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「黒人の命は大切だ」と「すべての命は大切だ」は真逆の意味合いになりうるという話

大学一回生の頃に履修していた英語の授業。教授があからさまな差別主義者だったのをよく覚えています。

アメリカ出身。人種的にはいわゆる白人。そこそこ歳いった人だったけど、たぶん日本には長く住んでいて、うちの大学でも長く教えていたのだと思う。その先生が授業で使っていたテキストが、「日本とアメリカを文化比較してみましょう」みたいな内容なんだけども、ひとつひとつのコラムが、ことごとく日本人の価値観がいかにダメで、アメリカ人の価値観がいかに素晴らしいかという偏見に満ち満ちた内容で埋め尽くされていました。

なんでこんな差別主義の教授がうちの大学におるねん!

と、疑問だったし本気でムカついていたけど、おそらくは、過去の欧米的な価値観(GHQ的な?)に媚びるような日本人の英語教師も多かったに違いなく、結果、そういうスタンスで教えること自体がある種の日本人に対する「啓蒙」みたいに受け取られていたのかもしれない。あくまで推測ですが。

今でも覚えているのは、その教授との最後の個別面談の課題が「映画を観て、それについて語りなさい」だったんだけど、私はスパイク・リー監督の作品 Do the right thing を選んだところ、明らかに不愉快で困惑した顔をされたこと。あれは、私の人種差別する人間に対するささやかな抵抗がちょびっと成功した瞬間だったな。

さて、私自身はどの人種、民族だろうが偏見を持たないで接する努力をしています。「意識して努力せなできひんのかい!」というツッコミが飛んできそうですが、すべての人間の脳には多かれ少なかれ確実に偏見が埋め込まれているものなので(自然なことです。私の仮説では防衛本能ではないかと思う)、自分は差別主義者じゃないから大丈夫と思うのではなく、常に意識的な努力は必要だと思っています。

で、このほど "Black lives matter" と "All lives matter" という二つのよく似たフレーズを目にするようになり、いろいろと疑問が沸き起こりました。

私のように、日本で生まれ、現在日本在住の黄色人種の人間が、当事者でもないのにBlack lives matter と言うことは適切なんだろうか。なんか、偽善的だったり嘘っぽいと思われないか。

だとすると、All lives matter つまり、すべての命は大切だと言うフレーズの方が、自分の立場で言うならばしっくり来る。その場合、当然の事ながら、黒人の命はそのAll に含まれる。「Allイコールすべて」なんだから、黒人の命だけをそこから除外する理由なんてどこにもないし、Allって言っている意味がない。

でも、昨日、今日で、あるとんでもない事を知ることになりました。All lives matter (以下ALM)は、Black lives matter (以下BLM)に「対抗」する形で出てきたフレーズだと。

え?そうなん?

頭が固まりましたよ。つまり、ALMは、人種差別主義者が言い出したとのこと。そんなこと、日本で暮してたら知りようがないやん??

という訳で、とても気になったのでバカ正直にFacebook上に、

"I don’t understand; all lives matter is against black lives matter? Both phrases literally make sense to me but it’s used in a different context? And I’d be considered to be a racist if I say all lives matter? That sucks. All lives mean... “all lives” to me. That doesn’t exclude any lives...."

「ALMはBLMに対抗するフレーズですか?文字通り読めば、どちらも有意義なフレーズに聞こえるけど、私が思っているのとは別の文脈で使われていますか?もし私がそれを使うと、人種差別主義者とみなされるんですか?それはめちゃ困るけど。私にとって、すべての命ってのは、ほんとにすべての命だし、何かを排除した状態のすべてってのはあり得ないんだけど…」

と問いかけてみました。

Facebookは、リアルな場所での関係を築いている友人のみとしか繋がっていないけど、それでも正直、この質問を投げかけるのは怖かったです。もしかすると誰も反応してくれないかもしれないし、変な捉え方をしてムカつく人もいるかもしれないので。

でも幸い、ハワイ在住アメリカ人(中華系なのでアジア人)、アメリカ在住カナダ人(白人)、アメリカ人在住アメリカ人(白人)、日本在住カナダ人(白人)、日本在住ニュージーランド人(白人)の友達たちが、それぞれの視点で丁寧に回答をくれました。

みんなからのフィードバックとしては、

・BLMは黒人の命だけの話ではない。黒人の命も大切ってことが真意
・ALMは、差別主義者とみなされる可能性が高いので、そう思われたくなければ言わない方が良い
・ただし、やはりそれを誰が言うかによって意味は変わるかもしれないね(これは議論の中で出てきた、みんなにとって新しい見解だった)
・実際には、All lives matterであること自体に間違いはない
・こうやって疑問を投げかけてくれたことに感謝する。こういうやりとりが本当に必要。そして日本人的視点のシェアもありがとう。質問することからしか変化は生まれないからね。

と、泣けるほどポジティブな反応が返って来ました。

話は変わりますが、私は学生時代にアメリカのミシガン州に2年住んでいました。学内の生徒の大半は白人、日本人は3人とか、そんなもん。あとはアジア諸国や欧州からの留学生がチラホラ。学校自体は、えらいお金持ちの白人が住むエリアの中にありましたが(私ら学生は貧乏だったけど)、学外に出てスーパーに行けば、レジ打ちの仕事は黒人と、知的障害を持つ人たちだけ。私が学内でバイトしていた際、同僚となったのはほぼ全部黒人。私にとっては親からの仕送りに追加するための生活費稼ぎのバイトでしたが、彼女たちにとったは100%生きていくための本業。でも時給はバイトなのでモーレツに安いです。

バイト先での会話の内容は、「うちの旦那、今日刑務所から出所するのよ!嬉しい〜!」とか、「昔は薬やってたよ。でも神に導かれてやめた」とか、そういう感じでした。カルチャーショックではありましたが、私は彼女たちと非常に打ち解け、そのうちの1人が「養子」のように受け入れてくれたことで、卒業後はしばらく彼女の家に居候していました。わずかにお金を入れてはいましたが。

彼女はアラバマ出身で、バケーションで今度アラバマへ行くから一緒に行こうと誘ってくれ、おもしろそうだからついて行くことに。

デトロイトからグレイハウンドのバスに乗って丸一日くらい?アラバマでは、彼女のおばさんの家に1週間滞在しました。完全なる黒人コミュニティにアジア人は私だけ。でも、ここでもみんな「よく来たね〜!!」と受け入れてくれました。

そんな彼ら彼女らと共に行動すると、あからさまな人種差別の現場に何度も何度も出会しました。その度に、「黒人だからね、こう言う目に遭うんだよ」と。

でも、そこで出会った彼ら彼女らが私に伝えてくれたことは、要するに「All lives matter = すべての命は大切だ」ということでした。

だから、今回のこのALMを使うと本当の意味に取られないと知り、困惑しました。

何やねんほんま。高校一年の時にロサンゼルス暴動にショックを受けて以来、ほぼ30年の月日が流れたけど、未だに解決されない人種問題。どうしたら改善されるんだろう。

でも、人種差別に反対する声を上げる人は当時よりも増えた気もするし、SNSが発達した現代では、多様な視点や意見の交換もしやすくなった実感はあります。

という訳で、私が今できることは、ALMは、BLMよりも包括的でポジティブな意味だという感覚で使えるフレーズではないという事を、これを読んでくれた人に伝えることですかね。

世代が変わっていくことで、世界が良くなる事を祈っています。また、テクノロジーを使ってそれを加速できればいあなと思います。できることをやろう。

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