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僕は福島ダービーを見るのが怖かった。


私は福島ユナイテッドというJ3のチームを知って7年、応援し始めて5年ほどになる。

応援するようになったきっかけは下記を読んでほしい。
(書いたのが古すぎるし拙いのでいつか書き直そうと思っている)
フィナーレの向こう側へ。 | サッカーは片手間に。 (ameblo.jp)



福島県のサッカーを語るうえで避けられないチームがある。
それが今季J3に昇格した「いわきFC」というチームだ。

2015年にいわきFCという存在が生まれたことは福島県のみならず、全国のサッカー界にとって「黒船来航」的な大きな出来事だった(と思う)。

言わずと知れたアンダーアーマー、つまりスポーツメーカーが直接母体となり運営するいわきFCの誕生はこれまでのサッカー界にはない出来事だった。
(正確に言えば違うが、サッカーを知らない人にも伝わりやすくするためにこう書いた)


おそらくサッカーが好きな大多数の人間がこのいわきFCが、福島県のサッカーが、日本サッカーが「これから面白くなりそうだな」と思っただろう。


でも、僕はそうは思えなかった。

本当にいわきFCが「怖い」と思ったのだ。

いくつか理由はあるけれど、まとめれば
「アンダーアーマーが本気でいわきFCというチームを強化すれば、ただの小規模クラブにすぎない福島ユナイテッドが小さいクラブなりに積み上げてきたものを全て持っていかれて、福島ユナイテッドは消えてしまうのではないか?
と思ったのだ。

消えてしまうと書いたのはもちろん、アンダーアーマーという大企業に福島ユナイテッドが潰されることじゃない。


どんな世界でも強いチームには自然にサポーター、スポンサー、知名度がついていく。

そして弱いチームからはそれらが離れてしまう。同じ県内であれば弱いチームから強いチームに流れてしまうのも何も不思議なことじゃない。

(これは私が鹿嶋出身で、水戸には水戸ホーリーホックというJ2のチームがあるのに関わらず、水戸在住の鹿島アントラーズサポの多さを知ってるからでもある)

そうしてサポーター、スポンサーを失った福島ユナイテッドが消えてしまうのではないか?

今となっては笑い話になるのかもしれないが、
当時の僕は本気でそう思った。


だからいわきFCが怖かった。

頼むから、福島ユナイテッドといわきFCでどちらが強いかはっきりと白黒つけさせないでくれ。


何度もそう思った。

でも、その機会は早々に来てしまう。

天皇杯都道府県予選。
県代表決定戦で2016年からいわきFCと5大会連続で決勝相手として当たることになるのだ。

結果は福島ユナイテッドの1勝4敗。
勝てたのも2016年の1回だけでその後4連敗と散々だった。



この5試合、私はどの試合も見るチャンスはあったのに、わざと見ようとしなかった。



怖かったから。

負けるのが怖かったから。

毎年J3の下位チームとしてシーズンを終え、愛する福島ユナイテッドが強くないと十分知っているのに、いわきFCより弱いクラブであることはどうしても受け入れたくなかった。認めたくなかった。

だって弱ければ、クラブがなくなってしまうかもしれないから。





そうして出ている結果に目を、耳を塞いでいるうちにいわきFCはJ3に上がり、遂にリーグ戦でのダービーが行われることになった。


同じリーグでダービーが行われるようになったことでいくつかわかったことがある。


・上記の理由に加えて、(傍から見れば)福島ユナイテッドが下部リーグのチームに負けるの?と言われる

・さらに「なんでそんな弱いチーム応援するの?」と言われる

これらも私にとっては怖かったのだ。

曲がりなりにもサポーターなのだからそんなネガティブなことばかり考えてどうするんだ、と言われるかもしれない。
でもこれは性分なので許して欲しいし、いわきFCがそれだけ素晴らしいチームであることを知ってることの裏返しでもあると思う。

少しだけ恐怖が軽くなったのを感じたので、思い切ってダービーのチケットを買った。


でも怖かった。

また負けてしまったら、と思うと。

その恐怖に追い打ちをかけるように、ダービーが近づくとチーム内でコロナクラスターが発生して主力の欠場が相次いだ。
ダービー前の試合もGKも無理やりFPと登録して、どうにか試合ができる状態だった。


また負けてしまったら、と思った。

現地ではDAZNで見るのと違ってチャンネルを回せないので、
自分の愛するクラブがボコボコにされるのを延々と90分見させ続けられるかもしれない。

怖い。


でも。

一番大変で、逃げられないはずの選手が戦っていると思うと、
チケットまで取って、逃げられないと思った。



そして当日。



まだ拭いきれない不安とユニフォームを袖を通し、福島駅からバスでスタジアムに向かいながらスタメンを確認する。

(おそらく)濃厚接触者で先週の試合に出れなかった主力選手が何人か戻ってきていた。もちろんフルメンバーにはまだ遠いのだが。

それを見て、泣きそうになった。

自分と一緒にいわきFCと、恐怖と、不安と、戦ってくれる選手がこれだけいるんだ、と思うと無性に目頭が熱くなった。


会場に着くと初めてのJリーグでの福島ダービーということで会場には人が溢れ、出店で賑わいを見せていた。この日の観客数4501人というのは福島ユナイテッド史上最もお客さんが入った試合になった。


ゴール裏からの景色。上まで入ってるのは記憶にない。

でも現在進行形で不安と戦っている僕は、「たくさん人がいるなぁ」としか思えなかった(でも見たことない光景だったので興奮はした笑)。いつも食べるスタグルも食べる気が起きなかった。


勝って欲しい。


それだけだった。


試合が始まると近くで応援を先導する太鼓が鳴らされ、それに合わせてたくさんの手拍子がスタジアムを包み込んだ。ここ最近ではほとんど見ない「ホーム」の光景だ。


ピッチで行われる一進一退の攻防。


気づけば僕は手拍子を止め、祈るように90分ただただピッチを見ていた。


勝って欲しい。


それだけだった。


結果は敗戦。

https://youtu.be/CbQK774c69k
ハイライトを見てもらえればわかるように、五分五分の戦いでどっちが勝ってもおかしくない試合だった。


負けを目の前にして、僕は驚くほどあっさりそれを受け入れた。

もちろん負けて悔しいのだけど、その悔しさはなぜか他のリーグ戦と同じくらいだった。


不思議なほど軽い悔しさを訝しんでいる間に、中3日で再戦の機会が訪れる。
天皇杯予選だ。

奇しくも僕はこの7年で初めて福島ダービーを用事で見ることができなかった。

用事を済ませて車の中で祈るようにTwitterを開く。







勝っていた。6戦ぶり、6年ぶりの勝利だった。

泣いた。

1-0というたった1行のシンプルな表記。これだけで泣いていた。


泣きたくなるぐらい嬉しいのだけれども、それだけではない「何か」で僕は涙を流していた。




現地の様子だったり、喜びを共有するために家に帰ってからTLを眺めると、
1つのツイートが目に入った。



人生が肯定された。


これだ、と思った。
福島ユナイテッドがいわきFCに勝ったことで、僕が愛してきた物が肯定された(気になった)。
その嬉しさと、誇らしさと、愛する物が肯定されたこと。
これで僕は泣いたのだった。



この2連戦を経て、僕からいわきFCへの感情は「恐怖」から「良き友人・ライバル」となった。

なぜそう変わったのか。
それは僕にとっていわきFCは「いじめっ子」に見えたからなのだと思う。

もちろん、いわきFCやそのサポーターさんに何かされたことがあるわけじゃない。

けれどもいきなり巨大な力をもってチームを強化し、福島ユナイテッドという小さな地方の1クラブを脅かしたその姿が僕にはどうしても「力の強いいじめっ子が幅を利かせて弱い子をいじめてる」ように見えたのだ。


歪んだ見方だ、と今でも思う。


その呪縛を解いたのはきっと、ダービー2連戦でいわきFCと互角に戦えたことだ。

いわきFCなんかには負けない。

それをピッチの上で証明できたことが、僕の中にある「強い」いわきFCが「弱い」福島ユナイテッドをいじめているという幻想を打破したのだ。


互角に戦う姿を見ることで、ようやく、7年経って初めて、いわきFCときちんと向き合えることができるようになった。





いわきFCさん
この度は遠く福島市までお越しいただきありがとうございました。
今度8月にそちらへ向かいます。
その時はまた、いい試合をしましょう。
よろしくお願いします。

福島ユナイテッドサポーターより。




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