【UniTreat-DX-journey】#7.標準型カルテα版解説
1.はじめに
こんにちは、UniTreatの広報です。
私たちの以前の記事では、「国」が推進する標準型電子カルテの検討状況についてお伝えしてきました。
電子カルテ情報共有サービスなど医療DXのシステム群と連携し情報共有を可能とすること、また民間サービスとの組み合わせで医療機関の業務効率化を実現することを目指す標準型電子カルテ。その実現に向けて、具体的な取り組みが動き出しています。
今回は、昨年末に公開された厚生労働省の資料※をもとに、いよいよ始動する標準型電子カルテのモデル事業について、より詳しく解説していきます。
2.モデル事業の目的と概要
標準型電子カルテのモデル事業は、電子カルテ情報共有サービスを先行導入した地域を対象に実施されます。電子カルテ情報共有サービスや電子処方箋管理サービスの機能を標準搭載した標準型電子カルテのα版(試行版)を、実際の診療現場で利用してもらうことで、医療DXが想定する有用性や機能、使い勝手の検証を行い、課題を収集することを目的としています。
具体的には、以下の2点を主眼に置いています。
標準型電子カルテα版と、電子カルテ情報共有サービス、電子処方箋管理サービス、オンライン資格確認等システムとの連携確認
標準型電子カルテα版の利便性、実用性、有用性を医療現場と患者双方に実感いただくこと
特に2点目については、α版を実際に使ってもらうことで、電子カルテの情報共有がどのように診療の質の向上や効率化につながるのか、医療者と患者の両サイドから実感してもらえるような事業設計を目指しているようです。
3.モデル事業の対象と要件
モデル事業の対象地域としては、数か所の地域を想定しており、各地域に中核病院と連携する数施設の診療所という構成を考えているようです。病院と診療所や地域内の複数の医療機関で電子カルテ情報を共有できる環境を整え、その有用性を検証していく狙いがあるものと思われます。
対象施設の具体的な要件としては、以下が挙げられています。
医科の無床診療所であること、または標準型電子カルテα版の利用を希望する医療機関であること
オンライン資格確認等システムの環境を有していること
マイナンバーカードの健康保険証利用が可能であること
現時点で電子カルテを導入していない医療機関が主なターゲットとされていますが、α版の利用を希望する医療機関も対象に含まれている点は注目すべきポイントです。既存の電子カルテを使用中の医療機関でも、標準型電子カルテの利便性や将来性に魅力を感じれば参加できる余地があるということでしょう。
また、オンライン資格確認等システムの環境整備とマイナンバーカードの健康保険証利用が要件となっている点からも、モデル事業が単なる電子カルテの実証実験ではなく、医療DX全体の流れを見据えた取り組みであることがわかります。オンライン資格確認等システムを通じて、特定健診情報やレセプトから抽出された薬剤情報等も連携させることで、標準型電子カルテの真価を発揮させようという意図があるのでしょう。
4.モデル事業のスケジュール
気になるモデル事業のスケジュールですが、実施期間は2025年3月からの開始を予定しているとのこと。終了時期については現時点では未定ながら、十分な実証期間を確保した上で、効果検証とα版の改善を重ねていくことになるでしょう。
2024年度中にはモデル事業の準備が本格化します。2024年3月末を目処にモデル事業の実施地域が決定される見通しで、それと前後してα版の開発に向けた調達が行われる予定です。α版のシステム開発が始まれば、モデル事業の対象施設に対して適宜ヒアリングを実施し、設計・開発仕様に現場の意見を反映させていくプロセスが想定されています。
α版を使ったモデル事業は2025年3月から開始される計画ですが、それに先立ってシステムベンダ向けの連携テストや医療機関でのユーザー受け入れテストなども予定されているようです。本格運用に向けて、入念な準備と調整が行われるものと思われます。
5.開発体制
標準型電子カルテα版の開発は、デジタル庁がプロダクトオーナーを務めるプロダクトチームが担います。ここで重要なのは、医療機関システムの変革に意欲的な民間ベンダーを開発体制に巻き込んでいくという点です。
デジタル庁は、将来的に標準型電子カルテへの参入も視野に入れている複数の電子カルテベンダー(ベンチャー企業を含む)をメンバーとした「プロダクトワーキンググループ」を設置する方針のようです。α版の開発過程で、このプロダクトワーキンググループから標準型電子カルテの技術仕様に関する意見を幅広く吸い上げながら、開発成果物であるシステムやモジュールを各ベンダーが活用できるような形に仕上げていくことを目指しているとのこと。
つまり、単にα版を開発して実証実験を行うだけでなく、その過程で電子カルテベンダー各社の知見を結集し、標準型電子カルテの技術的な基盤を業界全体で共有できるようにしていく狙いがあるようです。モデル事業の先を見据えた、戦略的な開発体制だと言えるでしょう。
6.期待される効果
さて、ここまで見てきたように、標準型電子カルテのモデル事業は、医療DXを推進する上で重要な意味を持つ取り組みです。その成果に期待したいポイント私たちは以下のように整理しました。
6-1.医療の質の向上と効率化
何よりも、標準型電子カルテが目指すのは医療の質の向上と効率化です。オンライン資格確認等システムや電子カルテ情報共有サービス等と連携し、患者情報を横断的に参照できるようになれば、重複検査の削減や副作用の防止、多剤投与の適正化など、医療の安全性や効率性が高まることが期待されます。また、電子処方箋管理サービスとの連携で、処方・調剤情報をリアルタイムに共有できるようになるメリットも大きいでしょう。
6-2.患者自身も主体的に自身の医療情報に関心を持つ
標準型電子カルテには、患者自身が自分の医療情報を把握し、活用できるようにするという意義もあります。モデル事業では、マイナポータル等を通じて患者が自身の医療情報を閲覧できる仕組みも検証される見通しです。患者が自分の健康状態や治療内容を理解し、医療者とより良いコミュニケーションを取れるようになることで、患者中心の医療の実現に近づくことができるはずです。
6-3.医療機関の業務効率化と負担軽減
標準型電子カルテがもたらす効果は医療の質だけではありません。モデル事業では、民間の医療システムやサービスとの連携を見据えたα版の実装も検討されています。各医療機関の業務システムとの親和性が高まれば、現場の業務効率化や負担軽減につながることが期待できます。従来の電子カルテでは実現が難しかった業務改善が、標準型電子カルテを導入することで可能になるかもしれません。
6-4.ベンダー間の協調と競争の促進
α版の開発体制に多様な電子カルテベンダーが参画することで、標準型電子カルテの技術基盤が業界全体で共有されていくことにも注目です。ベンダー各社が共通の土台の上で切磋琢磨し、それぞれの強みを活かしたサービス開発を進められるようになれば、電子カルテ市場の活性化や製品の品質向上が期待できるでしょう。この動きは、特に中小の医療機関にとって、より使いやすく導入しやすい電子カルテの選択肢が広がることを意味するはずです。
7.まとめ:医療DXを加速するモデル事業に注目
いかがでしたでしょうか。標準型電子カルテのモデル事業は、単に新しい電子カルテを実験的に導入するだけの取り組みではありません。医療情報の全国的な共有基盤への接続を見据えつつ、関連する医療DXのサービスとの連携を実証し、電子カルテのベンダー各社を巻き込みながら業界全体の底上げを図ろうという、極めて野心的なプロジェクトだと言えます。
モデル事業の成果は、将来の医療DXの方向性を左右する重要な指針になるはずです。現場の医療者や患者にとって真に価値のある電子カルテとは何か、そしてそれをどのように実装し、普及させていくのか。これからのモデル事業の動向から目が離せません。モデル事業に参加する医療機関の選定状況や、α版の機能の詳細など、新しい情報が公開され次第お伝えしていきます。ご期待ください。
※ 第2回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ資料
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?