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雨を「天気が悪い」と言うのは何故? アラン・コルバンから考える

「雨を「天気が悪い」と言うのは何故?【夏休み科学Vtuber相談室 Vol9】 」

2年前にしたこのお話、アラン・コルバンの『雨、太陽、風』から別角度の回答が可能かもしれない。

 感情史の一貫として天候についてまとめた上記の本ではマルタン・ド・ラ・スディエールらが天気予報の誕生と人々の反応を研究している。
 言われてみれば、現代は天気の影響が少ない時代だ。 かつてより優秀な雨具、かつてより優秀な移動手段、かつてより安全な舗装された道…… 更には天気予報もあり、天気が人間に与える影響はかつてよりはるかに少ない。
 にもかかわらず、天気予報がニュース等で常に報道される「重要な情報」として扱われていることに前掲書は注目する。

 いささか逆説的だが、天気予報と電気が太陽への渇望をかつてより強めた可能性がある。
 かつて、天気を知ることは難しかった。個々人の感性で「この風は雨が降るかもしれない」などと語ったものだ。 現在は天気予報がそれに代わってくれるのだが、問題が出てきた。天気予報はいつでも見れる。かつてはテレビやラジオで、今ならスマートフォンでいつでも天気を確認できる。 そして、天気予報は「外出日和」だの、「お洗濯日和」だのと、天気を評価し、その天気が良いか悪いかを視聴者に教えてくれる…… いや、方向性を共有する。

 また、電気の発明と共に冬季うつ病が発見され、問題になった。なぜ「発見」されたかと言えば、それが治療可能なものだからである。
 かつては曇りや雨の日に光を浴びることは不可能だったが、電気が発明されて以降はこれができる。 そのため、「健康のために天気を浴びよう」という呼びかけが「健康」の名の下に行われるようになった。 もちろんこうした呼びかけは純粋に医学的な動機もあっただろうが、私は19世紀末のドイツで急に「自然療法」が増えたことも知っている。それが可能となると人間はしたくなり、それができないと、苦痛に感じるようだ。

Author Lou Sander 出典は上記URL

 現在は上記写真のように自然に太陽光を浴びているが、 19世紀末のドイツでは肛門に太陽光を当てることが健康に良いなどと言われたそうだ。ドイツのものは医学的発想とは言いにくい。
 さて、ともかく冬季うつ病も同じように考えられる。 すなわち、本当に冬に日光の少なさから体調を崩す人はいる。なんなら古代の医者であるヒポクラテスのころからその症状は確認されている。
 他方、毎日天気予報で「日光を浴びよ、日光を浴びよ」と言われれば影響されてしまうのも人の常である。 前掲書も冬季うつ病の人間と、準冬季うつ病の人、つまりは「軽微の心理的”影響”を受けている人」がいると指摘している。

 この根拠として前掲書があげているのは、夏季うつ病の人間の少なさである。もし天候がうつ病を呼び起こすなら、冬だけでなく夏にうつになる人がいてもおかしくない。 そして実際に夏季うつ病を発症する人はいるのだが、その数は冬季うつ病より明確に少ないのだそうだ。
-これはフランスの研究なので、日本の場合はまた違うのかもしれない-
 ともかく天気予報の誕生、電気(照明器具)の発明、そうしたことが人間にまったく影響がないと考える方が難しい。 となるとこれらの発明は人間になんらかの「方向性」を与えたと考えるのは自然だろう。