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JBAラムリム講座第1回要約

 この記事は(一社)日本仏教徒協会がチベット仏教普及協会《ポタラ・カレッジ》のクンチョク・シタル先生をお招きして開催している「チベット仏教『ラムリム』講座」の内容をダイジェストでまとめたものです。
 ラムリム講座は途中からでもこちらよりお申し込み頂けます。過去分はアーカイブで視聴可能です。

|ラムリムとは|

ラムリム(『菩提道次第論』)とは、チベット密教ゲルク派の仏道修行の手引書であり、開祖ツォンカパ(1357年 - 1419年)が著したものです。チベット仏教の混乱期にインドより招聘されたアティシャ(982年 - 1054年)が著した『菩提道灯論』に原型が求められます。

ではラムリムとはどのようなテキストなのでしょうか。

菩提・・・覚り(さとり)の境涯
道次第・・・段階的な実践

つまるところ、仏教を実践する上での初歩から覚りへ至るまでのステップが丁寧に書かれているというのですね。
ここまで丁寧に記されているのは、修行のための学習体系が緻密に発展したチベット仏教の特徴だそうで、
その特徴こそがここ日本においてチベット仏教を学ぶことの大きな意義の一つでしょう。

|内容の概観|

では覚りに至るためのステップとしてどのようなことが書かれているのでしょうか。
ざっと主要な部分だけ取り出すと、
・仏教を教わるための心構え
・師に対する作法
・一般的な苦しみのない未来をもたらす実践
・苦を根本から断つ実践
・他者の苦も取り除くための実践
・止観の瞑想
などが挙げられます。

出家者にかかわらず、仏教に興味がある、という方にも、
この日常に近いステップから修行、覚りに至るまでが連続的に丁寧に取り上げられている本書および本講義は有意義なものとなりうるのではないでしょうか。

|ラムリムの特徴|

少し専門的な内容に踏み込みますが、ラムリムの仏教の伝統の中における特徴はどのようなものでしょうか。

小乗仏教から大乗仏教までをすべて扱っている
日本の真言宗における空海の著した『十住心論』にも通じ、「顕教」の後に「密教」的実践があるという考え方で、チベットでは顕教の学習を行った上で密教的な実践に入っていくというプロセスを取るといいます。そしてその顕教と密教の橋渡しとなるのがこのラムリムだというのですね。

大乗仏教の代表的思想家である龍樹と無著の2人の伝統を継承している
龍樹の問いた『中論』に代表される中観哲学の深甚さと、無著の問いた『摂大乗論』のような広大な実践の体系を引き継いでいるということだといいます。
またそれは、客観と主観とも対応し、この二つの伝統を統合することは、主客の統合を目指しているということでもありますし、のに述べる「事相教相」とも対応しているでしょう。

|事相教相|

クンチョク先生は、仏教の素晴らしさとして、非常に論理的な哲学の上に、それを体験する修行も付いているというを強調されていました。

日本仏教の言葉で言えば「事相教相」、噛み砕いて言えば実践と勉強、とも言えましょうか。
これは西洋の哲学と比較した時の仏教の特異性であるでしょう。

そもそもお釈迦様は事相すなわち体験から始めました。
クンチョク先生の例えを借りれば、”オックスフォードに留学するのではなく、森に入っていった”のです。

お釈迦様は体験から始めて、
それを衆生、他者にとっても再現性のあるものとするべく四聖諦などの理論を説きました。

事相に基づいて教相はあり、
教相があって事相が可能になる。

この組み合わせが仏教の大きな特徴だと言います。

龍源師がおっしゃられていたように、事相と教相は車の両輪のように回していくことが実際問題としては必要でしょう。
教相だけやるのでは学問のための学問、哲学のための哲学となってしまいかねませんが、
ただただ事相をひたすらやり続けるのではどこに行くべきか、どこに行き着くかは調整することができず、ひどい結果になってしまうことになってしまいかねません。

ラムリムにはその一つの回答が書かれているとみてよいでしょう。

|最後に|

お釈迦様の滅後にまとめられた経典とそれを解釈した論書などを集大成した叢書である大蔵経。

それが中国語と並んで膨大な量に訳されているのがチベット語だと言います。

その膨大な量の翻訳がなされている背景には、かつてのチベット人僧侶たちの多大なる努力があることは想像に難くありません。

朝から晩まで勉強会が開かれている様子などをクンチョク先生が挙げられていましたが、
日本の大学のゼミで行われている輪読のようなことが、朝から晩まで、そして何世代にもわたって継続され、現代に至るまでその資料が残されているというのはとてもありがたいことに思えます。

ラムリムもまたその系譜の中で、ツォンカパによって著されてから600年経った今、チベットから遠く離れたここ日本でこうして勉強会が行われていることには感無量です。

ぜひ仏教伝統の中に身をひたすためにも、実践的な知恵を得るためにも、ラムリム講義へ参加してみてはいかがでしょうか。


文章:上村 治也(京都大学総合人間学部五回生)

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 大阪市西成区で生まれ育つ。 高校在学時から学生団体の立ち上げやITサービスの作成を行い、高校卒業後は京都のスタートアップで様々な事業に関わったのち、東京のスタートアップにて創業メンバーとして携わる。
 やがて成功・成長を求める自身の「生き方」に違和感を抱き、自身の心理・内面の世界へ潜っていくが、一時神経衰弱状態にまでなってしまう。
 その後、学童クラブでのアルバイトと自宅での哲学の勉強を繰り返す傍ら、寳幢寺へ定期的に通う生活を約2年間続ける中で、仏教の智恵と実践の中に豊かな「生き方」を見出していく。                      


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