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雉野つよしが尊すぎて生活ができない

主人公が自分でビデオを回し、カメラに向かって話し始める不穏な映画ってあるじゃないですか。
すでに何かの事件が起きていて、検証も兼ねて記録していこうと思います、っていうやつ。
あれだと思って読んでください。
多分私はこれからどんどん狂っていきます。もうそれは始まっているんです。
一人の男の挙動によって……。

しばらく自分語りが続きます。本当に雉野つよしについてだけ読みたい方は
<雉野つよしという男>まで飛んでください。

諦めた夢と叶えた夢、そしてそれを捨てた今

毎週日曜朝にやっているスーパー戦隊シリーズが盛り上がっているのはだいぶ前から知っていた。
暴太郎戦隊ドンブラザーズというらしい。暴太郎戦隊と書いて「あばたろうせんたい」と読む。
いい大人が真剣に会議を重ねて企画書を東映のお偉いさんまで通し、1年間これで行こう、となるんだから、すごいものだ。
そんな風に少し遠くから見ていた。
眩しすぎるのだ。
キャラが立った世界観の中で、何が正義か、何が悪か、澄んだ瞳で問いかける子どものような純朴さが、時に苦しく感じるのだ。
だから近づきすぎないようにしていた。
私は汚い大人になっちまったんでやんすよ。そうおどけて距離をとっていた。

私も昔はスーパー戦隊が好きで、一番好きなのはカーレンジャーだった。
その頃から本気でヒーローになりたくて、私の意図を大人な意味で汲んでくれた母は私を児童劇団に入れてくれたが、ADHDであることもあって大きな仕事をつかめないまま辞めた。

大人になって、看護師になるという夢を叶えてからも、上手くいかないことは多く、最近本当に苦しくなって辞めた
転職をして、生まれて初めてOLになった。
オフィス街のガラスに映った女性が自分だということに気づくのに数秒かかって、その時思った。
大人になっても変身はできると。

とはいえ慣れないデスクワークに心身の疲労は溜まってきた。
世の中の不都合が全て自分のせいに感じる。
心のハザードランプ、コ・ロ・シ・テ・ク・レのサイン。
信頼できる人に相談する。高校時代から師と仰ぐ旧友だ。
「何かに夢中になった方がいい。今の君には推しが必要だ」
彼の言うことはいつも結構正しい。
素直に聞くといいことがある。

しかしながら、私は夫を推しと公言しており、今でも夫は史上最高にキュートでクールでナウいのだ。
それゆえに、他にときめく男性ができてしまうのが心から恐ろしく、好きになりそうなものからは避けて通るようにしていた。
(世間が藤井聡太先生をフィーチャーしていた時、彼のあまりのセクシーさに動揺してツイキャスしながら泣いてしまった。宝島社が『このキャスがキモい!』をやっていたら2020年は独走しただろう)

そんなわけで、見るからにタイプの男性は薄目で見るようにしてきた。 まあドンブラ?とかいうやつが流行ってるみたいですし?なんかカオスみたいなんでちょっと覗いてみましょうかねー… おおおおおっと!?!?!?!?ピンクが男の子なのね!しかも薬指に指輪!!!妻帯者!!!!眼鏡!!!!ヘタレ!!!!!!サラリーマン!!!!!!そしてどうやら三枚目!!!!!!これはもしかしたらもしかしちゃうんですけど、まだわかんないよ!?!?まだわかんないから!!!!好きって決まったわけじゃないから!!!!!!

そう言いながら8話まで観てしまいました。
死にました。
こういう時、胸が苦しいとかじゃないんですよ。
丹田たんでんから内臓が飛び出しそうなね、わかりますか。
8年間看護師やってましたからね、私はこの症状を知ってますよ。
尊死っていうんですよ。そのうち循環器学会でも取り上げられるでしょう。

そんなことを言っている私を夫も穏やかに見守ってくれているので、このキャラ萌えはひた隠しにしたり罪悪感を感じたりせず謳歌することにしました。

雉野きじのつよしという男

32歳、みほちゃん(奥さん)と4ヶ月前に結婚したばかりの彼はコンサル会社に勤める冴えない営業マン。
公式サイトを載せるだけにとどめますが、是非ともググってみてください。なんだかヘラヘラした男がそこにいるはずです。

このボサボサなのか美容師の奥さんに整えてもらったパーマなのか折角整えてもらっても仕事上手くいかなくてぐちゃぐちゃにしちゃってるのかわからない髪型や、
利便性を優先して選んだのであろう野暮ったくて似合っちゃっている大きな眼鏡、
一応コンサルの営業なので常時スーツだけど、すぐ一生懸命になって本気出しちゃうからしょっちゅうジャケットそこらへんに放っぽっちゃうところ、
時々女子高生のはるかにはタメ口になるけど基本は敬語で、名字にさん付け、
普段はヘタレでビビりだけど、人一倍努力家、とかとかとかですね、
まあ普通に考えて萌えのいくら丼な訳です。
もうそこらへんにしといてください、これ以上盛ったら溢れちゃいますから、あぁほら…と言わんばかりの萌えどんぶり。それが彼な訳です。

さてですよ、私が理性を保って日本語を話せているうちにお伝えしますけども、
端的に申し上げて非常に可愛いです。愛らしい。人様の旦那さんにこんなこと言うのは本当に申し訳ないです。ごめんなさい、みほさん。でもあなたのご主人、本当にキてますよ。あなた普通に髪とか切ってあげちゃってますけどね、ご主人の持つ破壊力はただならないものがあります。はっきり申し上げて異常です。ごめんなさいね、強い言葉が出ちゃいました。でも本当です。ワタクシ、何度か発作を起こしかけましたもの。

彼の何が私をそうさせるのか

髪型とか眼鏡とかスーツとか、そんなことを申し上げましたけども、そんなもんは記号でしかありません。
しかし、記号は非常に重要です。
アバターがキモすぎてアメーバピグで全くモテない記事でもありましたけど、見た目から人間を判断する心理は0にはできません。
特に、この戦隊ヒーローシリーズは、おもちゃの売り上げを上げるために低年齢層の子どもを主なターゲット層にしています。
それ故に、各人が身につけているアイテムというのはそのキャラクターの象徴であり、アイデンティティな訳ですね。
だから、その眼鏡・髪型・スーツ・結婚指輪、全てが彼を表しているんです。

そういうところからズルズルと引き込まれていきまして、おぉ萌えるやん可愛いやんと言いながらね、5、6話あたりですか、まだ余裕でした。
みほちゃんの前でとんでもなく笑顔になったり、指名手配犯に怯えたかと思えば誕生日だって聞いて持ってきたケーキみんなにあげたり、表情がコロコロ変わります。可愛いですね。
お口が大きくていらっしゃるので満遍の笑みがとっても映えるんです。もっと沢山見せてほしい。貴方が笑顔になる姿を、もっと見ていたい。そう思わせてくれます。

三枚目+ネガティブは究極のバニラソルト

しかしながら、人間、完璧な人はそうそういるもんじゃありません。
普段気丈に振る舞っている人にもコンプレックスがあったり、自信がなかったり、そういう部分が垣間見える瞬間がありますよね。

僕は子供の頃から何をやってもダメだった。だから得意なことがないんだ。

暴太郎戦隊ドンブラザーズ ドン6話「キジみっかてんか」より

そうすると、普段の明るく振る舞っている場面がちょっと心配になってきてしまいます。
本当に心から笑えてる?貴方の感情を見失ってない?
みほさんは彼をそんな風に支えてきたのでしょうか。

私はかつて『ワンピース』のウソップや『ダイの大冒険』のポップにどハマりしていたのですが、彼らと雉野さんの共通点に三枚目+ネガティブ(もしくはコンプレックス持ち)というのがあります。
こういうキャラクターは最も状況を客観視できていて、それ故に自分の能力の低さが目について、努力しないとみんなに追いつけないという焦りを抱えながら、その感情さえもユーモアで隠して表に出そうとしないという傾向があります。
雉野さんのコンプレックスは桃井タロウの出現によってガッツリ刺激されており、正直居心地は良くないでしょうね……。

でも、だからこそ一所懸命になっておにぎり屋さんも立て直そうとするし、決闘だって申し込みました。本当、努力家なんですよね。
不真面目に見えて、一番真面目
それが三枚目+ネガティブの最大の魅力であり、バニラソルト的効果と言えるのではないでしょうか。

8話を鑑賞、一度(私が)死ぬ

※以下、8話のネタバレを含みます。ご注意ください

そういった具合に見守りつつも「雉野つよし」で検索すると「ヤバい」「8話」がサジャストするではありませんか。
なによなによ〜ヤバいくらい可愛いのはいつものことじゃないの〜^^
悠長に構えていた私が大馬鹿者でした。

おいおいおいおいおいおい何やっちゃってんだマジでおいおいおいおい

8話で何があったかと言うと……
雉野さんの妻、みほさんが画家の怪人に拉致監禁されてしまいます。みほさんは自力で怪人の元から逃れましたが、雉野さんは怪人に怒りを覚えます。戦いの末、怪人をドンモモタロウが成敗しようとしたところ、キジブラザー(雉野さんの変身後の姿)がそれを阻止してしまいました。そのせいで敵の脳人のうとが怪人を倒してしまい、脳人に倒された怪人は二度と人間に戻れぬまま消滅してしまったのです。ドンモモタロウが成敗していれば怪人は普通の画家として人生をやり直せたかもしれないのに……。
戦いが終わり、それぞれの日常に戻る中、雉野さんは爽やかな朝を迎え手作りの朝食を愛する妻みほさんに振る舞います。
そして彼の内なる声が聞こえるのです。

あの男はみほちゃんを襲った。そんなやつはこの世にいちゃいけないんだ。
みほちゃんは僕が守る。たとえ相手が誰でも、何をしても。

暴太郎戦隊ドンブラザーズ ドン8話「ろんげのとりこ」より

そして不敵な笑み・・・・・・じゃないんだよ!!!!
なんだそれ!!!ここにきて急なヤンデレ要素!!!!!バカヤベェじゃん!!!!マジでなんなんだよおいおいおいおいおいおいおい!!!!!!!

このシーン、というか雉野さんのとった行動ついて、当時の評価は完全に賛否分かれているようなのですが、正直に申し上げます。
私はめちゃくちゃ萌えてしまいました。
ドンブラは子供番組ですし、一番親近感があるポップなキャラを闇落ちさせるというのは子供たちの動揺を誘いかねません。
(余談ですが、デカレンジャーだったか、試験官に入った菌を敵に渡さないように運ぶミッションで、うっかり落としてしまったメンバーが建物ごとカビまみれになるシーンがあり、子供ながらに非常に怖かったのを覚えています。ほぼトラウマです。子供が集中して見ているものって、影響を及ぼしやすいですよね。)
だから、私がもしも子持ちで、子供と一緒に見ていたら、感想は違ったのかもしれません。

しかしながら、今の私はただの萌えに飢えた腐れアラサー。
ヘタレ眼鏡三枚目キャラが愛に狂って闇落ちする展開は、どうにも美味しすぎるのです。いくら丼をどんぶりごとひっくり返して、キングサーモン乗っけられてる感覚です。
本当にごめんなさい!こんなことをいうのは不謹慎です!でもフィクションの世界だから許して!
人でなし最高!!!!
弱いよね。脆いよね。だからこそやっと手に入れた愛を手放したくないよね。しかし、君はその愛によって狂わされている!!ああ!!なんて切ないんでしょう!!!!!愚かなんでしょう!!!!!

”愚か可愛い”というジャンルが存在するかはわかりませんが、今回の彼は間違いなくそれに分類されるでしょう。
愚かになってしまう理由を解きほぐしていくと、その根底にコンプレックスや焦り、葛藤が見えてきます。
人間って基本的に不完全なものですが、自身の不完全さとどう向き合うか、それがドンブラザーズのテーマとして大きく掲げられている気がします。

文章にしてようやく生活を取り戻す

と、いうわけで、8話試聴後2時間くらい生活がままならなかった(自分が食べた焼き鳥のタレを拭いたティッシュを見て「私、何か茶色いもの拭いた?怖いんだけど」と言ったり、皿を洗おうとしたまま立ち尽くしたりしていた)のですが、こうして文章にすることで、ようやく自我が戻ってきました。危ない危ない。
また油断すると発狂すると思うので、その時は再び書きます。
リアタイ組やすでに先の展開をご存じの皆さんは、実験中のネズミを見るような面持ちで今後の私を見守ってください。
あと何機私がいれば無事に生き残れるのでしょうか……。

それでは最後に雉野さんの変身時の合言葉で締めたいと思います。
せーの、トリッキー!!


《追記》
15話を見て無事に狂いました。
つきましては以下をご参照ください。


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