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嘘の日々だった【1】

【嘘その1:嘘でも記念日】

2011年11月22日、離婚届を握りしめて区役所へ向かっていた。
「いい夫婦の日」を選んだのは、せめて記念日にしたかったからだ。サインの不備があって、再提出となり受理されたのは翌々日だったが良いんだ。自分は今日から毎年「いい夫婦の日」は離婚記念日なのだ。

【嘘その2:嘘で流した忙殺】

離婚と同時に勤めた印刷デザイン会社は、ハローワークの募集要項にあった「10時から18時まで勤務、休憩1時間」ではなかった。朝一番で出社し事務所の掃除、受注まとめを他の従業員が出社する10時までに済ませなければならなかった。昼休みなどなくて、17時頃にエナジードリンクを流し込む。
まだ、4歳と6歳、5年生の子供を抱えてのフルタイム勤務。朝起きた瞬間から保育園送り出し、お迎えを長男に任せ、18時ジャストで退勤出来るどころか、残業で帰れない。話が違う、残業代が出ない。けれど、今更無職になれる筈もない。市のファミリーサポート、実家の助けを借りながら「寝る前に、帰るからね」がどんどん達成されなくなっていく。疲労困憊、帰宅して子供たちの寝顔を見るのがただ、命綱だった。ごめんよ、、

【嘘その3:サンタクロース】

離婚して最初のクリスマス。子供たちは、サンタクロースからのプレゼントを疑いなく信じていた。毎年、父親から玩具、私からは本をプレゼントしていた。サンタさんは毎年、欲しいと言ったものを叶えてくれ、ツリーの下に置いていた。クリスマスイブに、サンタさんへココアを入れて用意しておく習慣があった。引越しして、大きい家から狭いアパートになって、大きなツリーも大きな窓もないけれど、サンタさんはこんなに頑張ってる自分たちを見捨てることはしないよね?って。

同じ条件でプレゼントを用意する時間もお金もないまま、クリスマスイブは、よりによって残業だった。夜中のドンキホーテへ走った、粗末なすごろく、音の鳴る玩具のようなもの、しか買えなかった。これじゃあダメだが、どうにもならなかった。夜明けまでに子供たちの枕元に届けなければ。20分の路駐で、違反切符を切られてしまった。少ない給与から罰金を払わなくては、私にもサンタなんていないよな、、、そっと、霜で真っ白になった窓の下へ、絶対希望じゃないプレゼントを置いて。泥のように寝る。

クリスマス。朝、プレゼントを探してはしゃぐ子供達の声がする、プレゼントあった!梱包を破く音がする、程なくして、3人の泣き声が漏れ聞こえてきた「これが、今年のプレゼント…?」言葉を失い、ただ、めそめそ泣く子供達の声を聞きながら、布団をあたままでずっぽり被り、声にならない声で私も泣いた。ごめん、ごめん、ごめん、、サンタは、離婚した貧しい家には来ないんだよ。

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今日はここまで。

「ぼくらは嘘でつながっている。」第一章〜コラム:僕の嘘体験①ヒカリノウオまで読了したところです。本書を手にするまでは、浅生鴨さんからの原稿を待っていた筈の編集者・今野氏が、鴨さんから逆に「ココロギミック」の原稿を依頼され「依頼文」返しをした「依頼文」を読み、本が出来上がるまでの編集者・今野氏 vs 著者 のやりとり痛快さを楽しんだ完成形だと思って予約購読しているものである。しかし、冒頭から(恐らくは編集者と著者の思惑通り)本書のロジックに吸い込まれていく。自分は、正直者で嘘など嫌いだと思っていたのが大間違いだったと、知り得たのである。特に子育てにおいて、子供を傷つけない為に、子供を守る為に、時には自ら血を流すような日々を過ごしてきた。11年も前のことから今まで、辛すぎて、閉ざしていた。

幸いにも、本から立ち上がる生きたつながり、点と点、をこれまた編集者・今野氏と著者 田中泰延氏の「読みたいことを、書けばいい。」を読んでから、己の中の乾いた殻が爆ける音がした。その頃書いていた日々良いことだけ拾ったような日記のようなブログは、随筆に過ぎず、気取っていて、恥ずかしくて、全て閉じた。「読みたいことを、書けばいい。」が2019年6月12日第1刷発行なので、もうそれから書くことは閉ざしたまま、定点のように今野氏と、田中泰延氏から広がる長い旅をしてきて本書「ぼくらは嘘でつながっている。」に着岸した。ずぶ濡れである。よく泳いできたと思う。日常は相変わらず忙しくて、コロナがあって、長男長女の不登校があって、次女の自家中毒にも向き合いながらいま、、

ありがたいことに、子供も私も、幸せな日々を生きている。
仕事も楽しく順調だといえるところまで舵取りできている。
だからこうしてキーボードを叩いていて「ぼくらは嘘でつながっている。」2章、3章、4章を読んでまた備忘録したいと思う。

鴨さんはその日以外のことは忘れるようなので書いておく。

文芸フリマ札幌で北海道上陸し、編集者・今野氏と共に「ぼくらは嘘でつながっている。」発売記念 浅生鴨さんトーク&サイン会『ぼくと一緒に嘘をつきましょう。』三省堂書店札幌店へ来てくださった。ナマで動く鴨さんにお会いしたのは初めてだった。ワークショップ最後の質問で「鴨さんがこれまでで一番好きな嘘はなんですか?」と聞いた。知りたかった。鴨さんは、しばらく難しいなぁ、と頭をポリポリかきながら

「人を守るための嘘は好きです。例えば、相手が子供ならそれが嘘だと知られたら絶対ダメなんです」と。あぁ、と思い出すページがあった。そして、自分も多くの嘘をついてきたし、日々嘘を選んで言葉をつなげて、綱渡りのような日々を様々な助けと、何より子供達の頑張りや素直さに助けられて、今日幸せだと思える日々にあると。

実は私も忘れっぽい癖に、日記をつけるのも苦手だし、過去も振り返りたくない。今の延長上に死があって、何にも生まれ変わらずに散り散りになりたいと思っていた。少し、少しずつ氷河の雪解けである。

「ぼくらは嘘でつながっている。」読後、感想はまた次へ。

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