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花子第三回(300文字)

 花子は豆腐屋である。
 両親は名付けの時、絹子と命名するつもりだった。家業に関りがある漢字を盛り込もうと案じた結果まあ候補にあがったわけだ。
 木綿の様な肌の娘よりは絹のほうが俄然よいに決まっており、ミスユニバース入賞の伊東絹子にあやかってもおり、シルキー果てはラグジュアリーまで見据えることになる、と。
 ところがである、ある日冷蔵庫の扉を開けた母がドンと切り出した
「脱臭剤のキムコと発音が被ってるし薄暗い一角の奥まった場所で忘れ去られるような娘にならないかしら」
 それにどう転んだってあたしとあんたの娘である、議論は進みまあどっかで誰かに摘んでもらえるようには、と斯々然々で無難すぎる花子とあいなった。


 注) 当時の市井の時代性を考慮した表現が含まれております。

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