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あの「タチコマ」をリアライズ!キャラクター×ロボティクスに挑む、カラクリプロダクツ代表・松村礼央さんと語ってみた【コモさんの「ロボっていいとも!」第15回】

こんにちは、コモリでございます。

おひるやすみはロボロボウォッチング、ロボティクス業界のキーパーソンの友達の輪を広げるインタビューコーナー「ロボっていいとも!」のお時間となりました。

前回のゲスト、大阪大学大学院基礎工学研究科助教授の川節拓実さんには、奈良工業高等専門学校でロボコンに打ち込んだエピソードや、代表理事を務めている一般社団法人次世代ロボットエンジニア支援機構Scrambleでの活動など、楽しくお話を聞かせていただきました。

今回は、そんな川節さんの高専時代の先輩にお越しいただきました。テレビアニメ『攻殻機動隊S.A.C.』シリーズに登場するロボット「タチコマ」を実際に作ってしまったあの人……というと、ピンとくる方もいらっしゃるのではないかなと思います。

それでは早速お呼びしましょう。本日のゲストは川節拓実さんからのご紹介、株式会社カラクリプロダクツ代表取締役・松村礼央さんです!

売ってないガンプラ、パーツから自作してました

コモ:松村さん、本日はどうぞよろしくお願いします! 川節さんから熱い紹介コメントをいただいています。「『コミュニケーションロボットを社会に実装する』という視点で、それまで世の中に存在していなかったプロダクトを数多く開発されていて、エンジニアとしてとても尊敬しています」。

松村:川節くんからそんなふうに言ってもらえると、ちょっと緊張しますね。

コモ:現在はカラクリプロダクツの代表として、ロボットの社会実装を試みるさまざまなプロジェクトに携わられている松村さんですが、昔からロボットはお好きだったんでしょうか?

松村:いえ、むしろロボティクスにはあまり意識が向いていませんでした(笑)。幼少~中学時代は「社会で働く機械」には全般的に関心が薄かったです。同世代が夢中になっていた車や電車には全然心が動かない方でしたね。

コモ:この連載に出ていただく方々、けっこう「元からロボットはそんなに……」って人のほうが多いんですよね、なんでだろう……(笑)。子どもの頃はどんなことが好きでしたか?

松村:父の家系に美術系の仕事をしている人が多く、その影響で小さい頃から美術教室に通っていました。美術や工芸につながる習い事を経験しました。工芸的な分野が好きで、特に彫刻が得意でしたね。

コモ:彫刻、素敵ですねえ。立体物の造形美、デザイン美に強く惹かれるタイプなんでしょうか。

松村:そうだと思います。「カッコいいなあ」と思った造形を自分の手で具現化したい、という気持ちが強いというか。だから、プラモデルを組み立てるのが好きで、機械に意識が向いていなかったとは言いつつ、ガンプラはよく買って作ってたんですよね。

コモ:ただただデザインが好きで?

松村:はい(笑)。作りたいキャラクターのプラモデルが売っていなかったら、設計図を描いてパーツの削り出しからやってました。

コモ:えっ、すべて自作ですか?! すごい……!そこから、どうして理系の高専へ進学することに?

松村:美術や工芸は好きだったんですけど、「これを続けて食べていくのは、自分には難しそうだな」とも感じていて。中学3年の時、将来を見据えた進路に悩んでいることを、当時通っていた学習塾の先生に相談してみたんです。「手に職をつけたいのなら高専という選択肢もあるよ」と薦めてくれて。

コモ:そこで初めて高専の存在を知った。

松村:そうですね。興味と得意な理数系を活かすなら普通高校よりも「食べていけるスキル」が身につきそうだなと思い、奈良高専への進学を決めました。

Webなし、コネなし、ノウハウなし。ゼロから手探り「からくり同好会」でのロボコン参戦

コモ:高専に入ってから、ロボコン部に所属されたんですよね。ロボットに興味はなかったはずなのに、なぜ?

松村:私が入学した年って、ちょうど先輩たちがロボコンへの参加を目的とした集まりとして「からくり同好会」(現在は「からくり部」)を立ち上げたタイミングだったんですよ。「何やら面白そうな部活が新しくできたみたいだぞ」とウワサを聞いて、門戸を叩きました。

入部して本格的にロボティクスという分野に触れるにつれ、「自分の作った造形物を実際に動かせたら楽しそうだな」と感じ、どんどんロボティクスへの期待が高まっていきました。

コモ:引退するまでの4年間は、ロボコン漬けの毎日だったそうですね。ロボットづくりの魅力に段々ハマっていった……ということなんでしょうか?

松村:うーん……ハマったとか夢中だったというよりは、「必死だった」が適切な気がします(笑)。

コモ:というと?

松村:まず、部活を立ち上げた中心メンバーの先輩たちが翌年(松村さんの入学年)には卒業を迎え、大半は同好会の運営から引退されました。その運営を引き継ぐ形で、1年生ではありましたが部長を引き受けました。期間としてはその後の3年半弱ほどになります。

「任された以上、なんとかロボットをつくり切って大会に出せるようにしなければ……」とは意気込めど、当時は他校との交流がWeb上でようやくはじまった頃で。参照できるWebサイトも書籍も限られていました。私自身の知識量や経験も圧倒的に足りず、勉強しようにも「自分が何が分かっていないのか」も分かっていない状況でした。ですから、先輩や先生、技官の方々からいただいた知見や機会を、十分に活かせていなかったと思います。

コモ:それはハードモードだ……。

松村:2000年代初頭はNHKロボコンのコンセプトが転換した時期だったように思います。具体的には、ロボットの自律性を年々高めていこう、という意図を感じました。たとえば、それまでは有線による制御が主流でしたが、無線制御が必須のルールに変わったんです。無線化によって、ロボットを制御する主体が人間からロボットへ移り、機械系のみならず電気系、情報系の知識も求められるようになりました。

コモ:なるほど。それまでは必要なかったマイコンなどの知識も必要になってきたと。

松村:学ぶべきことは日々増え続け、必死に知識を吸収しては咀嚼する日々でした。

幸い、進学先が電子制御工学科で、電気・機械・情報系の科目をミックスして学ぶところだったので、日々の勉強がロボコンの制作でも役立ったり。あとは、創刊されたばかりの『ロボコンマガジン』を見ながら、仲間たちとひたすら手を動かして試行錯誤していました。

1999年、近畿地区大会に出場した時の写真です。写真中央に映る松村さんは当時、高専1年生。

コモ:今では細かな制作のノウハウも知れるし、YouTubeで動画も観られるし、わからないことはSNSなどで聞くこともできますしね。そういった頼れるインフラがない環境で、ゼロからロボットづくりに挑戦されていたのは、とてもカッコいいなと感じます。

松村:ありがとうございます。でも結局、私自身は大会では全然勝てませんでした。「ロボットを完成させること、そのための技術を習得すること」に精一杯で、勝つためのマネジメントや組織づくりまで手が回っていなかった。

「ロボっていいとも」の前回に出た川節くんなど後輩たちは、独自にそのあたりを改善し、奈良高専のロボコンチームを作り上げ、強豪校に上り詰めました。私にはできなかったことでとても尊敬しています。

コモ:あ、ちなみに今の社名「カラクリプロダクツ」は、もしかして同好会の名前から?

松村:高専卒業後も一つ下の同好会の後輩と一緒に活動を続けていて。お互い「からくり」というワードに思い入れが深かったので、サークル名で「からくり」を名乗っていました。その流れで使わせてもらっています。

「やりたいことがビジネスになる」と実感した、鉄人28号ロボットの制作

コモ:高専4年でからくり同好会を引退した後も、一人でも出られるロボコンに挑戦したり、ロボットベンチャーのヴイストン株式会社でインターンをされたりと、ロボットに関わり続けていますよね。やはり4年間打ち込んで、そろそろロボット自体に興味が……?

松村:いや、興味というよりは、意地に近かったです(笑)。「4年間やったけど勝てなかったし、まだやり切れていない。この分野で何かやり切りたい、ちゃんと成し遂げたい」という気持ちが強かったですね。ただ、この意地で継続していた活動の中で今のキャリアに繋がるターニングポイントがありました。

コモ:それは、どういった?

松村:インターンの中で「実写映画版 鉄人28号」の二足歩行ホビーロボット化プロジェクトでモデリングと機械設計を担当したことです。作品の世界観を壊さないよう、フォルムや動作のディテールまでこだわりました。リリースしたらとても評判がよく、受注生産分はすぐに完売。このインターンでの経験から「キャラクターを動かすことが商売になるって、すごく面白いな」と思ったんです。

コモ:子どもの頃にプラモを自作していたときの妄想が、そのまま仕事になったというような。それは素敵なエピソードだなあ。

松村:ヴイストン社でのインターンの課題が「社の機材を使って何でもいいから好きなものを作る」というもので。その頃、世界的に評価されていたロボットクリエイター高橋(智隆)さんの「クロイノ」のコピーを作り始めました。

それとは別の流れで、ヴイストン社、ロボクリエーション社、そして当の高橋さんを含めた3社が「クロイノをベースにして鉄人28号を作れないか」という企画を進めていて。その思惑に課題が偶然にマッチして、機械設計とモデリング担当として私も参加させていただくことになりました。

「やって楽しいこと」と「好きなこと」が仕事に繋がって、それが世の中にも喜んでもらえるのは、シンプルに嬉しかったです。

コモ:この時の縁がきっかけで、高橋さんとはその後もコンビでお仕事をされていたそうですね。

松村:はい、高橋さんが受けた企業からの案件をよく手伝っていて。高橋さんがビットマップで書いたラフを3D-CAD(3D-Computer Aided Design)でモデリングして、高橋さんの制作を量産やデジタルの面でサポートする、といったことをやっていました。

与えられたデザインをモデル化して、その中にメカを仕込んで、実際に動くようにする——この一連の流れをさまざまなキャラクターで実践させてもらえて、とても楽しかったですね。ここで培った経験や手応えは、今の仕事にそのまま繋がっていると思います。

趣味でつくった1/2スケールのタチコマ、公式公認のプロジェクトになる

コモ:高専卒業後に、大阪大学大学院の石黒研究室に所属し、ヴイストン社、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の知能ロボティクス研究室に進まれていますね。そこで、博士の前期・後期課程を過ごし、卒業後は都内のベンチャー企業に入社。独立して、現在は「カラクリプロダクツ」を創業して代表を務められていますね。独立から創業するまでには、どんなきっかけがあったんでしょうか?

松村:まず、それまでの経験で「自分は研究者に向いていないな」と思ったんですよ。私は文章を書くのがとにかく遅くて。研究者って論文を書いてナンボの世界ではあるので、生き残っていくのは無理そうだなと。

コモ:高専を選んだときと同じような生存戦略がここでも(笑)。

松村:あとは、高橋さんの案件やヴイストン社、ATRでの活動を通して、だんだんと「自分の名前で仕事がしたい」という思いが膨らんでいったことも大きいです。所属の看板の力を借りずに、自分だからこそできることをやっていきたい、と。

コモ:なるほど。

松村:独立後、個人事業主として仕事をこなす中で「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」への参加を機に、権利関係のやり取りをクリアにするために法人化しました。

コモ:あ、あれがカラクリプロダクツ社としての初めてのお仕事だったんですね!

松村:そうなんです。ざっくり説明すると「攻殻のコンテンツPRのために、リアルに動いてしゃべるタチコマを作って、グッズを販売する『IGストア』というショップの店員をしてもらう」というプロジェクトで、私はそこで1/2スケールの動くタチコマの企画・制作を担当しました。

Matsumura, R.; Shiomi, M. An Animation Character Robot That Increases Sales. Appl. Sci. 2022, 12, 1724. https://doi.org/10.3390/app12031724

コモ:どういった経緯で松村さんが担当に?

松村:話が遡るのですが、2006年に実は高橋さんと一緒に攻殻機動隊のプロモーションに関わるお仕事をしたことがあって。その時つくったのはもっと小さなタチコマで、PR終了時に「将来的にはもっと大きいサイズで作ってみたい」と先方の担当者に決意を伝えていたんです。独立後、当時の決意を思い出して、趣味の形で海内工業の湊(研太郎)さんと一緒にコツコツ作り始めました。この時点ではあくまで二次創作でしたが。

コモ:えっ、じゃあ正式な依頼が来る前から自費で?

松村:そうなんですよ。代理店さんが1/2スケールのプロジェクトを依頼してくれた時にも「実はもう勝手に作っていて……」と話したら、ビックリされました(笑)

コモ: 好きなもの、本当になんでも作っちゃうんですね(笑)。すごい情熱だなあ。初めて自分の名前で受けた大仕事、手応えはいかがでしたか?

松村:得られた物は大きかったです。物語の世界から現実へ具現化したキャラクターが、リアルな場でユーザーと出会ってコミュニケーションすることで、人にとってもロボットにとっても特別な価値を生み出せるんだな、と実感できました。

もっとも、権利関係のやり取りは本当に大変でしたね。あと、資金繰りが本当にギリギリで。VCからの調達もせずにほぼ自己資金だけでやっていたので……個人の貯金はだいたい使い切りました(笑)。ちなみに、店舗の設計と導入には経産省のロボット導入実証による支援を活用させていただきました。

コモ:「人にとってもロボットにとっても特別な価値」とは?

松村:出会う場があることで、人とロボットの間でどんどん物語が再生産されていくんです。作品は完結していても、リアルでキャラクターと触れ合った接点があると、そこから物語の世界が広がっていき、そこでキャラクターも生き続ける、といいますか。

残念ながら、タチコマが接客したショップの実店舗はもう閉店したのですが、タチコマが店員として人間や他のアニメのキャラクターと働く姿を同人誌を描いてくださったファンの方がいて。すごく嬉しかったですし、そういう場に付加価値を生み出していけば、もっとロボットも社会に存在しやすくなるだろうな、と感じています。

Matsumura, R.; Shiomi, M. An Animation Character Robot That Increases Sales. Appl. Sci. 2022, 12, 1724. https://doi.org/10.3390/app12031724

ロボット導入のためではない、消費者とサービスのための環境づくりを

コモ:今のお話からもその意志を感じられたのですが、松村さんは他のインタビューなどでも「人とロボットの共存」という言葉をよく使われていますよね。ロボットとのよりよい共存を実現させるために、今後どのようなことに取り組んでいきたいですか?

松村:そうですね……表現は難しいのですが、「もっとロボットが普通に社会に馴染む、ロボットがいてもきちんと採算の合う環境」をデザインしていきたいと思っています。

コモ:採算が合う、とは?

松村:ロボットはまだまだ高価です。特にコミュニケーションをサービスとする領域では「提供できるサービス」「そのサービスに対して消費者が妥当と考える価値」「ロボットそのものの導入コスト」という3つのバランスが取れず、乖離している状態だと思います。

このような状況ではPOC(実証実験)に留まったり、もしくは導入コストを度外視できるような大きな組織だけが挑戦できたりするケースがほとんどです。

コモ:だから、ロボットを社会に根付かせていくには本体をつくるだけでなく、それが働く環境もセットでデザインしていく必要があると。

松村:そうですね。そうしないと、せっかく作っても社会の中で定着せず、生き残っていけません。

アプローチの仕方はいくつかあると思います。IGストアでのタチコマによる試みでは、さきほど述べた3つのポイントのうち、私は「サービスに対して消費者が妥当と考える価値」を高める方向性に挑戦しました。

高い付加価値を生み出すような物語、キャラクターの選定、店舗や体験の設計。それらによってロボット開発者、導入者、消費者という三者の利害の一致させる。このようにして、POCに留まらない「ロボットの社会実装」を目指していきたいと思っています。

カラクリプロダクツではコミュニケーションロボットの研究も進めている。画像は同社 中川研究員とATRによる甘噛ロボットに関する研究。K. Nakagawa, R. Matsumura, and M. Shiomi, “Effect of Robot’s Play-Biting in Non-Verbal Communication,” J. Robot. Mechatron., Vol.32, No.1, pp. 86-96, 2020.https://doi.org/10.20965/jrm.2020.p0086

コモ:子どもの頃にはとくに意識が向いていなかった「社会で働く機械」に、ずいぶん肩入れされるようになったのですね(笑)。

松村:そうですね……以前よりかは(笑)。ただ、どちらかというと「自分が好きで続けられること」を続けていけるようでありたい、そのためにちゃんとビジネスとして成り立たせたいって気持ちが原動力になっている気がします。そのために、これからはどんどん皆さんの目に留まる場所に、ロボットを送り込んでいきたいなと。

あ、そういえば最近の開発の中でUnityの活用を積極的に模索しています。キャラクターを具現化する際のモーションを、CG上の表現に近づけるための工夫なのですが。CC上だと重力や摩擦を無視した動きになっているので、その辺りを上手く制御したいなと……ちょっと映像を見せますね、これなんですけど。

コモ:あっ、これはすごい!動き出しの滑らかさだけでなく、すごくきれいに止まりますね!……ゲームだと一般的に30~60fpsですが、ロボット側はは100~240Hz(=100~240fps)で制御しているのですね。Unity上で処理したモーションをロボット側で補間する……と。なるほど……。

……ちょっとこの話、ここからすると3時間くらい伸びそうなので、また別途、取材依頼させてもらってもいいでしょうか?(笑)

松村:ぜひぜひ、またお話させてください。

さ〜て、次回のお友達はー?

コモ:いやはや、本当に名残り惜しいのですが、終わりの時間がやってきてしまいました。最後は恒例の「お友達紹介」です。松村さん、どなたをご紹介いただけますでしょうか?

松村:同志社大学文化情報学部准教授の飯尾尊優さんにお願いできたらなと。

コモ:ソーシャルロボティクス研究室で、人間とロボットの相互作用などの研究をされている方ですね。飯尾さんとはどのようなご関係で?

松村:博士課程時代に過ごしたATRでの同期なんです。彼の人とロボット間の「複数ロボットでの対話」や「引き込み現象」の研究などはとても興味深いなと思っていました。

コモ:ありがとうございます。飯尾さんに何か伝言があればぜひ!

松村:最近どんな研究をしているのか、ぜひ詳しく知りたいです。私がつくったロボットを使って、また一緒に何かやりましょう!

コモ:本日のゲストは松村礼央さんでした。どうもありがとうございました!

皆様、次回もお楽しみに 😎
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