非常勤教員から抜け出せなくなる未来(日本郵便事件)

日本郵便事件とは、契約社員が正社員との待遇差(年末年始勤務手当、年始期間における祝日給、扶養手当、夏期冬期休暇、有給の病気休暇の5つ)を違法として訴えた裁判であり、令和2年10月15日に最高裁は、待遇差を不合理として判決を下しました。

判決の意義

この判決には、従事する業務が同じ内容であれば、正規非正規の間に待遇差は認めないとするもので、画期的な判例と言えます。まさに「同一労働・同一賃金」への確実な一歩を踏み出した事例と言えますが、日本郵便はかつて、正規非正規の待遇差をなくすために正規雇用の待遇を下げるという何とも驚きの手段に打って出た過去があります。今回の判例を受けて、正規雇用と同じ手当をもらえるようになる代わりに、手当全体が安価なものになってしまう恐れは十分にあるでしょう(郵政ならやりかねません)。

非常勤教員の手当がカットされる?

さて、大学の非常勤教員は1コマいくらという単価計算で給与を得ています。基本的には学卒年に応じた単価となっており、25,000円から50,000円ぐらいが1コマあたりの相場ではないでしょうか。

そして、この判例がどのような影響を与えるかというと、最終的なゴールは専任教員と非常勤教員の役割がさらに明確化されるのではないか、ということです。

非常勤教員に委ねられる業務は概ね「教育」のみですが、現状としては入試実施におけるサポートや論文審査、公開講座での登壇など、幅広く活躍する場があります。上述のとおり非常勤教員の給与はコマ単価で支払われていますので、こうした「教育外」の業務に従事するとその分の手当を支払うこととなります。

日本郵便はおそらく手当全体が安価となってしまうのではないか、という予想を立てました。しかし大学においては、そうはならないと考えられます。

なぜならば、これまた上述のとおり、既に大学における非正規=非常勤教員の本給および手当においては明確に分けられており、実績に応じて支給をしてきた過去が既にあるからです。確かに非常勤教員に頼る大学をなくしていこうという文科省の思惑はありますが、実際問題、判例を受けて使い勝手の良いこうした非常勤教員に頼らないようになる未来は全く見えません。

非常勤教員にとっては喜ばしくないことも

そうは言っても、専任教員を目指して非常勤教員で生計を立てている先生方にとっては喜ばしくない面もあります。ある意味では、日本郵便事件判例によって、手当における待遇差は認めないということになったのですから、裏を返せば、手当さえきちんと払っていれば全く問題ない訳です。

特に専任教員の多くは自身の「研究」以外の業務は煙たがっているでしょうから、こうした研究以外の業務は非常勤に任せられることも増えてしまう恐れがあります。

そうすると、非常勤教員として生計を立てている先生方にとっては、元々少なかった研究時間が手当と引き換えに大学における雑務(言い方悪いけど)を引き受けることになってしまい、ますます専任への道が遠ざかることになってしまいます。

ますます格差が広がる

最も危惧することは、大学側もこのような雑務(言い方悪いけどpart2)を積極的に引き受けてくれる"便利な"先生を広く非正規で雇用していくことになるのではないか、ということです。更に現在は無期転換の問題を大学も抱えているので、非常勤教員をいかに上手く使っていくか、という流れが加速していく可能性もあります。

ともすると、正規非正規の格差をなくすという好事例だったものが、結果として、非常勤教員の立場をより固定化することになりはしないか、という疑問が生じてくるのです。

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