家庭教師の旅(4)〜丘の上の秀才〜

 塾/家庭教師業の醍醐味の一つに、性格/学力/考え方/趣味/等において多様な学生と出会うことがあります。今回は家庭教師の経験上、特に印象に残っている生徒のお話をしようと思います。
 大学院時代、私は横浜の蒔田で男子中学生の指導案件をいただきました。指導場所は蒔田駅から約20分程歩いた先の、美しい根岸湾と工業地帯を眺めることができる非常に開放的な丘の上にありました。新しい地に自らの足で踏み入れ、景色、香りを楽しむのも家庭教師業の特権です。授業は大体土日の朝8時-10時に行われ、私は毎週暖かい日差しを受けながら丘を歩くことを楽しみにしておりました。
 男子学生の最初の印象は、礼儀正しい/真面目/誠実でした。部活のテニスでは主将を務め、クラスでは委員長を率先して引き受ける人物。事前に入手していた成績を見ると英・数・国・理・社満遍なく平均以上得点できており、所謂「優秀なの学生」と認識の上顔合わせをしたのですが、本当に表情/口調/仕草から心身のバランスがとれた優れた人物であると心の底から思いました。カウンセリングでは主に「数学の弱点分野を克服したい」、「得意な英語を更に伸ばしたい」の2点をリクエストいただき、定期テストと英検を見据えた学習計画を提示しました。その時点で「この子は必ず伸びる」と確信していました。
 私の予想通り、彼は宿題を卒なくこなし、毎回見つかる課題点克服に向けて積極的に質問しては私のコトバを真摯に受け止め、次の学習に活かしていました。定期テストの点数は鰻登り。更には部活動でも好成績をおさめるなど、例えるならば「進研ゼミ漫画のサクセスストーリー」を目の当たりにしました。しかし、それは彼の普段の努力が成せる業であり、中学生ながら常に己の「弱さ」と向き合い、それを乗り越えていたのです。
 私の定義する「優秀な学生」とは、つまり「人間力のある人物」です。それは礼儀や廉恥・克己心を備えた存在であり、彼らにとって優秀な学業成績は当然の帰結であると考えます。今回お話しした男子学生は、その点非常に人間力の高い方でした。教育の目的の一つは、こうした力の養成でなければならないと感じます。

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