コロナで大学は潰れる?答えはノー。

朝日新聞の記事で「190大学、年度末に休退学増加を予想 コロナで生活苦」というものが出されました。このコロナ禍の影響を受けて、多くの退学者が出てしまうだろうという予測、それもかなり確からしい内容が報道されています。

単発的な奨学金対応ではもはや焼け石に水状態に陥っており、そもそもの学資負担者が不況にあえぐ中にあっては学業の継続は難しいのではないか、という内容となっています。

大学の収入の8割以上は学納金収入

私立大学に関しての話になりますが、大学の収入の6〜8割は学納金収入となっています。残りは文科省の補助金や産学連携等の収入となっているところがほとんどでしょう。報道のとおり、学資負担者が職を失う、あるいは仕事が減って収入が激減する以上、学生も在籍を続けることはできません。そうなれば大学の収入の大半を占めている学納金収入が途絶えてしまいます。

さらに、令和2年度全体でみても例年以上の支出がかさんで(臨時の奨学金やICT環境の整備)おり、大学からすれば既に単年度予算においては赤字の状況も珍しくないように思います。

それでは、大学は潰れるのか?

タイトルのとおり、答えは「ノー」です。普通の企業では収益が上げられなくなれば、倒産あるいは部門縮小という憂き目にあうでしょう。ところが大学は違います。「教育は国家100年の計」と言われるように、教育事業というのは非常に公益性が高く、また日本の社会においては、大卒資格にかなりの価値が見出されているため、その学位授与機関である大学が早々に潰れていく未来はあまり見えません。

確かにこれまでも、志願者数の減少によって消滅する大学はありました。しかし、その話と今回の話が大きく違う点は、原因が天災(疫病)であり、社会に与える影響の大きい教育機関がそうした事情によって失くなってしまうのは社会的に甚大な被害をもたらします。まず、間違いなく、文科省を通じた公的資金の莫大な投入によって大学業界は守られると思われます。

日本の大学業界の特殊性

日本は大学のうちの8割が私立大学という状況になっています。私立大学と国公立では何が違うかといえば、ずばり資金の出どころです。国が資金を調達する国公立(公立は都道府県)に対し、私立大学は自前で学生を募集し、その学納金で運営されています。それゆえに私立大学の学費は高いのです。しかしこの特殊性が、今後の大学業界や大学で働く人にとっては非常に忍びない現実を迎えていくことになるのではないか、と危惧しています。

私立大学が多い場合に、上述のとおり、行政側でのコントロールは当然弱くなっていきます。直轄の国立や公立と異なり、私立大学はそれぞれ自主独立して運営されているので、大まかな教育の方向性以外は任されることになっており、それが建学の精神に基づく個性的な教育に繋がっている訳ですが、裏を返せば、行政側からの過度な干渉は受けないことを示しています。

補助金による誘導

このような特殊性があるために、文科省は国の意図する教育内容の充実などを行っている大学に対して補助金を出していくのです。私立大学側も学納金収入だけでは成り立たない場合に、こうした文科省の、ある意味では"ぶら下げられた人参"にすがることでその命脈を保つことができます。その代わりに、文科省の意図する教育内容を実行していく訳です。

今後の支援策と大学業界への影響

ここまで、大学が簡単には潰れない事情と補助金の仕組みについてご説明して参りました。お分かりのとおり、コロナ禍に対する補助金は教育内容の充実などといった通常の補助金とは異なりますので、それぞれの窮状に対して国費、国税を投入していくということになります。

これは私立大学側にとっては、ある程度の説明責任や透明性を担保しなくてはならないということに他なりません。ぶら下がった人参ではなく、税金をもって直接的に支援してもらうことになります(要件に充実した奨学金制度などが求められる可能性はあります)ので、仕方ないというよりは、世間様や国民に対して誠実に向き合っていかなくてはならないのは当然のことです。

そうなった時に、我々私立大学が直面する新たな局面は非常に厳しいと言わざるを得ません。流石に教員職員の給与表を出せなどとは言われないと思いますが、世間一般に比べて高給取りであることは間違いなく、これまでどおりのまったり高給はいよいよ幻想ということになりかねません。

というよりもお客さんである学生のご家族がそれほど困っている中で、今までのように高い給与を受け取って良いものとも道徳的には思えません。それに加えて世間に対する風当たりは一層強くなっていきますので、私立大学の経営を支える事務職員の我々は、給与の減額、説明責任のための誠実な業務遂行とクリアな情報公開に追われることとなるでしょう。

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