コロナ禍に読書習慣を再開したら6キロ痩せた

思えば、人生最高の重さを常に更新し続けてきた。

もともと食べることは好きだった。三食しっかりは当たり前、実家で採れる野菜やフルーツは食べ放題だったし、頻繁に訪れる親戚が置いていくケーキやゼリーを神棚からこっそりくすねることもよくあった。

小学生のころは部活を4つハシゴしていたけれども、体重が落ちることは一切なかった。包丁が握れるようになると、台所にある材料を集めてお菓子作りを覚えた。ホットケーキやクッキーなど、簡単に作れるお菓子ほど小麦粉やバターをたくさん使う。同じく食べることが好きな家族は歓迎し、褒めてくれた。

身長は小学校高学年で止まった。体重は伸び続けていた。中学校に入学し、往復1時間の自転車通学と5キロの水泳をしていたのにも関わらず、食欲が凌駕していた。それでも、小・中と運動部を続けてきたためか、なんとか標準体重内に収めることができていた。

高校で、初めて文化部に入った。文化部と言っても吹奏楽部のように重たい楽器を持って歩いたり基礎体力トレーニングがある部ではなく、放送部と文芸部。年に数回のコンクール・作品提出に専念する以外は、部室でお菓子を食べながら和やかに談笑するような集まりだった。買い食いが禁止されていた中学と違い、学食や購買で自由に食べ物を買うことができる。なんと驚くことに、通学途中にコンビニに寄ることだってできる!(今まで自力で移動できる範囲にコンビニやスーパーは一切なかったのでかなり衝撃だった。中学生のころは通学路に生えている桑の実を幼馴染とこっそり食べたりしていた)新作のチョコレートや、おなじみの紙パックミルクティー、生クリームのたっぷり入った菓子パンなんかも親に気兼ねなく好きなだけ買うことができる。高校を卒業したころ、平均体重を3キロほどオーバーしていた。

大学へ進学した私は、実家を出て一人暮らしを始めた。三食すべて自分の好きなものを食べられるという事実に私は打ち震えた。箱アイスを一日に全部開けたり、菓子パンを買いだめしたり。思えば一人暮らしの寂しさで少々過食気味だったのかもしれない。そして、20歳を超えるころ、運命の出会いをすることになる。

最初はそこまで好きではなかった。甘いジュースくらいに思っていた。ただ、今まで特権のように思っていたものに口をつけていい気分に酔いしれていた。お酒というものに出会ってから、食の好みが変わり、食べられるものが増えた。酔っぱらうと無限におつまみが欲しくなる体質なのだと気づいた。宅飲みでは満足できなくなり、もらったばかりのバイト代を握りしめて一人で飲みに行くようになった。飲めなかったビールもワインも、ドイツに留学した一年間で大好きになってしまった。アパートに体重計がなく、己の重みを知る機会は年に数回だったが、前回の測定よりマイナスに転じたことはなかった。最終的に平均体重を8キロほど上回るようになった。

社会人になっても生活習慣は変わらず、順調に体重は増え続けた。最終的に、去年3月ごろ、私の体重はピークを迎えた。ついに平均体重を10キロ以上オーバーしていた。

ここにきて、緊急事態宣言が発令される。外出が制限される中、私は途方に暮れた。カフェも居酒屋もすべて閉まった。旅行に行くこともできない。散歩をしようと外を歩くと、天気は良いのに静まり返った、死んでしまったような街が広がっていて気が滅入る。生き甲斐がすべて奪われてしまったような気持ちで、ただただスーパーで買った食材を美味しく調理することに躍起になっていた。お取り寄せに凝っていた時期もあった。それでもお腹は膨れる。お腹が膨れてしまっては何もできなくなり、やはり途方に暮れた。やることがなくなった結果、外出できない鬱憤をリングフィットアドベンチャーにぶつけたこともあった。まじめに毎日コツコツ続けたわけではないので体重はあまり変わらなかったが、運動自体は楽しいなと思った。ネイル、ドライフラワー、身の回りでこだわれそうなものを片っ端から手に取った。どれも楽しいけれどそこまで熱中できない。最後に手に取ったのが1冊の文庫本だった。

読み始めて気づいたら2時間経っていて、かなりびっくりした。今までずっと忘れていたが、読書習慣は幼いころから高校に入るくらいまで私の中に存在していた。受験勉強に際して、理数系に弱かった私は教師や親に「本ばかり読んでいないで勉強しなさい」と叱責されることが多く、好きだった小説を大っぴらに読まなくなったのだ。地元を離れてからは視界が開けたような気持ちになることが多く、物理的な移動により様々な景色を見ることのほうに夢中になっていた。まとまった活字を読んだのは卒論執筆の時ぐらいだ。

一度読み始めると終わりまで読み続けたいと思い、次に顔を上げた時にはおやつの時間が終わっている。もう一冊読むと夕食の時間になる。物足りなさや空腹は特に感じない。うすうす気づいてはいたのだが、私は空腹を埋めるためではなく、暇つぶしのために、脳に手軽な情報を送る方法として飲食を使っていたようだった。脳が刺激されるのであれば本でもよい。(映像作品は鑑賞中に手持ち無沙汰になり間食してしまうことが多く、私には不向きだった)毎日1冊読む、などの自分ルールは特に設けなかったため、図書館でめぼしい本を探し、「暇だな」と思ったときに読むだけ。「なんか違うな」と思った本は最後まで読まず返すこともあった。1週間に1冊読むこともあれば、1日2冊読むこともある。雑誌でも漫画でも小説でもビジネス書でも。

仕事上リモートワークで日頃一切身体を動かさないため、健康のためにリングフィットやフィットボクシングを時々やったりしていたが、運動のルールも食事制限も設けないまま、暇つぶしの方法を増やした結果、1年とちょっとが経つ今、体重がMAXから6キロ落ちた。大学入学時くらいの体重に戻ったのである。5年分くらいの蓄積された脂肪が、ゆっくりゆっくり落ちていったらしい。

この文章は特にダイエット指南でも自慢でも何でもないのだが、1年を通して気づいたことを何か残しておきたくて書いてみた。体重が6キロ落ちると、純粋に体調がよく気持ちがよく、お酒を飲みすぎることも減り、なんとなく自己肯定感が上がり良いことが分かったので、今後も無理せず、せっかくなのであと3キロくらい落ちたらいいなと思っている。






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