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Keeponの産みの親・小嶋秀樹先生に聞いた、ロボット開発で「人間らしさ」を研究する話【コモさんの「ロボっていいとも!」】

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こんにちは、コモリでございます。

ロボティクス業界のキーパーソンの友達の輪を広げるインタビューコーナー「ロボっていいとも!」のお時間となりました。


いきなりですが皆さん! 「言葉、喋ってますか?」


・・・と、当たり前の事を聞いて恐縮ですが、でも「どうして私たちは言葉を喋れるようになったか?」は、少し気になりませんか?

「人類は赤ちゃんからどのようにして言語を喋るように成長するのか」ということは、様々な研究者がこれまでにも研究を行って参りましたが、今回のゲストはロボット開発者でありながら、元々は言語についての研究者でもありました。


そんなゲストは今から約10年ほど前にKeeponというロボットを作り、そして今は子供の自閉症や教育について研究されています。

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Keepon(左の写真は内部構造)


人類が言葉を獲得する過程、ロボット開発、そして子供の自閉症や教育・・・と、一見するとあまり脈絡のないキーワードですが、今回のゲストの方の話を聞くとそれらがピタッとつながり、一貫してどのような研究活動を続けてこられたかを知ることができます。そして私たちは、言葉を喋ってコミュニケーションを取るというような「人間らしい」能力をなぜ学習・習得できるのか?も、今日は少し分かるかもしれません。



それではゲストをお招きしましょう。本日のゲスト、豊橋技術科学大学の岡田美智男先生からのご紹介。東北大学 教授の小嶋秀樹先生です!

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小嶋 秀樹
東北大学 大学院 教育学研究科 教授

小嶋:こんにちは。よろしくお願いします。



小嶋研究室の気質

――いきなりですが、私の知り合いが実は小嶋先生の研究室の出身でして・・・。その人と会話していた時に「いかにも先生の研究室の出身者だなあ」と感じたことがあるんです。

それはどういう部分ですか?


――ある時ですが、その人は研究でギアを使った機構を作らなければならなくて、私は「こういうモジュールを組み合わせるとできるよ」と教えたのですが、何と3Dプリンタを使って手作りしてきたんですよ! たしかに精度はさておき、望む寸法にピタリと収まっていました。そういう「何でも自前で作りたい」という気質などですね。

ハハハ。普通なら歯車メーカーから調達するんでしょうけどね。そういう意味では、最近の学生さんたちはすごく自由な発想でいろいろな事に取り組んできますね

その人ことはよく覚えていまして、本人が高校生の時に私のところへ尋ねてきて「こういうことをやりたいんです!」といういろいろ相談しに来ていました。その後は私の研究室にも入ったのですが、とてもユニークで発想力豊かな方でしたね。


――その方の発想力の広さと、それを実装する素早さに驚いたことをよく覚えています。

コモさんにそう言ってもらえるなら、私も育て甲斐がありましたね。(笑)



言語研究からロボット開発へ

――さてそんな小嶋先生から、今日はお話を聞けると言うことですごく楽しみにしています。早速ですが、小嶋先生の経歴を教えていただけますか?

はい、改めまして東北大学 大学院の小嶋秀樹です。

私は電気通信大学およびその大学院を卒業しました。在学中は一貫してコンピュータによる言語処理の研究を行っておりましたが、現在のような統計ベースの自然言語処理と違って、当時は文法解析や意味処理などを地道に行っていくようなアプローチでした。

そして博士号を取得した後、通信総合研究所(CRL)という所、後の情報通信研究機構(NICT)に就職しました。そこは、どんな研究にでも自由に取り組めるような雰囲気を持っていたので、その中で私は「言語を獲得できるコンピュータを作りたい」と考えていました

どういうことかと言うと、大量の言葉のやりとりを周囲の人たちと交わすなかで、コンピュータが意味を理解しコミュニケーションを取り始めるような物を作りたいと思っていました。

そして1998年から1年間、MITの人工知能研究所に留学した際に、お掃除ロボット・ルンバで知られるiRobot社の創業者であるロドニー・ブルックス教授に師事することができ、当時はそこまで活発に研究が進んではいなかったヒューマノイド型ロボットによるインタラクションの研究に参加するチャンスを得ることができました。


――なるほど。最初は言語処理の分野から研究がスタートし、MITへ行かれてからロボットと触れることになったという流れだったんですね。

帰国後に再び「言語を獲得できるコンピュータを作る」という所に戻ったわけですが、この時点ではロボットを作ろうと思う一方で、当時はヒューマノイド型ロボットを専業で作るような会社が存在したわけでもないので、結局は一から自分で制作することになり、そして誕生したのがこの「インファノイド」というロボットでした。

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3〜4 歳児とほぼ同じ大きさ(座高 480mm)の上半身ヒューマノイド=人間型ロボットで、対面した人間とアイコンタクトや共同注意(同じ対象物を見る行動)をとることができるようになっている。頭部の眼には、周辺視のための広角カメラと中心視のための望遠カメラが装着されており、それらから得た画像をコンピュータで処理して人間の顔などを検出・追跡している。また、眉毛や上下の唇を動かすことで様々な表情を作り出すこともでき、耳にあたる左右のマイクから人間の声を聞きとり、声の抑揚や音韻情報を抽出することでオウム返しのようなこともできる。


――これをお一人で作られたんですか?

はい。部品を最終的に組み上げて人型にする作業はさすがに業者に頼みましたが、CADソフトなどで行うメカ全体の基本設計はもちろん、パーツ類の選定や加工、回路設計、そしてそれらを制御するプログラミングまですべて一人で行いました

元来手先が器用だったこともあり、昔からいろいろなご縁はあったものの、どちらかと言えば一匹狼的にロボット開発をして参りました。



Keepon誕生の経緯

――その後、小嶋先生はKeeponというロボットを開発され、世に広くリリースされたわけですが、当時Keeponを開発されたキッカケは?

先ほど紹介したインファノイドも関係しています。あのロボットでは「共同注意」ということができます。共同注意とは、コミュニケーション相手の視線や顔の向きから相手が見ている対象物を一緒に見るという行動なのですが、実はこれは1歳くらいの赤ちゃんができるようになる能力なのです。

このような共同注意やアイコンタクトはコミュニケーションの一種で、人やロボットが同じ対象物に意識を向けてそこから様々な情報を得て相手がどのように感じているか・・・ということを自然且つ言葉を介さずに交換し合っているんです。このことに私は非常に興味を惹かれました。子供が言葉を獲得していく、ある種のマイルストーンだと思うからです。もしそれを工学的に再現することが可能なら、ロボットも同様のコミュニケーションスキルを獲得できるのではと考えました。

こうしてインファノイドの開発の中でロボットはどのようなことが学習できるかを研究していく一方で、子供がこういう共同注意やアイコンタクトをするロボットとどう接するかということにも興味を持つようになりました。子供がロボットに対して人間と同じように接してくれる・・・そんな関わり方ができるロボットってすごいなと思いました。そして様々な年齢の子供にインファノイドと接してもらうようになりました。

その結果、4歳以上の子供たちはたとえば自分の持っているおもちゃをインファノイドに渡したりなど積極的に関わる一方で、1~3歳児だとインファノイドを怖がってしまうんですよね。

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そうなってしまうとそもそも実験ができなくなってしまって。そこで、赤ちゃんを対象に実験できるようにするために小さくてシンプルなロボットが必要になり、似たような機構を持ちながら見た目を刷新した「Keepon」が誕生したのです。

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インファノイドと同様に、Keeponもアイコンタクトや共同注意、表情のやり取りができます。なので、Keeponの前に物を持ってくればそっちを見ますし、人が顔を近づけると今度はそっちを見ることができます。


――私の目から見ても、Keeponのほうが愛らしく見えますね。(笑)

おかげさまで赤ちゃんもKeeponなら怖がらずにコミュニケーションを取ってくれたので、様々な年齢層の赤ちゃん・児童に対して実験を行えるようになりました。



Keeponが子供の自閉症のメカニズムを解いてくれた

――赤ちゃんも含め子供たちへのKeeponを使った実験を通じて、どのようなことが分かってきたのでしょうか?

Keeponを公開したことにより、ある方より「自閉症の子供たちに触らせるとよいのでは」というお声がけをいただき、実際に自閉症の子供たちの保育施設にKeeponを置かせてもらう機会を得ました

実は自閉症にも以前より興味を持っていました。なぜなら、アイコンタクトや共同注意というものが自閉症の子供たちはいくらか苦手なんです。その影響もあるのか、言葉の獲得とかも遅い傾向がありましてので、それを調べるのにKeeponが役立つのではないかと考えました。

ちなみに保育施設には「ワイヤレスKeepon」という物を作り、子供たちの遊び場にこのKeeponを置いて、大人たちは離れた場所でモニタリングしたり遠隔操作したりしていました。そして、10年間で延べ1000人回以上の子供たちと断続的に実験を繰り返してきました。

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そこからある程度分かってきたこととして、上記のイラストは人が他者と対峙したときの概念みたいなものを図式化したものですが、普通の人は他者から発信される情報、たとえば関節や表情筋の動きから様々な情報みたいなものが発信されているのですが、その情報を受け止める際にフィルターみたいなもの、私たちは「心理化フィルタ」と呼んでいますが、それを通して他人の感情や意図を読み解き、そしてその他者と交流することができます。

しかし自閉症の子供たちの場合、この心理化フィルタがうまく機能せず膨大な生データがそのまま入ってきてしまうため、困惑してうまく交流できないようなのです。

一方で、Keeponはそうした心理的情報をシンプルな行動表現でするようにデザインされているので、心理化フィルタがうまく機能していない自閉症の子供たちでも情報を受け止めて交流できるのではないかと思いました。

実際に実験に参加してくれた子供たちは、Keeponの事をすごく気に入ってくれて、長時間一緒に遊んでくれていました。



「人間らしさ」をエンジニアとして解明したい

――ここまでのお話を伺って、先生にはロボット開発者という面や教育や自閉症を研究する面などをお持ちであることが分かりましたが、これらも踏まえて先生が今後進みたい・研究したいと思われているものは具体的にはどういうものなのでしょうか?

大きなテーマとしては「人間性」と言えるのではないかと思います。

実は高校の頃は医学に進みたいと考えていました。しかし大学に入ってから「言語」の研究を始めたわけですが、その研究も含めて人間性について深く理解したいという欲求がありました。

その後大学や大学院での研究、そして関西の研究所での勤務を通じて「私たち人間の根源は何だろう?」という事を追いかけ続け、そして「それをロボットにも与えたい」とも考えてきました。仮にロボットに実装できなかったとしても、人間性をエンジニアとして説明できるようになりたいと思っています。

言葉も含めて人間がするコミュニケーション能力や、協力し合う能力・性質は、実は他の動物ではあまり見られない「人間らしい」行動・能力と言えます。こういう人間らしさ・人間性が一体どういうものであるか?をエンジニアという立場で説明したい、言い換えるとプログラムで実装できるようになることが私が目指していることです。

たとえば自閉症の研究についても、自閉症を裏返しで言うと「なぜ私たちはコミュニケーションができるのか」という疑問とも言えると思います。そして自閉症を研究することは、人類が言語を獲得する謎を解き明かすことにもつながると思いますし、先ほど述べた人間らしさ・人間性を解明する核心に近づけるのではないかと思っています。


――自閉症の研究成果がどんなことに結びついていくかも、だんだん理解できてきた気がします。たとえば先ほどの心理化フィルタも、単に自閉症の方だけでなく多くの人々がストレス少なくコミュニケーションできる機能を果たす方向へ発展できるのではないかと思いました。

そうですね。たとえばインファノイドやKeeponで培った分析技術とAR技術を組み合わせて、もっとコミュニケーションしやすいようにオーバーレイして表示するみたいなことも、人間性を解明することで社会を発展できる事につながる・・・と言えるかもしれないですね。



お友達紹介

コモ:それではお友達紹介のお時間になりましたので、お友達をご紹介いただけると。

小嶋:それでは玉川大学の岡田浩之先生をご紹介したいと思います。

コモ:ありがとうございます。岡田先生に伝言はありますか?

小嶋:岡田先生、ROS2 の本をいつも拝んでおります。玉川大学が認知ロボット研究の一大拠点になってきて、いつも「すごいな」と感心してます。岡田先生は、プログラミングから研究所マネジメント、学会やロボカップの運営まで実に多才で、小嶋のロールモデルになってます。ちょっと褒めすぎですかね。コモさん、5割くらい引いといてください。

コモ:はい、今日はありがとうございましたー。

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