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~幻想(ゆめ)の死体安置(モルグ)~(『夢時代』より)

~幻想(ゆめ)の死体安置(モルグ)~
 言葉の消えない宙(そら)の上では人物模様が散漫に在り、俺の気色を離れる気色が、俺の良く識(し)る仲原中也に散見され得る。仲原中也は女性(おんな)に在って、幼馴染の幼女であった。星の咲けない静かな夜にも、己を照らせる一等星など宙(そら)へと持ち上げ、他の女性(おんな)にぐんぐん差を付け〝女性(おんな)〟を舞え得る、娼婦の質さえ無駄に有した傀儡に在る。俺の記憶は現在(いま)を飛ばして過去に居座り、華やぐ思春の時期には自分の身元を一切問えないもどろに降り立ち、今から失(き)え行く彼女の延命(いのち)を、小さく仕立てて掌へと乗せ、在る事無い事、夢遊の内にて端境期を彩(と)り、「明日(あす)」の闊歩に女性(おんな)を見上げて浮沈に在った。過去の記憶に人間(ひと)から透った影響が在り影響力へは俺の唾液が肢体を掲げて羽ばたいては消え、仲原中也は己の輝体(きたい)を拡げる内にて、俺から通(かよ)った微温(ぬる)い感覚(いしき)を揺さ振り続けた。暫く落ちない気力(ちから)を伴い、この世で憶えた延命(いのち)を頬張り、延々独歩(ある)ける一路(いちろ)を見付けて夕暮れを識(し)り、仲原中也の美体に咲き得る小さい発音(おと)への感覚(いしき)を認め、明日(あした)から咲く無業の私事(しごと)に精を出し生(ゆ)く淡い個体を自身に課した。ずっと眠った俺の心身(からだ)は、自分を取り巻く無機の牢屋に想いを掲げて向かって行って、俗世(この世)に生れた延命(生:せい)の在り処を、散々生き得る理想へ透らせ太陽を観る。嘗て憶えたギリシア神話の両腕(かいな)に包(くる)まり〝神話〟を想い、ローマ神話の二立てを何無く自分に認めていながら、俗世の辛さを一切捨て得る自分の延命(いのち)をあからさまに識(し)り、自分一人で生き行く生命(いのち)を俗世(この世)に知り得て謳歌するのを、誰にも隠して自室へ籠って決心して見た。白い無体が仲原中也の幻想(ゆめ)から浮き立ち、ほっそり返った清閑(しずか)の内にて活生(かっせい:活性と殆ど同意)している。仲原中也は俺の生れた独房へと来て在る事無い事散々喚いて輝体(きたい)を象(と)り上げ、俺に生れた生(せい)への悲哀は両親(おや)が在るのに相当するなど、無暗へ隠した覇気を取り上げ、俺の寝床へ持ち込む程度に言を飛ばして活き活きしている。仲原中也は女性(おんな)に寄り付き、硝子ケースに躰を透かした奇妙を象(と)り得る。俺の両眼(りょうめ)は人間(ひと)に息衝く感覚(いしき)を通して活性するのか仲原中也(かのじょ)を観てから自室(へや)を間取りを忘れ始めて、遠くへ浮かべた理想(ゆめ)を追い駆け、黒(くろ)んだ瞳(まなこ)を父との間(あいだ)に根深く敷かれた息子が仕上げる確執へと向け、自分の母には自分が現行(いま)に活き得るあらゆる気熱の水面(みなも)を識(し)って、滔々流行(なが)れる少ない記憶の延長線には、仲原中也が落した拙い記憶がちらほら舞いつつ明るく仕上がり、俗世(この世)で生き得る涼風(かぜ)の内(なか)へとことこと独歩(ある)いた「明日(あす)」への記憶は、白体(からだ)を失くして轟々畝(うね)り、〝無駄〟を愉しむ脆(よわ)い生気を大事に思って活気を帯びた。たったこれだけ想う間(あいだ)に、俺の記憶は仲原中也(かのじょ)を通(とお)って宙(そら)へと昇り、白雲(くも)の隙間に小さく生き得る独創(こごと)を拾って戻って在った。
 俺の心身(からだ)は中学生時に深く夢見た女性(おんな)の女体(からだ)を参観しながら、奇麗に揃えた人間(ひと)の生き餌(いきえ)を自身を衝動(うご)かす水面(みなも)へ取り込み落ち着かせていて、〝在る事無い事〟無駄に囁く仲原中也の体裁(かたち)を追い駆け、供に耽入(ふけい)り、童心(こどもごころ)に丈夫に降り立つ生気の息吹を感じ始めた。心の白地に文字を書き付け活き活きし始め、スパイの内実(なかみ)を添えるようにと、俺の身近に常時(いつも)咲き得る生気を見せ付け狭い我が家に生きる両親(おや)から、到底活気を貰えないのは承知の通りに受け取りながら、それでも〝根深(ねぶか)〟く童心(こどもごころ)に居残る〝分身(かわり)〟は俺の衝動(うごき)を暫く眺めて無口を取り付け、現行(いま)の自室の旧い机上(つくえ)に仄(ほ)んのり騒いだ褐色写真を大事に取り上げ胸中(むね)へと秘めて、仲原中也(かのじょ)に出逢える逢瀬の思惑(こころ)へ傾斜する内、仲原中也(かのじょ)へ寄り添う他の女性(おんな)へ気を奪(と)られていた。こういう体裁(かたち)に自分が立ったら環境(まわり)が如何(どう)あれ荒れて行くのは自分の経過に緩々伴い識(し)って在ったが、それでも懐ける甘美の思春(はる)へは現行(いま)を棄て得る強靭(つよ)い両眼(まなこ)が確かに咲き得て分身(かわり)を見据え、俺の分身(かわり)が現行(いま)の無暗(やみ)からちょろちょろ流行(なが)れる経路を識(し)るのは、現行(いま)から離れた遠い以前(むかし)に遡(のぼ)らぬ情事(こと)にて、俺の歯茎は血染めの衣装を羽織りながらも、転々(ころころ)空転(ころ)がる旧来(むかし)の個体(からだ)を想ってあった。彼女の裾から正しく流行(なが)れる血液など観て、遠い過去(むかし)にいきなり咲き得た女性(おんな)の摂理を自然に見て採れ、現行(いま)の現行(いま)まで俺と彼女と上手に囲んだ景色の裏には、男性(おとこ)と女性(おんな)に根深く絡まる人生(せい)への意識が昇って在った。俺の心身(からだ)は彼女を観てから脆(よわ)い熱気に潜々(ひそひそ)溺れて活気に触れ立ち、現行(いま)に居座る周囲(まわり)の人間(ひと)へは或る種流行(なが)れる絶望など識(し)り独学へと生き、自室(ここ)で覚える自分の活路を外界(そと)へ報さぬ清閑(しずか)の内にて共鳴(さけ)んで行くのは、人間(ひと)の域から自然に離れた快適な幻想(ゆめ)と、二度と逆行(もど)れぬ孤独の住処に居着いた独我(どくが)を、二つ同時に俺へと伝える脅威を覚らせ静かに在って、限りを知り生く人間(ひと)の肢体(からだ)に呆(ぼう)って灯れる嫌気が差すのを覚えた儘にて、自分の延命(いのち)を無駄に使える自由を識(し)り行く俺の生気の許容(うち)には、「明日(あす)」の生気を上手く象(と)れない無頼の〝分身(かわり)〟が徘徊して居た。中々翔べない〝俺〟が居た。
 そうした仲原中也(かのじょ)に一人並んだ友人が居て、仲原中也(かのじょ)の周辺(あたり)でちろちら零れる微笑顔(えがお)を光らすか細い躰の女性(おんな)であって、俺の姿が時空を翔び行き仲原中也(かのじょ)の傍(そば)へと並べたように、彼女の姿勢(すがた)も俺と同時に現行(いま)の域から上手に跳び立ち陽光(ひかり)を受けて、俺の両眼(りょうめ)を惑わす程度に仲原中也(かのじょ)の傍(そば)にて微笑(わら)ってあるのだ。無暗(やみ)の内から木霊が返るを、暫く見詰める俺が現れ、仲原中也(なかはらちゅうや)の頭上(あたま)と腰から陰に隠れて飛び出す彼女に憤悶冷ませる道化を識(し)り抜き、彼女の身元が何であるのか辿る間も無く、彼女の身元は現行(いま)に居座り俺へ接吻(きす)した、白衣を仕立てる看護婦なのだと、俺に居座る上気の小粒は俺の精神(こころ)へ打(ぶ)つけてあった。打つけた拍子に俺の精神(こころ)は現行(いま)でも覚える身軽の衝撃(ショック)を具に受け取り、そうした衝撃(ショック)で俄かに拡がる中学生時の男女の知己(とも)など、童心(こどもごころ)にほっそり佇む仲原中也(かのじょ)へ並べ、一時(いっとき)だけ咲く恋の敵(かたき)に揚々象(と)られて装飾され得る無欲の化身(かわり)は、脆(よわ)い思春(はる)への無機の臭気をこっそり身に付け俺へと直り、俺の思惑(こころ)は〝彼女〟の水面(もと)へと揚々辿れぬ〝地道〟に伏せ果て悶絶していた。こうした男女の会合等には不変に活き得る安心(こころ)を識(し)れない拙い心身(からだ)の俺が見抜かれ、見抜いた幻想(ゆめ)に活き得る立派な人影(かたち)は、宙(そら)へ透れる無敵の機体(からだ)を誇ってありつつ、俺の幻想(ゆめ)からほっそりこっそり私闘に漏れ行く拙い眼などに、自体を座らす大きな檻(かご)など設けられ得て、まるで俺には現行(いま)を忘れて両親(おや)をも忘れる強靭(つよ)い体温(ぬくみ)がからから湧いて、北極熊さえ都会に住め生く愉快な光景(うつり)を漸く澄ませた甘露に据え置き無限に織り成せ、俺の目下(ふもと)で活き活き咲き得る強い盲信(こころ)を丈夫に仕立て、俺から上がった小さな記憶は脆(よわ)い記憶に輪郭(かたち)を付けた。〝彼女〟より立つ俄かの幻想(ゆめ)には人間(ひと)を襲えるか細い嫉妬が器用に絡まり微熱が生き活(ゆ)き、俺の両手に収まり切らない他(ひと)の余熱が何処(どこ)かで仕上がり、俺の狂気を俄かに孕んで立脚して生く囲いを設ける。体力自慢が俄かに挙がった男女(むれ)を観ながら俺の記憶は熱を欲して躰を衝動(うご)かし、何処(どこ)か見知らぬ二重奏(デジャブ)を想わす会場へと着き、そこで侍らす男女の在り処は身元を伝(しら)せぬ無体を頬張り〝知己〟から漏れ出し、体力自慢が頬を火照らせ、紅く灯れる男女の会話は微熱を含めて俺へと対し、俺の躰を宙(そら)の内から小さく降り立つ夢想を強めてぽっぽと揺れて、クラブか何かの練習試合に白衣に巻かれる彼女を連れ添う奇行を報(おし)える団を身構え、俺の心身(からだ)はゆったり座れる自分の居場所をそうして見据えた体育館へと隠して置けた。白衣に巻かれた第二の彼女は佐々原知与美(ささはらちよみ)とその時言った。
 人間(ひと)の生気に自ず仕上がる過去の履歴を俺の生気へ細々(ほそぼそ)傾けひっそり在ったが、一つ処に運好く集えた〝無敵〟の主観(あるじ)は、俺を操るか細い両腕(うで)など〝褥〟に包(くる)ませ、幻想(ゆめ)の内(なか)へと埋没させ行く新たな気色を、寝ている間(あいだ)に俺の感覚(いしき)へすんなり延ばして端正(きれい)に在った。
 誰か、何か、と交信して行く分身(かわり)の俺から、幻想(ゆめ)を見る際、自分の足場をしっかり固めた夢遊の情景(けしき)を温(あたた)めて活き、人間(ひと)と交わる境界線等、しっかり認めて散乱するのが、私が根っからお前に託した郷土でもある。お前の両眼(まなこ)は〝夜〟に従いこれ等を観る儘、次第に翔び立つ延命(いのち)を掲げて彷徨するのを自我に託した呑気の許容(うち)にて吟味して生く。お前の郷土に強風(かぜ)が無いのは一番星(ほし)が宙(そら)から地面に落ち行く拙い経過を追えない故にて、お前の身元(もと)から女性(おんな)の妖樹(ようじゅ)が仕上がらないのは、お前の両眼(まなこ)にひっそり揺らめく「明日(あす)」の幻盲(かげり)を追えない故だ。人間(ひと)から成り立つ、人間(ひと)の足元(ふもと)に落ち着く領域(せかい)を、お前の心身(せかい)は懐きながらも強く拒否して、早くその場を離れたいなど、〝自由〟から成るフェアリーテールに幸福(ひかり)を仰いで傾倒している。環境(まわり)はわたしが揃えて用意して置く。活きるに際してお前の感覚(いしき)は、他(ひと)から成り立つ風紀など観ず、何処(どこ)まで行っても流行(はやり)が経っても、決して揺るがぬ従順(すなお)な眼を保(も)ち、お前の延命(いのち)を俗世(この世)で運べる〝端正(きれい)な経路〟を執らねば成らない。従順(すなお)に成るのだ。誰も彼もを利(い)かした生命(いのち)は瞬く間にして宙(そら)へと還り、地面を掘り生く他(ひと)の共鳴(さけび)は煩悩(なやみ)を掌(て)にして闇へと返る。お前が観て来たこれ等の暗(やみ)には苦労するのに褒美が少なく、華(あせ)を流して活きて来たのに、一向通らぬ視線が奏でて居り合い付き得ず神秘を想い、神の身元に自分を帰すのを〝今か今か〟とずっと待ち行く哀れな残骸(むくろ)をそっと着た儘、何時(いつ)まで経っても追従(ついしょう)し得ずの〝主従の体裁(かたち)を髑髏〟に紛れた自分の延命(はんい)へ仄めかしている。私が呈する人間(ひと)の俗世に歪(まが)った褥は、お前の為すべき嗣業を訴え、お前の心身(からだ)を常に淋しい独人(ひとり)にして置き、「明日(あす)」を見上げる淋しい小心(こころ)に光明(あかり)が見得ても、お前の輪郭(かたち)にほっそり懐ける孤独の故習(ドグマ)は、常に他(ひと)の泡(あぶく)を離れた〝砦〟と、脚色(いろ)を違(たが)えて用意をして置く。白紙に書き行く(描き行く)二つの教義(ドグマ)はやがて宙にてお前を見透かす拙く文句を謳って在っても、人間(ひと)へ配せる延命(いのち)の程度が限り知らずの努めを識(し)る時、お前に具わる〝孤独の宴〟は通りに咲き行く達磨の態(てい)して明度(ひかり)を追える。そうしてお前に繁く通える一番星(ほし)から継がれた黒色血(こくしょくけつ)には、お前の成すべき諸行が操(と)られる活力(ちから)が彩(と)られて、独歩(あゆみ)に活き得る激しい使命(しごと)を白紙に取り付け終業して行く…………………。
 誰かが、何かが、俺の居座る暗(やみ)を擦り抜け腰を持ち上げ、俺の身元(もと)から明度(あかり)の一滴(しずく)を奇妙に採り上げ喋って在ったが、白壁(かべ)を見詰める俺への迷路は俗世(この世)に敷かれた二つの〝経路〟を暫く執れずに、えっちら、おっちら、強風(かぜ)の吹き行く荒れ野の果てから陽(よう)の灯(あかり)を端正(きれい)に割かせて、宙(そら)に蔓延る邪悪の大麻を縦横無尽に散行(さんこう)させ得る細かな未業(みぎょう)を打ち付け俺へと対し、俺の目下(ふもと)に暫く立ち行く俗世(この世)に並んだ幼女の明度(あかり)が、女性(おんな)を毀した我楽多(むだ)を魅せ生く悪魔の白さを〝魔笛〟に差した。蜻蛉(とんぼ)が一匹、俺と白壁(かべ)との狭い間(あいだ)を自由に翔び行き、俺から配せる延命(いのち)の間延びを自由に活して透って入(い)ったが、俺の両眼(まなこ)は〝西日〟の語順が暫く見ぬ内、酷く戸惑う浮遊の並記(ならび)に落ち込み始め、蜻蛉(とんぼ)の延命(いのち)が何処(どこ)まで在るのか、何時(いつ)とも言えない孤高の共鳴(さけび)に安堵するのが、如何(どう)でも尽きない生命(いのち)の丈夫に気色を魅せられ、曇った両眼(りょうめ)は投身する内、俺の身元(もと)から暫く枯れ行く真夏の厚さを如何(どう)こう言うのに、蜻蛉(とんぼ)の人影(かげ)からか細く上がれる人間(ひと)の古葬(こそう)を信じてもいた。「明日(あす)」の延命(いのち)が暫く過した俗世(この世)の果てにて、一時(いっとき)しかない蜻蛉(ひと)の生命(いのち)に何時(いつ)まで近寄り遜りを賭し、自体(おのれ)の既歴(かこ)など揚々行く儘、美識(いしき)を噴散(ふんさん)したまま退(の)け遣り生くのか。俺の精神(こころ)は泥濘(どろ)に静めた自己(じこ)の泡(あぶく)を〝労苦〟に観る内、次第に睡魔が涼風(かぜ)に乗せられ透るのを識(し)り、「明日(あす)」の現行(いま)まで恰好(かたち)を付せ得ぬ梅雨時識(し)らずの象りさえ観て、人間(ひと)の生命(いのち)の過ぎ生く行方を、腐心した儘、「彼女」を追い駆け人影(かげ)へと這入れた。それから俺にもすんなり灯れる俗世(この世)に落ち着く稀有の人影(とりで)が、褥に巻かれた夢遊の表情(かたち)を奮起させつつ、何時(いつ)か見果てた人の恰好(かたち)がmorgue(モルグ)から起き、見知らぬ経過を暗(やみ)に観る儘するする明度(あかり)へ分散して生く、永久(とわ)に築ける〝土台〟の在り処が滋養を吸い上げ、地上の果てから宇宙の果てまで、自炊を眺めて生長して行く雲間の暗(かげ)から舞い降りて来た。俺の心身(からだ)は環境(あたり)に散らばる感覚(いしき)を通って〝経路〟を執るが、如何(どう)やら何処(どこ)かで少々違(たが)えた順路へ出て行き、他(ひと)の感覚(いしき)に難無く滑った孤高の安堵へ帰着した為、自分に集まる皆の感覚(いしき)と一々辿れた当の場所とは、明度(あかり)を違(たが)えた順路の体(てい)して前方(まえ)に佇み、見知らぬ経過に違う場所へと移動して行く〝冷たいバス〟など見送りながら、再び覚える他(ひと)との間(あいだ)の冷酷さを観て俺の心身(からだ)はしっかり具えた感覚(いしき)の許容(うち)にて散行して行く。皆の感覚(いしき)にふらと立ち得た大きな施設は、黄金(きいろ)の丸井(やね)から四方(しほう)へ拡がる微温(ぬるみ)を呈した会場でもあり、何かと何かの試合が織り成す舞台裏での他(ひと)の温(ぬく)みを、堂々巡りの人間(ひと)の行為に紛らせながらに俺と皆との感情(きもち)の行方を宙(そら)から眺めて愉しんでもいる。俺の口から拙く吐かれた文句(ことば)の流行(ながれ)は白い吐息と合されながらに、黙々上がった他(ひと)の熱気と存分識(し)るうち雪解けを見て、俺の足元(もと)から端正(きれい)に活き得る人間(ひと)の孤踏(ダンス)は、活気を練りつつ宙(そら)へ上がって、俺の感覚(いしき)は烏有に解(ほぐ)れた男女を観るより、〝自分の為に〟と要所に置かれる狂わぬ〝彼女〟の二つの居場所を、熱気から成るその場の規則(ルール)を黙殺しながら、狂った態(てい)して暗に貪り、しどろもどろに酷く急かした貧しい脚(あし)にて捜して行った。
 皆の心身(からだ)は冷たいバスへと乗車して行き次第に膨らむ対抗意識をバスの内にて大目に吟味(あじ)わい、見誤った試合会場を後(あと)にしながら、見当違いを修復するべく、新たに見据えた会場迄へとわいわい騒いで前進して居た。わいわい騒いだ騒音(ノイズ)の内(なか)でも、一貫しながら修正されない清閑(しずけ)さが在る。見たと俺には共に通った目的が在り、武術を通して私闘に赴く拳闘姿勢が彩(と)られたようだ。男女を含める皆と俺には、共に属するクラブか何かの団体感覚(だんたいいしき)が一向変らず輝いていた。二度目に辿った〝試合会場〟とは横浜に在り、海の空気が潮味(しおみ)を吹かせて靡いて在って、皆の背中をすうすう抜け行く微温(ぬる)い涼風(かぜ)には、俺の記憶を少々揺らして以前(むかし)を想わす柔手(やわで)の微動(うごき)が小さく揺らめき、「スラムダンク」の仙道彰のとっぽい姿勢(すがた)を静かに煌めく波間に解(と)かせて独歩(ある)ける〝俺〟には、経過(とき)の掛からぬ脆(よわ)い感動(きもち)が少々漏れ行き、俺の歩速は当所に咲けない〝桟橋〟からでも一向透って矛盾を来せぬ気丈を射止めて朗笑(わら)って在った。当の俺には相当似合わぬ〝体力自慢〟の試合であって、横浜まで来て〝すうすう〟抜け行く遣る気に添えつつ覚えた景色は、男女を含める皆の活気が独り歩きを始める程度に俺から漏れ出す気力の明度(あかり)は億劫を知り、凄々(すごすご)そこから見知らぬ闇間へ辿って生くのは、皆の目前(まえ)にて立場を固めぬ柔い〝俺〟にて従順ではなく、俺から生れた当の美識(いしき)は、そこで辿れる〝彼女〟の胸中(ふもと)へ手慣れた手付きで遊行(ゆうこう)して活き、陽(よう)の照る途次(みち)、潮味(しおみ)の立つ浜、全てが一つの許容に在るのを未然に識(し)る儘、解体され行く俺の奮気(ムード)は「彼女」から立つ温味(ぬくみ)の在り処を散策して居た。潮気(しおけ)に紛れて呆(ぼう)っと立ってる何時(いつ)か見て居た「彼女」の容姿(すがた)が、俺の美識(いしき)の波に呑まれてお堅い表情(かお)して何かを見ていた。何を見てるか定かでない内、俺の美識(いしき)は明るい明度(めいど)をきちんと脱ぎ捨て、陽(よう)の照るのを真向きに感じて独歩に有り付け、直ぐさま環境(あたり)がぱらぱら化(か)わって落ち着かないのを、足場を違(たが)える一つの術(すべ)にて順応させ活き、漸く「彼女」の女肉(にく)の香りを仰いで見れば、「彼女」の容姿(すがた)は白壁(かべ)に彩(と)られた笹原知代美と何ら変れぬ内実(なかみ)を呈して、俺の煩悩(なやみ)が密かに憶える情残(こころのこ)りを、〝当の場所〟にて一掃して行く強靭(つよ)い腕力(ちから)を俺へと魅せ付け、当の彼女は何気に奏でる潮の香りをほとほと観て居た。笹原知代美は過去の許容(うち)にて確かに会ったが、彼女の内実(なかみ)は総出を挙げつつ正体(からだ)を報せて、俺の過去には〝彼女〟を写せる白紙の無いのを、揚々気取れる宙(そら)の許容(うち)にてそっと伝(おし)えた。
 笹原知代美は自分に課された宙(そら)を観ながら俺に仰け反る光景など観て〝間延び〟を認(したた)め、そこを離れて何処(どこ)へ行くにも、俺を象る残像(すがた)を連れ添い、自分へ引き摺る笑いを彩り、宙(そら)に降らせる雨を見上げて野平(のっぺ)りと笑う。そこに俺との広場を拡げて独歩(ある)いて行く儘、遠くへ見果てた自分と「俺」との楽園(パラダイス)を彩(と)り、二度目に出会ったこの会場でも、俺の背中へ従う様子は自分の為にと見失わない。笹原知代美は俺の為にと、空まで映せる弁当箱など用意して在り、俺から生れる透った気色が野原の上まで闊歩し得ても自分に従う環境(まわり)の動静(うごき)に注意を遣って、二人で戯れ払拭出来得る〝明るい轍〟を、これまで楽園(パラダイス)に観た灯との足跡(あと)へと参観しながら、在る事無い事宣う口にて、俺へと突き出た自分の胸裏にしっかり組み立て、何時(いつ)まで経っても醒めて行けない〝無駄〟の経過に独自の初歩(いろは)を暴いてあった。俺は俺にてそんな彼女の拙い容易に宙(そら)から透った怪奇を識(し)る内、段々眠気を膝へと落して〝彼女〟の妖気に付き従う儘、何処(どこ)まで行っても活気を知れない〝彼女と二人の楽園(パラダイス)〟を象(と)り、彼女から成る吐息の背後(うしろ)に術も無いまま払拭され行く自分の憧憬(けしき)が眠って行くのを、彼女が拡げた弁当箱から漂う臭味に、姑息を連れ添う自己(おのれ)を観た後(のち)、術の無いまま横目で見送る哀れな自分の姿勢(すがた)を並行させつつ上手に見て取り、彼女の素手から弱々しく鳴る涼風(かぜ)の音頭に気付いてもいた。彼女の背後(うしろ)は未だ何処(どこ)かの煙(けむ)に巻かれて、遠くに咲き得る紫煙(しえん)を呼び寄せ、夢想を見せ付け眠ってあった。彼女の身元(もと)から仄(ほ)んのり漂うシチューの香りが光合して活き、俺の眼の前、宙(そら)の眼の前、涼風(かぜ)が蔓延る気色の前にて、〝堂々巡りの華〟を持たされ茶色く成りつつ、シチューの香りは海が間近の野原の上にて何を目指して飛んで在るのか、一向素知らぬ表情(かお)をした儘、衣(きぬ)に巻かれた〝俺〟の躰を、遠い海へと放逐した後(あと)、自分を還らす甘い美薗(みその)へよっちらえっちら、おっちらこっちら、人間(ひと)の咲けない活力(ちから)を見せ付け活生(かっせい)して生(ゆ)く。〝彼女〟のシチューは手製であった。〝弁当〟なんて、俺の気持ちを宙(そら)にて浮かせる甘いムードを振り撒きながらも、ちょいと蓋取り宙から見遣れば〝何処(どこ)かの軽食雑貨〟でひょいと貰える中味を切られた〝シチュー〟の類(たぐい)が散乱するのに、彼女のシチューは茶色に熟したお手製にて在り、俺の奮起を頗る調子付け行く憐れな容姿(すがた)を構築した儘、春に解け得る美味の挽歌を、俺から離れた〝淡い砂場〟で吟唱(ぎんしょう)して行き、俺から象(と)れ得る確かな〝広場〟は、彼女の背後にしっかり付された〝安楽広場〟を想像していた。〝海〟と〝広場〟を巧みに象る〝俺と彼女〟の第一幕の内に、陽(よう)の差し込む健気な春歌(しゅんか)が揚々咲き出て〝白紙〟を象り、俺の寝床に静かに吹かせた弱い女の微温(ぬる)めの冗句を、俺と自分に揚々聴かせる安堵の奈落を想定した儘、後進して行く諸刃の余韻(おと)には、決して送れぬ幻想(ゆめ)の生気が立場を着忘れ、「明日(あす)」の寝床にほろほろ咲けない人間(ひと)の脆(よわ)さと俺の脆(よわ)さを宙(そら)から落ち行く海に仕立てて、自分の生き行く清閑(しずか)な記憶に耳を澄ましてぽとんと佇む。
 そうした〝彼女〟が〝佐々原知代美〟を暗(あん)に呈して自己(おのれ)を酔わせ、神々しい儘、虫の寝息に気取らせない内、冬から生き得た自活の虫へと注視を遣り抜き、注意出来ない〝自分の虫〟へは腹から下った節理を観るまま揚々治せぬ〝疎ましさ〟を見て俺へと靡き、俺の元では一向萎えない初春(はる)の元では一向萎えない初春(はる)の春歌(ことば)を傍観する内、到底栄えない小虫の生気は、彼女に宿れる美醜の生気に十分(じゅうぶん)貰われ、彼女の匂いを暫く愛した俺に宿れる〝余韻〟の欠片は、彼女の姿勢(すがた)も背後(うしろ)の気色も、一向知れないまま神楽とする儘、俗世(この世)に於いては女性(おんな)を識(し)らない俺の童心(こころ)に力を見付けて、俺の身内(なか)へと鋭く通れる人間(ひと)の、温(ぬく)みを画策して生き、俺にとっては逃げない過去へと気温に呑まれて独歩(ある)いて行った。言葉の響きが宙を漂う昼の最中(さなか)に、千切れ切らない男女の人影(くろさ)が真昼に延び活き白雲(くも)を留めて、宙(そら)へ漂う男女の絆が「明日(あす)」を観るまで白日夢にさえ次元を操(と)られて混沌として、哀れな遊離に浮遊を想わす軒並み続けた俺の過去では、ここで竦んだ〝彼女〟の姿勢(すがた)が仄かに切られた無心の一手に増長して生き、振り向きさえせず、暗い〝土手〟へと一向辿って地面を舐め行く黒い蛇にもほとほと似た儘、俺の温(ぬく)みが昔に懐ける思春を選り分け、俺の二足が転々(ころころ)佇む土地から離れて、〝彼女〟が活き得た短い過去には重なり合わない無数の記憶が俺へ目掛けて巣立って行った。笹原知代美が潮風(かぜ)の流行(なが)れる野原の上にて陽(よう)を承ける頃、遠くで咲き得た旧来(むかし)の彼女が寸と立ち行き大手を振って、少し慌てて〝二人〟の元へと駆け寄る姿に潮風(かぜ)が当って、後(あと)から生き得る〝彼女〟の容姿(すがた)は俺の良く知る仲原中也にとぼとぼ化(か)わって相対(そうたい)して活き、俺に釣られた〝彼女〟の代わりに孤独を投げ売る女性(おんな)の残骸(むくろ)を丁度着出した。丁度その頃神経過敏に久しく陥り、人との間(あいだ)に強靭(つよ)く立て得る扉を仕立てた俺へ向かって、仲原中也は幻惑して行く自分の両眼(まなこ)を上手に観る儘、〝二人〟の目前(まえ)には透りつつある哀しい追想(おもい)にくれ始めていた。潮風(かぜ)が渡った。野原に寝そべる俺の背中は何時(いつ)しか濡れ得た朝露(つゆ)が飛び火し湿って在って、心地好くなる背中の冷気は宙(そら)へと蹴上がり、瞬く間にして構築され得る厚い青空(そら)へとその〝気〟を横たえ、白々冷め行く〝心変わり〟を露わにさせ得た〝思春〟の破片(かけら)は陽(よう)へと渡り、俺の目前(まえ)にて拡がり続ける〝男女(ひと)の哀れを並べた庭〟では、仲原中也(かのじょ)の精神(こころ)にぽつんと突き出た〝独り善がりの体裁〟ばかりが、自体の憂慮を微吟(びぎん)して行く〝孤高〟を並べて落ち着き始めた。潮風(かぜ)が遠くでぴゅんと成り行く宙(そら)まで突(つつ)いた紺(あお)に海では、〝二人〟の門出を暗(やみ)へと葬る自然の生気が散在して居る。仲原中也も〝彼女〟に倣って弁当携え、〝彼女〟に持たれた箱の形は、陽(よう)の光に〝ぴゅん〟と反(かえ)せる熱を認(したた)め四角に落ち着き、俺の表情(かお)へと郁恵(いくえ)に畳める挙動の合図を露呈して在る。四角い青空(そら)には俺と〝彼女〟にほっそり観え得る柔い木霊が順応しており、田舎から採る景色の美味には俺と〝彼女〟を好く好く暈(ぼか)せる気球が飛び跳ね揺ら揺ら揺れて、潮の渦から黙々仕上がる人間(ひと)の気色(いろ)した空気(もぬけ)の合図は、野原の真中(なか)にて細々(ほそぼそ)佇む仲原中也の美白を酔わせて、俺の精神(こころ)へ没頭し過ぎる〝彼女〟の肢体(からだ)を象らせていた。
 ふらふら浮んだ〝宙(そら)〟の中から、何時(いつ)か何処(どこ)かで尋ねた文句(ことば)が記憶を切り捨て俺へと跳んだ。
 〝彼女に従い、彼女を従え、彼女に従い、彼女に従え、彼女に従い彼女を従え、彼女に従い彼女を従え、彼女に彼女を、彼女に彼女を、彼女に彼女を、彼女に彼女を、彼彼彼彼女女女女女女女女…彼彼彼彼彼彼彼彼女女女女女女女女彼女に従い彼女に従え、鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱!!!硝子に映った無名の記録は名無しのごんべに譲渡され行く、心変わりを初春(はる)に違(たが)えて成したとするなら、人間(ひと)の記憶は動作に塗れて倒錯して生く。倒錯して行く…。二重写しの良く似た世界が、俺の脳裏へしっかり焼き付き、周囲(まわり)で蠢き侵食し果てる緻密な人間(ひと)には葬られず儘、俺の意識は拡散して行く弱体(からだ)の内にて仄(ぼ)んやりしてた。女ばかりが沈黙してある。他人ばかりが沈黙している。空の限りが沈黙して行く…苦労しながら集めた景色は、人間(ひと)の目下(ふもと)で緻密に失(き)えた。明日、寝ます。明日、寝ます。俺に似ている人間(ひと)の延命(いのち)が〝オリジナル〟に生(ゆ)く個性を手向けて沈黙してある。沈黙しながら、俺の延命(いのち)に中々強靭(つよ)くて、暴力・詐欺など、人間(ひと)の暗(やみ)へと端正(きれい)に落ち込む単身遊戯に凡滅して生く。そうした「明日」に手に負えない儘、無形の形成(かたち)はしどろもどろに定着して生き、俺を与る無数の土には「みえないかたち」が空虚を呼び寄せ遺体が頷き、白雲(くも)へ隠れた語り切れずの「物欲し顔」から、通り縋りの一張羅を着た、行方を定めぬ淡い火の粉が、一々頷く、派手な、人足(しもべ)を、
 文句(ことば)限りの芳香料(フレグランス)に、「彼女」を掴める「人足(しもべ)」の気配はぷつんと漂い混沌に在り、幻想(ゆめ)の空気(もぬけ)は一糸纏わぬ活気を見付けて羽ばたいていた。明日(あす)から又、この世限りの亡者が居座り、俺の配せたこの世の身元を「術(すべ)も無きや」と慌てた顔して、滔々、滔々、一つ手にした孤高の末路を用意するのか。〟
 意識を掴ませ、〝野原〟に付き出た彼女の体裁(かたち)をせせら笑って、俺を囲める長閑な景色は明日(あした)へも又活き活きして居り、仲原中也の気色を射止めた俺への分野は〝野原〟の裾から下界へ湧き出る〝重要部分〟を切り裂く後(のち)にて、薄ら仕上がる仲原中也(かのじょ)の桃色(はで)には、決して嘲笑(わら)えぬ美白の効果が懊悩(なやみ)を蹴破り、蹴破る足にて、一歩、一歩、一歩、一歩ずつから牛歩を操る女性(おんな)の努力(ちから)を空転(ころ)がし始める。
 試合の気迫でむんむんしていた会場から出た俺の目前(まえ)には、何にも酔えない知代美が現れ、弁当持参の家庭の雰囲気(ムード)を漂わせた内、如何(どう)とも懐かぬ懊悩(なやみ)の大手を一式揃えて朗笑している。丁度日中(ひなか)が頭上(うえ)へ昇って、弁当持参の女性(おんな)の生気が散乱する頃、雨も降らずに〝呑気〟が居座る大草原には、仲原中也(かのじょ)が射止めた淡手の気色が次第に色褪せ、笹原知代美の好機へ懐けた細身(ほそみ)の脆(よわ)さが次第に昂り、好機に準じて喜楽を欲しがる烏有の俺には、仲原中也(かのじょ)を退(の)け遣り知代美(かのじょ)を受け取る拙い賛美が狂々(きょうきょう)高鳴り、端正(きれい)な表情(かお)する知代美の姿勢(すがた)が「明日(あす)」に咲けない気力を絞って柔く在るから、俺の精神(こころ)へその時解(と)けない仲原中也(かのじょ)の糧にはタイミングの無い未熟の温(ぬく)みが一層拡がり俺へ対する恋心(こころ)の波間も衝動(うご)かなかった。
 野原の上では宙(そら)の目下(ふもと)で揚々謳える小虫の連歌が波(わた)って行ったが、俺に蔓延る小さな〝寝息〟は古典にまで観るか細い熱気に好く好く気取られ、昼下がりに見た知代美が仕立てる弁当箱には他所で仕立てた家庭の味などお空に内緒で詰め込まれていて、俺の興味は温(ぬく)みを覚えた弁当箱より、それを持つ手を震えさせ行く知代美の姿勢(すがた)に気取られ始めた。そうしてぱふぱふぱふぱふ、時の流行(ながれ)を喰って行く頃、〝彼女〟の胸中(うち)へと不意に根付ける俺への安堵が空転(ころ)がり始めて、唾棄の態(てい)にも程々近付く仲原中也(かのじょ)を棄て得た俺の体(てい)には、仲原中也(かのじょ)と出会える定めの合図を揚々嫌える脆(よわ)い覚悟が立ち振舞った。仲原中也(かのじょ)と会うのが恐ろしかった。涼風(かぜ)が吹き抜け、真横に飛んだ。知代美の目前(まえ)にてだらだらしながら気力を追い駆け宙(そら)の中からすうっと解(と)け行く〝淡さ〟を見付ける俺の前方(まえ)には、〝野原〟と仕切った外野を呈する客席など在り、野球に見られる河川敷での場末を仕留めた景色が落ち着き太陽さえ浮き、外野席での長閑な散歩がちらほらちらつく気色の内にて、仲原中也(なかはらちゅうや)が茂みに隠れた表情(かお)をしながらすっすと先立ち、つとつと独歩(ある)いて外野席から野原の上へと気丈に降り立ち微笑すら無く、俺と知代美が真昼の明るい微温(ぬるみ)の内にて拡げた防御を、一蹴するほど気軽な態度できょとんとした儘、怒りを隠せた大人しさの内、自分に撒かれた火種を頬張り俺を叱った。仲原中也は自分が持ち得た弁当箱から肉の一切れを表情無いまま取り出して来て、知代美の拡げた弁当箱から「美味い、美味い」と体裁繕い頬張り喰ってた俺へと対し、身軽を装い、ひょいと放(ほう)って俺と知代美を纏めて観ている。夕暮れ想わす緩めの潮風(かぜ)が、俺と知代美を吹き抜けていた。俺へ対して放った肉は、透った涼風(かぜ)から向きを忘れて失敗したのか成功したのか、知代美が作った弁当箱へとするする解(ほど)けて落下して活き、知代美と俺とが健気に懐けた暖(だん)の内へとその身を侍らせ悪態吐(づ)いた。しいんと静まる弁当箱には、肉の脂が悲しく照輝(てか)って陽(よう)を受け止め、吹き抜く風から経過を問われて冷たくさせられ、単身たわったその身の薄身(うすみ)は知代美と俺とに無力(ちから)を見せ活き益々光る。暖(だん)を壊され、潮風(かぜ)と宙(そら)との板挟みに行く悶々していた男性(おとこ)の感覚(いしき)は、誰に向くまま遠慮をして行き何に従い脆々(よわよわ)しく成り、怒調(どちょう)を発した忌々しさから自分の恐怖が〝彼女〟へ向けられ飛んで行くのを、陽(よう)の温(ぬく)みと涼風(かぜ)の怜悧にほとほと揉まれて皺くちゃながらの初春(はる)の最中(さなか)の海辺の傍(そば)にて、仲原中也に酷く怒れる体裁隠して静けさをも見た。
「そりゃまぁ、仕方無いわなー」
等、憤懣溜った胡坐の内にて俺から昇(のぼ)れる奇妙な文句は〝彼女〟を越え活き仲原中也(かのじょ)へ伝わり、潮風(かぜ)の寝床を自分の思惑(こころ)へ等しく落せる自然の懐(うち)にて、俺の憂慮は仲原中也(かのじょ)を抱き寄せ朗笑(わら)って在った。精神(こころ)の白紙は安堵を唄えず思春を着飾り、仲原中也(かのじょ)の落した思春の残像(のこり)を体(てい)好く頬張り陽光(ひかり)へ解(と)けて、俺の記憶に如何(どう)でも這い生(ゆ)く仲原中也の再生劇から、俺と知代美の二人に、飛び込む厚い恋心(こころ)が散乱している。
 俺と知代美と仲原中也(なかはらちゅうや)を程好く取り巻くクラブの男女は、野原に寝そべる蓮華を摘み取る小鳥(とり)の体(てい)して小禽と成り、ぴーちくぱーちく、三者の温(ぬく)みに白壁(かべ)を呈して、昼飯喰いつつ、長閑な気配に充満していた。
 仲原中也は宙から降り抜く琴音(ことね)の態(てい)して、俺の目下(ふもと)へ従順(すなお)に降(お)り着き体(からだ)を解体(ばら)けて、俺に仕上がる人間(ひと)の文句を体裁(かっこう)装わず無下に裁いて、昔ながらの古女房へとその身を揺さ振り、ぴーちく・ぱーちく騒ぎ立て行く小禽から成る白壁(かべ)に向かって、一歩、一歩、牛歩を着飾る無音の女体(からだ)へ落ち着き始める。仲原中也は佐々原知代美と出会う以前(まえ)から横浜(ここ)へ辿れる行程(みち)の上にて俺と出会って、仲原中也(かのじょ)の呈する素朴な素顔は何処(どこ)か健気に澄んでいた為、仲原中也(かのじょ)が識(し)るのは俺から飛び発(た)つ〝一人の男性(おとこ)〟と勝手定まり俺へと寄り付き、懐いた手先は俺の躰を柔く這い得る女性(おんな)の色雅(いろが)で充満して生く。間違い呆(ほう)けて辿り着き得た、横浜(ここ)へ着く以前(まえ)、何処(どこ)かで見知れた会場跡から仲原中也は俺へと寄り添い、純朴気取って思春(はる)の衝動(うごき)を感じていたので、佐々原知代美に自分の相(あい)した経過を掲げて〝キャリアの相異〟を執拗程度に観て当然とも成り、〝白紙〟に写せる女心の妙味を解(と)き活き、自分に跨る〝男女〟の相異を感嘆するのは、〝彼女〟の眼(め)に観て自然であった。何の〝試合〟がはっきりせぬ内、男女の歓声(こえ)には気球が跳び生き気熱を従え、対戦相手を試合会場(そこ)で決め行く諸刃の空気(もぬけ)を吟味(あじ)わう最中(さなか)に、対戦相手を籤にて決め行く無法の興味が乱舞を巻き得た。籤にて〝相手〟が勝手に仕上がる経過を観てから、俺の精神(こころ)は仲原中也(かのじょ)に対して大らかとも成れ、仲原中也(かのじょ)の無口が段々萎びる思春(はる)を想わす艶(あで)な芳香(かおり)に、俺の精神(こころ)へ何時(いつ)も這入れる〝彼女〟の容姿(すがた)を透視する内、仲原中也(かのじょ)が気取れる無数の体裁(かたち)を陽光(ひかり)に見るまま仲原中也(かのじょ)を護れる、自分で気付かぬ素朴な純心(こころ)を無難に識(し)り抜く没我を知った。
 仲原中也が俺に対して大口開けつつ試合をして行く仲原中也(かのじょ)の準備を大きく延ばした四肢(からだ)の内からしどろもどろに手繰れた酊(てい)だけ上手に飛び越え、「明日(あす)」を待たない今日の〝緩み〟を空気(もぬけ)の底へと当然失(き)え行く虚無の内へと自分を棄(な)へ込む。俺と〝彼女〟の対戦相手は年端の行かない仲原中也(なかはらちゅうや)にそろそろ決って〝ふわふわ〟云い出し、俺の目下(ふもと)を煌々跳び抜く気球の温度を調節した内、俺の〝手先〟を巧く逃れる「明日(あす)」への〝音頭〟は彼女の足音(おと)へと上手に萎びて危急を告げ活き、交わす間(ま)も無い奇妙な酒宴(うたげ)は、佐々原知代美へふらふら落せる人間(ひと)の欲心(こころ)で寸断切られた。女性(おんな)の色香(しきか)が無数に明るい倦怠模様に「明日(あす)」を忘れて自在に空転(ころ)がり、病みを失(け)せない拙い妄想(なか)へと愉しむ温度を暫く認(したた)め、空想(おもい)を保(も)て得ぬ〝昨日の我が身〟にずっと寄り添う童子(どうじ)の頭頂(あたま)をそろと撫で終え、〝日本〟に生れた初春(はる)の杜には、〝彼女〟の陽気を夜気(やぎ)へと化(か)え生く孤独の疾走(はしり)が交響(ひび)いて在った。無理をせぬ内、個室を選んだ俺へ纏わる過去の記憶は〝暖(だん)〟を連れ行き、何処(どこ)か宙(そら)にて仄(ほ)んのり聴える微(かす)かの琴音(ことね)が琵琶を連想(おも)わす微弱の極みにその実(み)を遣る儘、無暗(やみ)に隠れる不敵の酔いまで俺の姑息を暗(あん)に連れ得る気迫を見せ付け遊興して在る。潮風(かぜ)が止んだら、月夜の小路(みち)など薄ら零れる〝野原〟の気色をこんがり想えて、仲原中也(なかはらちゅうや)をこっそり殺せる〝彼女〟の強靭味(つよみ)が、人間(ひと)を沿わせる柔い躰を丈夫に透して小躍りして生く。
 仲原中也はむんむん発(た)ち生く人間(ひと)の湯気へと泥蠢(どよめ)く空気(くうき)をすんなり憶えた会場内へとすうっと立って、前方(まえ)には虚ろで〝虚無〟を見知らぬ俺が突っ立ち、仲原中也(なかはらちゅうや・かのじょ)の無口は呆(ぼう)っと発(た)ち生く女性(おんな)の臭味を上手に仕立てて浮かれて落ち着き、俺から突き出た脆(よわ)い上肢が、直ぐさま退(の)き行く淡さを燻(くす)ねた小さな景色を放(ほう)って投げ付け、夜目(よめ)に慣れ得ぬ〝明るい桃色(はで)〟から、ぴったり引き抜く華(あせ)の立脚(あし)など彩象(かたち)に咲かせて逆撫でせず儘、俺の以前(むかし)に乏々(とぼとぼ)実った仲原中也(なかはらちゅうや)の純(しず)かな形容(すがた)は小学校へとふらふら寄り付き、俺の隣へきちんと腰掛けしいんとしながら、必要以上の会話をせずうち二人の空間(すきま)が段々仕上がる焦燥(あせり)を尽かせぬ泡(あぶく)を観(み)せた。〝無駄を知らぬは一生物でも夢物語で、仲原中也(かのじょ)の目前(まえ)には俺に生やせぬ女性(おんな)の脆味(よわみ)が何にも知らずに華(あせ)を書き活き、孤独を識(し)り抜き低落して生く苦労の在り処は男心(おとこ)を愛せる………。〟
 幻想(ゆめ)の体温(ぬくみ)は〝日暮れ〟を合せて葛藤させ行く〝挫き〟を伝(おし)えぬ雑言(ことば)を吐きっつ、世間と感覚(いしき)を合せて識(し)らせる形象(かたち)を成し得ぬ無言の文句を、しんみり解(と)けない〝彼女〟の幻想(ゆめ)へと突っ立たせていた。
 小学生から段々成人(おとな)へ落胆して生く淡い気色を見納めながらに、何とも相(あい)さぬ俺への温身(ぬくみ)は仲原中也(かのじょ)の内実(なかみ)へすんなり堕ち行く欲心(こころ)の鋭利(とがり)を無益に配せて無業を呼びつつ、仲原中也(かのじょ)の脚(あし)から吟味を知り行く男性(おとこ)の冥利を如何(どう)にも出来ない惨味(むごみ)を重ねた新鮮(あらた)な孤独へ俺を誘(いざな)う。それでも俺には仲原中也(かのじょ)の吐息がすうすう冷たい〝孤独〟を吐くので、〝彼女〟の幼旨(ようし)を容姿(すがた)に落ち着け男心(こころ)を噛ませ、仲原中也(かのじょ)から成る嬉しい人気(ひとけ)を、具に見詰めて自分へ気取らす無解(むかい)を暖(あたた)め温存していた。一口縄(ひとすじなわ)では決して振(ぶ)れない人間(ひと)の淡身(からだ)は仲原中也(かのじょ)を透して〝野原(ここ)〟へと降り着き男性(おれ)の目前(まえ)へと奇妙に突っ立ち足音成らせ、撓(しな)る両腕(うで)には何時(いつ)か具えた幼い容姿に純曲(じゅんきょく)する儘、〝我儘程度〟の樞(ひみつ)の愚痴さえ気弱く漏らせる体裁(かたち)を取り付け、俺の前方(まえ)では〝相棒〟宜しく寝たまま愛(相)せる野性(さが)を費やせ耄碌して行く。仲原中也(かのじょ)の〝愛〟へとふらふら寄り添う俺の目下(もと)へは佐々原知代美の微(かす)かな美光(ひかり)を一々光らずひたすら唯々脆々(よわよわ)しく在り、俺の幻想(ゆめ)へと何の〝合図〟も揃って持て得ぬ女性(おんな)の仕種を形容している。俺の男心(こころ)は仲原中也(かのじょ)へ寄り添い昔ながらに、童子(こども)の呈する幻想(ゆめ)の記録へ足跡忍ばせ上手に独歩(ある)き、仲原中也(かのじょ)の識(し)り得ぬ旧来(ながれ)の〝合図〟を魅惑に認(したた)め、〝ふん〟と頷き、女性心(おんなごころ)に巧みに近付く無垢を見付けて、仲原中也(かのじょ)の両眼(まなこ)へ道理を導き自信を這わせる無力(ちから)を宿して奮起を模せた。〝彼女〟と相(あい)して仲原中也(かのじょ)を〝愛〟せる懶惰の気忙(きぜわ)が失調して生き、生きる上では〝彼女〟を欲して女性(おんな)を従え、弱気を認めず無暗(やみ)に逆巻く仲原中也(かのじょ)の強気を掌(て)に保(も)ち執拗(しつこ)く舐め知り、仲原中也(かのじょ)に仕上がる生臭情緒(なまぐさじょうちょ)が白肌(はだ)を透して照輝(てか)って在るのも〝彼女〟の一味と等しく見做せて男心(こころ)は嬉しく、何時(いつ)に無いまま俺の気質に、怒調を束ねる無益を争う童子(こども)の純心(こころ)は、仲原中也(かのじょ)を観るうち見惚れて行って、見惚れた矢先に何時(いつ)もして来た女性(おんな)へ対せる静かな愛撫を、試合会場(ここ)でも何度も呈せ続けて、仲原中也(かのじょ)の心身(からだ)を大目に見たまま放逐して行き、遊泳(およ)がせながらに無心に相(あい)せる〝彼女〟の無力(ちから)を大事と出来た。
      *
 (第一回目の試合会場が、確か出場選手が一杯で予約済みの為に、そこからバスが出ており、次の試合会場が在る横浜に向かった訳である)。
      *
 漠然とした景色の内から俺に対する白光(ひかり)の在り処が一向分らぬ〝道程〟辺りが思い起され、黒色めいたも目的(あて)の果(さ)きから、堂々巡りの人間(ひと)へ纏わる感情(こころ)の輝(ひか)りは俺が(移動しながら)居座り続けたバスか電車の座椅子の輪郭(かたち)を照射しており俺まで照らし、そうした陰にて俺の輪郭(かたち)も段々表れ他人事(ひとごと)とはせぬ、何か、強く煌(かがや)く柔身(やわみ)の両腕(かいな)が充分衝動(はたら)き、横浜(ここ)へ来るまで〝彼女〟と独歩(ある)けた〝独歩の密室(へや)〟では俺の感情(きもち)をさらさら射止める自然が活き抜き俺を包(くる)んだ。密室(へや)の頭上(うえ)には自然を象る涼風(かぜ)が居座り、俺から離れる涼風(かぜ)の行方は何処(どこ)から吹き付け何処(どこ)へ行くのか、全く知り得ぬ生粋(もと)の形成(かたち)を揚々辿れる他人の表情(かお)さえ有して在る為、俺と〝彼女〟の輪郭(かたち)を象る感覚(いしき)の在り処は延命(いのち)に見付かり、俺の元から直ぐさますんなり知れずに生れる感覚(いしき)の生臭(におい)は拍車を受け付け空転している。
 俺から生れた生粋(もと)の感覚(いしき)は生臭(におい)を取り持ちしいんとしており、〝この世とあの世〟の無駄にも採れ得る俺に対せる無暗の厚味は、旧来(かこ)から仕上がる人間(ひと)との〝厚味〟を片付けられずに人煙(けむり)と化して、他人(ひと)から操(と)れ得ぬ透った分野はざんぶざんぶと耄碌して行く自然の容赦に敗北している。勝手を知らない俺の感覚(いしき)は何処(どこ)か知らないバスの駅から四角さ丸さを共有させ行く白銀(ぎん)に輝くバスに乗ったが、正味を報さぬバスの生臭(におい)を、奥まる辛気(しんき)に欲する型をも、柔さを操(と)れ得る経過(じかん)の衝動(うごき)が俺に対せる自然の弱体(からだ)に揚々見せ行く気配に佇む新鮮さに問い、俺から見え生くバスの輪郭(かたち)は体好く大きい電車の輪郭(かたち)へすんなり取り付け細々(ほそぼそ)して活き、京都の自宅(いえ)から神奈川迄を、経過を殺した自分の感覚(いしき)に賄わせている。雑多に成り立つ景色の様子は既に俺から先行して行く見果てぬ空間(すきま)へ延命(いのち)を執り成し、俺の心身(からだ)は何も問えずの白々する夜(よ)を世から発する白壁(かべ)の内にて〝向こう〟に立ち生く延命(いのち)の記憶を嘲笑して居り、嘲笑して居る艶(あで)に着飾る透った屍(かばね)は呆(ぼう)っとしながら喫煙している親父を連想(おも)わせ詰らなかった。俺の感情(こころ)はこれを観ながら憎しみさえ持つ。殺したいほど下らなかった。俺の懊悩(なやみ)は悶絶して生(ゆ)く到底独歩(ある)けぬ徒労にて立ち、独歩(ある)く果(さ)きには暗(やみ)に失(き)えない憎悪の元にて生長させられ、親父の全てを果て無く憎めたずっと変らぬ没我の強靭味(つよみ)は、親父の頭上(あたま)を難無く越え行く幻想(ゆめ)を語らい正義を描(か)いた。俺の感覚(いしき)は明度(あかり)に従い親父を葬る。俺から発した人間(ひと)への感覚(いしき)は、親父を殺して生気を識(し)り抜き、この世と相(あい)する喜楽を束ねて富豪と成った。横浜まで来た移動手段がバスから電車へこっそり変わり、俺の感覚(いしき)は疑わないまま幻想(ゆめ)の古巣へ一興設けて恋人を見て、〝彼女〟から成る俺へ対した言葉の幾多は白銀(ぎん)の脚色(いろ)した威勢に先立ち記憶を従え、俺の傍(そば)から一定保(たも)てる距離を据え置き静かに直り明日(あした)へ惑える奇妙な労苦を啄み始める。
 バスから電車へ知らず内にて変った内にて俺の感覚(いしき)は明るい宙(そら)にて四肢(てあし)を拡げず独りで歩き、競歩して行く相手も居らずでげんなり疲れ、乗るべき電車を全く間違え目的(あて)へと着け得ず、広い宙(そら)にて何にも零れぬ虚無の宴に愉しみ忘れて人間(ひと)へと空転(ころ)がり、空転(ころ)がり着いたら無駄とも判らぬ〝無暗〟を知り抜き雑音を採り、浜へ空転(ころ)がる個室へ気付けず他人の温(ぬく)みにほとほと近付き組んず解(ほぐ)れつ、自我から成り立つ脆(よわ)い心身(からだ)に白い躰が奈落を掠めて跳び付き始めて、〝試合〟の出来ない堅い定めに自分を預けて人気(ひとけ)を造れず、勝ち負け知れずの不様を承け取る俺の姿勢(すがた)は空間(すきま)に埋まる。〝彼女〟と対せず何にも対せぬ俺から逃れる他(ひと)への気迫は、阿弥陀に被(かぶ)った〝シルクハット〟を白から黒へと脚色され生く「明日(あす)」の手先に〝恋人〟を知り、ほっとするまま敗けずにし終えた〝対戦遊戯〟は俺の目下(めした)に熟成していた。思い出すまま仲原中也(かのじょ)の熱気は胴着の内から柔らに上がった女性(おんな)の気迫をすうっと失(け)すうち丈夫に成り活き、会場から出る他(ひと)の熱気に暫く付くうち如何(どう)とも成らない天気の緻密を樞(ひみつ)に見出し〝定め〟に置き遣り、俺へと居直る虚無の姿勢(すがた)に自己(おのれ)を咲かせて美体(びたい)を持ち出し、俺の心底(そこ)へと〝きらり〟と仕上がる〝土台の強さ〟は暗(あん)に隠され把握され得ず、会場(そこ)へ集まる選手の内から、俺の強靭(つよ)さがどれほど彩(と)られて立脚するのか俺にも知られず明度(あかり)を見付けて、俺の覚悟は選手の囲いに一度に隠れた無様を知り抜き自分の容姿(すがた)がどんな脚色(いろ)へと向かって在るのか見当付かずに恐れて在った。
 俺は何時(いつ)も現実に於いて履き続けて居るお手製の厚底(そこあげ)靴をその第一回目の試合会場へ向かった時から履いて居り、その会場へ向かう際には何故か皆と一緒に薄暗い寺院のような待機所(たいきじょ)兼作業所を想わす場所にて暫く落ち着き、集(つど)った皆と経過(とき)を忘れてお喋りして居た。そうした頃から知らずに履いてた底上げ靴が俺の精神(こころ)の強味に昇華しほとほと破れず、周囲(まわり)に集った男女の視線や想像なんかは俺に対して余程の突飛を含めながらに鬱積され得て、幻想(ゆめ)を外れた現実からして全く違った鼓舞さえ成り活き、俺の輪郭(かたち)はそこで生れたあらゆる場面に活き活きする儘、男女の活気の各自に等しい仲間と見られ、自体(からだ)の厚味は益々育った〝個室〟に隠れてにやけて泣いた。揚々気分の中々抜けない俺の精神(こころ)は膨張して活き、自分の周囲(まわり)へ知らずに集まる脆(よわ)い屍(かばね)を盗み笑って、漸く静まる〝個室〟の斑気を自体に窄めて朗(あか)るく微笑み、男女から成る群れの主観(あるじ)がその身を低めて追従(ついしょう)する頃、俺から仕上がる不敵の文句は陰を忘れて空路を行った。誰の目にさえ留まらずに在る可笑しく膨れた俺の〝小躍(おど)り〟は、〝男女〟に居座る誰の思惑(こころ)に一行届かぬ告知を有して段々静まる外界(そと)の〝斑気〟を自在に操りぬか喜びして、喜ぶ間(あいだ)にすうっと解け入る皆の感覚(いしき)と俺との感覚(いしき)が、寺院(ここ)を離れて見知らぬ環境(ばしょ)へと羽ばたく様子を然(しか)と嫌いつつ諦めても居て、何処(どこ)へも行かずの未熟の欠片を思惑(こころ)へ収めて悶々して居る。そうした調子に果(さ)きを識(し)らない無敵の汽笛(あいず)がちらりと響いて俺を煽って、気取らぬ男女が折り好く集える白痴の居場所を俺の身内(うち)にて細々(ほそぼそ)認(したた)め、皆を引き連れ面白可笑しく講義をして行く以前(むかし)の孤独を上手に温(あたた)め温存して活き、空気の揺れない内界(うち)の枠には、俺の活気を余程に留(と)め得る白壁(かべ)が現れ不動に落ち込み、明日(あす)を識(し)れない無垢の運命(きわみ)が無形(かたち)に仕上がり空間を得た。しかしそれでも、俺の周囲(まわり)に仄(ぼ)んやり集まる脆脆(よわ)い肢体(からだ)の住人達には、そんな手順に構築して行く無敵の様子に俺の躍起に薄く仕上がる熱の在り処も見付けられずに、益々淡さに対峙をして行く人間(ひと)の気迫を調節して生き、俺から見得ない宙(そら)へ返っては、〝自在〟を操(と)れない夢遊が仕上がり幻惑さえ在る。〝俺が履いてた厚底ブーツ〟は、それだけ気取れぬ白痴の強靭味(つよみ)を霰としながら、柔く集える男女の寝息を時に奪っては有形(かたち)を奪(と)り上げ、如何(どう)ともし得ずの経過(とき)の漏れへと描写を割けずに、端正(きれい)に纏まる人間描写(にんげんもよう)を感嘆して居る。それ程寺院(そこ)では、俺に敷かれた厚底ブーツの無有(むゆう)の輪郭(かたち)が自体を纏めて効果を先取り、陽光(ひかり)の差せない固い成果を俺の夢中(なか)にて存続させ得た。
 夢想(ゆめ)の底から沸々湧き行く〝厚味〟の果てへは、俺から識(し)れずの無益が報され奇妙が起され、俺の周囲(まわり)に悠々集える男女の頭上(あたま)を俯瞰した儘、俺に象る夢想(ゆめ)の内界(うち)には経過(とき)の美声(こだま)が根強く共鳴(さけ)んで交響(ひび)いて小躍(おど)り、経過(とき)を気取れぬ醜い羞恥が俺へと宿って密接して在る。密接させ得る余程の空間(すきま)にひっそり立ち得た厚手のブーツが、俺の隣へこっそり寄り付き灰燼とも成り、覇気の尽き行く砂塵を呈して転々(ころころ)空転(ころ)がる弱火を識(し)る儘こっそり隠れる。無有(むゆう)の在り処に隠れる覇気には〝夢遊〟を気取れる余裕(あそび)の空間(すきま)も潜伏するまま未熟に独歩(ある)ける俺の房(ぼう)へもふらふら寄り付く惰力(だりょく)を以ては落ち着けずに在り、男女を含める内界(うち)の夢見の弱体からして、俺と皆とを端正(きれい)に仕分ける白い柔手が、徒労の内からこっそり還って努力を撫で行く奇麗な気色を喰らい行くのは、男女の陰にてひっそり埋れた作家の手順へ沿うものでもある。
 一度目に観た会場跡から寺院(ここ)へ来るまで現行(いま)に纏わる人間(ひと)の生気を不断に夢見た俺への活気は、何にも知らずの未熟を呈した童子(こども)の稚体(からだ)を無暗(やみ)に葬る無法の術(すべ)からほとほと学び、俺と〝男女〟を〝群れ〟を呈した白壁(かべ)へ打(ぶ)つけて二手へ仕分けた経過(とき)の美声(こだま)は、泣いてばかりの夢遊の姿勢(すがた)を両手に取り添えぬけぬけと朗笑(わら)う欠伸の振りして慇懃さえ彩(と)る。如何(どう)とも成れずの〝夢見〟の業(ぎょう)へは白火(しろび)が飛び付き、無駄を知れない覇気の身元が到底不動の寝床を拵え悪魔を識(し)る時、稚体(ちたい)を象る興味の在り処は俺を忘れて望郷へと活き、輝体(きたい)の成らない夜目の厚着は苦しみさえ越え独白して生く。一、二の会場跡にて、俺の感覚(いしき)が誰かと対せる経過(とき)の成果は何にも成れずに、渋々堕ち生く輝体(きたい)の形成(かたち)は何処(どこ)にも在らずで力を呼び付け、試合に際する俺の心身(からだ)を強める水面(もと)へと、結束して行く環境(からだ)を強める水面(もと)へと、結束して行く環境(まわり)の仔細を、一々採り付け糧として行く〝自活〟を呈する哀れな自体(からだ)を俺へ投げ付け燦々と照る。無暗(やみ)の在り処をひっそり捜した俺の健気は跡形さえ無く、会場(ばしょ)の模擬からするする解(と)け生く自然の老化へ相対(あいたい)する内ゆっくり途切れる経過(とき)の清閑(しずか)は誰にも倣わず、何にも成らずの無駄が呼吸(いき)する〝ばた足〟程度の努力を重ねて白体(はくたい)さえ採り、俺の自体(からだ)は漫画に見て取る能力(ちから)を有して散漫をも識(し)る。〝漫画〟は四肢(てあし)を延ばして活き活きして生き、アニメにまで観る無間(むかん)の正味を如何(どう)とも言えずの美感に寄り添えびっしり映え得る無数の触手を覚えて行くまま無駄に伸ばさず保身さえ採り、俺の熱気を夢想(ゆめ)に延ばして滅気(めげ)ぬようにと、形成(かたち)知らずの淡い欲望(のぞみ)を白旗(はた)に掲げてにんまり微笑(わら)った〝強味〟の姿勢(すがた)を召喚して居た。〝漫画〟の描写は「ドラゴンボール」の面白さに観た〝以前(かこ)〟と〝現行(いま)〟とを屈折させ得る陽気の表情(かお)にて起床をしている。「ドラゴンボール」の神から訓(おし)えを無邪気に承け行く子供の悟空と一寸違って、神の教えを会得し終えた成人(おとな)の悟空を薄ら想わす大人しさを観た加齢に伴い、俺の精神(こころ)は〝眠れる獅子〟さえその実(み)に飼い生く余動(よどう)を示せる輝体(きたい)を取り付け、神の輝勢(すがた)に余程に対せる未熟の強味へ追従(ついしょう)した儘、真摯を着飾り紳士を気取れる愚蛇(ぐだ)の憂慮に拝復している。俺の精神(こころ)が清閑(しずか)に隠れてこっそり見付けた樞(ひみつ)の光景・情景(けしき)を皆へと魅せ付け、〝皆〟の頭上(うえ)へと静かに構える男女の輝体(かたち)に躍動させずに、好い気に昇れる俺の姿勢(すがた)の躍火(やくび)の在り処を、二つに仕分けた会場跡にて俺の感覚(いしき)は見付けて在った。
      *
 二つの〝跡〟へと折り好く尋ねたバスの内では、〝バスの枠〟からこっそり抜け出た俺と男女の活気が織り成す未熟の輝彩(きさい)が背中を見せ付け、弱味を保(も)ち得る〝バスの枠内(うち)〟へと変質者を立て皆へと対させ、ぐったりして生くバスの加速は我が身本位に操作を兼ね行く未送(みそう)の景色にうっとりし始め、〝変質者〟が保(も)つ未送の情景(けしき)は何も言わずの遠慮を着せられ皆へと対し、男女から成る〝群れ〟を束ねた新手の実力(ちから)は変質者(かれ)を透して俺を象る、〝英雄(ヒーロー)漫画〟の頁を繰り上げ、〝俺の能力(ちから)に変質者(そいつ)を倒せ…〟と腐乱して行く期待を観るまま俺の幻想(ゆめ)では丸く静めた団円描写が一々問い得る〝仔細〟を束ねて、俺の感覚(いしき)へ混在するうち経過(とき)が疾走(はし)った。環境(まわり)に彩(と)られた疾走(はしり)の姿勢(すがた)は暗(やみ)に掛かった独走(はしり)の姿勢(すがた)に薄ら似ていた。
      *
「仕方ない…。」
      *
とか微妙な調子に身を乗り出すまま俺に彩(と)られた奇妙の輪郭(かたち)は自信を苗(な)え付け微笑を取り付け、一向直らぬ精神(こころ)の病を何処(どこ)かへ放(ほう)って暫く落ち着き、実力試しの風貌(かお)を装い、体力自慢が無力を緩めて〝変質者(かれ)〟を倒すと、俺の右手の人差し指から僅かに光れる打力が揺らめき強力(ちから)を浮ばせ、〝変質者(おとこ)〟の躍動(ノイズ)が沈着され行く始終を観ていた男女の口元(もと)から、「おー、」、「やっぱり、」、「流石、」と交互に言い合う緩い美声(こえ)など仄(ほ)んのり仕上がり俺を囲んで、その場に居座る俺の精神(こころ)を囃して在った。〝物見の吐息〟を久しく緩めて世間を棄て得る俺の〝夢見〟は空に生き得る具(つぶさ)の樞(ひみつ)を俗世と見立てて、俗世に沿(そぐ)得る他(ひと)の様子と相見(そうけん)せず内、転々(ころころ)空転(ころ)がる〝この世の帳〟へ順応する程〝大股開き〟の女芽(にょめ)に対して〝この世の終り〟を間近に観て生き、俗世(せけん)の様子が全て血塗られ煩悩(なやみ)が謳歌し果てる世紀末の画(え)を、心底願って描写して生き、活き活きして行く悪魔の描写に、心から成る拍手を贈って、神の側から正義の側から、滔々離れて自滅するのを俗世の大口(くち)には悶絶して居る〝俺の輪郭(かたち)〟が独り孤独に小躍(こおど)りしていた。皆で集えるバスを下り立ち、自然に彩(と)られる弱風(かぜ)の行方が俺の身に吹き流行(なが)れて行く頃、如何(どう)とも言えない俗世(このよ)の定めが女性(おんな)に溢れて男性(おとこ)を寄らせて、酩酊して生(ゆ)く男性(おとこ)の延命(いのち)は俗世(このよ)の〝華〟から要(よう)されないのに唯々ひたすら、女尻(めじり)を追い駆け虚しく成り果て、果てた矢先は女性(おんな)も咲けない荒野の真中(まなか)で今にも失(き)え得る暗空(そら)さえ見上げ、欲望、絶望、懊悩(なやみ)に苦しむ悶絶地獄の宙(そら)の麓で、女性(おんな)の気に入る檻に入るを余程大事に懐柔して生き、自分の前方(まえ)だけ脚色(いろ)が付されて〝生き甲斐〟ばかりを女性(おんな)に見立てる幼稚に操(と)られた傀儡達が、俗世(このよ)の地獄を一層咲かせて端正(きれい)に仕分ける男女の明日(あかり)を狂わせていた。陽気な男性(おとこ)と真面目な女性(おんな)が交互に並べた自分の理想(ゆめ)から使える物だけ抽出して活き、歯に物着せない俗世(このよ)の流行(ながれ)に象る熱気は、男女を腑分けて明暗さえ練り、白痴に跨る男性(おとこ)の冒険心(こころ)と俗世(ぞくせ)の樞(ひみつ)に無感に根付ける女性(おんな)の生理は、俗世(このよ)に於いては一向交えぬ無根の肢体(からだ)へ相対(あいたい)する儘、両者は相手を密かに切り捨て自分の理想(ゆめ)から大きく外れた肉体(かたち)を見て取り、男性(おとこ)の或る種は女性(おんな)の正味を、女性(おんな)の全ては男性(おとこ)の全てを、一層嫌って暗(やみ)へと葬る暗黒時代へ突入していた。時代の流行(ながれ)は男性(おとこ)にとっても女性(おんな)にとっても、夢遊病さえ明日(あかり)を象(と)れない〝暗黒時代〟を招いていたのだ。〝変質者〟の目は夜目に活き得る〝活気〟を見付けて自活として行き、人間(ひと)の衝動(うごき)を身軽に仕立てる〝白亜の輪舞曲(ロンド)〟を誰にも見せずに解体して行く滑稽(おか)しい情景(けしき)を巧みに拡げて宙(そら)を失(け)せない黄金(きいろ)い賛歌を以前(むかし)に仕上げて苦労を知らずに、徒労は飽くまで現行(いま)を活き抜く脆(よわ)い実力(ちから)に靴音(おと)を鳴らせる青姦(あお)い懊悩(なやみ)を刺激へと化(か)え、〝バス〟の内までことこと辿れた羞恥の汽笛(あいず)は絶頂(やま)を識(し)らずに、無駄な男女に延命(いのち)を配せた自然の脆味(よわみ)を牛耳ってもいた。〝変質者〟はもう自由に敗け生く単独(ひとり)の樞(ひみつ)を有して居らずに、俺を含めた清閑(しずか)な男女が終局(おわり)を観るのに用意され得た端正(きれい)な肢体(からだ)に仕上がってもいて、初めから無い無法の義塾に文句(ことば)を忘れて忘却している白痴の没我を自由に気取れる要(かなめ)を演じてすらりとして居る。二度目に見ている会場跡までてくてく独歩(ある)いた俺の背後(うしろ)へぴたりとくっ付き、内界(なか)と外界(そと)とを難無く仕切れる白壁(かべ)を見付けて延命(いのち)を取り上げ、人影(かげ)に見取れる〝変質者〟が識(し)る俺への態度は自然の描写がそっくりそっくり抜け落ち、誰の前方(まえ)でも涼しく観えない緻密を脚色彩(いろど)り何気(なにげ)も取り得ず、〝自分〟の背中に貼った紙には、俺と男女へ久しく見せ行く散文口調の箇条の文句(ことば)が、事前に彩(と)られた〝夢見〟の表情(かお)して滔々流行(なが)れる経過の内(なか)では腰を上げずに徘徊していた。
〝そのバスを下りて、前回は来れなくて良かったのだが、来てしまった会場の入口までを歩く間(あいだ)に、その俺が倒した筈のその変質者は、又、起き上がって出て来て在って、その動作は軽妙であり、その時の俺には、自分が織り成す打撃の手数(てかず)が「何事も軽快に遣って退(の)ける様(よう)」に何度も跳ね除けられる情景を見て居り、酷く軽快な物に見え始めていたのである。〟
 変質者(おとこ)から又器用に昇れる言葉が仕上がり端正(きれい)を仕上げ、俺の前方(まえ)では人煙(けむり)が立つ程、人間(ひと)の温身(ぬくみ)を俄か仕立てに薄ら煙れる美容に見立てて器量を認(したた)め、女性(おんな)に芽吹いた〝お華〟の気色は群様色から紅(あか)へと成り立ち、変遷して行く変質者(おとこ)の質(たち)には止まり木の無い無造の火の粉が斜(はす)かい飛んだ。どっぷり暮れ行く麗華(うるか)の夜目には、早熟してない童子(こども)の代わりが未曾有を呼び発(た)ち真っ赤に燃え生(ゆ)き、白雲(くも)の切れ間に可笑しく懐ける、孤独の初歩(いろは)を女々しく揺さ振り、「明日(あす)」に誇れる野菊の延命(いのち)は供養に伴う〝脚(あし)〟を絡めて気色を問うた。俺の輪郭(かたち)は〝変質者(おとこ)〟を観る内うとうと静まる眠気を吟じて聡明さに群れ、〝君〟が誇れる「明日(あす)」の魅力を存分足るまま放擲する儘、無暗(やみ)の内へと埋葬し果てた稚体(からだ)の元気を呼び戻して居た。そうする間(あいだ)に、俺の周囲へちらほら集まる〝華〟の調度は誰にも何にも全く覗けぬ昔気質の爺翁(じいや)を知りつつ、〝俺〟の集まる幻想(ゆめ)の宮(みやこ)で全く解(と)けない昔馴染みの人煙(けむり)が立ち生き〝未曾有〟を改め、童子(こども)に宿れる奇妙な呪文(こえ)など〝しどろもどろ〟に汚れていながら、滔々流行(なが)れる極里(きょくり)を報されぐったりして行く。俺の打撃を何度も承けてはふらふらながらに脚色(いろ)に冴え生き、他の何にも絶対溶け得ぬ昔気質の音響(ひびき)を射止めて俺に仕上がる旧友(とも)への安堵を〝堂々巡り〟の許容(かこい)を観た上、古豪の解(と)けない難解・不解(ふかい)を一方向にて詩吟に改め未熟を悦び、俺に宿れる青い蝦蟇(かえる)の〝後ろ飛び〟では、誰にも何にも結託出来ない無理が総立ち〝淡さ〟を拡げ、俺から見得浮く端正(きれい)な文句(ことば)は、端正(きれい)な〝活気〟へつとつと独歩(ある)める林檎の果実を矢張り認めて〝東の園(その)〟へと来名(らいめい)され行く〝未熟の法師〟を召喚していた。誰にも解らぬ白壁(かべ)にぶつかる〝俺〟への美声(こだま)は、女性(おんな)から漏れ女性(おんな)に跨り、女性(おんな)を射止めて女性(おんな)を失(け)せ得るビロード色した白体(からだ)の温度を揚々気取らせ蛆を集(たか)らせ、蠅に成るのを期待して待つ〝学者〟の屍(かばね)を揚々囲って愛して在った。〝全き者〟から〝欠陥品〟まで、不良を超え行く死体安置(モルグ)の距離には宙(そら)が先立ち、俺に射止めぬ男性(おとこ)の愚直が、宙の余裕(あそび)に所狭しと談笑せられて明日(あす)を識(し)れない経過に蠢き悶取(もんど)り打った。
「これじゃ恰好が付かんじゃないか」
 そうした自己(おのれ)の拙い愚直が人間(ひと)に気取られ並んで行きつつ、幻想(ゆめ)の経過を〝外界(そと)〟へ渡せる俺と他(ひと)の空間(すきま)に彩(と)られて自然が仰け反り、他(ひと)の表情(かお)には〝俺〟から観得ない向きが釣られて臭味(くさみ)を嗅いだ。女性(おんな)の両手は架空(そら)を彩る〝平ら〟を表し男性より成る拙い憂いを幻想(ゆめ)から追い出し自活を表し、男性(おとこ)の瞳(め)からは露わに出来ない体裁(かたち)が現れ、女性(おんな)の生臭(におい)を暫く嗅ぐ内、小躍り出来ない幻想(ゆめ)の讃歌を人間(ひと)に準え延命(いのち)を縮める。如何(どう)とも出来ない、蝙蝠にも似た黒色(じゅんじょう)呈する人間(ひと)の衝動(うごき)は、明日(あす)まで保(も)たない短命(いのち)を紡いで長寿とした儘、オレンジに咲く宙(そら)の夕日は醜く散り行く死体安置(モルグ)の体温(ぬくみ)にほとほと似ており、苦労知らずの獣の類(たぐい)は、人間(ひと)から離れた楽園(パラダイス)を観て喜楽を識(し)った。俺の背後に悠々昇れる変質者(そいつ)の檻には生気が無い儘、友達さえ無い架空の温味(ぬくみ)が文句(ことば)を連れ添いじんわり漂い、〝段々畑〟に努々(つとつと)実れる人間(ひと)の両脚(あし)には孤独を語れぬ桎梏(かせ)の黒味(くろみ)が陽(よう)に照らされ落ち着きさえ知り、〝明日(あす)は我が身〟と仄(ぼ)んやり出来ない刹那に準じて果てを観ていた。「果て」には小躍り出来ない自分の未熟が幻想(ゆめ)から離れて自身を失(け)し行く〝現実描写〟が到底失(き)えない〝意味の桎梏(かせ)〟など昨日の〝檻〟から転々(ころころ)延ばせる阿闍梨の四肢(てあし)に硝子の尖りを気儘に塗した朝陽の温度を頭上(まうえ)に従え、苦しまない儘、結局幻想(ゆめ)へと自己(おのれ)を透せる俺の従順(すなお)に安堵を認(したた)め、人間(ひと)と話せる体裁(かたち)を繕い陽(よう)の様子を宙へと探す。「明日(あす)」に消えない未来の様子は現行(いま)を象る脚色(いろ)の困惑(まよい)にしいんとする内、俺から醒め行く人間(ひと)の〝独歩〟は靨を携え安穏さえ保(も)つ。夕暮れ間近に〝野原〟に吹き行く人間(ひと)への潮風(かぜ)には見知らぬ熱気が人気(ひとけ)を連れ添い充満して活き、訳の分らぬ冷めた両眼(まなこ)が、人の気(け)を借り、父母や旧友(とも)等、何も知らない拙い〝我が身〟を〝俺〟に識(し)らせて仄(ぼ)んやりして在る。俺の跡から透れるか細い幻想(ゆめ)には誰も彼もが相当し得ない〝博識兼美(はくしきけんび)〟が時化を抑えて呑気を勝ち取り、中々進まぬ微動の哀れを幻想(ゆめ)と外界(そと)との空間(すきま)に葬り、夜は夜にて昼は明るい、明度を頼まぬ脆(よわ)い気色を高鳴らせている。海に咲き得る人間(ひと)への孤独は〝俺〟を透して大きく成り活き、白雲(くも)を覗ける宙(そら)の在り処で〝目下〟に眺める孤独の流動(うごき)を俯瞰する内、〝空間(すきま)〟に認(みと)めた小さな墓場を自分の生き着く目的地(あて)として行き、人間(ひと)から奪(と)れない生(せい)の在り処を俺に問いつつ自活が遊べる天下を夢見て外気を吸った。
 俺の背後に変質者(そいつ)の寝そべる〝檻〟が在る儘、初春(はる)に彩(と)られた小さな檻には俺に彩(と)られる気色の脚色(いろ)まで十分(じゅうぶん)ではなく、物足りないまま表情(かお)を顰めて恰好(かたち)を呈する白虎の類(たぐい)は変質者(そいつ)に噛み付き、明かりを識(し)り得ぬ白雲(くも)の空間(すきま)に変質者(そいつ)を放(ほう)って嘲笑(わら)って在った。にやにやして居る死体安置(モルグ)の屍(かばね)は経過(とき)を報さぬ弱り目など見て明日(あす)に活き行く未熟の延命(いのち)に獣の短命(いのち)を重ねて観る内、段々日暮れる人間(ひと)の朝には白砂が拡がる長閑が浮き出て幻象(まぼろし)さえ失(け)し、人間(ひと)の経過(ながれ)が自然に見惚れて自然に還れる上気を結わえて定めを決めた。人生から成る〝一つの絵巻〟を後光へ差し込み、人間(ひと)の延命(いのち)が長寿を望めて自己(おのれ)を識(し)る等、幻想(どこ)の誰もが手軽に成せ得る代物(もの)に無いのを恰好(かたち)に潜めた懐かしさに観て体温(おんど)を認(したた)め、「明日(あす)」を図れる幻さえ見て、陽気を取り巻く〝野原〟を牛耳り闊歩をして生く。堂々巡りの華に準え、滔々紡げる獣の短命(いのち)に幻想(ゆめ)を問うても、自己(おのれ)の延命(いのち)が幻想(どこ)に降(お)り立ち活路を執るのか、〝変質者(そいつ)〟を観た後(あと)、自己(おのれ)の背後を潤色して生く褐色(セピア)の吐息を感じてもいた。
 仲原中也は〝野原〟の上から涼風(かぜ)が冷め行く陽(よう)の辺りを右往左往に四脚(てあし)を拡げて探索して居り、自分の迷路に具に仕上がる〝人間(ひと)の延命(いのち)〟の残り火なんかを両手に紡いで美笑を携え、〝彼女〟の振り撒く〝陽(よう)の恰好(かたち)〟は俺の目下(もと)から揚々離れて褐色(セピア)を帯びて、「明日(あす)」を識(し)れない孤高の古巣へ逆行(もど)って入(い)った。二度とは知れない〝孤高の古巣〟は別の〝彼女〟の体温(ぬくみ)を識(し)り行く未熟を灯せる俺の眼からは結局彩(と)れない海の頭上(うえ)へと昇(のぼ)って入(い)った。落陽間近の陽(よう)の温身(ぬくみ)は俺の肌へと新しいのに、温(ぬく)みを呈せぬ宙(そら)の真中でひっそり跳び生く〝人間(ひと)の古巣〟と競争する内、人間(ひと)の両眼(まなこ)へするりと抜け落ち、暗(やみ)に浸れる幻想(ゆめ)を象り空気(もぬけ)を魅せ得た。結局〝幻想(ゆめ)の古巣〟を暫く追うまま俺の目下(もと)から離れた延命(いのち)は〝彼女〟の行方を乏々(とぼとぼ)問う内、佐々原知代美の微かな気配が終始脈打つ〝野原〟の真中へするりと抜け落ち〝空気(もぬけ)〟を閉ざして、陽(よう)の見知れぬ肥った艶(あで)から生臭(におい)を灯せる〝弁当箱〟へと注目して生く。仲原中也の細々(ほそぼそ)失(き)え行く古巣の〝野原〟で、俺の心身(からだ)はすうすう透れる潮風(かぜ)の生気を真向きに受け取り、潮の流行(なが)れる孤高の流動(うごき)を図面に識(し)る内、幻想(ゆめ)から離れた俺の生気は〝彼女〟の放てる臭味(くさみ)に釣られて鼻を噛みつつ、
      *
「うまい、うまい」
      *
と夢中に育てる自己(おのれ)の体温(ぬくみ)を幻想(ゆめ)から離れた外界(そと)の古巣へ、ぽんぽん投げては〝彼女〟を愛せる俺の孤独へ〝根城〟を打ち建て真面目で在った。幻想(ゆめ)から離れる最後の気色も、結局誰との試合も彩れない儘、俺と〝彼女〟の生気の対峙は〝海〟を挟んで清閑(しずか)に在った。

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