見出し画像

[自動車]中国新エネルギー車の最新市場動向をわかりやすく解説

1. はじめに

中国政府は電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)を新エネルギー車(NEV)(略称"新エネ車")として区分し、多額の補助金を支給して販売を後押しした。コロナ禍により、販売成長率の増加率が低下した新エネ自動車業界は2021年に入り少しずつ回復してきました。世界的なカーボンニュートラルの実現への追及と中国国内需要と供給の増大は中国の新エネ自動車業界の新たな成長の波を告げています。中国汽車工業協会によると、2021年の新エネ車の販売台数は2020年比2.6倍352万台と急増しています、そのうちの8割はEVです。
今回の記事では需要と供給の両方の側面から、現在中国新エネ車の市場動向を紹介していきたいと思います。

2. 需要

2.1. 大都市の厳しいガソリン車購入規制を回避するために、新エネ車を選ぶ若者が増加

北京、上海等の大都市はガソリン車購入制限が厳しいため、規制が緩い新エネ車を選択する若者が増えています。中国は地域により、自動車ナンバープレートの取得基準が異なります。北京、上海、杭州などの大都市は交通渋滞が厳しいので、新規ナンバープレートの発行は制限されています。例えば、上海の新規ガソリン車ナンバープレートを取得するためには、自動車所有者は上海居住権保有、三年間の上海の社会保険支払い記録保有、且つ過去一年間交通違反記録なしという三つの基準を満たしていなければなりません。すべて満たす人はナンバープレート申請権限がありますが、競売制なので、最近では取得するために9万元(150万円)程度かかります。一方、EVを購入する場合、EV用ナンバープレートは申請すればすぐ発行でき、費用は600元(1万円)程度です。

EVナンバープレートは緑背景に小さな"E"のアイコンがついています

近年、一般住宅街でもEV用の充電施設が設立され、自家用充電機械がなくても簡単に車を充電できるようになりました。そのため、人生初の車を購入する時、EVを選択する若者が急増しました。

2.2. 補助金が終了になるものの、新エネ車の普及が成功して一般消費者の購入意向は高い

新エネ車に対する需要は国の政策、金額、インフラ整備度等多くの要因に影響されます。中国では2009年から新エネ車導入を促進させるために、補助制度を導入し、政府は自動車購入時の税金免除や直接値引きなど多様な補助金を策定しました。特に政府部門と公共サービス部門は新エネ車を優先的に購入ことが決まりました。ただし、2017年以来補助金制度は少しずつ収まり、2022年末で完全に終了しますので、メーカーの採算悪化につながる可能性があります。

一方で、公共サービス用車と政府用車のToB利用から浸透してきたEVの購入と利用は、一般消費者向けにも広がりました。最初は新技術に対して不安がっていた人々もだんだん新エネ車に対する考え方を変えました。「通勤用車ならEVでも全然大丈夫だし、電気代はガソリン代より安いので、EVの方がコスパが良い」、「EVのデザインは未来感があり、かっこいい」という一般消費者も多くいます。

そして、新エネ車導入以来13年間経ち、充電設備は著しいスピードで拡大しています。2019年、全国充電設備数はすでに122万台あり、一般消費者でも大きな支障なくEVを利用できるようになりました。

もともとToBから始まった新エネ車産業は補助金の後押しによりToCへの普及に成功し、今後政府の補助制度がなくなっても、新エネ車は一般消費者にとって魅力のある選択肢として成長していくと予測する人が多いです。

3. 供給

3.1. 伝統的な自動車業界を再定義:モノの販売からサービス提供へ

近年のIoV(Internet of Vehicles)の発展に伴い、自動車メーカーのデジタルトランスフォーメーションも過去なかったスピードで進化しています。昔は自動車産業といえば、製造業のイメージが強かったですが、最近ではサービス業とハイテク産業のイメージで中国では認識されています。それにより、バリューチェーンも大きく変わり、先端開発と販売後の付加価値が重視されるようになりました。

デロイト中国の分析によると、中国の自動車アフターマーケット市場の利益は2025年で自動車産業バリューチェーンの55%を占め、伝統的な製造販売の価値は下がっていくと予想されています。ここでいうアフターマーケットも伝統の修理、メンテナンスや中古車市場だけではなく、シェアカーなどの新しいビジネスモデルも含まれます。また、先端開発領域においても、人工知能や電池に関する研究が多くなり、新しい技術の運用も期待されています。

3.2. 今まで自動車産業の舞台になかった「造車新勢力」の台頭

近年の中国新エネ車販売ランキングを見ると、「Xpeng」、「Nio」、「Li Auto」などの昔馴染のなかったブランドはよく出てくる。これらの新エネ車、特にEVをフォーカスし、IoVの開発を重視する新しい自動車メーカーは中国で「造車新勢力」と言います。

2014年、新エネ車企業に対する補助制度の影響で、中国の新エネ車業界の資金調達は前年度の14件から44件に増え、調達金額も2千万元から12億4千万元に増えました。また、資金調達のピークは2018年で、調達金額も888憶元に達しました。大量な資本を新エネ車業界に招かれ、新エネ車も本格的な産業として成り立つようになりました。

「造車新勢力」系のメーカーはGoogleやAlibabaのようなハイテクのバックグランドを持ち、一般の伝統自動車メーカーより組織構成が効率的、ユーザーの動向素早く把握して反応してくれます。一方、まだメーカーとして非常に若いので、伝統メーカーほどの深い経験はありません。

このような市場変動に敏感、かつ先進な技術をいち早く導入することにより優れた運転体験をもたらす自動車メーカーは多くのファンを集めています。ファンたちは自分が車を購入するだけでなく、積極的にブランドを宣伝することよくあります。

わずか数年間しか経っていないですが、「造車新勢力」系のメーカーは市場、政策、資本に囲まれながら競い合い、優れたブランドはすでに数十年間の歴史を持つ伝統自動車メートと同じ土俵で戦うことができるようになりました。

3.3. ユーザーの要望をいち早く応える「造車新勢力」と穏やかさを求める伝統メーカー

2020年と2021年(両方とも1月~11月)の中国新エネ車販売量からみると、Top10はTesla以外の外資、外資との合弁企業はありません。外資合弁企業の新エネ車のほとんどはもともとのガソリン車から改造されたもので、ゼロから設計開発する新エネ車と比較すると競争力は低いです。

Top10の中の上位はやはり伝統的な自動車ブランドです。

  • 第1位 BYD

  • 第2位 SGMW

  • 第4位 長城汽車

BYDの人気車種-漢、走行距離は605km、値段は21万元~29万元(約350万円~500万円)

新エネ車の浸透は毎年進んでいますが、新技術として信用できない人はまだ存在します。新技術のデメリットは技術が成熟し来ていないことで、車での移動は安全が第一なので、さまざまなIoV技術はかっこよくても、万が一事故が出ると大きな損になります。上汽、広汽等の伝統的なブランドは国民の中での認識度が高くて、たとえ新しいメーカーの車よりハイテク面の体験が落ちても、安全安心なので、信頼されています。

一方で、Top10の中で「造車新勢力」と言えるのは

  • 第3位 Tesla

  • 第7位 Xpeng

  • 第8位 Nio

  • 第10位 Li Auto

XPeng人気車種P7、走行距離は607km、値段: 22万元~41万元(400万~700万円)

Tesla以外はすべて中国ブランドで、この一年間の増加率も非常に高いです。ユーザー中心なので、顧客の意見をすぐ次のバージョンアップの時に検討できます。例えばXpengの顧客は3月に意見を出したら、6月のOTA(Over-the-Air Technology)の中で解決してれるだそうです。これは組織が重い伝統的メーカーがどのように努力してもできないことです。また、「造車新勢力」は自動運転、クラウド、V2X等の技術の開発能力を持っているので、より簡単に機能のバージョンアップを実現させることができます。

最後に

中国の新エネ自動車市場は過去の政策・補助金に支えられる産業から、本格的に製品・サービスで勝負する産業に変わりました。盛んな需要はより多くのリソースと資本をこの業界に招いていて、バリューチェーンもより充実してきました。これと同時に、優れた製品とサービスを提供してくれる造車新勢力も自分の顧客層を持ち、大量なリソースを持つ伝統自動車メーカーと同じ土台で勝負できるようになりました。

そのおかげで、業界全体の多様な発展が実現しました。競争もますます激化していくと予想される中、伝統的な自動車メーカーと造車新勢力がそれぞれいかに工夫しながら勝ち抜くか、今後注目していくべきところです。

次回以降の記事では、Xpengをはじめ、各造車新勢力の戦略と施策などを深掘って解説していく予定ですので、もしご興味ありましたら、是非弊社アカウントをフォローしてください。

Prime Arc Consultingについて

Prime Arc Consultingは、Web3.0・ESG・DXなど先端テーマとPMO・新規事業領域に強いブティックコンサルティングファームです。
独自のコンサルティングストラテジーと経験・知見が豊富な人材でハイクオリティ&リーズナブルなコンサルティングサービスを提供しています。

Prime Arc Consultingでは主に3つのサービスを展開しています。

  • 「Prime Arc Consulting」:コンサルタントによる伴走型支援で経営をフルサポートする経営コンサルティングサービス

  • 「プロサポ」:難易度の高い仕事や急な業務指示にも若手コンサルタントが丁寧に対応するビジネス秘書サービス

  • 「Power Unity」:上流案件獲得のための自社でのコンサルティング部門立ち上げをサポートするサービス

詳しくはホームページをご覧ください。

お問い合わせはこちらから

筆者:Qian

2016年から2年間、中国におけるSNS配信サービスの事業立ち上げチームに参加。2018年にBig 4コンサルティングファームに入社、自動車及び新エネルギー運用領域についてプロジェクト経験と深い知見あり。

参考文献

2022年新能源汽车投资策略—华鑫证券

https://www.sohu.com/a/517471979_120157024

https://www.icauto.com.cn/baike/69/695313.html

https://www.zhihu.com/question/452224549/answer/2003049215

https://www.bilibili.com/video/BV1BQ4y1r7Ue/

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM0835V0Y2A300C2000000/