Second Pain-2
その次の日の夕方、今度は歯医者…。
金藤 実花沙「清鐘歯科クリニック…」
初めて行くところ。口コミの評価は星5つ中の4.8。
1つだけ悪評があるくらいであとは何も悪くなかった。
その悪評とは、「女性だけのクリニックじゃないのに予約者が女性で集まって予約なかなか取れない!」…とのことだ。
私のはたまたまラッキーだったんだな〜。
…おまけにあそこのクリニック、歯医者がイケメン揃いだそうだ。
ちなみに私がこれから行くところは北区に最近できた分院だ。
金藤 実花沙「よし、歩いていくか…」
緊張しながら歩いていく。
金藤 実花沙「…、よし、入るぞ…」
…?
清鐘 弘鷲「こんばんは〜」
金藤 実花沙「あ、こんばんは」
あれ?金髪のポニーテールのお兄さん?
前髪も可愛らしい黄緑のヘアピンで留めてるし。
…わぉ…、イケメン…!
他に人はいないのか?
それに…、受付の人って感じじゃないな?
名札…、よく見たら「清鐘 弘鷲」、その下に「歯科医師」って書いてある。
す、すげぇ…。
金藤 実花沙「お初にお目にかかります。わたくし、金藤 実花沙と申します」
清鐘 弘鷲「金藤さんですね。では、初診ということですのでこちらに記入をお願いします。わからないことがあれば遠慮なく聞いてくださいね」
金藤 実花沙「かしこまりました」
私は黙々と必要事項を記入し、呼ばれるまで待機したのであった。
清鐘 弘鷲「金藤さん」
もう呼ばれた!?
さっきの人とおんなじやん。
ささっと診察室に入って…、
ピュンッ!!
金藤 実花沙「あっ!」
清鐘 弘鷲「あらら、大丈夫ですか?」
右のスリッパを飛ばしてしまった!
金藤 実花沙「ご、ごめんなさい…!っよいしょっと…、申し訳ございません…」
清鐘 弘鷲「ふふ、大丈夫ですよ。床、滑りますもんね」
金藤 実花沙「は、はい…」
うわぁ最悪…。
イケメンの前でやっちまった…。
…気を取り直して診察台に座ったのであった。
清鐘 弘鷲「今日担当します、歯科医の清鐘 弘鷲です。よろしくね」
金藤 実花沙「よろしくお願いいたします」
清鐘 弘鷲「…緊張してる?」
も、もうタメ?
金藤 実花沙「は、はい…」
清鐘 弘鷲「ふふ、大丈夫。俺さ、みんなから上手だって言われてるから」
金藤 実花沙「は、はぁ…」
まぁ、自信おありで。
清鐘 弘鷲「今日俺でびっくりした?」
なんだこいつ、なんか馴れ馴れしいな。
初対面なのに。
金藤 実花沙「え、えぇ…、他の方々は?」
清鐘 弘鷲「俺1人だけなんだ〜、みんなさっさと帰っちゃったよ〜」
金藤 実花沙「先生お1人なんです?」
清鐘 弘鷲「そうそう!ここの院長やってる兄上とか今日は休みだし…、衛生士さんもほとんどベテラン揃いでさ!まぁ、歯科医で俺と同い年の人が最近入ってきたけどね。…ということで俺下っぱだからさ、後片付けとかもみんな任されてんの。あ、いつもじゃないよ。今日はたまたま…」
金藤 実花沙「下っぱ…。お疲れ様です」
あ…、ホームページのスタッフ紹介に下っぱと思われる位置にあったかも…。(失礼)
清鐘 弘鷲「どうも。…じゃ、今日の診察は君で最後だし、じっくり診させてもらうよ」
金藤 実花沙「お願いします。…もし、悪い部分があったらさっさと治してください」
清鐘 弘鷲「ん、気持ち的にそうなるよね。…よし、わかったよ。悪い部分はみんな治そうね。…気になるところ…、どっかある?」
金藤 実花沙「え、えっと…」
チャラ男にバンバン気になる部分を言ってやった。
…みんな、早期発見早期治療は本当に大事だぞ…!!
清鐘 弘鷲「うん、了解!とりま診ていくね」
金藤 実花沙「(こくり)」
清鐘 弘鷲「さぁ、楽になろうね」
このチャラ男はそう言ってゴム手袋をしたのであった。
清鐘 弘鷲「怖い?」
金藤 実花沙「…い、いやそんな…、もう25歳なのに」
清鐘 弘鷲「ふふ、強がらなくてもいいんだよ?大丈夫。俺も患者サイドだと怖いもん。…君が納得するまでいきなり歯を削ったりはしないよ」
そんなこと言って…、どうせ…。
清鐘 弘鷲「…君は今まで歯医者で嫌な思いしてきた?」
なんでわかった!?
まるで私の心を読んだかのように…。
金藤 実花沙「…」
清鐘 弘鷲「話せる範囲でいいから話してほしいな」
金藤 実花沙「…、初めて治療されたのは…」
仕方ない。
思う存分に話して自滅しよう。
どうせくだらない。
清鐘 弘鷲「え…?納得していないのにいきなり歯を削られた?そんで、歯医者も曖昧な返答しかしないでいきなりゴリゴリ削ってきたんだ!?麻酔なしで?そりゃ痛いし嫌だったね…。当時の歯科衛生士さんも上から目線で…、やだな…。よく耐えたね…。めっちゃ偉いよ。その人たちはきっと説明するのが無駄だと思ったんだね。説明なしとかマジでありえない」
金藤 実花沙「…それだけじゃない」
大学生の時に受けた再治療の時も…。
…別のクリニックで特に嫌がらせとか一切していないのに私に対して態度が悪かった歯科衛生士に話を遮られて頭を押さえつけられた時も。
清鐘 弘鷲「うわ…、やなおばさん歯医者と衛生士だね…。何か返事とかしてくれればまだよかったのにね。無視はさすが酷いな…!」
金藤 実花沙「…」
清鐘 弘鷲「あと、押さえつけるのもどうかしてるし。何も嫌なことしてないのにね?」
金藤 実花沙「はい…」
…なんで?
なんであの人は僕のために怒ってくれるんだろう?
…たかが他人だろうに。
…?
僕の左の頬にあったかいのが…?
…あっ…、
チャラ男の手だ…。
ゴム手袋越しなのにあったかいの伝わってくる…。
清鐘 弘鷲「…大丈夫、俺はそんなことしないよ。君のは初診なんだけど…、俺、いろんなところで研修受けて経験積み重ねてるし…、腕にも自信があるんだ。君に負担がないように頑張るね」
金藤 実花沙「は、はい…!」
そう言われて勇気が湧いてきた。