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嘘の日々だった【3終】

「ぼくらは嘘でつながっている。」読了まとめ最終です

もう嘘を悪だと思うのは止そう。

嘘をつくとき、嘘をつかれるとき、その両方に必要なのは優しさです。(153頁)

もう嘘を悪だと思うのは止そう。自分を癒そうって思えた。
貴方方と自分は違う人間であって、己さえ内部分別され揺らぎっぱなしなのに、他者と同じ方向を見つめようとすることは不正解である。仕事でも、家族でも、生き得る全ての現象と関わりに必須な優しさの為に嘘がある。

こうありたいという理想のハリボテに、乾いた言葉を上塗りするのは止めましょう。鴨さんは、過去も書き換えることが出来ると言う。蓋した幼少の自分、母の苦悩、家族の苦悩の連鎖を断ち切ろうと腹を痛めて産んだ子たちの自我を守りたいって無我夢中だった、優しい嘘を掲げればよかったのだ。

文芸フリマ札幌で、鴨さんからサインをいただく

普段は仕事の屋号名である「アンディ」と名乗っている。離婚して故あって苗字を旧姓に戻さなかった。誰も責めてない、誰も悪くないと蓋をして真っ黒な頁に消しゴムをかけて、紙面に文字の痕が轍になった、それが今の自分です。割と気に入ってるよ。

嘘の体験談③「新聞販売所」を読んで

2013年3月14日の住居火事

【嘘その5:その後、我ら母子は】嘘1はこちら
早朝5時頃「ジリリリリリ….」目覚まし時計煩いなぁと思っていたら。玄関を激しくガンガンガン!叩く音がして飛び起きる。

「消防です!火事です!今すぐ避難してください!!!」

玄関ドアを開けると消防士の必死な顔があって、けたたましい非常ベルの音、着のまま避難する住民、廊下は既に灰色の煙が舞っていた。火元は斜め上の部屋だと言う。そんな中ぐっすり眠っている長男と娘たちを火事だよって起こして、通帳とMacBookだけ掴む。子供とこれが全財産だ。非常階段を手を繋いで降りる。子供たちは落ち着いていて、夢の続きのようだった。

出火元の隣の部屋が、昨年、入居予定の部屋だった。引越し前日になって、母子家庭で留守番させる環境なら貸せないと急に大家に断られたのである。引越し当日、不動産屋に泣きついて手配してもらったのが大家の管理が違うリフォーム中の狭い8階、火元斜め下の部屋だった。

勢い激しい炎を眺める。消防の声が聞こえる「住民は!」「連絡取れました!出勤したところで店にいるみたいです!」出火原因は、出勤前のタバコの不始末だったらしい。そんなことより、今日は先日、急性腎不全で検査した時に肺のレントゲンにキノコ大の影が3つ見つかったので、精密検査を予約していて会社に休みをとれていた朝だった。警察護送車に避難している状況で、休みとるの大変なんだよ、精密検査間に合うかな、とか考えていた。そういや警察護送車に乗ったのは、人生初だったな。この火事で怪我した住民はいなかったのは幸いだった。

消火が済んで、8時と子供たちが登校する頃には部屋に戻ることができた。学校へ「今日、火事があったので学校休ませます」と連絡した。学校からも登校中の児童からもよく見えていた火事だったので、嘘とは思われず心配された。長男長女は留守番、次女は近くの保育園へ送り届け、精密検査しに病院へ向かう。間に合った。

火の勢いは激しく9階部分が全焼した

検査結果、肺にあったキノコ大の黒い影は、肺炎で胸膜剥離した残りだったらしい。「12月頃、肺炎だったはずですが苦しくなかったですか?」医者に驚かれる。クリスマスの情けないあのとき、自分は肺炎だったのか。急性腎不全はドクターストップレベルだった。診断書を書いてもらった。入院しようにも、明日は長男の小学校卒業式である。参観日すら一度も行けなかったので卒業式くらい出てあげたい。中学の制服を買う時間がなくて、卒業式、男子が中学の制服や洒落たスーツを着ているのに長男は、しまむらで前日買ったダボダボのスーツ姿だった。ここでも、ごめんよ、と涙を隠した。

卒業式終えて午後、ドクターストップの診断書を会社に提出してその日のうちに退職した。上司に痛み止めとかで一週間だけ何とか、と訳わからない頼みは断固拒否した。社員には逃げるのか、と絶望で濁った白い目で挨拶も無視されたが、どうでもよかった。

神に生きてよし、と言われた気分だった

肺がんではなかった。腎不全は安静にしていたら治る。仕切り直そう。
退職した職場の下請業者から、結婚前の前々職の先輩から、ぽつぽつ仕事が来て出向業務も決まり、気が付いたらフリーランスのデザイン業をやれていた。屋号登録と確定申告は翌年になったが、10年経つ今もまだ、当時の業者とも繋がっていて、新しい繋がりも増えていて、アンディと呼んでくれる関わりが支えてくれている。何より、子供たちの頑張りがあって、毎日幸せだと思えるところにいる。頁溢れるほどこの10年様々あったけど、母子で目標を持ち毎日健やかに生きてるってもう奇跡じゃないか。支えてくれる全てに感謝したい。

死生観が人より強いのは、火事の経験と、その後も無茶やらかして喘息発作で入院し咳発作で死ねると思った経験、長男が最後に連絡を交わした少女の自殺への自責です、大人として対応できた筈なのに。この件は、母子で答えを出すのに時間を要しました。
会社へ辞表を出す迄の数ヶ月は、睡眠不足すぎて朦朧として、帰路の地下鉄ホームへ飛び込むことを毎日考えていた。思い留めたのは、帰れば私の部屋着を首に巻いて「お母さんの匂いがする」って待つ子供たちの寝顔を見ること、母より「大丈夫かい?会社、頑張らないで辞めなさい、会社に貴方の代わりはいるけど子供に母の代わりはいないから」の毎日くる電話だった。母も危機感あったのだろう。嘘じゃない、母は偉大でマリアである。

「現実を変えるために小説を書く」所感

魂は心の中にも、旅する先々、過去、未来、夢、希望、何処にでも居て、何処にも居ないのであると考えている。この感覚があるからこそ孤独で、人が愛しい。どうせ死んだら散り散りになる。それまで決められた頁しかない自分の物語を書き換えていけばいい。

そう思うに達した。良書であった。
どうか「ぼくらは嘘でつながっている。」買えください。

「ぼくらは嘘でつながっている。」発売記念 浅生鴨さんトーク&サイン会『ぼくと一緒に嘘をつきましょう。』三省堂書店札幌店にて編集者・今野氏と鴨さんと。

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