パラマリボ行ってスタンプ押して貰えば問題ない。軽い口調で返される。いやま〜じか。どうやら密入国をしてしまったらしい。
後日スリナムの入国スタンプをもらいに行くとしても少なくともフランスの不法出国は確定だし、スリナムも不法滞在1日確定やんけ。周りの人間はあっけらかんとしているので多分この感じだと融通効くんだろうなとは思ったが、あっさり限界旅行者の登竜門である密入国と密出国を意図せずして達成してしまいなんとも言えない気持ちである……..。
スリナムの不良警官にパクられる回
小一時間河岸で待ったのち、国境から首都パラマリボに向けて車が走り出した。結局同乗者は現れず運転手の彼女との3人で向かう謎のメンツである。爆音を鳴らしながらこの国を東西に走る唯一の幹線道路をひたすらに西へと向かっていく。
途中からは街灯すらまともにない様なインフラである。ブラジル、仏領ギアナから来ると、かなりの発展途上国に来たなという気持ちである。運転手が爆音で音楽を流す以外に何もない。この国は北海道ぐらいの大きさがある割に人口が60万程度しかおらず国土の大半が密林というのは本当のようである。
1時間ほど走った頃、タクシーが急減速する。フロントガラス越しの暗闇の中に青と赤のパトランプが煌めいてる。あら検問じゃないか。ちょっとやばいかなこれ。頭をフル回転させて起こりうる事態とその対応の条件分岐を脳内に紡ぎ出す。そんなことを考えていると警察車両に止められ窓を開けた。
一旦、運転手がどう対応するか見ていたら後ろのやつはスタンプがないと即答した。いやまじか。1番揉めそうなこと最初にいうんだ。なにか秘策があるかと思ったが全くの無策特攻である。想定する中で最悪なパターンを初手で出してきて思わず笑いそうになった。
警察の一人がパスポートを差し出せという。おずおずと見せると車を降りついてくるように言われた。パトカーの近くまでくると黒人の警官が5人ほどいた。そこで当たり前の様に不法滞在についての指摘を受けた。
「うん、知ってるよ」そりゃ入管通ってないんだし入国スタンプないんだしその追求は至極当然である。ここはシェンゲン協定国でもない。だが国境付近でそんなもんだと言われたし実際問題ここがスリナムということを考えたら大抵のことはなんとかなるだろう。あとは交渉力にかかっている。
警官らが事情を聞いてくるのでかくかくしかじか答える。あくまで国境の人が首都入管まで行けばスタンプ手に入ると言ったのでそれが正しいと信じてしまった、後日首都の役所で手続きするのでどうかこのままここを通過したいという事を主張する。
そこでボスと思しき警官が手招きしてきた。話を遮り、今から警察に行くぞ、ついて来いと。こう言う場合は下っ端より権限持っている人と話したほうが話が早いので言われるままについていく。するとタクシーから荷物を取って来いとだけ言う。私は先ほど別の警官に話した言い分をもう一度繰り返した。
そのボスは鰾膠も無く、荷物を取って来いという。あらこれは警察署直行コースか?まぁそれはそれで面白いか。アフガニスタン以来の警察連行コースじゃん。
スリナムで大して見るところがあるかというと特になかったのでこのイベントはかなりラッキーである。さて楽しみだ。そう思うとニヤニヤが止まらなかった。
タクシーに戻り荷物を回収しようとすると運転手が不安そうにこっちをみつめてくる。お前なんやねん、なんとかなるって大見得切った割になんでそっちの方がビビってるねん。まぁ最悪警察署行きやなぁ、なんとかしてくるわと俺が元気づける。なんか逆じゃね?
言われた通り、ランクルの荷台に荷物を置く様に言われたので、この後ろに乗って連行されるか〜と思ったら荷物を開けろと言われる。荷物チェックか。めんどくせえじゃん、連行するならさっさとしてくれ。そうこうしている間に部下と思われる警官がゴソゴソと漁り出した。
外から触って気になったものを取り出す様に言われたが、残念ながら俺が登山用に買ったフライパンだ。なんだこれは!?と驚いている。さらに中から出てくるのは…….語学書である。それも10冊ぐらい入っている。南米の共通言語のスペイン語の本だけでなく各地の先住民族のアイマラ語やケチュア語、アマゾン一帯の原住民言語の古代トゥピ語の本もある。
3つあるリュックの1つすら詮索し終わることなく,ここでド直球に聞いてきた。お前いくら持っている?
はいはい来ました。露骨な賄賂要求。今までの仰々しい振る舞いは俺の不法入国に乗じてカバンの中にある現金を見つけてそれを分取ろうとしていたあくまでお膳立てだったようである。
残念でした〜〜。カバンの中にある現金はそう簡単に見つからない。なんせリュックの奥に押し込んだクリアファイルの中の、さらにエホバの証人が配っているパンフレットの袋の中に入っている。仮にファイルを引き出したとしても、外から見ただけだとただの宗教勧誘でもらったパンフレットが無造作に突っ込まれているだけの状況だ。
治安の悪い上にクレジットカードが使えない地域では現金を持ち歩かなければならないが、バスでのスリや泥棒宿もあるのでそもそも既に対策済みである。ケチャップ強盗みたいなリュックごと持っていくタイプの強盗には効かないが、そちらは別にかなり警戒しているので今のところ一度も遭遇していない。
兎にも角にも隠してある現金は見つけられなかったから直接聞いてきたわけだ。いつもエホバをカルト宗教とか言ってごめんね。おかげでこのピンチの中助かってるよ。
ここでまたボスらしき人が私を手招きして他の警官と引き離す。「これはイリーガルだ。」うん、だからそのスタンプ首都行けばもらえるよね?強気の主張でそう返すと渋々それを認めたが「それはそうだが、イリーガルだ。」と続けた。既にトーンが落ちていた。
もうこの三文芝居に笑いが堪えきれなくなりそうだった。とりあえず難癖つけて賄賂を要求する腹づもりだろうが嘘はつけない性格のようだ。なんせスタンプは首都行けば手に入ることを認めちゃってるわけだし。
そろそろ潮時だな。結局相手の求めてるのは俺を不法入国で糾弾したり警察に連行することではなくあくまで袖の下である。この時点で俺のリュックの中にあったコレクション用の金やら仏領ギアナで引き出した600ユーロは見つけられてないから損害0な訳で、これ以上ごねても機会損失の方が大きいなと判断した。
最初の威勢の良さは消え、俺が答えない限りお金の在処を見つけられない彼は「お金はどうしてるんだ?旅行している間現金いるだろう」とあくまで質問を続ける。
残念ながら旅行中は基本的にクレジットカードで生きていて必要になったら現金をATMで引き出してるから、もうユーロもタクシー代と船賃でなくなっ……….、あ、ポケットにお釣りの5ユーロが残ってたわ。
我ながら白々しい回答をした。しかもたった5ユーロ。これでダメだと言われたら別の紙幣を差し出すしかないな、その時はやむを得ない。また猿芝居を打たねば。だが、ボス警官は言った「うむ、今日のところはこれで見逃そう」
なんともスケールの小さい悪徳警官である。最初に運転手が無策で突っ込んだから不法入国で警察に逮捕されるぐらいのパターンは覚悟していた。が、我々からしたらたった5ユーロかもしれないがスリナムだったら数日分の食費ぐらいにはなるかもしれない。おかげでこの茶番も終わった。
「不法入国してすまんかったよ、Hey,Bro!」みたいなノリで返したらニコニコでお見送りされた。やっぱ少しでもお金手に入ると嬉しいらしい。私としては5ユーロでネタが手に入って万々歳である。少し留置所にぶち込まれてみたかった気もするが……..。
そんな感じでタクシーに戻ると運転手は不安そうな顔で状況を尋ねた。万事うまくやってきたと答えると車は再び首都へと動き出した。
やる気のない役人と殺人未遂
不法越境自体とそれに伴うゴタゴタはまぁネタとして面白かったので何でもいいのだが、入国スタンプだけは欲しい。旅行オタクからしたらビザと入出国スタンプは御朱印みたいなものである。コレクションしたい。後はこのスタンプをもらいに行くついでに入管で揉めてパクられるのも悪くない。
日本や欧米含む先進国で前科ついて強制送還されるのは今後の人生に影響が出るので可能な限り避けたいところであるが、二度と来ないであろう発展途上国の小国で国外退去処分はそれはそれで面白いと思う。
翌日、そんな感じで取り敢えず、昨日別れ際に警官に言われた場所に行ってみる。地図で見ると街の中心部から8kmほど離れた場所にある建物であった。
罰金や賄賂を要求された場合、現金をトータルいくら引き出すかわからなかったのでバスもタクシーも乗れず、スーパーもクレカが使えなかったのでちょっと長めの散歩となった。南米のATMは引き出し手数料が1回あたり6~12ドルと1000~2000円近く取られて馬鹿馬鹿しくなるのでチマチマ引き出すことができない。まぁせっかくだし街ブラも悪くない。
スリナムは今まで行った80ヶ国の中で1番ごちゃ混ぜな多民族国家である。宗主国のヨーロッパ系だけではなく、解放奴隷から、オランダ東インド会社の影響もあってインド系、中国系が多い。小売店は中国系、バスはインド系、タクシーは黒人みたいな感じで職業ごとに人種が大まかに分かれている。他の南米諸国は白人とその混血が上流階級を占めているがスリナムでは白人の混血らしき人は見かけても黒人や印僑、華僑の方が圧倒的多数を占めている。
地図の示す区画にたどり着いた。入管本庁の場所を聞くと建物の裏手にあるとのこと。敷地自体は警察の様である。警察庁の建物は大統領宮殿近くにあったがここの方が大きかった。ぐるっと回るとImmigratieとオランダ語っぽい入管の下に中国語でも文章が書かれている。
「Goededag, Ik kan geen Nederlands(こんにちは、蘭語でオランダ語喋れませんの意)Do you speak english? or ¿Hablas español?(英語かスペ語喋れる?」とりあえず最初はオランダ語で会話を試みる。この二言三言を現地言語でいうかどうかで対応に大きな差が生まれる。
そこで出身を聞かれたので日本と答えると「你会说マンダリン吗?(中国語喋れる?)」と返ってきた。これはまさかの展開。ブラジルから仏領ギアナに行く時にフランス語は復習したのでなんとかなったが中国語を南米で話すことになるとは予想だにしなかった。南米だとアタカマ砂漠ツアーで同行の中国人との通訳の時に3日喋ってる間に少し思い出したぐらいである。喋り方は完全に失念している。
「一点……但是,我忘了怎么说普通话……(少しは、でももう中国語の話し方もう覚えてねえよ)」そう返すとイミグレの人は英語のような何か分からない言語を話し始めた。うわ、クレオール言語じゃん。耳を澄ませてリスニング試験の時みたいにめちゃくちゃ集中して聞き取ろうとしたが文法がぐちゃぐちゃで意味不明である。類推できる範疇を超えていた。あれ、英語より中国語の方がマシじゃね?
顔にクエスチョンマークが浮かんでるのを見たのか横の待合席に座っていた華人の親子がこういう意味よと中国語で注釈をくれた。いやはや半端なくわかりやすい。忘れた中国語でも意味の分からないクレオール言語を聞いた後だと聞き取れるもんである。
スリナム滞在を通してこのオランダ語と英語と中国語の混ざって魔合体したクレオール言語は本当に理解できなかった。オランダ語自体勉強していないというのはあるが、英語喋れると答えた人の英語も中国語が混じったりしているしアクセントや訛りがきつすぎて分からない。10言語以上一通りの会話できるし癖も少し聞いてれば推測できると思っていたがこればかりは音を上げた。ムズすぎる。
10分ほどやり取りしてみたが、どうやら管轄が違うらしいとのこと。つまりここではなく別の場所に行けと言われる。場所を聞いたがオランダ語でわからないのでメモ書きしてもらった。調べた感じだと入国管理庁ではなく外務省である。
スリナムの役所は14時に全部閉まるらしくこの日は間に合わなさそうなので次の日に回すことにした。日本の銀行の営業時間かよ。そんなわけで午後からは少しばかり市内を見て回る。
スリナムの人種の多様性については先ほど述べたが、宗教も幅広くキリスト教の教会はもちろんのことヒンドゥー教寺院、イスラム教モスクがありその隣にはユダヤのシナゴーグまである。これで喧嘩起きないのだろうか。この狭い都市で対立しないのが不思議でしょうがない。他の国なら簡単に分断が起きそうな構成である。
市内の大通り近くの銀行で必要な現金を引き出そうとATMを探していたら通りで喧嘩している人がいた。無事引き出しできるATMを見つけて現金を下ろして同じ道を戻るとさっき見たうちの一人が刺されて道に倒れていた。
とんでもない場所に来てしまったな。中東旅行していた時、近くで自爆テロやミサイル攻撃が起きたことはあるが喧嘩で人刺すのを生で見たのはこれが初めてである。ここ人口22万人しかいないのに、俺まだ滞在2日目だぞ。
次の日言われた通り外務省に行ってみる。庁舎は俺の実家ぐらいの大きさしかない。日本の外務省には怒られて実家に鬼電されたけどスリナムだったら俺の家が外務省になれるなこれ。
外務省の庁舎内に入り、数人に話しかけてみたが英語が通じない。「あの人なら英語話せるよ!」と最後の人にカタコトで言われてバトンパスされた。スリナムだと大使館を置いている国も少ないだろうが、外務省職員ですら英語通用度こんな感じなのか。
また昨日と同じ様な話をするが、どうやらここでもないらしい。なんかたらい回しは想定していたがみんなイチャモンつけて賄賂取りに来るかと思っていたら違った。みんなやる気を感じられない。敷地内の別の建物を案内される。
結局そこにいた人が言うには、なんか入国税みたいなものがあるからそれ払えば大丈夫だが少なくともここでは取り扱ってないとのこと。確かにそんなシステムが南米で唯一スリナムではあった気はするな。だけど、入国前や国境前で実際払わずに入ってしまったらどうすればいいのかがこちらとしては知りたい訳である。そしたら知らんとのこと。いやまじか。結局「国境行ったらなんとかんなるんじゃね?」と言われて終わった。
こんなもんか。ちょっと揉めてその過程を楽しもうと考えていたが、役人全員いい加減で何を言っているのか分からない人か、自分の管轄なのにシステム理解していない人しかいなかった。こんな感じだから国境警備ガバガバだしみんな好き勝手行き来するような状況になってる気がした。
イミグレも外務省ももう一つの謎省庁も訪れたはいいものの明瞭な回答が得られなかったのでもうさっさと国境越えすることにした。国境まで行けば揉めるだろうが最悪賄賂使えば何とかなるだろう。限界旅行を繰り返しているとそもそもまともに法治が機能している国の方が珍しいぐらいなので、あとは交渉能力如何だなとつくづく感じる。
2回目の密入国
次はスリナムからガイアナへの陸路移動方法を調べなければいけない。パラマリボにあるバスターミナルを訪ね歩いたら朝6時にガイアナ方面に向けたバスが出るとのこと。これもガイアナ国境までは行かないらしい。順序としては、まずこのバスに乗り国境から40kmほど離れている国境最寄りの街まで行き、そこからタクシーを捕まえて国境に辿り着き、ようやく出国する形である。基本隣国同士の往来はいつでも一定数あると思っていたがここはかなりめんどい仕様である。
次の朝、4時には起きて支度をし5時半にはバスターミナルについた。6時頃にバスが来たかと思ったら反対の仏領ギアナ方面行きである。すると待合室の窓口らしきところが開き絶叫が聞こえた。この時もまた、オランダ語なのか謎クレオール語で何を話しているのか推定できなかった。様子を伺っていると他の人たちがゾロゾロ並んで小さな紙を受け取っている。
行列が捌けた後、目的地ニッケリへのバスはどこで待てばいいのか?昨日係員に聞いたら朝6時にここで出ると聞いているがどうなのか?と質問した。すると、バスは朝8時に出るという。え?2時間あとじゃん。どうやら朝6時発というのは月曜から土曜日の話で、この日の日曜は2時間遅いとのこと。な〜るほど。
状況を理解して座席に座ろうとしたら「君もガイアナに向かうのか?」と聞かれたのでそうだと答えた。すると先ほど他の人がもらっていた小さな紙切れをもらった。紙には数字が書いてあった。これは整理番号らしい。バスに乗るときにこの数字を持っている順で乗れるから無くさないようにとのこと。まじか。隣国行きのバスの定員は高々1台分だけなのか。
この路線は一応首都間を結ぶ1番メインのルートなはずである。朝しか便がないという話は聞いてはいた。それにしてもたった一台なんだ。まじか、1日の定員少ねぇ……..。
整理券を受け取ると待合室に座っていた現地人の女性2人が話しかけてきてくれた。貴方、ガイアナにいくの?私たちもよ。お互い色々自己紹介した後、方向同じなのでお供してもいいか?聞いたら珍しい申し出だったのか爆笑しながら快諾してくれた。日本人旅行者は初めて見たとのこと。
ペルーやボリビアはもちろん、ブラジルでも多数の日系人が住んでいるのでそこまで南米で日本人の風貌は珍しくはないが、このギアナ三国ともなるとレアな存在になれる様である。ガイアナまでの信頼できる伝手を確保した。
まだバスが来るまで時間はかなりある。バス車内で睡眠を取ろうと睡眠時間を減らしてきたがここにきて情報間違いにより目を覚ましていなければ無くなった。2日前にスリナムで刃傷沙汰を目撃している。バスターミナルで待機中にリンチされたり刺されるパターンは可能性としては全然考えられる範疇である。眠いからといって気を抜けない。目覚まし代わりにポルトガル語のpdfを復習して時間を潰した。
その間、仏領ギアナ行きのバスは3台ほど人を集めては発車していった。スリナム人の不法金採掘者が仏領ギアナに不法越境しているのが問題になっている話があったが、普通にこっちの方の往来は激しいようである。
途中トイレに行こうとしたら釣り銭を誤魔化そうとしやがったのでキレたら目が覚めるイベントが発生した。やっぱ戦うのが1番目が冴えるね。
予定より20分ほど遅れてバスが到着する。ブラジルや仏領ギアナはここら辺かなり正確だったのでスリナムらしさを感じた。先ほど配られた整理番号の順に乗り込んでいく。早い番号だと座りたい席を確保できるようである。パチスロの抽選かよ。
道中の車窓風景を描写したいところだが殺風景すぎて本当に書くことがない。道路が劣悪で揺れが激しいことぐらいで山もなく海も見えずただひたすらつまらない草原と茂みの繰り返しだ。運賃が100スリナムドル(400円程度)と激安だったことぐらいだ。これはスキップされるのも宜なるかな…….。
途中一回休憩を挟み、正午ごろニッケリという街に着いた。バスを降りようとした時、最初に会った女性2人が一緒にタクシー乗る?と声をかけてくれた。その方が割り勘できるからありがたい申し出である。ありがたく話に乗るとタクシーの値段交渉もやってくれた。ここの区間の相場は調べても出てこなかったからありがたい。250スリナムドルだから1000円強といったところか。
助手席へと乗り込み、ここから国境へと向かう。自分の状況を思い出し、さてここからが本番だと気を引き締めていた。すると思っていた方よりだいぶ北側を進んでいく。車の最短距離は歩行者と違うもんな。と最初は思っていたがどうも完全に別の方向に向かっている。あれ、これ本当に道合ってるのか?河口沿いに走る車のルートを見てかなり不安になった。
確認しようとしたところでタクシーは止まった。着いたよ。え?????クエスチョンマークが頭を駆け巡る。だがその場所は確かに船着場のような様相を呈している。ここが発着場なの??
疑問に感じつつも、女性2人は迷いなくさっさと降りて荷物を持って歩き始めている。少なくともガイアナへ行くと言うのは本当らしい。
そこには屋根のついた待合席が用意されていた。既に親子連れを含めて3人座っている。我々の3人もそこに通される。一人の男にガイアナ行きか尋ねられたので「そうだ」と答えるとそれ以上特に何もなくそのまま席に座った。
連れの女性たちに話を聞くと大きな船と小さな船の2種類あって今日は小さい船よ。大きい船に乗りたいなら1日ニッケリで宿泊してから明日乗るしかないわと。この時点で察した。これ密航船だ。仏領ギアナとスリナム国境の不法越境もあとで現地人と話している時、大きい船と小さい船どっちで渡ってきたのか?聞かれた。大きい船が正規の国境渡河船で小さい船は勝手に越境しているやつなんだ。
ここまできたら逆に面白い。もう既に不法越境しているのでここまできたらガイアナへも不法越境したところで怒られるのはリカバリー地点の1箇所なので同じ様なものである。この渡場の人たちが漁民なのかギャングなのか知らないが、普通の現地人が利用しているルートではあったので、余計なこと言って足元見られるようなことをするぐらいなら流れに身を任せた方がいいはずだ。何より好奇心の方が上回っていた。
そんな感じで密航船に乗ることに決めた。値段も聞いてみたが700スリナムドル(約3000円)と通常ルートより2~3割ほど高いだけで特にぼったくられている感じではない。私が日本人旅行客と知っても現地人と同じ価格だったのでそれも含めてぼったくったりする悪意は感じられなかった。
するとその男の一人が海でも眺めてきなよと声をかけてきた。ほのぼのとした光景である。だが入出国審査のない不法越境である。先進国だと国を二分しかねない、極右が台頭してもおかしくない状況である。みんなノリが軽いなぁ。
眺めると言っても海は泥の色をしていた。綺麗な海の修飾語であるコバルトブルー色と正反対の色、ドブの色。アマゾン川も仏領ギアナ側方面の川もそうだったがどこもこの色をしている。毎日の様に雨が降って似た土壌の土砂が上流域から流れてくるからなのか?そこらへんはいまいちわからなかった。
ガイアナ〜スリナムに面する海ともなると大西洋の中でもカリブ海といった方が近そうな地理である。ベリーズやグアテマラ、パナマは透き通る様な水の色をしていたのに対照的だった。
海も長時間見入るものでもなかったので、しばらく待った。乗合タクシーでしか移動できない区間は今まで何度も乗ったがこれほど待つのは珍しい。スリナムとガイアナ間ってこんなに交流少ないのか。
その間に両替をしておいた。レートは悪いが国境を越えた後のジョージタウン行きのバスのお金を先に手に入れておきたかった。他に両替商はいないし対岸でいる保証もない。少額なら多少の損はやむなし。案内してくれた女性二人がいる場というのも大きい。
ポルトガル語のpdfが順調に読み進んでしまっていた。しばらくして家族連れがきて一気に解決した。最小興行人数は10人だったが結局14人ほどの乗客になった。
頭数が揃ったのを確認するとさっきまで酒盛りしていた男の内の一人が電話し始めた。船を呼び寄せるらしい。どこかに隠してあるのか?。はたまた別の作業中なのかこれは分からない。15分ほどで船が到着するから河岸沿いに待機しろとの指示があった。
先ほど波止場とか船着場と書いたが実際はそんな代物じゃない。普通の浅瀬のある砂浜である。コンクリート護岸も木の船着場といった大層なものなど何もない。
遠くからエンジン音を響かせながら水飛沫を上げる一つの影が見える。すげえ完全な密航船だ。実際に目にするとやはり触法行為をしている罪悪感よりワクワクの方が勝ってしまっていた。それにしても小さい船やな。この船乗り場は河口でも外洋側である。波がザブンザブンと押し寄せている。
船着場がないので靴でそのまま乗れないことにここで気付く。うわまじか、現地人が全員サンダル履きな理由をここで察した。慌てて靴と靴下を脱いでリュックに結びつける。ズボンの裾もまくる。なんで国境越えするだけなのに潮干狩りみたいなことしているんだろう俺。
ここでさっきまでやり取りしていた男が突如として荷物運搬料1000ガイアナドルを要求してきた。いやお前何も運んどらんやんけ。さっきまでいい奴だったのに最後の最後で欲出してくるな。テキトーにあしらって船に乗り込む。荷物含めると体重100kg近くあるので最後に乗り込んどいてよかった。船が左右に大きく揺れる。
なんとか乗り込むと船はすぐに出港する。沿岸警備隊とかいないのか?と思ったが仏領ギアナ側でもテキトーに行き来していたから似た感じでガバガバであろう。ガイアナ側は今ベネズエラを相手にする可能性の方が高そうだしな。
この船はライフジャケットがなかった。いやあるにはあったけど2個しかなかった。14人の乗客と操縦士1人で合計15人いるが転覆したら13人はお陀仏である。こんな辺境でタイタニックごっこしたくないぞ…….。川幅は大体8kmぐらいある。俺小5で泳いだ1000mが最高なんだよな。波のある中最大4km泳げるかなこれ……….。
どうやら生きるにしろ死ぬにしろそれなりに覚悟しなければならない様である。地中海をゴムボートに鮨詰めにされて密航する難民ってこれを超えることやっていると考えると覚悟すげえな。最短距離でもこの10倍ぐらいあるし…….。
岸から離れると波が高くなって船底と波がゴンゴン打ちつけて鈍い音がする。小型高速船だとこんな感じの気分は味わえるが、まともな会社の船なら屋根もあるしライフジャケットは絶対着用である。この小型木造船で転覆した時は考えたくもないな。
途中からビニールが回ってきた。これで水飛沫に耐えろということらしい。すでにびしょ濡れであったが荷物があるのでないよりはマシか。ありがたく隣に座ってる人と一緒に膝掛けにした。
着岸したのはガイアナの漁港と思しき場所である。こっちは船着場がちゃんとあり足を濡らさずに済みそうである。荷物を持ってやると言われたがまたどうせ金要求する奴だろ、めんどくさいので断った。だが先に小さなリュックをおろして別のリュックを担いで下船しようとする間にそのリュックを担いで歩き出した。うわ、めんどくせ。
案の定、ガイアナ側の待機場所についてきた時に金払えと言ってきた。無視して行こうとしたら5人ぐらいに取り囲まれ、20ドルだの20ユーロだの要求してくる。こういうダルい所は正規だろうが密航船だろうが同じなんだな。クソが。
ただ悪徳警官に検問で尋問された時と同じく現金はうまく隠してあるので見つからない。ポケットの中全部見せて何もないことを示す。さっさとバスに乗りたいのでリュックの中の一つに入れてあった2レアルを見つけたふりをする。せいぜい60円だ。残念ながら金持ってませ〜ん。
それを投げつけるように椅子の上に叩き付け、え?みたいな間抜けヅラしている間に荷物全部担いで歩き出した。後ろでやんややんや言われたがそもそも他の乗客からは金取ってないし、一芝居したのが効いたのか、これ以上は無駄と思ったのかわからないがそれ以上何も起きずに終わった。
大体こういうぼったくりとか不良警官ってちょっと揉めた後に少しの金投げつけておけばなんか終わるよな。1時間押し問答するのは流石にこっちとしてもめんどくさいし多勢相手に荷物持っているとこちらも機動性が悪く分が悪いので落とし所としてはこんなもんな気が経験則としてある。まぁ所持品少なかったらもっと大暴れして1銭たりとも渡さないけど。
ここからは早かった。バスがあると聞いていたが船着場近くで乗合タクシーが待機しており、値段もバスと同じ5000ガイアナドル(約25ユーロ)である。船の同乗者がこいつは信用してもいいよとお墨付きしてくれたのでぼられる可能性もなさそうである。そのまま乗り込んだ。
タクシーに乗って首都に向かっている間に検問をいくつか通過した。だが特にパスポートを要求されることもなく普通に通過してジョージタウンに着いた。
不法状態解消・リカバリー
ガイアナのジョージタウンはすぐ見終わった。一応市内観光ついでにガイアナの入管に入国審査通ってないからどうしたらいいか問い合わせてみたがたらい回しでやる気なかった。ギアナ三国はどこの国もいい加減だな。これ仏領ギアナだったらどうなるんだろうと気になった。こんなんだからみんな好き勝手に移動しているんだろうな……….。
1番面白かったのが首都に到着後たった2時間40分でホテルの前でオートロック解錠している瞬間に強盗にあったことである。あまりの治安の悪さに爆笑してしまった。まぁもう南米5回目の強盗なので相手が懐からナイフを見た瞬間に興醒めして冷静に反撃しつつ絶叫したら逃げていった。銃も買えない貧乏な強盗は大したことないなとそろそろ達観してきた頃である。
ガイアナ内には集団自殺したことで有名なカルト宗教の人民寺院の遺構があるが調べたらかなり辺境の地にある。オフロードで片道3日かプロペラ機をチャーターしないと辿り着けないであろう。同じく有名なカイエントゥールの滝も空路じゃないと辿り着けない場所にあるようだった。
こうなると個人的に興味が残っているのはベネズエラが昨年、堂々と侵略宣言をしていたエセキボ地域である。ここはスペインとイギリス・オランダの植民地戦争時代に起因する領土係争地域である。1899年のパリ仲裁協定により現在の実効支配する国境となっているがベネズエラ側はこれを不正としている。
元から領土問題は存在したが、ここら一帯には鉱物資源や石油資源が大量に眠っていることが発覚するとベネズエラは2023年12月にこの地を自国領かどうかを問う住民投票を強行した。よくある領土問題の構図である。この頃中米にいたので長らく戦争のなかった南米でまさかの戦争勃発かとヒヤヒヤしていたものだった。まぁガイアナに無事入国できている時点で大丈夫ではあったが。
そんな訳で気になっているエセキボ地域である。ちょうどガイアナの次はアマゾンへ行くつもりであったのでこの地域を通過することにした。久しぶりに足で踏み入れる領土問題係争地である。個人的にはトルコの傀儡国家である北キプロス・トルコ共和国以来であろう。
この地帯を越えたらブラジルとガイアナ国境である。ジョージタウン市内でこの方面まで行くにはトランスポーテーションと書かれた会社に問い合わせなければならない。この区間は電車がないのは当然のことバスでもなく乗合タクシーですらない。未舗装地帯が300km以上も続く区間である。
滞在2日目の市内観光する前に、いくつかある会社に条件を聞いてみて出発時間が遅めで余裕のある会社でチケットを購入した。
予定時間になり乗り込むと出発した。この区間はバスジャックからカージャックまで出没する場所である。舗装ある場所もかなりの速度で飛ばすのはまじだった。
途中からは完全に未舗装地帯である。運転手が休憩中にタイヤの空気圧を抜いていた。このスタック防止術をみると本格的なオフロード区間なんだなと実感する。この頃には真っ暗闇で何も見えなかった。舗装すらないから街灯なんて贅沢なものある訳ないか。ただひたすら悪路を車体を上下に揺らしながら爆走していった。
途中何回か降りてパスポートを出せと言われた。検問である。お、ここで不法越境がバレるのか?と思ったら1番後ろの席で寝ていて死角にいたからか「お前は後ろで寝ていろ、そっちの方が早く終わるから」と運転手に言われた。また意図せずして検問を突破してしまった。なんなんだこれ。
シートベルトで体を固定して飛ばされない様にしながら睡眠を確保していたらあるところで停止した。地図を見ると川の手前である。今通っているのは首都ジョージタウンとブラジルを結ぶ唯一にしてただ一つの幹線道路だがエセキボ川でこの道路は分断されている。唯一の街道は橋がかけられていないのだ。まるで江戸時代に於ける東海道の多摩川とか相模川みたいだ。一説には架橋しないことで自然の防壁としていた。
ガイアナの場合、これは軍事的理由だろうか。ベネズエラが軍事侵攻してくる時ブラジルへ迂回進軍してそこからこの街道沿いに北進するパターンが想定されている。その場合ここがメインの道路だとしても橋がかかっていない理由としては十分考えられる。普通に発展途上国で金がないだけだったらごめん……..。
寝ぼけてそんなことを考えていたが、尿意を催したので降りる際に状況を確認した。ここを渡る船は朝6時発だからそれまで待機とのこと。
外を見回すと私たちが乗っていた様なバンから自家用車、輸送トラックまで多数空き地に止められていた。トイレは恒例の野外である。領土問題係争地での立ちションって斬新だな。
朝5時45分ほどになると各車両が号令をかけて乗客を集め始める。出発の時間だ。中で睡眠を確保していたので眠い目を擦り観察していた。準備が終わった車両から一列に道路に並び、途中から反転してケツ側から船に乗り込み始めた。ここは乗客乗せた車ごと乗り込むのか。川ぽちゃしたらお陀仏だなこれ。
渡し船には3列になるよう車が船に乗り込む。ブラジルのレンソイス国立公園でもこの形の渡し船があったので割と一般的な形式らしい。いつも乗っているフェリーに比べると小回りは効きそうである。
ただどうやらこの船も内蔵動力がないらしい。河岸を人力で押して離岸して他の船で対岸まで押しながら曳航してもらう形らしい。これが主要幹線道路か…….。
エセキボ地域を通過する中、途中何回か検問があったり野外トイレタイムがあったりした。トイレで止まっている間に道端に大きめの蟻塚があって少し感動した。
検問でパスポートを見せてみたりしたが名前含む個人情報と通過時間を記録しただけであとは見るつもりがなかった。
そうして特に何も起きず、レテムというブラジルとの国境という街に午前10時頃に着いた。これぐらいなら出国審査で揉めても十分余裕がありそうである。地図を見ると川で国境が隔てられていて入国管理の建物は橋の袂にあったがガイアナ側をスルーしてブラジル側に入ることもできる構造だった。
ただ、それでは面白くない。せっかくなら不法入国したのをどう咎められるのか見てみたい。そのまま出国審査の建物に入ってみる。
中にいたのは僅か10人ほどである。通行量の多い貨物ドライバーは出入国審査は免除されてるのだろう。ガイアナ側の入管は2段階の審査過程があるらしくバケツリレーのように人が動く。
一応席で待っていたが5分も経たずして順番が回ってきた。1人目のガイアナの入国管理官にパスポートを渡す。今まで押された旅行スタンプは合計で170~180個はあるので正直確認がめんどくなってバレない説はあると思っていた。
だが、他の人は流れ作業で次の審査官に回されるが俺はスキップされた。お、これすごいな。今まで通った国境ではみんなテキトーにパラパラめくって入国スタンプの有無の確認めんどくさくなってすぐ押してたからこの審査官はちゃんと仕事している。どうやら俺のパスポート内のスタンプを探しているようだ。ページを捲る音が聞こえる
感心してる場合じゃないか。ここからが本番である。するとそのおじさんは身を乗り出してきてスタンプがないがこれはどういうことだと問われる。インクが薄かっただけでどっかにあるとしらばっくれるのも手であったが(実際スカスカ入国スタンプ押す国は多いので)それだとあまり面白みがない。
正直ここから何が起きるかのほうが気になっている。なので正直にスリナムから入国する時に入国審査を経ていないことを言ってみた。作戦というより不法入国者への対応はどうするんだろう。
スリナムのバスターミナルで出会った人についていった結果不法越境に至ったが、入管を通っていないのは分かったので首都の政府省庁にも問い合わせた上でここにきていると。
審査官は私の言い分を聞いて少しばかり逡巡したがあくまでこれは不法入国だと繰り返した。私は、それなら漁船が堂々と人を集めて入国審査を経ることなく国境を往来し渡し賃で儲ける商売自体が堂々と成立しているのはそもそもどうなのかと返した。問いに問いで返す詭弁である。
審査官の目が泳ぎ対応を考えあぐねていた。同じような応酬が続いた後、また席へと戻った。あらこれはどうなるんだ。待合席に放置プレイである。さてさてどうなるかな、ワクワク!頭の中のアーニャが目を輝かせる。
この国境はマイナー国境なのは間違いなく日本人も珍しいようで通過者が話しかけてきたので雑談していた。事情を聞いたら「なんとかなるよ」というものもいれば「これは逮捕かもな」と軽快なジョークを飛ばす人もいた。
20~30分ほど経った頃であろうか、彼が戻ってきた。えらい仏頂面で無言でパスポートを渡してきた。中を見ると出国スタンプは押されなかった。この後どうなる?逮捕か?賄賂?その他?矢継ぎ早にいうとさっさといけとのこと。どうやらこれで終わりらしい。結果的にガイアナも不法出国扱いである。まぁ兎にも角にもこれでブラジルの入国スタンプを手に入れられればリカバリー成功である。これはあっさり手に入った。
ガイアナの国境検問所を出て、ガイアナとブラジルの国境にかかる橋を歩いていると眼下の川辺に小舟があった。あ、これはブラジルも密入国やろうと思えばできたな…………….。
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