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明日の独裁

タイトル:明日の独裁

イントロ〜

あなたは、周りに合わせることが好きですか?
それともなんでも自分の思い通りにし、
独裁で世界を作り上げることが好きでしょうか?
でも得てして人間は、そのどちらもを持ち合わせている生き物だと言われ、
その2つは表裏一体、欲望がある限り
周りに合わせる事も独裁の手足の1つ、とされる
少し専門的な教えもあるようです。
今回は、1人の女性にまつわる不思議なお話。
彼女も周りに合わせる事と
自己本位に生きたいとする独裁の狭間で
人知れず、悩み続けていたようです。

メインシナリオ〜

ト書き〈自己紹介の形で〉

私の名前は大池京子(おおいけ きょうこ)。
今はもう50代になるエッセイスト。

毎日、いろんな原稿依頼を持ち込まれ、
その依頼テーマに合わせて文章を書いている。

その昔、私は芸能界に少しだけ居た経歴があり、
芸能活動は適当に終えて、その後はスタイリストやファッションデザイナー、
その経過を得てからテレビやラジオのナレーション、パーソナリティー、
そしてそれまでの経験を生かした作家として
今はそれなりの仕事についている。

そして自分に一番合ってると思ったのが今やってるこの執筆稼業。
これまでずっと周りに合わせて生きてきた私が、
唯一、自分の思惑や感性で1つの世界観を作り上げる。
この創作にも通じる仕事の世界観が、
今の私にとっては何より大きな魅力になっていた。

でも…

ト書き〈トラブル〉

編集者「大池さん。今度の記事は申し訳ありませんが、ボツになりました」

京子「ええ?どうして?」

編集者「いえ私としては、大変面白くて興味深かったんですけど、上の者が首を縦に振らないで。…なんていうか、個性が無いっていうか…。これまで何度かあなたにお伝えしたいと上の者も言ってたんですが、どうやら今回、それがネックになってしまったようで…」

ずいぶん遠回りな言い方だったが、
結局、私の書くものは認められず、その理由が…
「他の誰が書いても同じようなものになる」
とされた個性の無さ。

つまりもう私に依頼する意味が無いとして、
他の誰かに原稿依頼を持っていく、
核心部分はそれだった。

(1人で悩む)

京子「はぁ。なんとなく…いつか言われるかなぁってわかってた事だけど、ああはっきり言われちゃうと、結構傷つくもんだなぁ」

今まで原稿依頼され続けた理由は
私がそれなりの有名人だったから?
結局は名前にあやかる形で、飽きられた頃に捨てられる。

これはショウビジネスだけでなく、一般の世間においても同じような事が言え、
その飽きられる・捨てられる事までの助長と成るのが個性の無さ、
延いては実力の無さ、結局、その人に依頼する意味が無くなると言われるまでの、
「存在感の無さ」にまで行き着いてしまう。
捨てられた人にとってはこの上ない侮辱になるもの。

私は悩んだ。初めてこんな事で悩んだ。

京子「…そう言えばこれ迄の私、一体何だったんだろ…?誰かにこうしてああしてって言われたらその通りにしてきて、それ以上、自分で何かしようなんて思いもわかず、それへの欲望とか野心とか夢とか、全部どっかに置き忘れて来ちゃったみたい…」

私は芸能界・テレビ・ラジオの世界に居た時、
自分を商品だと思っていた。

誰か1人でもその時の私を見て喜んでくれたら良い、
その程度に考え、その立場をもって自分で何かしよう、
こんな夢を展開して行きたい、こんな夢と理想を叶えたい!
そんな気持ちは一切沸かせないよう努めてきていた。
これはおそらく、生まれ持った性格なのか。

ト書き〈回想シーン〉

京子「え?」

女友達1「京子はさぁ、もっと自分を出さなきゃダメよ。何でもかでも人の言いなりでさぁ、自分ってものが無いわけ?…そんな事ない筈でしょう?」

女友達2「あなたにだって夢があるんじゃないの。その事も全然言わないでさ」

女友達3「なんか京子見てるとさー、人生を自分で生きようってする覇気が無いっていうか、ほんとに何か生活っていうものに希薄な気がするのよねぇ」

そんな事もこれまで散々言われてきた私。
「人生に対する覇気が無い」
「生活への意欲が本当に希薄」
この2つの言葉が本当に私の心に残り続けた。

スタイリストやデザイナーになったのも、
パーソナリティーになったのも、
そもそも短い期間だったけど芸能界に入ったのも、
そのとき周りに居た誰かが勧めてくれたから。
親だったり、友達だったり。

自分で何かしようと思って決めたのは、
本当に今やってるこのエッセイスト…これだけ。

でもこれにしたって、依頼者の要望・テーマに合わせて
その時思ってない事でも書き続けてきた、
心にも無いことをやはり書いてきていた、
そんな事の繰り返し。

でも当初は周りの人がそれでも私をもてはやし、
半ばアイドル的存在にさせられて
いい気になり、そのまま今まで流れてきていた。

本当に、水が何の抵抗もなく上から下へ流れるように
私も現時点(ここ)まで流れてきている。

京子「……私って、一体、何なの…」

ト書き〈バー『Dictatorship In its True Nature』〉

そんなある日、私は1人で飲みに来た。
いつも通っていた飲み屋街。その時…

京子「あれ?こんなお店あったんだ」

見た事もないカクテルバーが建っている。

京子「『Dictatorship In its True Nature』?なんか変な名前。それに長いし」

でも興味を惹かれ、そこに入って、
いつものようにカウンターで1人飲んでいた。
していると…

セルカ「こんにちは。お1人ですか?もしよければご一緒しません?」

と1人の女性が声をかけてきた。

彼女の名前は木津(きづ)セルカさんと言い、
都内でメンタルコーチの仕事をしていると言う。

別に断る理由もなかったので私は隣の席を空け、
しばらく談笑して2人で楽しんでいた。

でもそのうち不思議な気持ちになってくる。
なにか「ずっと前から一緒に居てくれた人」
のような気がして、心が少しずつ開放的にさせられる。
そして私は今の悩みを全部彼女に打ち明けていた。

セルカ「…なるほど。あなたは今になって、本来の自分を取り戻したい、そう願われてるんですか?」

京子「ははwこんな歳になってこんなこと言ってるなんて、ホント子供みたいですけどね」

彼女は真剣に聴いてくれた。

セルカ「いえ、そういう事で悩んでいる方は、現在本当に多いんですよ?わかりました。それではあなたにピッタリな世界へお連れしましょう」

京子「え?」

そう言って彼女は私を連れて店を出て、
何を思ったか、私の家へと案内したのだ。

ト書き〈京子の自宅〉

京子「…あの、ここ、私の家なんですけど?」

セルカ「ええ、どうぞこちらへ」

京子「は、はぁ…?いや、あのちょっと…!」

鍵を閉め忘れていたのか。
彼女がドアノブに手をかけるとドアはそのまま開いた。
そして部屋の中に入り、寝室のドアの前で立ち止まった。

京子「ちょっと何してるんですかあなた!ここ私の家ですよ!?そ、それになんで私の家のドア勝手に開けられたの!?」

その日初めて会った初対面の人・赤の他人に、
私は自分の家を案内されている。
この奇妙な光景は一体何なのか!?
と思う間もなく…

セルカ「さぁこのドアを開けてごらんなさい。あなたがずっと夢に描いてきた、その素敵な世界があなたを待っています」

ここで彼女に対する2つ目の不思議に気づく。
それは、彼女に言われたらその気にさせられる事。
思えば、自分の家に案内されていた時から
そうなっていたのかもしれない。

そしてその時も彼女の言う通りにし、
私は寝室のドアを開けて中に入った。

ト書き〈パラダイスのような世界〉

京子「ええ!?う…うわぁ…」

夢を見ていたのか。不思議を通り越した、まさに信じられない景色が私の目と心に飛び込んできた。
寝室である筈のその部屋が大豪邸に変わっている。まるで宮殿のよう。そして…

召使い1「姫、お帰りなさいませ。ダイニングの準備が整っております」

召使い2「姫様、あなたが来られるのを国民が待っております。お食事を済まされたら、ぜひこちらへ」

大理石張りのダイニングルームが用意され、
その向こうには宮殿の柱が何本も立ち、
そしてその空間の向こうには、国民が私の言葉を待っていると言う
その舞台まで用意されていた。

でもそれを見て「なにこれ…?」とはならなかった。
それがやはり夢の中の世界だったからか。
まるで夢の力を借り、全てが納得させられるよう、
私はその夢に与えられた自分のポジションを
躊躇せず、何の疑問さえ持つ事もなく、そのまま享受したのだ。

ト書き〈独裁の始まり〉

京子「良いか諸君!今後は私が決めた法律、常識、合理、世界の基準に従って、その生活を営んでゆくのだ!これに反する者は何人(なんびと)でも容赦なく駆り立てて行く!良いな!!」

国民「ははぁ〜〜〜!!!」

そこはもはや私の世界だ。
私が決めた事が全部世界に通用し、その通りになっていく。
法律は私。国民の常識も私が取り決めた事。
これに反する者は「駆り立てる」と言ったが、それは粛清の事。

何もかもが思い通りに進む世界。

(1人寝室にて)

京子「…はは…ハハ…これよ。…これが私の生きるべき世界。これこそが私のこれまで長年ずっと持ち続けてきた、理想の世界…」

1人でその世界の寝室に居た時、
ふと、身の周りに人の気配が漂った。

京子「…セルカさん…」

セルカ「いかがですか?この世界こそ、あなたがずっと長年持ち続けた夢の世界。その世界の素晴らしさを今、あなたは再確認されてらっしゃるんじゃないでしょうか?」

私はこの時、彼女の正体に気づいた気がした。

ト書き〈現実〉

そして私はいちど現実に帰る。

そしてそれから好きな時に寝室のドアを開ければ、またあの夢の世界。
私だけが世界の全ての物事を決められる、私の独裁の世界に行けるのだ。

寝室のドアを開ける時、その気になってドアを開ければ、その世界が私を待っている。

(現実で友達と遊ぶ)

それからというもの、私はこの現実の世界で誰と会っても、どんな仕事についていても、それまで悩んできたような悩み事は一切姿を消した。

他人に合わせきりの人生。これにも全く苦を覚えず、流されるだけ流されて、行き着いた場所ではどんな事でも、楽しみに置き換える事ができてしまう。

(またあの世界)

そして独裁の世界へ舞い戻り…

京子「皆の者ぉ!私の言う事を聞けぇ!!私が決めた事・言った事は絶対だぁ!!それに反する者は容赦なく葬るう!!」

そのストレス・鬱憤を晴らし尽すべく、
私は容赦なく独裁の世界を満喫して生く。

これで「何とかバランスが取れていた」と言うレベルは軽く超え、私は本当に幸せの絶頂にあったのだ。

おそらくあの夢の世界の出来事が、現実で本当に起きているかのようにして、
私の心と体を楽しませてくれていたからだ。

ト書き〈京子の寝室のドアの前に立ちながら〉

セルカ「今日も独裁ぶりを謳歌しているようね。存分に楽しめてるみたい。私は京子の心と本性から生まれた生霊。心の奥底に隠れた、その夢を叶える為だけに現れた」

セルカ「人は誰でも独裁の心を持っている。普段はそれを見せないだけで、共存と言う名のルールの下(もと)、周りに溶け込んで無難に暮らす。目を付けられて、しょっぴかれでもしたら大変だものね」

セルカ「これからも京子は、周りの人に合わせ続けて生きるでしょう。でもこれ迄の様にはもう悩まない。別で自我を発散できる空間を手に入れ、その感動が延々続くでしょうから」

セルカ「交差点を渡る人。道端を歩いている人。駅のプラットホームに立ってる人。電車にいる人。テレビに出てる人。もちろん自宅に篭っている人まで、みんな京子のように独裁の自分を隠して暮らしているわ」

セルカ「でもどうかその独裁が、あの寝室で見る夢の範囲を超えないように。京子には言い忘れていたけど、寝室の内側からその気になってドアを開ければ、次は外の世界が、自分の独裁が許される世界に見えてしまう…」

セルカ「つくづく人の欲望は果てしなく、その欲望が取り決める常識も曖昧なもの。一線を飛び越えて、取り返しの付かない事にならないようにね…」

動画はこちら(^^♪
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