そのときゃ身請けをソレ頼む

 スティンドグラスからさらさらと、色とりどりの光が降り注ぎ私達の輪郭を滑る。あか、むらさき、みどり、あお… 日が暮れるにつれて室内の彩度が変わり煌めく時、貴方のことを世界一美しいと思いました。貴方が手を組んで目を伏せると、私よりもずっと硬く鋭い頬に睫毛の影がかかります。決して健康的とは言えないその唇にシワが目立ち、乾いて色がなくなるまでを見届けたいと思いました。愛。愛ってなんだと思う?「挽歌の対象が伴侶である場合、死を悼む歌と、悼むことによってあらためて自覚されてくる相手を愛しく思う気持ち(相聞)がともどもに際立ってくるものだから、挽歌はほとんど相聞歌に近いんだよ」って昔、気怠げな二重の先生に教えてもらいました。この気味の悪い気持ちは貴方を愛おしく思っているからなのでしょうか。わからない。ただ貴方が内外に備えている美しさに対する執着かもしれません。貴方は私と同じで、異常に目がいいでしょう。だからきっと同じように、見たくもないものも沢山その漆黒の瞳に写してきたんだわ。哀しみ、苦しみ、妬み、諦め。100年前にも全く同じ私と貴方がいたのかもしれません。この場所なら、そんな幻想も信じることができるでしょう。今日まで数えきれないほどの愛を偽ってきました。私は元来、顔が好きとか、そんな淡く若い情動で人を恋することができる人間じゃないのです。ばからしい。遠くでは微かに賛美歌が聴こえます。秋を愛する人は心深き人、愛を語るハイネのようなーーーー、その続きを言い淀んでいる貴方がいぢらしくて大好きです。ね、この旅が終わったら一度ほんとうの故郷に参りましょう。貴方に話しただけで宿世では見せれなかったもの、全部見せて差し上げたい。山間にあるみかんばたけ、波のない海。透き通って美しく穢れたモノばかりの大好きな私の祖国を見せて差し上げたい。過去を共有すれば今さえも補完されると思うから。

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