Second Pain-3
なんやかんや初診が始まる。
清鐘 弘鷲「はい、あーんして」
金藤 実花沙「…!」
清鐘 弘鷲「いい子…。ふふ、綺麗な歯だね。歯並びも綺麗だ」
そこまで褒められたことなんか…、
いや待て。どうせお世辞なんでしょ。
清鐘 弘鷲「ん、ここか…気になるとこ…。うん…、君から気づいてくれたここは…、着色だね」
マジ?やった…!!!
清鐘 弘鷲「あとは大丈夫そうかな…?」
なんか怖いんですけど…!?
清鐘 弘鷲「あぁ、大丈夫、怖くないよ。…ふふ、なるほどね…」
…え?なんか笑ってる?
清鐘 弘鷲「怖がらなくても大丈夫だよ」
金藤 実花沙「ん…!」
な、何がしたいんだ、この歯医者は…!?
(ごめんね、痛かった?大丈夫?)
…え?脳内になんか声が響いてる…?
多分、チャラ男こと清鐘先生の声だ。
と、とりあえず…。
金藤 実花沙「(大丈夫です)」
心の中でそう呟いた。
(よかった。もうちょい辛抱しててね…)
なんだろう…、テレパシーみたいなもの?
相手は私の心が読めるのか?それとも、たまたま?
清鐘 弘鷲「もうちょっとだよ。…ふふふ、可愛い…」
え?可愛い…?耳元で…!?
いや、空耳だ空耳…!!!
とゆーかさ!絶対わざとやったんだろ、このチャラ男め!!!
清鐘 弘鷲「さて、この後予約とかはもうないし…、クリーニングの前に歯茎の検査と歯磨き指導とか一気にやりたいけど…、どう?」
金藤 実花沙「むしろお願いします。こちらの時間はまだたっぷりありますから」
清鐘 弘鷲「おけ、やっとくね。早速だけど、レントゲン撮らせてね。レントゲン室へ案内するよ。おいで」
レントゲン撮影が終わり、詳しい説明が行われた。
清鐘 弘鷲「ここの親知らず、ちょいと斜めに出て前と隣接しちゃってるね…、歯茎の方も歯周ポケットが深いね…。抜歯はいつかは必要だ。ここは様子見しよう。ちなみに親知らずの抜歯は俺がこのクリニックで1番上手だから安心してね」
金藤 実花沙「は、はい」
親知らずの抜歯はいつかは必要らしい。
清鐘 弘鷲「うん、あとは大丈夫そうだね」
まぁ、今回は大丈夫そうだ。
説明とかはほんとにすごい丁寧にやってくれた。ものすごい納得できるレベル。
細かな検査も順調に進んでいく。
清鐘 弘鷲「よし…、お待たせ。必要な物は取ってきたし…、俺はここにいるよ、実花沙ちゃん」
金藤 実花沙「(こくり…)」
清鐘 弘鷲「ふふ、怯えなくても大丈夫だよ…」
…?
実花沙…ちゃん?
僕の名前…、呼んでくれてる…?
…チャラ男のシトラスの香りに気分が和らいでいく…。
…香水なんか使ってるのかな?
と考えていたら診察台がまた倒れていく。
怖くてなかなか頭をつけられない。
清鐘 弘鷲「実花沙ちゃんのタイミングで頭倒しても大丈夫だよ。ゆっくりでいいからね」
金藤 実花沙「は、はい…。」
ちゃんと患者さんごとに合わせてくれるんだ。
優しい…。
なんとか勇気を振り絞って頭を倒す。
清鐘 弘鷲「力を抜いてごらん?」
金藤 実花沙「んん…」
清鐘 弘鷲「そうそう。大丈夫。今日はお掃除だけで終わるよ。他に悪い部分はなかったし。…、そうだ。お掃除する前にマッサージするね」
人生初の歯医者でのマッサージを経験した。
清鐘 弘鷲「どう?気持ちいいかい?」
金藤 実花沙「(こくり)」
清鐘 弘鷲「よかった…!こうやって患者さんにマッサージするの、君が初めてだから…、頷いてくれて嬉しいよ」
わ、私が初めて!?
でも…、なんだか嬉しそうだな。
清鐘 弘鷲「大丈夫…、怖くない怖くない。怖くないよ…」
歯医者でマッサージされたのガチで初めて…。そっからすごく色々と和らいだ。
清鐘 弘鷲「よし、力が抜けたところで始めようか。俺はどこにも行かないからね。痛かったら左手挙げるんだよ。…我慢はなしね」
チャラ男の言葉を信じて僕は頷いた。
そして、クリーニング、スタート。
…、
うん、全然痛くなかった。
お兄さんの腕はどうやら本物のようだ。
すげー。
清鐘 弘鷲「よく頑張ったね。口を大きく開けてくれてやりやすかったよ。ありがとう」
金藤 実花沙「そ、そんな、大したことじゃないです…」
清鐘 弘鷲「ふふ、そんな強がっちゃって。…でも、君のような強い子は好きだよ」
金藤 実花沙「…は、はぁ」
強い?
好き?
…騙されない。
そんなお世辞、私には通じない。
…僕にそんなものは…!!
清鐘 弘鷲「次は2、3ヶ月後でいいかな。予約、取ってく?」
金藤 実花沙「はい」
清鐘 弘鷲「オッケー!…これでよしっと…。…ねぇ、お初にお目にかかりますって君、言ってたよね」
おいおい急にマスク取ってきたぞ…!?
金藤 実花沙「…え、えぇ…」
え!?顔近いんですけど!?
…んん!?
顎クイしてきた!!!
あの世界中の乙女がされると興奮するやつ!?
嘘…、されたの初めてなんだけど…!!!
清鐘 弘鷲「…俺、君と同じ小学校で5歳上だったの」
金藤 実花沙「え」
えぇ!?知らん知らん!!
清鐘 弘鷲「まぁ、名前名乗ってなかったし、わからんでも仕方ないね…。…、君、特別支援学級のゼリー学級にいた女の子でしょ」
金藤 実花沙「は、はい。確かにそうです」
清鐘 弘鷲「…、俺さ、昔、よく君と滑り台で遊んでたんだよ。よく君を追いかけていたお兄さん」
…ん?…それは覚えておるけど…、
金藤 実花沙「た、確かにいましたね」
清鐘 弘鷲「そう、俺だよ。君と追いかけっこしてるの楽しかったよ」
え、あんただったんかい!
しかも、追いかけっこが楽しい…?
変わった人…。
金藤 実花沙「楽しんでいただけて光栄です」
清鐘 弘鷲「君、礼儀正しい子だね。あ、これはいい意味」
金藤 実花沙「あ、これは…、私の悪癖で…」
清鐘 弘鷲「そんなことないよ。ものすごく丁寧なところ、俺も見習いたいな〜。特別支援学級にいたとはとても思えないくらい。よく兄さんたちに怒られちゃう。チャラいって」
まぁ、確かにチャラい。
金藤 実花沙「人それぞれ違いがあっていいんですけどね…」
清鐘 弘鷲「そうそう!そうだよね!」
…って!なんでそんな男と会話盛り上げようとしているの私!?
清鐘 弘鷲「よし、…もしよかったらだけど、…これ、俺の連絡先」
金藤 実花沙「え、い、いいんですか?」
清鐘 弘鷲「うん!改めまして、清鐘 弘鷲です。万が一歯が痛くなったら言ってね」
名刺渡してきたぞ…!?名刺渡す歯医者なんて初めて見た…!!
まぁ、歯が痛くなったらこのチャラ男に連絡するか。
金藤 実花沙「では、頂戴いたします」
…あらま、黄色い可愛らしい名刺や。ちょこちょこっとお兄さんの連絡先が書かれとる。
ようやくお会計を済まして帰れた。
初診にしてはかなりお得な価格であった。なんとお財布に優しい。
…、
ん…?
これ、ファンタジー物語…、ですよね?
『エモーショナルフロート』ですよね…!?
乙ゲーじゃないよね!?
それなのに乙ゲーみたいな展開になったらどうしよう…!?
なんか…、流行りのシチュエーションボイスの台本みたいな雰囲気…?
いや待て…!
相手は絶対にお世辞で言ったんだよ…!!!
イケメンだし絶対彼女さんはもうおるおる!!!
騙されないんだから!!!