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平成訳七十二候

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#Essey

しもやみてなえいずる

霜止出苗(しもやみてなえいずる)

その日はとにかく食べ続けていた。久しぶりに会う友人との遅めのランチは、昭和の香り漂う渋いスナックの看板が並ぶ通りにある店で、古風なカレーライスとチーズケーキのセット(紅茶付き)。チーズケーキの持ち帰りが人気のようで、ぽつりぽつりとお客さんが来ては買って帰る。スフレ仕立てで軽い口どけ、なるほどこれは無限にいける。常連客が大きなワンホールを買って一人で食べるなどとい

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あしはじめてしょうず

葭始生(あしはじめてしょうず)

北風と太陽。朝と晩の気温差に、脱いだり着たりを繰り返す。季節の移ろいによって左右される装いではあるが、それを縛るのは何も実践の面においてのみではない。その日にその日に合わせたドレスコードを嗅ぎ取って服を選ぶことはたのしい。とりわけ足元は大切だ。

展覧会に行くときは、音に配慮したいのと、長時間立っているので、歩きやすい靴を好んで履くことが多いのだが、2年前、森美術

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