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依頼のない原稿

タイトル:依頼のない原稿

俺は原稿依頼を持ち込まれる仕事をしている。
まぁ内職だ。
昔からシナリオライターや小説家に興味があって
それを本業とする事ができたら、なんてずっと夢見ていた。

子供の頃からの夢が叶ったんだ。
この仕事をどうでも失いたくない、
そう思っていた俺はやがて生活苦に打ち当たる。

「ええ?どうしてですか!これでOKだと…」

担当者「ええ確かにそうでした。誠に申し訳ありません。うちの会社の基本方針が変わったようで、前のテーマではどうにも」

「そんなの、そんなの勝手過ぎますよ!サスペンスホラーで良いから書けって言われて書いたんですよ!
今更そんなこと言われても…!」

これもこの業界では結構多いこと。
依頼するだけ依頼して
流行が変わりニーズが変われば、
そのライターを簡単に切り捨て、
自分だけの利益を取ろうとする依頼社。

でもそれが当たり前だと言われても、あまりに人間味がない。
常識もなく、共存共栄を図るなんて絆のカケラもなく、
「カネを払ってやってるんだから」
とその強気1本で、どこまでも自分の我(が)を
押し通してくる。

良い依頼社(ところ)に当たれば繁栄できるが、
ほとんどがそうじゃない。
それに俺はこんな事もう何十回も経験してきた。
何百回かもしれない。

だからもうイイ加減この世界に見切りをつけて
新しい、別の仕事に就こうかと考え出した。
そのほうが賢明で、おそらく普通の道なんだろう。

そう思っていた矢先、
担当者「ですが私としては大変面白く、この作品を別で、私がサイトあるいは会社を立ち上げた際には、ぜひ採用したく存じております。このたびは本当に申し訳ないです」
俺についてくれていた担当者は精一杯慰めてくれ、
俺にそう言ってとりあえず原稿は受け取り、帰っていった。

こんな事もこれまでに何度かあった。
でもそれが実を結んだ例しは全くない。

いや1度だけあるにはあったが、
その時も同じように原稿を渡しておいたのだが
その原稿はそっちのけで、新たな依頼を設け、
また新たな創作分野に出向かねばならかった。

そのシナリオジャンルは全く俺の手から離れたもので、
畑違いも甚だしく、モノにはならなかったんだ。

「今回もきっと同じだろう」
と思っていたら電話が鳴った。

担当者「この前にいただいた原稿ですが、ついに出版が決まりましたのでご報告にと!」

「え?ええ??」

なんと、あの約束を守ってくれた担当者。
「うそでしょう!?」
と言ったが本当らしい。

俺のあの日に書いたボツになったあの作品は、
瞬く間に売れてくれたようで、
俺の口座にもそれなりの報酬が入ってきていた。

「ほんとに…?ハハ、ハハハ…やった…」
初めて体験したこんな成功。

俺はある日、あの担当者に改めてお礼しようと思い、
もう縁を切りかけていたあの雑誌社に
もう1度連絡してみた。

でも、
「え?ああ、掛川さんですか?あの人ならもう退職されましたけど?」
「え?」
おかしな事を言ってくる。

「…じゃあどこであの作品を?もしかして本当に会社を立ち上げた?」

この短期間で信じられなかったが
それしか考えられない?
ウェブ記事にも俺の作品の紹介が載っている。
だからサイト方面でもいろいろ探してみたが、
あの人の個人情報はどこにも載っていなかった。

だからか俺は余計にあの人が
今どこで何をしているのか知りたくなり、
あの人の行方を追った。

すると信じられない事がわかった。
あの人の友人に話を聞いてみたところ、
「ご存じなかったんですね。掛川さんは先日…」
事故に遭い亡くなっていた。

「…そんなバカな」

よく聞けば、俺があの日、掛川さんから電話を受けた
その前に、掛川さんは事故で亡くなっていたと言う。

そして奇妙な体験をしたその直後の事。
「なっ、か、掛川さん!?」
なんと夜中の2時に、俺の家のドアを叩き、
掛川さんが来てくれたのだ。

「あ、あなたは確か…」
「亡くなったはずでしょう?」
と言おうとした俺の言葉を遮るように掛川さんは、
「本の売れ行き、見たくないですか?」
と俺を誘い、郊外のトンネルまで連れて行った。

もう訳が分からないまま、俺はとにかく掛川さんと一緒にいた。
そしてそのトンネルの闇を抜けると、
「ええ!?こ、ここは…?」
見た事もない別世界が広がっていた。

掛川「どうです?凄いでしょう?私ね、こういう仕事を前からしてみたかったんです。自分の気に入った作品をどんどん世に送り出して、お金の心配とか将来ビジョンとか何も心配せずに、とにかく自分が認めた作品だけを世間に広めていく」

掛川「ハハwこれまでいたあの世界じゃ、こんな夢は叶えられませんでした。だから悟ったんです。おそらくこっちの世界へ来ればその夢も叶えられるかと。思った通りでしたよ。だからあなたに、これからも原稿依頼をして良いですか?」

「え…?」

掛川「あなたの作品は質からしておそらく、現世では売れないでしょう。おそらく認められることもないと思います。だからこそ私が紹介した今この世界で、あなたの作品は生きると思います」

それから俺は現世に戻り、
依頼のない原稿を書いている。
この世では依頼のない原稿、
でも掛川さんが紹介してくれたあの世界では
その依頼が絶えないようだ。

「現実逃避」なんて受け止められたら
俺にとってもそっちのほうが都合が良い。
そのほうが、この世界が嗅ぎつけられる事もおそらく無いだろうし、
俺と、掛川さんと、あの世界だけの関係で、
依頼をずっと続けることができると思う。

特定の作家とは世間で得てして、
こんな孤独の中にある者なんだろう。

動画はこちら(^^♪
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